マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.464] プロローグ 投稿者:キトラ   投稿日:2011/05/22(Sun) 17:09:29   106clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 黒い煙が空へと昇る。雲一つない、きれいに晴れた青い空。春に差し掛かろうとする季節には似合わないほど晴れていた。

 親友が死んだ。遺書一つ残さずに。赤い血に染まって、手には銀色の刃を握って。自殺だろうと誰もが言った。
 けれども信じられない。自殺するような原因なんてあるわけがない。小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたというのに、解らないわけがない。気付かないわけがない。親友への怒りと、自分への怒り、そして起きてる現実を上手く飲み込めず、茫然としていた。
「ガーネットちゃん」
火葬場の外は霊柩車が入れ代わり立ち代わり走っていた。花壇の柵からゆっくりと立ち上がる。親友の母が沈痛な面持ちで立っていた。
「もうそろそろ焼き上がるよ。キヌコの骨、拾って欲しいの」
二つ返事で引き受けた。ついていった先には、釡から出され、棺も燃えて残った骨だけとなった親友。こげた匂いの中、骨壺に収められていく彼女を見て、今まで押さえていた感情が一気に溢れ出した。


 初七日が過ぎ、少しずつ彼女のいない世界に慣れて来た。学校に行ってもすでにいつもの雰囲気を取り戻している。けれどそれがガーネットにとって不自然極まりない日常だった。元気づけようといろんな友達が話しかけて来てくれる。気を遣ってもらっているのも心苦しかった。表面だけでも通常に戻ったように振る舞う。
 授業が終わると誰よりも早く帰る。勉強しないといけないという理由をつけて、得体の知れない何かから逃げたかった。帰り道、川沿いの土手を歩くと、春を告げる青い花が咲いていた。
「ガーネットちゃん」
正面から歩いてくるのは、キヌコの母親だった。思わず足を止める。
「あのね、ちょっとお願いがあるんだけど、家に来てもらえない?」
どうせ暇だ。ガーネットはそのままついて行く。大したことは出来ないけれど、力になりたかった。

 線香の匂いがする。最後に来た時とは随分違う印象だった。親友の最期の姿を思い出し、少し目眩を感じる。玄関に座り、こみ上げる吐き気をこらえる。気付かれないようにしないと、また人に迷惑をかける。キヌコの母親は奥に行くと、丸いものを抱えてやってきた。
「これね、キヌコが生まれたらこの子を連れて歩くっていってたんだけど・・・」
「これ・・・ポケモンのタマゴ?」
前に一度、見せてもらったことがある。キヌコの母親はディザイエというギャロップを飼っていたのだけど、かなり前にタマゴを持ってきた。入れ替わるようにディザイエはその日に死んでしまった。弔いながらキヌコは孵化したら旅に出ると言っていた。けど、中々タマゴは孵らず、ついに生まれてくる子供を見ることなくキヌコはいなくなってしまった。
「私じゃ面倒見切れないの。お父さんがポケモントレーナーのガーネットちゃんしか頼れなくて」
タマゴを受け取る。親友の忘れ形見だ、父親に話しても怒られるとは思うが、捨ててこいとまでは言われまい。お礼を言うと、タマゴを抱えて家に帰る。まだ冷たい春の風。気分はだいぶ楽になった。日差しは暖かく、心地よかった。タマゴも嬉しいようで、中から音が聞こえてくるし、頻繁に動いている。

「ただいま!」
玄関を開けると同時に仁王立ちしていた父親。誇らしげなその顔は、きっと良いことあったんだろう。
「ガーネット!喜べ!お父さんはジムリーダーに就任することに決まったんだ!!」
今までフリーのポケモントレーナーで、各地の大会に出ては成績をあげてきた。その為に家にいない日のが多かった。そして今日は三日ぶりに会ったのである。
 これからは、ジムリーダーとして活躍するから、そういうことはなくなると言った。。
「どこのジム?」
「それが聞いて驚け!ホウエン地方、トウカシティだ!だから引っ越すぞー!」
随分遠くだ。ガーネットのイメージでは、ホウエン地方というのは南の暖かいところ。そして自然が豊かなところであると。行ったことはないけれど、話を聞いてそんなことを想像していた。
「それと、その際に・・・ってそれどうしたんだ?」
「これ?キヌのお母さんにもらった。育てられないからーって、お父さんに」
タマゴを床に置く。平な床では、タマゴは転がり、壁に軽く当たって止まる。
「もらったのなら、ガーネットが育てればいい。なあに、ポケモンは・・・」
ぶつかったところからヒビが入る。慌ててガーネットはタマゴを転がし、ヒビを上に向ける。
「ど、どうしよう・・・」
突然のことにガーネットは何も考えられない。それとは反対に、父親はタマゴを見て冷静に言った。
「心配ない、子供が壊してるからだよ」
ヒビが増える。中から殻を突き破り、蹄が飛び出た。それを合図に、タマゴの殻を吹き飛ばす勢いで生まれてくる。
「おお、ポニータだ」
炎に見えるたてがみが特徴の子馬。といっても抱えられるくらいに小さく、子馬というより子鹿のようだ。
 生まれたばかりのポニータは炎の調整も出来ず、上手く立つこともできず、よろよろと壁や靴箱にぶつけていた。けれどまっすぐガーネットを見て、こちらに寄ってこようとしている。手を差し伸べると喜んで噛み付こうとした。
「はは、ガーネットを本当の親だと思い込んでるみたいだな。どれ、生まれたポケモン用のご飯があるから、あげてみなさい」
受け取ったのはポケモン用のミルク。また噛み付かれるのではないかと怖々差し伸べると、ポニータはゆっくりと飲み始める。
「すっかりガーネットのポケモンだな。ちゃんと育てろよ」
ガーネットの頭をなでる。そんなことかまいもせず、生まれたばかりのポニータに夢中だった。自分を頼ってくる小さな存在を、これから育てて行く。きっと立派なポケモンになるだろう。
「そうだな、お前の名前は、シルクだ」
シルクと名付けられたポニータは、夢中でミルクを飲んでいた。


 ホウエン地方への引っ越しが次の日に迫った。シルクは元気に成長し、抱えられるほどの大きさだったのが、今では子牛ほどの大きさに育って来ている。荷物を持ってくれることもあり、その日も買い物を一緒に行っていた。夕方の帰り道、少し街を外れたところにある家まで帰る。暗く、人通りも少ないために、ポケモンを連れていても迷惑がかからない。
「なあ、ホウエンに帰る前に教えてくれよ」
ひそひそと低い声。道の端に見える二つの影。なぜかそれがガーネットの耳に止まる。シルクを止めた。
「なにをだよ」
「お前、人殺したんだろ、その感想だよ」
息を殺す。気付かれないように、物陰に隠れた。
「ああ、自殺に見せかけて殺すくらいなんともねえよ。特に女はな、力も弱いし斬りつけて終わり。特に何も思わない」
誰のことだろう。けれどもガーネットの中には、思い当たる節があって、それではないことを祈り続ける。
「へえ、お前はやっぱり冷静なんだな。俺だったらそんな子供殺したら怖くて」
「命令は必ずだ。マグマ団のボスに誓った身。目標の名前も覚えてるぜ、確かキヌコっていう、普通の子供だ」
飛び出していた。こいつらが殺したと言った。なによりの証拠だ。捕まえてやる、絶対に・・・
「うわっ!」
ガーネットの声に男たちが気付いた。けれど彼女を捕まえることが出来なかった。シルクが思い切り服を引っ張り、そのまま駆け出したのだ。
 その時、シルクの炎に照らされた男の顔。もう一人はフードをかぶって見えなかったが、もう一人ははっきりと見えた。白い髪に緑色のリストバンド。年齢は同じくらいなのに、鋭い目つき。

 家に着く。シルクの足では早かった。家族にもあったことは言えず、平気なフリをしていた。頭では男たちの会話と、ホウエンに行くということ、マグマ団という単語がまわっていた。もしかしたらホウエンで会うかもしれない。捕まえても、証拠が自白だけ。そして捕まえて一体何をしたいのか。
「もう、なんか無理だ」
いつもより寝るには早い。けれども今日は疲れてしまった。早めに眠りへとついた。


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