マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.465] 1、エンカウント! 投稿者:キトラ   投稿日:2011/05/24(Tue) 00:45:37   85clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 夜遅くなってしまった。家が遠いというのに、先輩の話が長かったせいだ。おかげで夕食には間に合わず、街灯少ない野道を急いで帰る。田舎のミシロタウンへと続く道は草むらが生え放題。野生のポケモンに出会っても厄介だ。草むらを避けて帰る。
「ただいま!」
「ザフィールお帰り」
白い髪の少年は、何事もなかったかのように二言めにご飯ちょうだいと母親に甘えた。今日のご飯は鶏肉。取るものとりあえず、食卓につく。
「そういえば、明日、お隣にお父さんのお友達が引っ越してくるのよ」
醤油を取りながら、そういえばそんなことを言ってた記憶を引き出す。
「へえ、どんな人?」
「ほら、ポケモントレーナーの渋い人よ。テレビにもたまに出てるわよ」
テレビに出るポケモントレーナーがどれだけいるのか知ってるのか。そう思いながらとりあえず頷く。
「そうそう、ザフィールと同じくらいの子がいてね。小さい頃会ったことあるじゃない、4才くらいに」
「そんな昔のこと覚えてるわけないよ」
「あらそう?あの時、その子と喧嘩になって泣かしちゃってたじゃない。本当恥ずかしかったわあ」
もう時効だ。母親の話を流しながら、白飯を口に運ぶ。無言で食べ終わると、2階の部屋へと上がっていく。パソコンをつければメールが来ているかチェックしなければならない。
「うは、明日もかよぉ、なんてついてない。鬼畜だなマツブサさん」
画面の前で独り言を言いつつ、返信を打つ。行くと。すぐに電源を消す。本当だったら招集に応じることなく過ごしたいところであるけれど、マツブサに対してそんなことはよほどの理由がないかぎりできるわけがない。
 それでも明日会える人がどんな人なのか、とても興味があった。もしかしたら仲良くなれるかもしれないし、何より田舎のミシロタウンに友達ができることが嬉しくて仕方ない。


 真っ暗な荷台で、ガーネットは段ボールに埋もれるかのように寝ていた。トラックの床にはシルクが寝ている。
 引っ越しの車にはシルクを入れることが出来ない。荷台なら乗せることが出来たので、一緒にいることにしたのだ。それに、一人になりたかった。誰とも話したくなかった。狭くて暗いところにいれば落ち着くような気がしていた。
 大きな怪獣が苦しんでいた。ガーネットは思わず手を差し伸べる。すると怪獣はとても喜んで抱きしめた。「憎しみの心は捨てなさい、全ては心が決めるのだから」怪獣はそういった。
「おねえちゃん!!!!」
妹の声がする。思わずガーネットは起きた。夢だったようだ。うなされていたのか、心配そうに顔を覗き込んで来る。
「だいじょうぶ?あたらしいおうちついたよ」
「くれない、大丈夫。ありがとう」
彼女のポケモン、エネコがポニータのゆれるしっぽとじゃれていた。
 すでに積み荷を下ろし始めている。引っ越し屋のゴーリキーたちが家の中を指差している。中を片付けろという意味なのだろうか。ガーネットは荷台から飛び降りると、家の中に入って行く。くれないも後ろにくっついて中に入っていった。
 家の中では母親が忙しく働いていた。段ボールに囲まれてゴーリキーたちに指示を出して。父親は一緒に荷物を運んでいる。ジャマにならないように、2階の部屋に上がる。二つの部屋に段ボールが山積みになっていた。片付ける気にもならない。くれないは楽しそうに段ボールを開けて何がどこかと整理している。
「ガーネット、ちょっとシルク貸してくれる?荷物多くて運んでもらいたいの。それとくれない連れてちょっと散歩してきて!」
外から母親が叫んでいる。窓から顔を出すと、シルクのボールを投げる。
「いいよ!くれない、行くよ!」
彼女は楽しそうにエネコとじゃれながら段ボールで遊んでいる。整理しているように見えたのは気のせいだったようだ。時々来るゴーリキーがとてもジャマそうな顔をしていた。声をかけるとすぐに段ボールを放り出す。
「お、ガーネットどこか行くのか?」
手ぬぐいを巻いた父親が段ボールを運びながら声をかけてくる。中にいた母親に手渡され、積み上げられて行く。
「散歩に行こうと思って」
「それなら、この町にオダマキ博士っていうお父さんの友達がいるんだ。手があいたら行くから、ちょっと先に挨拶してきてくれないか?」
先に行けばいいのに、と心の中では思ったけれど口には出さずに行くとだけ答えた。どうせ暇だ、散歩がてらに行ってみるのも悪くない。それにくれないは行く気満々のようだった。

 ミシロタウン。ホウエン地方の田舎町だ。前に住んでいたところは人がたくさんいて、毎日人ごみの中を歩いていた。ここは人通りもまばらで、静かなところだった。看板を頼りにオダマキ博士を訪ねる。歩いていくと大きな建物が見えてくる。あそこだなと道沿いをまっすぐ歩いた。
 研究所の入り口は普通の建物のようだった。ドアノブに手をかけると、勢い良く扉が開く。そして中から人影が飛び出していく。その勢いに避けれず、肩がぶつかった。
「あ、わりぃ!」
それだけ言うと少年は後ろを振り返らず走って行ってしまった。見たことのある顔。昨日、夕方に見た妖しい男そのものだった。ホウエンに帰ると言っていたし、矛盾は無い。気付いたところで追い掛けようにも、すでに影はない。
「逃げられた・・・けど今度は一人か」
もしかしたら一人ならば押さえられるかもしれない。
「くれない、お姉ちゃんはちょっと用事あるから待ってるんだよ」
「うん、わかった!」
追い掛けていけば目撃した人間がたくさんいるかもしれない。そう思うとガーネットは走り出した。その後ろ姿を疑うこともなくくれないは見送る。

 走っていった影の方向にひたすら走る。小さい町だし、途中で別れる道もない。まっすぐとミシロタウンと101番道路を結ぶ入り口へと向かっていた。町の外に勝手に出ると、ポケモンが襲ってくると言われていた。けれど今はそんなことに構っている暇ではない。思い切って101番道路へと駆け出した。
「たすけてくれー!!!」
あたりに響き渡る男の声。思わずそちらの方へと走っていく。
 ガーネットの目に飛び込んで来たのは、黒い犬が白衣の男を追い掛けてる姿。吠えて威嚇している。あの力とスピードはポケモンだ。
 男が小さな石に躓いて転んだ。鞄の中身が盛大にぶちまけられ、そのうち赤と白のモンスターボールが一つ、ガーネットの足元に転がって来た。
「黒い犬を追い払って!」
思わずモンスターボールを拾って投げつけていた。現れたのは見たこともない、青いポケモン。魚のようなヒレがあった。一度ガーネットを振り返ると、すぐに黒い犬に体当たりをした。横から来た小さな乱入者に、黒い犬もうろたえる。怯んでいるところにもう一度、体を使った攻撃。鼻にあたり、おびえるように黒い犬は逃げていった。
「大丈夫ですか?」
倒れてる男に駆け寄る。膝を擦りむいた程度。他はけがもなかった。
「大丈夫・・・おや、センリのとこの・・・確かガーネットちゃん?」
「はい、私はそうですが」
「そうかそうか、今日だったんだっけ。すっかり忘れてたよ。私はオダマキ。ポケモンを研究しているんだ」
これが父親の言っていた博士のようだった。何事もなかったかのようにこぼれた鞄の中身を拾う。残りの一つのモンスターボールはガーネットの手の中。
「そうだな、助けてくれたお礼にそのポケモン、ミズゴロウをあげよう。中々丈夫なポケモンだぞ」
「え、あ、ありがとうございます。私いそがないと・・・」
「忙しいのかい?」
「はい、白髪で私と同じくらいの男の子がこっちに来たかと思って、それで・・・」
「あーなるほど」
オダマキ博士は鞄を背負う。そして笑顔で言った。
「その子なら、夜にはここに来るよ。待ってた方がいいんじゃないかな?」
ガーネットにはその意味も解らなかったが、勝手が解らない場所のこと、下手に動くより待った方がいい。そう判断した。


「うひょー、今日グラタンだぜー!」
とろけるホワイトソース、焦げたチーズの匂い。想像しただけでよだれが出てくる。ザフィールはミシロタウンにある自宅へといそぐ。今日の集まりはただの指令伝達だけだった。「アクア団との戦いに備えてミナモシティのアジトまでいつでもかけつけられる距離に来い」というだけの。ここからだと最も速く空を飛ぶポケモンでも3時間はかかる。しばらく家を空けなければいけない。
 どうしたら家族に怪しまれずに何日も外に行けるか。一瞬だけ考えた。答えがすぐに見つかったから。
 父親の手伝いをするふりをしながらここから行けばいい。そうすれば誰も怪しまない。誰もが本当の目的なんて解るわけがない。
 ミシロタウンの入り口で足が止まる。ものすごい視線。誰かが殺気を隠すこともなく見て来ている。アクア団の襲来にも思えた。しかし敵はどこにいるのか検討もつかない。注意深く見回してもそれらしい姿は無い。
「見つけた、人殺し!」
目の前を炎が走る。この地方ではあまり見かけないポニータが突進してきた。避けきれず、体が宙を舞う。背中から着地し、思わず咳き込んだ。
「覚悟しな人殺し、大人しくしてろ」
足音が自分の前に来る。アクア団かと思って見上げると、自分と同じくらいの女の子。
「ま、まて、何のこと・・・」
「とぼけるんじゃないわよ!あんたは人を殺し、挙げ句しらを切るって言うわけ?それとも、相方がいなければ何もできないのかなぁ?」
一歩詰め寄られる。思わずそのまま後退する。次の瞬間、胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。信じられない光景に、ザフィールは何も言えない。
「な、なんて力・・・」
「そんなのどうでもいいわ。で、どうなの?素直に白状する気になったの?」
「だから何のこと・・・」
地面に落とされる。突然で着地も上手く出来ない。走って逃げることも出来ずにいると、しゃがんで顔を覗き込まれる。
 目が合った。息が止まりそうだ。うっすらとザフィールの目に涙があった。
「まだしらを切るつもり?」
「お、俺は何も知らない!だいたい人なんて殺してない!」
「あら、そう。残念ね、素直に白状するならばここで帰してあげようと思ったけど、認めないならいいわ」
首に手が回る。地面に押し付けられ、ゆっくりと気道がしまっていく。このままじゃ死ぬ。よくわからない女に殺される。ザフィールが恐怖を感じた時に、女は手を離す。
「苦しい?私の友達もそうとう苦しかったと思うの。それくらい味わってもいいと思うのよね」
「だから、俺は・・・」
ゆっくりと起き上がる。女の目は自分を犯人と決めつけていた。何を言っても聞いてもらえる様子は無い。隙を見て逃げ出すしかない。ザフィールは相手を見据えて隙を探した。一瞬で立ち上がり、そして駆け抜ける隙を。足にいつでも動けるよう力を入れて。
「そう、本当にやってないって言うのね」
「俺はやってない!」
「よくわかった。じゃああんたが真犯人をあげて自分じゃないって証明するならば、犯人じゃないって認めてあげる。それともここで死んでいきたい?」
「はぁ!?何で俺が・・・」
ザフィールは黙る。もしここで断れば永久に押し問答か、そのまま死ぬ。だったら、ここはひとつ。
「わ、わかった。言う通りにする」
「随分と物わかりいいのね、お名前は?」
「な、名前!?俺は・・・」
ふと女が自分のポケットを触っているのに気付いた。そこにはポケモントレーナーとしての身分証明書、トレーナーカードが入っているのだ。もちろん、本名もばっちり。
「ザフィールっていうんだ。よろしくね、ザフィール君」
にっこり笑って左手を差し出されては、その手を握るしかない。ただその手はおそろしく汗をかいていたに違いない。
「じゃあ明日から、貴方の行動を見張らせてもらうから」
「え!?それは困る!」
マツブサに言われた、ミナモシティに来いという命令。誰かに見られていたら、遂行するのも出来ない。それにこの活動は家族も知らない秘密事項なのに。
「なんで?潔白なら構わないでしょ?それとも知られたくない秘密でもあるわけ?」
「い、いやありません。でも、俺は、その、ポケモンの調査しなきゃいけなくて、だからついて来られるとポケモン逃げたりしちゃってちょっと無理かなーって思うんですよはい」
にらまれる。蛇ににらまれたカエルのごとく動けなかった。
「いや、その・・・」
「わかった、その調査手伝ってあげるわよ。これでいいわよね?」
「い、いえ、文句ありません・・・」
「そう、よろしくね。それと私はガーネット。少しでも不穏な動きをみせたら始末するから」
男以上の力を持っていて、なおかつにっこりと笑顔を向けられたら、誰でもイエスとしか言えない。ザフィールも例外なく解りましたと答えていた。

 もう走る元気もなかった。連絡先もあれこれ聞かれ、オダマキ博士の息子なんだというところまで握られ、やっと帰宅したのは、昨日と同じくらい遅い時間。空腹は限界を訴え、喉もカラカラ。締め付けられた首はまだ違和感が残ってる。
「ただいま」
元気なく家に入ると、珍しく父親のオダマキ博士がいた。いつもなら寝てるかパソコンで論文を作ってるのに。
「おかえりザフィール、どうしたんだ?」
「いや、その・・・・」
「そういえば、今日引っ越してきたガーネットちゃんがお前のこと探してたぞ、会ったのか?」
もう一度、とザフィールは言った。
 今日は引っ越して来るといってた。そして自分と同じくらいの女の子ともいってた。そして名前はガーネット。
 信じられない。小さな頃とはいえ、泣かしてしまったのだから、もっとか弱い女の子だとばかり思っていた。目の前に焼きたてのグラタンが出て来ても、ザフィールはしばらく動けない。
「会った、すごい力もってて・・・」
「ああ、確か特性だな、たまにいるんだよ、人間でもポケモンの特性持っちゃうのが。お前だってその逃げ足、尋常じゃないと思ってたら特性だっただろ」
誰かの論文の中にそんな実験結果があったような気がした。早起きが得意な人、晴れると生き生きする人、反対に雨だと生き生きする人。そのような特性を持った人間がいるという。その中でもあの力は「ちからもち」だろう。並の人間では勝てる代物ではない。
「そうなんだ・・・あ、それとさ、俺ポケモンの調査手伝うよ!」
「いきなりどうした?嫌がってたのに」
「いや、なんか俺も少し手伝わないとなーって思って」
「そうか、それならば」
モンスターボールが机の上に置かれる。机の下に出してみれば、緑色のトカゲ、キモリがいた。
「お前の逃げ足についてこれるのはこいつくらいなものだ。大切にしろよ」
「わかった。立派に育てるよ」
キモリをボールに収める。焦げたチーズの匂いにつられ、ようやく左手にフォークを持った。
「いただきます!」
期待していた通りの味に、ザフィールは嬉しくて食べる速度が上がる。この時だけは、今日の出来事を全て忘れ去ることができる時間。おいしい料理は癒しだ、とつぶやいた。


「いいのかなあ」
段ボールだらけの部屋で、窓から星空を見ていた。あちこちに雲が出ている。前に住んでいたところよりも星の数が多い。膝に抱かれているミズゴロウは喉を鳴らしてガーネットに甘えていた。
「ねえどう思う?私はザフィールが犯人だと思うけど」
ミズゴロウは首を傾げる。言葉が解るとは思わないが、ガーネットは聞いて欲しくて続けた。
「でもね、何か違う気がするんだよ。違和感というか。でも世の中、あそこまで似てる人っていないから、やっぱりザフィールなのかなあ」
時計をみればもう寝る時間だ。明日から追跡しなければならない。ガーネットは電気を消して眠りについた。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー