マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.809] 42、絶望の流れ星 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/11/11(Fri) 23:27:54   43clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 私たちはずっと前……もう数えきれないほど前に生まれました。
 この島から、ホウエン地方を守ることを言いつけられました。誰からにでもありません。それが自分たちの使命だと知っていたのです。
 そこで私たちは役割を決めました。ラティアスが島に残るときは私が外へ。私が島に残る時はラティアスが外を見回っていました。この島には私たちの命の源とも呼べる宝石がありましたから、離れるわけにはいかなかったのです。
 当時のホウエン地方はグラードンとカイオーガが争った傷跡も深く、ところどころ住めそうにもないところがありましたが、ほとんどが青い海と深い緑の森に覆われていました。
 紅色の珠と藍色の珠が作ったヒトガタを中心に、人々は復興への道を歩み始めた頃です。一番最初であるヒトガタは本当によく人々を導き、私たちポケモンと協力して文明をさらに発展させていきました。
 人々は私たちを珍しいポケモンだと言い、二つで一つの守り神と崇めていました。そんな人間たちに興味を持ち、私とラティアスは人間の言葉を学びました。私たちからしたら不思議な生き物だったのです、人間というのは。言葉一つで相手との意思疎通を図り、縄張りに入っても激しく威嚇するでもなく諭して帰す。こんなことが出来る生き物は、人間以外にいませんでした。
 ですから私たちはどんどん人間の社会に入り、様々なものを学んでいきました。

 その日も私は人間たちと共にいました。そこでは人間が祭りの日でしてね、全体的に浮かれていたのです。明るい提灯に祭り囃子。夜が暗いなど忘れるかのように。特別だからとその時は私たちは2匹ともここを離れていました。本当はいけないことだと知っていました。
 気付いた時は遅かったと思います。突然の光の滝といった方がいいでしょうか。夜空の星が全て落ちたような眩しさでした。そんなものが降り注いだのです。とっさに守れる範囲のものは守りました。が、その外にいる人間やポケモンたちはみな死んでいました。
 生き残ったヒトガタたちと空を見上げました。直後、何が起きたかすぐに解りました。そこにいたのは美しく輝く星とそれを守護する人の形をしたものでした。人間は醜いので全て殺すと。
 ヒトガタを中心に人間たちは結束し、私たちはそれらと戦うべく空へと舞い上がりました。
 しかし、大規模な攻撃をできる2匹に対し、私たちがなす術もありませんでした。どんなに押し返しても向こうが優勢です。
 そんなとき、ヒトガタはある提案をしました。再びグラードンとカイオーガを起こすかどうか。二匹の力を借りれば追い返すことが出来そうだと。
 先ほども言った通り、まだ二匹の戦いの爪痕が残っていたばかりでしたので、誰もが反対をしました。またあんな恐ろしいものを繰り返すのかと。けれど呼ばなければこのまま全滅するのは目に見えてます。その時でした。
 ヒトガタに仕える三人が私たちが囮になると言い出したのです。けれど人間がそんなことをしたって無駄だと私は止めました。誰もが止めました。けれど三人の覚悟は強かったのです。
 もちろん、三人が勝算なしに言ったわけではありません。私たちが持つ宝石には他の生き物に力を与えることが出来ましたので、それを欲しいといったのです。一度使えば元に戻れないと忠告し、納得した上で私たちは三人に力を与えました。
 何の攻撃も受け付けない鋼、大地を切り取った岩、海を凍らせ戦う氷。そして私たちは戦いました。すでに人ではなくなってしまった三人と共に。
 倒せると思ったのです。それでも、攻撃は止まりませんでした。未知の生物は私たちの予想の遥か上を行く猛攻で襲いかかっていました。

 正直、死ぬことも覚悟しました。それは怖くなかったのですが、人間を守ることができないままというのは少し残念だなと思っていました。
 諦めかけた時に人は笑うといいますが、そんな感じでした。もう滅びるしかないと諦め、皆笑っていました。
 嵐の海を思わせる暗い雲海の中を、光が差しました。一匹のドラゴンが降りてきたのです。レックウザと名乗るそれは、人の形をした方に食らいつきました。
 レックウザの力は、グラードンやカイオーガに似ていました。本気を出せばホウエンを壊しかねない存在です。レックウザと共に戦いながら私たちは思っていました。この戦いが終わったらこれも封じなければならないと。
 話はそれましたが、思わぬ助っ人に私たちは勝つことが出来たのです。2匹を遠くの彼方へと追いやり、ホウエンは再び平和を取り戻しました。
 
 そして、私たちはレックウザの力を恐れて彼を天空の石に封じました。

「これが、過去のホウエンで起きたことです」
 ずっとラティオスの声が響いていた。頭の中に流れ込むような映像と共に。一気に現実に引き戻されたようだった。3人は茫然と目の前のラティオスとラティアスを見つめる。
「封じたのは人間の言葉の力。初代のヒトガタたちだけでは出来なかったこと。言葉の魔力を常に引き出す人間、言霊が裏切ればすぐにまたあの惨事が起きる。ホウエンの地に再び入ることのないよう、見張っていたのに貴方は入って来た。空間どころか時間すら越えて。私たちにはホウエンを守る義務がある。私たちは最強の人間も手に入れた。片割れとなってしまったヒトガタも含め、私たちが今、終わらせてあげましょう」
 ラティオスとラティアスの手に握られた石が光る。それは眩しくてみていられず、手で顔を覆う。
 遠くで地響きのような轟音が聞こえ、それが何か確認する間もなく3人の体は強い衝撃に叩き付けられた。そして上も下もない水流に飲み込まれた。

 流されまいと必死で掴んだのは大きな石だった。腕力で体を寄せ付け、大きな水流が去るのを待つ。目を閉じて、あとどれくらい息をとめていいかも解らずに。
 体を押し流す水流が弱くなる。そして水がひいて頭が出た。次第に見えてくる景色。先ほどと全く変わらないが、ラティオスとラティアス、そしてミツルとミズキがいない。
「何が……」
 ふとザフィールが掴んでいた石を見る。遠くからは見えなかったが、近くにいると石に刻まれている言葉が見えた。
「記憶霞みしものは心に刻み付けることを望む……全ての夢はもう一つの現実。これを忘れるべからず、か。何かの詩?」
 ラティオスが言っていた言葉の魔力とはこれなのだろうか。ザフィールが考えるまでもなく、足音に振り向く。こんなところにくる人間なんていないはずだ。しかしその音はまぎれも無く人間だった。
 世界で一番嫌な人をあげるとしたら、ザフィールは真っ先にその人をあげた。出会ってからというもの、全くいい印象なんてない。なぜこんなところにいるのかという疑問より、なぜ会ってしまったのかという疑問が上がる。
「ダイゴさん、でしたっけ。なんでこんなところにいるんです?今は……」
「ラティオスとラティアスの言う通りにしただけさ。僕は……平和を乱す君たちを殺すために来たんだ」
 言葉数は少ないが、ザフィールは今のでラティオスの言った最強の人間の意味を理解した。最強なんて意外に身近にいたものだ。そうなればあのエアームドが一撃でホエルコを瀕死に追いやったのも納得がいく。その映像は同時にザフィールに恐怖と戦慄を与えた。
「もう片方だけのヒトガタなんて用はない。死んでくれるね」
 ダイゴの傍らにいるのはあのエアームドだった。震えて上手く握れないボールをなるべく遠くに投げる。何も言わず、ただ黙って。いつもの主人とは違う雰囲気を察したのか、出て来たプラスルはじっとエアームドを睨みつけた。
「戦おうっていうの?君は飲み込みが悪いんだね。結局僕が一番強くて凄いんだよね。そのことを教えてあげる。君と、君のポケモンたちにもね!」
 プラスルの赤い耳が揺れた。エアームドが翼を動かした風圧で。もうすでに戦いは始まっていたことをザフィールはようやく自覚した。
 殺される。この戦いに負けたら確実に殺される。ダイゴの目がそういっていた。人を殺すことを何とも思わない目。アクア団とは違う。ただひたすら、意志よりも義務を背負ったような目だった。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー