マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.548] 14、アクア団の遭遇 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/24(Fri) 19:22:16   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「くそ、あいつまたしくじったのか」
強く拳を握る。目の前にはホウエン地方についての論文が積み上がっている。いくつもある論文の中で、全て同じページが開いている。そこには、大地の化身の紅色の珠、海の化身の藍色の珠のことが書かれている。そしてどの論文にも珠の意思に比例して力が蘇ると論じていた。
「取られる前に、紅色の珠を捕らえておかなければ」
名前だけが頼り。歴史上、何度か現れたそれは紅色の珠と同じ名前をしているという。藍色の珠はそれと解るまでに少し時間を要したけれど、すでに手中にある。受話器を取ると、指示を飛ばした。


 ポケナビが着信音を盛大に鳴らす。ザフィールが設定しているのは普通の音ではない。あのアニメ、マジカル☆レボリューションの主題歌だと解るのは、先週も今週も散々見せられたせいか。何が彼の心を捕らえたか全く解らず、何が面白いのか理解できない。子供の頃はアニメも見ていたけれど、あんな「アイドルを夢見る少女が、魔法のエネコとがんばるの☆恋も仕事も負けられない☆」という女児向けアニメを、中学生にもなった男子が見ているのは理解ができない。確かに主題歌はポケモンと思えないほど声量があって、それと言われなければ気にならないけれど。
「はいはい、なになに?」
着信に出たザフィールは、大きなお友達を刺す視線に気づかない。普通に喋ってるところを見ると、家族からなのか。電話が終わるまで待つ。
「え、そうなの?そうか、わかった。うーん、でも今キンセツシティなんだわ、すぐに帰れそうにないんだけど。わかった、じゃあ帰るわ」
ポケナビを切って、いつものところにセットする。そして、次に出たザフィールの言葉。
「父さんとこのポケモンが病気らしくて、そういうわけでついてくるなよ。今からミシロ帰るから」
「えっ!?どうやって?」
「うーん、スバッチが進化次第空を飛べるけど、今は自転車かなあ。まあまだホウエンで行ってないところとかもあるから、何日か後に戻ってくるから」
「逃げる気?」
「疑うなあ・・・どうしたら信じてくれる?」
「全部信じられないけどね、オダマキ博士に直接電話してもいい?」
「いいよ、どうせ同じこと言うだけだし」
そこまで言ってガーネットは黙る。それを見てザフィールは折りたたみ自転車を組み立て始める。
「まあ、お前もポケモントレーナーなら一人でいいだろ。ああ、じゃあエントリーコールの番号教えておくから。俺は別に逃げも隠れもしねーし」
「まあそうだけど」
「んじゃ、またミシロ出るころには連絡するから」
根拠もなければ、信用に値するものもないけれど。反論しようとしても、自転車に乗ってしまえばすでにキンセツシティから遠ざかっていた。また逃げられた。小さくなる背中を見つめてため息をつく。
 ポケモンと出会った時のために強くするため、野生のポケモンが多く生息する111番道路へと歩き出した。それにしても、あのダサい自転車、もらったのはいいけれどよく乗る気になったな、と感心する。
 キンセツシティを行き交う自転車たちを見ていた時に、声をかけてきた人物。ミスターカゼノと名乗ったそのおじさんは、ミシロから来たと告げると、帰るのも大変だろうと自転車をくれたのである。なぜそんな太っ腹だったのか、二人は自転車を受け取った時に解った。
「カゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノカゼノ・・・・」
自転車のいたるところに書いてあるのである。つまり、二人に自転車を乗るかわりに宣伝してくれということだった。あざといおじさんに、二人は何も言えず。結局受け取ってしまい、二人の手元にはカゼノ自転車。
「まあ、信じてやろう」
マッスグマのしょうきちが抜けた後、素早さ担当がいない。マイナンも充分速いのだけど、パワーが足りない。鍛えておかなければ。もしザフィールがまた勝負ふっかけてきた時のためにも。街の端に行くため、カゼノ自転車を取り出す。ペダルを踏み込み、マッハタイプの自転車は一気に加速した。


 それから何時間後、歩くより遥かに速い自転車のおかげで、予定より速くミシロタウンに着く。
 研究所の前で自転車をとめ、久しぶりにドアを開ける。懐かしい匂い。何も変わってないことに浮かれながら、父親を訪ねる。訪ねたそこにはいなかった。呼んでおいてまた外へ行ってしまったのか。確かに本より外の調査、フィールドワークを重視するタイプだったが、そこまでひどいとは思わなかった。
 机の上に何やら書き置きを発見する。家に帰っていると。落ち着きのない父親だ。助手たちに挨拶をしながら、家に帰る。ドアをあけた先には、ソファーでくつろいでる父親。緊急でポケモンが病気だから来たというのに、ザフィールはしょうしょう力が抜けた。用事は何だと聞くと、オダマキ博士は思い出したように庭を指す。
「出てみれば解るよ」
「なんだよ、全く」
外に出る。そこには、元気なく端に座り込んでいるオレンジ色のひよこ、アチャモ。ザフィールの方をちらっと見ると、すぐにまた視線を戻してぼーっとしている。触ろうが抱こうがおかまいなし。ザフィールの腕の中で鳴き声ひとつあげず。
「病気というより、無害な感染症かな」
「なにそれ?」
「ポケルスの論文みせてやったじゃないか。ポケモンにくっつく、謎のウイルスだよ。何をすればそうなるのか全く解らないけど、これに感染したポケモンは強くなるらしいって」
思い出す。全て英語だったため、読み取るのはとても苦労したが、ザフィールは辞書片手に読んだことがある。不思議なウイルスの話、実験、そしてワクチンは出来るかどうか、ワクチンを取らせた方がいいのかどうか。それにとても興味を惹かれ、夢中になって何度も読んだ。正しい訳かどうか調べてもらったりしながら。
 そのことを思い出すと、ザフィールの目は輝く。滅多にないことだとも記述があったので、目の前にその事実がいることがとても興味があった。ふわふわの羽、高い体温。これがまさにそれかと思うと、鼓動が早まる。
「あー!見た見た。すげえおもしろかったやつ。じゃあこのアチャモも?」
「そう。ポケルスらしい。元気がないのは、いつも一緒だったミズゴロウとキモリがいなくて寂しいらしいんだ。それで、言いたいことは解るな?」
「俺に連れていけと?アチャモを?」
「うむ、勘がするどいな。さすが我が子だ」
気づけばオダマキ博士はアチャモの入っていたモンスターボールを持っている。それをザフィールが受け取ると、手を振っていた。
「これさ、父さんの大事なボディーガード兼パートナーじゃないの?」
「そうなのだ。なので、元気が出たらまた帰ってくること!それとポケモンとは仲良くやってるか?ちゃんと調査もやってるんだろう?」
「や、やってるよ!キモリだって進化したんだ。調査だってまとめていつも夜には送ってるじゃんか」
「昔から育てるのは下手だったからなあ、これでも心配なんだ。また入院してもあれだし、なにより・・・」
「もうならない。俺だって強くなったんだ」
アチャモをモンスターボールにしまう。そして庭から外に出ると、自転車を取りに行く。オダマキ博士はそれを見て、あのことを引きずり出したのはよくなかったと後悔した。何年待てば元に戻るのだろう。過去のことにとらわれすぎているのか、ザフィールがそのことについて少しでも触れようものなら異常な反応を示すこと。


 意外なほど早くエントリーコールが鳴る。今からキンセツシティに行くと。ただ、もう夕方なので、明日には着くという伝言。コトキタウンのポケモンセンターにいるらしく、電話の向こうからコトキタウンの宣伝が聞こえる。
「じゃあ、明日は111番道路で待ち合わせしようか?どうせ調査まだだったし」
「ああ、それがいいや。じゃあ、お昼頃に着くから、その時に待ち合わせで。ああ、もしよかったら空のスーパーボール買っといてくれない?」
珍しくザフィールが反抗しない。そういえばカナシダトンネルのあたりから何か変だ。ただ、頻繁に目をそらしてくるのと、いつの間にか消えるのは変わらないけれど。
「なんで?」
「ここら辺売ってなくてさ、捕まえやすい方がいいから」
「まあ、捕獲が上手いあんたのことだから、別にいいけど」
「さすが俺を付け回すだけあるな、よく観察してらっしゃるこって」
ポケナビが切れた。電波が切れたのだけど、いいタイミングで切れたものだ。かけ直そうかと思ったけれど、また明日言えばいい。テレビレポーターに取材されたことを自慢しようかと思ったのに。しかも生放送だったらしく、全国にマイナンとシリウスのコンビが映った。嬉しくて仕方ない。キンセツシティのポケモンセンターに行き、明日に備えて回復させる。


「あーあ、電池ないや」
もう電池も切れかけているポケナビ。充電式だったが、いつもはあまり使わないために2日に1回していた。けれど昨日はあんなに話していたため、充電しなかったために残りわずかな電力。それに気づいた時には、約束の時間に差し掛かっていた。急いで111番道路へ向かう。
「まあいいか、あの自転車とあの白髪は見逃すわけないし」
「あー昨日のガーネットさん!」
振り向けば昨日のレポーターがカメラと一緒に立っている。またポケモンを映したい。そう言われ、コイルとゴニョニョを目の前に出される。そうしたら出さないわけにはいかない。昨日と違うポケモン、シルクとリゲルを繰り出した。
「ダブルバトルは苦手だけどね、挑まれたら行くよシルク!リゲル!」
ポニータに火の粉、キノココにずつきを命じる。カメラの前だからか、キノココは多少緊張していたようで、ゴニョニョの前で転ぶ。それはそれは派手に。ずつきではなく、体当たりでゴニョニョにぶつかった。
 ポニータの火の粉に巻かれ、コイルは逃げていた。けれどカメラがズームしているのはゴニョニョとキノココの戦い。確かにそちらの方が笑いも取れるだろうけれど。
「リゲル・・・しびれごな!」
頭から黄色い粉が漂う。ゴニョニョにまとわりつき、体を麻痺させる。最後のあがきとばかりにゴニョニョは騒ぎだす。その大きさは後ろにいるガーネットまで耳を塞ぐほど。前回はそんな騒ぐこともさせずに倒してしまったから、全く対策してなかった。シルクもうるさそうにしている。
「リゲルー!やどりぎー!」
聞こえていない。リゲルは何をしていいか解らず、音量に目眩を起こしている。あれじゃあ戦えない。
「シルク、炎の渦!」
炎の渦がゴニョニョを閉じ込める。そして次の指示、体当たり。力と体格の差で、ゴニョニョは飛ばされ、戦闘不能に。
「すごい、すごいわ!やっぱり私たちが目をつけたことだけあるわね」
「い、いえそこまででは・・・友達と待ち合わせしてるのでもう行きますね」
一礼し、ポニータとキノココをボールに戻す。レポーターたちが見えなくなるくらい遠くに行く。人気がなく、静かなところ。遠くには大きな山も見えるし、ロープウェイが通っているのも見える。火山のようで、頂上からは煙が出ていた。見上げてため息をつく。
「いたぞ」
「いた、ボスの言ってた女」
「捕らえる」
ガーネットが視線を戻した時、見たことのある青いバンダナを巻いた海賊風の人間が3人いた。トウカの森で会い、カナシダトンネルではザフィールを一方的に痛めつけていたやつらだ。ここまで接近を許してしまったのは、ゴニョニョとの戦いのせいか。ガーネットは身構える。
「トレーナーか」
「トレーナーのようだ」
「どうする、正攻法は通用しないな」
一斉にボールから出されるラフレシア、グラエナ、カイリキー。3匹から漏れだすオーラから、いくつもの戦いを勝ち抜いてきたような強さを感じる。ガーネットはだまってポケモンを出した。シルク、リゲル、マイナン。敵わないかもしれない。けれども逃げられもしない。
「行け!」
3匹は同時に襲いかかる。それに対応するように、こちらも動いた。ラフレシアが不穏な動きを見せたことに気づかず。


 息を切らせてやっと111番道路に着く。段差があったりして往復同じ道というわけにはいかず、少し時間がかかってしまった。昼は軽いものを食べたし、すぐに調査にかかれるはずだ。それに早くしないとまたうるさいだろう。
「なんで俺、こんなに必死なんだよ」
ザフィールも良く解らなかった。カナシダトンネルで、はっきりと感じたことが忘れられない。逃げられなくなった時に、無理矢理道を開いてくれたこと。そのことがどうしても引っかかり、こんなに必死なのだとザフィールは自分に言い聞かせる。それに、こちらから近づいておけば拳が飛んでくることはないし。
 自転車を折りたたみながら、ザフィールはあたりを探す。あんなに自分からついてくると言っておきながら、本人がいない。ガーネットの性格からして遅刻するということはまずないだろうし、途中で出会ったトレーナーたちもあの赤いバンダナとポニータは印象的だったと言っていた。いるはずなのに、何に夢中になってどこへ行ってしまったのだろう。エントリーコールを鳴らしても電波が届かないところか電源が切れているアナウンスが入るのみ。
「全く、言い出したくせに途中放棄か」
だいたいから何を必死になってんだ。彼女からいなくなった、これが答えではないか。今まで感じてた恩や様々なものをバカにしたように笑う。あと少ししてもいないならば、もう一人で行こう。そう決めた。ふとジュプトルがボールの外に出る。草むらに引っかかる、見た事のある赤い布を持って。


 熱い。洞窟の中は地面からかなりの熱を放っていた。ここはエントツ山の真下、ほのおの抜け道。ラフレシアのしびれ粉をたっぷり吸わされ、逃げられないように手足を縛られたガーネットがアクア団たちにより運ばれている。今は何か連絡を取っているようで、ここから支部に向かうと言っている。地面に座らされ、熱から逃げようとするが、上手く力が入らない。手足を縛る縄も、こんな状態ではちぎることも出来ない。
「大丈夫だそうだ。ハジツゲ支部に連れて行くぞ」
持ち上げられる。抵抗したって無駄だった。体が言うことを聞かない。アクア団に囲まれ、逃げ出そうにも逃げ出せない。ポケモンたちはボールごと奪われ、声も届かなかった。
「ああ、そうだここからは目隠ししとけ」
さらに目に布がかかる。真っ暗な中、ただ体をどこかに連れて行かれる感覚。どうなるのか、先日のザフィールの言葉が頭をよぎる。こんなときなのに、頭はやけに冷静で、心は何も感じなかった。もっと大きなものを感じていたからかもしれない。死ぬかもしれないという恐怖。


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