マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.567] 25、雷雨の道 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/05(Tue) 19:36:59   68clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 近所というのはとても不便なもので、田舎町ならなおさら話が広まるのは早い。センリからオダマキ博士のことを聞いた。それはさらに感情が迷宮入りするのに充分なことだった。どうしてそんなことになってるのか、ガーネットには到底理解できない。一つ屋根の下で二人がいることを想像するだけで耐えられない重圧が心にかかる。
 そして、気分転換に外に出ようとすれば、タイミング悪くハルカに出くわしてしまう。軽く挨拶して通り過ぎようとしても、向こうがそれを逃さない。ガーネットの手を掴むと、きついイントネーションで一方的に話しだす。その表情は、私の勝ちだと言わんばかり。そもそも最初から勝負しているつもりがないので、ガーネットとしては勝ちも負けもないのだけれど。
「・・・これからギャロップの散歩だから」
手を振り払い、ガーネットはシルクのボールを出す。未だに届かず、少ししゃがんでもらってから乗るのは変わらない。そして、何やら叫んでいるハルカを置いて、シルクに行けと命令する。
 
 どこへ行く宛もなく、コトキタウンを通り越して103番道路まで走り抜く。そういえば、ここで初めて勝負した。その前は木から枝と一緒に落ちて来て、何がなんだか解らなかった。それから、まだミズゴロウだったシリウスがどろかけで押し進めて。
「ガーネットちゃん!」
オダマキ博士が手を振っている。会釈をすると、彼は近寄って来た。傍らにはキャモメがついている。
「オダマキ博士、こんな遠くまで来るんですか?」
「本当はもっと遠くに行きたいんだけどね。ザフィールに頼ってばかりってわけにもいかないし」
体格のいいヒゲのおじさん。それがオダマキ博士の見た目だった。キャモメがオダマキ博士のまわりをくるくる回っている。
「そういえば、ザフィールはどうしてますか?」
「キンセツシティのテッセンさんに用事を頼まれたから、それに行ったよ。それからヒワマキシティの方面に行くって言ってた」
「えっ!?ありがとうございます!」
外出禁止令が出たと言ってたから油断していた。彼に対する疑惑が全て晴れたわけではない。すぐさま家に帰ると、ポケモンを全て用意し、動きやすい服に着替える。そして早口で行ってくることを伝えると、シルクに乗って出かけて行く。
「あっ」
見送ったくれないが部屋に帰ると、テーブルの上に姉が使っていた万能粉が残っているのをみつけた。忘れていったのだろうけど、くれないには今から追いかけることができない。父親のセンリはジムのイベントとかで忙しくて今日は相手にしてくれない。
「まあいいのかな、おねえちゃんあれなくても、よくなったのかもね」
後ろでエネコが鳴く。今日の午後は雨だったな。降ってきたら洗濯物を取り込まなければ。それまでくれないは気にせず机に向かう。学校の課題がまだ残ってる。それを片付けられなければ、エネコと遊ぶ事も出来ない。


 シルクに乗りながら地図を確認する。ヒワマキシティはミシロタウンからかなり離れたところにある。シルクの足でも時間がかかりそうだった。かなり走り、110番道路まで到着する。海風が追い風のようにシルクに吹き付ける。少し風が湿っぽい。
「雨か、なんとか抜けられるかな・・・」
炎タイプのシルクは雨が苦手だ。カイナシティで小雨にあった時も、外に出るのを嫌がった。ザフィールが毎回ポケナビの呼び出しに応じるわけでもない。追いかけられなければ、きっとそのまま逃がしてしまうような気がする。
 ようやくキンセツシティの建物が見えてくる。街中ではなく、少し外れた道を行く。遠回りになってしまうが、市街地をギャロップで走り回るわけにもいかない。大きな街だから、ここを抜けるのにも時間がかかる。それにしても、随分長く走れるようになって来た。キンセツシティ上空は重い灰色に塗りつぶされている。雨が近い。
 
 キンセツシティの東から、ヒワマキシティへと向かうルートがある。119番道路を北にまっすぐ行けばヒワマキシティはもうすぐ。けれども、シルクはそこで立ち止まる。目の前には大きな川。飛び越えられるような幅ではない。休憩がてらシルクをボールに戻し、水を渡るシリウスを呼び出した。すると外に出てすぐ、シリウスはあたりを見回す。
「どうしたん?」
ガーネットの質問に短く鳴いた。河原に広がる大きな石を選んでいるようだった。ラグラージの習性、嵐を予知して岩を積み上げて巣を守る。巣がここにあるわけではないのに。前線通過だけなのに大げさだな、と思ってしまう。
「行くよー!」
ガーネットの声にシリウスは振り向いた。体より大きな岩をもの惜しげに見つめて、川へと身を沈める。そしてガーネットを乗せると、一気に川を泳いだ。遠くの空は黒く、雨を予感させる。風も冷たい。雨をしのぐ道具を何一つ持って来なかったことを悔いた。
 向こう岸へと着く。まだ雨は降ってない。ここからは自分の足で走るしか無さそうだ。ザフィールのことだから、あの素早い足で今頃はヒワマキシティにいるのだろう。早く追いつきたいけれど、こうも天気に邪魔されては中々進めそうになかった。
 北へ走る。豊かな雨を象徴するように、伸びに伸びている草むら。かき分けて進む中、一際眩しい光が一面に降り注ぐ。その直後の轟音。雷まで鳴っていた。大粒の雨が、ガーネットの体に降り掛かる。辺りは自分の足音も聞こえない程の土砂降りが続く。視界は白く、土はぬかるんでいた。余計に急がないとならない。
「なんでこんなときに・・・」
119番道路を流れる滝は、大雨で勢いを増していた。続く川も濁った水が激流となっている。すでに全身はびしょぬれ。その間にも体は冷えていく。追跡はとりあえず中断し、どこか休める建物で乾かさないとならない。今にも滝に飲み込まれそうな橋を渡り、急な坂道を登る。何度も何度も雷鳴が響いていた。雷光と雷鳴の時間はとても短い。紫色の稲妻が遠くにくっきりと見えた。
 その坂を登りきったところで、土砂降りの中に白い建物が見えた。何やら文字は見えないけれど、看板も立っている。事情を話せば雨宿りくらいさせてもらえそうだ。力が入らなくなってきた足を踏ん張り、荒い息を鎮めるように建物へ向かう。手の感覚がじんわりとしていた。
「すいませ・・・」
入り口の自動ドアのようなものを開ける。物凄く静かだった。電気がついているのだから、人がいるのかと思ったが、気配すらしない。ふらつく頭を押さえて、濡れた体で奥へと入っていく。誰かいたら怒られやしないかドキドキしていた。
「だめだよ!」
いきなり後ろから引っ張られた。振り返ればかなり小さな子供。そのままガーネットを引っぱり、カギのついた扉がある部屋までつれていく。
「あいつら、僕が寝てる間に・・・」
「あいつ、ら?」
「あの赤いフード、マグマ団だ。ここにいるポケモンを奪おうとしてる。危ないから外に出ちゃダメ!」
部屋の外を、足音が通り過ぎた。警備しているようだった。間一髪で助かったことを少年に礼をすると、ガーネットはドアの扉に手をかける。
「大丈夫、追い払ってあげるよ」
「そんな!やつら危ないよ、危険だよ!それに、お姉ちゃん・・・熱がある」
「そう、かもね。でも、いつまでも占拠させておくわけには行かないの。マグマ団みたいなやつらには。しっかりカギかけておくんだよ」
外に出た。どこから来るのかも解らない。慎重に慎重を重ねて、建物の中を行く。やはり走れない。走ろうとすると頭が重くのしかかる。痛みは無いが、一歩出るだけでふんわりと視界が揺れた。無茶は出来ない。マイナンのボールを握りしめる。かつかつと廊下に響く足音が遠くからした。
「いけ・・・」
マイナンがボールから飛び出す。そして足音に向かって電気をためると、そのまま突進する。その人物が麻痺して倒れたと同時に、駆け足が複数聞こえる。残っていたマイナンを見ると、大騒ぎになってしまった。素早く戻し、シリウスのボールを手に取る。
「侵入者発見!」
「どっちがよ!」
一瞬だけボールを投げる手が遅れた。そのため、シリウスが一発目を食らってしまった。グラエナがシリウスの腕に噛み付いている。そのまま振り回し、グラエナを引きはがすと、泥を追い打ちのようにかける。
「やばい、つよいぞこの女!・・・っていうかどこかで・・・」
「おい、そいつカナシダトンネルにいた女じゃないか!?」
どんどんマグマ団たちが集まってくる。こんな万全ではない時にこうもされては指示が追いつかない。カペラのボールを開ける。ふわふわとした翼がガーネットの体をなでた。
「ボスがいってたな」
「連れてかえればご褒美くれるって!」
今マグマ団に捕まるわけにはいかない。カペラは歌い、シリウスは近づくポケモンを泥を水圧で吹き飛ばす。ポケモンの悲鳴、マグマ団の怒声、足音、そして雷鳴。そんなドタバタしていたものだから、マグマ団は増える一方。
「つーか静かにしてください!一体なにごとなんですか!!静かにことを済ませるって言われましたよね!トレーナーに気づかれたらどうするんですか!」
2階から一人のマグマ団が降りてくる。この大騒ぎの中、一際通る声で。カペラがそれに気付き、ふんわりと羽ばたいた後、その人物に寄っていく。そして嬉しそうに周りを飛ぶと、足元に座る。
「なん、で・・・いるの?」
「お前こそなんでいるんだ!?」
マグマ団たちがざわめく。知り合いなのかと。人間たちが混乱してる中、カペラはのんきに歌いだす。カペラにとって側にいるのは敵ではなく、主人といつも一緒にいた人間にしか見えないからだ。
「なんで?なんでいるの?なんで2階から来たの?なんでマグマ団なんかと一緒になってんの?・・・ねえ、ザフィール答えなさいよ!」
ただ事ではない主人の様子に、カペラは驚いて歌うのをやめる。そしてガーネットのところに戻ると、慰めるようにふわふわの翼で触って来た。
「ザフィール、どうするんだ?」
「いい、俺がやる。特性持ちだから、うかつに近づくとケガするぞ」
一歩一歩、ザフィールが近づいてくる。違う人物に見えるのはマグマ団の服装のせいか。他の団員たちが見てる中、ただならぬ彼の様子に、ガーネットは後ろを向いて走り出す。アクア団のような冷たさ。それが今のザフィールだった。それがとても怖くて怖くて、あっけにとられている団員を押しのけて建物から出ていく。

 まだ降り続く土砂降り。雷鳴も近く、空は真っ黒だ。あれは何かの見間違い。そう、その見間違いだ。こんなに熱があって、ちゃんと人物が見分けられるわけがない。何かの・・・
「危ない!」
腕を掴まれる。いつもならそんなもの振り払えるのに、力が入らない。それに掴む力が普段とは違う。青あざになりそうなくらい強くつかまれる。
「大雨で増水してる、鉄砲水に流されるぞ」
「うるさい!離してよ!」
振り返ってみる彼は、間違いなくマグマ団。その事実を突き飛ばし、にらみつけた。
「私はお前なんか知らない!」
雨音に負けない大声で叫んだ。ずぶぬれの体は、さらに体温を上げていた。視界が揺れる。立っていられない。ぐるぐるとした景色が暗く途切れる。雷鳴が近くに聞こえていた。


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