何も見えなかった。何も聞こえなかった。
もう私は死ぬんだ。死んでいく。苦しい。後少しで楽になるはず。そうしたら親友に会える。
「いやいやまだでしょ」
頭の中を否定するように声がする。
「君がそこで死んだら、2人の存在がなくなってしまうよ」
「ふたり?」
「君がここで死ぬのは歴史が狂う。僕はそれを修正しに来たんだ。さあ、元気出して」
だんだんと目の前が色を帯びていく。そして見える緑色の妖精と、隣で笑ってる親友。駆け寄ろうとして、体の不快やふらつきが一切なくなってることに気付く。
親友にがっしりと抱きつかれた。本当に生きてるかのようだ。違う、死んではいない。目の前の人間は確実に生きている。再会を喜んだ。また会えたことに感謝して。
「どうして……会いたかった、生きてたならなんで……」
「違うよ。私はあのときの私じゃない。殺される前の私が時間を越えてるだけなの」
緑色の妖精を指す。
「……貴方はまさか……」
実は見覚えがあった。かなり昔に。小さい時の記憶はしっかりと残っている。
「君には命を助けてもらった。まだ君は子供だったから忘れてるかもしれないけどね。早く君たちを元の時間の流れに戻さないといけない」
「なんで?」
「ここは時間の流れが速いんだ。こうしているうちに何年も経ってしまう。早く出ればそれだけ早く帰れる。いるのだろう、君には大切な人が」
「それまで……」
「会った時に知ってたよ、君がヒトガタだってことくらいは。そしてもう一つのヒトガタはずっと……いや、これは二人の問題だね。さあ行こう!」
景色が変わる。光の洪水に、思わず目を閉じた。
「あの〜」
申し訳無さそうな声がする。その声に気付いたのか、ガーネットはぱっとザフィールを放した。さっきの緑の妖精みたいのがじっと見ている。目の錯覚なのか、妖精のまわりはキラキラと光っているように見えた。
「ポケモンなの?見た事無い」
ザフィールの前にやってくると、手を差し伸ばした。取ろうと彼が伸ばす。その瞬間、メタグロスから受けた痛みがすっと和らいでいくのを感じる。
「君とは初対面だもの。初めまして、僕はセレビィ。ジョウトにあるウバメの森に住んでる歴史の管理人」
「は、初めまして……?その歴史の管理人が何の?」
「本来なら辿るはずのない道だったからさ、軌道修正しに来たの。この人もそう」
セレビィは倒れてるダイゴを指す。
「心を封じて言いなりにするなんて。本当はもっと早く修正したかったのだけどね。もしかしたら君たちがこの人の心を取り戻してくれるんじゃないかと思ってたけど、あんな事件まで。もうすこしグラードン君とカイオーガ君も冷静になって欲しいものだよね」
知り合いなのかよ。二人の口から思わず出そうになった。
「でもこれで歴史は元の流れに戻るはず。なんやかんやあったけど、大きな流れが戻ってくれば、小さな出来事なんて取るにたらないさ!これで僕は他にも修正しなきゃいけないところに、行きたいんだけれどね」
セレビィのまわりがキンと高い音を発した。光の壁が物凄い勢いの風を跳ね返す。
「どうやら僕はもう一仕事あるみたい」
ラティオスとラティアスがいる。しかしその色は先ほどみた色と違う。緑色のラティオスと、オレンジ色のラティアスがこちらをじっと睨んでいる。
「ショセン、サイキョウ、ニンゲン、フヨウ」
目の色もおかしい。焦点があってないような目で睨んでいる。話し方も知的なラティオスと穏やかなラティアスだったはずだ。
「あの2匹の心を取り戻さないと、ホウエンって危ないままだね。ちょっと協力してくれる? ヒトガタだから大丈夫だよね」
言われなくても解っている。何も言わずモンスターボールを投げた。ラグラージとジュカインが現れる。
「2匹を弱らせてくれたら、後は僕がなんとかしよう。それまで頼むよ。ちなみにグラードン君とカイオーガ君よりかは弱いけど、よりか、なだけだからね。そこらのポケモンと全く違うから!」
キラキラと光る軌跡でセレビィは飛ぶ。2匹のまわりを伺うように。
ガーネットはラグラージに命令する。同時にザフィールもジュカインに指示を伝えた。