マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.588] 29、ヒトガタの意味 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/19(Tue) 21:39:08   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 予想以上だった。見えないところにもいたアクア団にあっという間に追い込まれる。残りのポケモンはアブソルただ一匹。だがボールから出すのすらザフィールは嫌だった。むしろ触りたくないのである。けれどホムラだって結構ギリギリで、追い込まれた時の表情を見せている。笑ってるけど焦ってる。どうしようもならない時にしか見せない顔だ。
 全てマグマ団の行動が筒抜け。マツブサも苦い顔をしてアクア団のリーダーのアオギリとにらみ合っている。全体を見回しても、アクア団の方が数が多く、直接手を出して来ない。アオギリはマグマ団を捕らえろと言っていた。特に幹部のホムラとその部下の白い髪、と。
「ザフィールどうすっよ。俺たちアクア団に招待されてるみたいだけどな」
背中合わせにホムラは言う。グラエナの体力が尽きそうだった。荒い息をしながら、グラエナが次の指示を待っている。
「行きたくないですってか絶対行きません」
「だよなあ。俺はイズミを口説くまでは死にたくない」
「・・・行きたいのか行きたくないのかその辺はっきりしませんか」
ホムラが気に入ってるアクア団の幹部のイズミ。長身と無駄のないスタイルは、マグマ団へ立ちはだかる壁として存在していた。けれどここにいないような感じがある。男たちにまぎれてしまえば長身も目立たない。そしてさらに、幹部のウシオも見えないのだ。いるのはアオギリのみ。
「ホムラさん、まじ嫌な予感するんですが聞いてもらえます?」
「10秒以内」
「さらに後ろから、ウシオとイズミが来る予感がします」
「同じことを言おうと思ってた。噛み砕け」
グラエナが、近寄るクロバットの翼を強靭な顎で噛む。二人の予感は当たり、前は大量のアクア団、後ろからは幹部二人の挟み撃ち。さすがのホムラも笑みを浮かべる余裕がなくなってきている。
「ああカガリ様、こういう時に俺のピンチを救ってくれてこそフィアンセというもの」
「どうしてそういう冗談を口に出来るのか、そこが未だに理解できません」
「うひょひょ、人生笑ってねえとつまんねえだろ」
大人しく投降すれば危害は加えないとアオギリは言う。けれど大人しくなんて出来るものか。ホムラが最後のポケモンを繰り出した。ザフィールは覚悟を決めて、アブソルのボールを開く。


 写真を見る。間違いない。過去に現れたというヒトガタにそっくりだった。これこそがグラードンへのカギとなり、陸地を広げるカギとなる。カガリはパソコンの前で確信した。後はどん欲なマグマ団の下っ端たちが動くのを待つだけ。
 後ろで部屋のドアを開ける音がする。こんな時間にここにいるなんて珍しい人が来たものだ。マツブサの不在を知っての来訪のようだった。その人物に続いてロコンが入ってくる。
「カガリさん、本当にそうするのか?」
「そうよ。これで貴方が偽物だと言われなくて済むわ。むしろ本物に成り済まして生きていける。ようやく終わるのよ。貴方の存在は元からマグマ団しか知らない存在。世間では誰が消えたかなんて解るわけがない」
緊急の呼び出しが鳴る。幹部のみに渡されたコール。今の時間に呼び出すとしたら、おくりび山で何かがあったのだ。急いで立ち上がると、カガリはフードをかぶる。
「貴方も行く?」
「俺は、いい。あんなやつ助けたくもない」
「顔みられなきゃいいでしょ。それに緊急事態なんだからボスも命令違反だとは怒らないわ。怒ったら私が代わりになってあげる。はい」
カガリは強引にマグマ団のフードをかぶせる。着せたことがなかったけれど、そこそこ似合っているな、と思った。
「深めにかぶってれば顔見えないわ。さて、行くわよ」
「・・・わかった。出動だロコン」
ロコンがモンスターボールに戻っていく。カガリは手慣れた様子で自分のポケモンを準備する。そしてそれと同時に二人は走り出した。


 ウシオの拳が、ホムラの頬をとらえる。大人の男の殴り合いだ。まわりのアクア団はやっちまえと囃し立て、イズミは仕方ないという目で見ていた。一対一の殴り合いに勝てたら行ってやるとホムラがウシオに交渉したのだ。それにアオギリの許可が降りて、現在に至る。ザフィールもホムラが勝つことを願うしかない。
「だいたい災害は水害が多いだろうが!」
「海がなくなったら生物は生きていけねえだろうが!」
信念をかけた戦い、にしては少々熱が入ってない。ホムラだからなのだろうか、ふざけてるようにしか見えないのだ。けれどウシオには確実にダメージを与えている。
「お前らしくない、真剣勝負だな」
「あったりめえよ、そう簡単にかわいい弟分もってかれたかねーよ」
「だがよお、喧嘩売る相手をお前は間違えてんだぜ。ずっとトレーナーだったお前みたいなのと違ってよぉ」
ウシオの拳がホムラの腹部に入る。重たい衝撃が来た。なれない出来事に、さすがのホムラも足元がよろめいた。そして追撃の蹴りがホムラの頭をかすめる。
「格闘技やってたんだからな」
「知ってらあ、ただ、俺だってトレーナーだからマグマ団の幹部に就いたわけじゃねえんだよ!」
命令に忠実に、そして部下を守ること。それが幹部に指名された時に言われた言葉。もう何年もやってきて、何人もの部下がいる。それをアクア団ごときから守れなくて何が幹部だ。
 ウシオの足が上がる。その瞬間だ。ホムラはその体ごとウシオにぶつかる。蹴りの衝撃もあったが、ウシオのバランスを崩すことに成功した。そのまま一緒に後ろへ転ぶ。
「ウシオ、何やってるの」
罵声のようなイズミの声。むしろこちらに喧嘩売らないことが正解だった。特性持ちの人間はまともに相手をしたら危ないどころではない。
「そんな軟弱男に負けるようなアンタじゃないでしょ」
「筋肉バカよりは頼りになるけどね」
アクア団の人だかりに、炎の渦が巻き起こる。その炎から見える光は乱反射してアクア団たちを混乱させる。何をすべきか、どう行動すればいいのか。元々何をしていたのかも忘れているものだっている。そして炎の渦が消えると、もう一人の幹部のカガリが立っていた。
「ああ、心のフィアンセ。きっと愛の力で来てくれると思ってた」
「こりゃあ緊急事態な訳も解るわ。特にホムラ、最近さぼりすぎなんじゃないの?」
厳しい指摘を受け、倒れながらもホムラは笑った。カガリのボールからクロバットが飛び出す。そして影からロコンが乗り出し、正気に戻ったアクア団たちを再びちらつく炎で妖しい光を見せて混乱させる。
「2匹ごときに!?」
「1匹は私のじゃないけどね。どうする?結構不利よこの状況。あんたが決められないならアオギリさんにも聞いてよ」
そのアオギリも、マツブサとおくりび山の頂上でずっと話し合っている。遠くて何を話しているか聞き取れないが、両者ともその前にあるものを巡っての争いのようだ。
「そっちこそ、撤退するならマツブサさんに聞くことね!」
女の戦いは恐ろしい。イズミとカガリがにらみ合ってる中に入っていけない。カガリの隣にいるクロバットと、イズミの隣にいるプクリンがにらみ合う。
 それはともかくとして、大半のアクア団が消えていき、残るのは戦闘不能となったマグマ団たちだけ。ザフィールは一番にホムラに駆け寄った。こんな状況でもカガリに軽口叩けるのだから、その心の余裕は尊敬に値する。
「じゃあ私たちも男どもみたいにタイマンで勝負する?」
「ヨガパワー備えてるアンタと殴り合うほど、私はバカじゃないわ」
カガリの後ろを地面に伏しながらもホムラは安心したような顔で見ていた。あいつが来たならもう安心だ、と。
「ザフィール」
小声で呼びつける。何か作戦を立てるのかと、ザフィールはホムラに顔を近づけた。
「なんですか?」
「ここからだとカガリのスカートの中が」
「俺、帰っていいですか」
せっかくウシオと殴り合ってまで部下を守るかっこいいホムラだったのに。たった一言が人格まで台無しになる典型例。こんな気の抜けたことを平気で言うのは、この世界で一人でいい。
「冗談だよ。何でお前はそういうこと理解できないんだ。いいか、今のボスは非常に機嫌が悪い。その上こんな状態と来た。きっと怒るに違いない。まあそれは仕方ない。今、この中で一番の俊足はお前。ボスに加勢してこい」
「解りました」
ザフィールは走る。奥にいるマツブサめがけて。その後ろ姿を見て、ホムラは再び地面に伏せる。ふと濡れたものが頬にあたる。ロコンがホムラの顔をなめていた。大丈夫かというように。
「はは、あいつも来てんのかよ。俺はそこまで落ちぶれちゃいねえよ」
とは言うものの、ウシオから受けたダメージは、体を動かすごとに増すようだった。カガリがイズミに勝てるように祈る。そしたらカガリに連れて帰ってもらわないと。ロコンの頭をなでると、主人のもとに帰れと言った。

 マツブサとアオギリに近づくにつれ、さらに二つの影があることが解る。年を取った夫婦が、美しい赤と青をした珠の前にいるのだ。侵入者ごときに渡さないというように。
「マツブサさん!」
手を振ってザフィールが近づく。アオギリをにらんだ顔のまま、こちらを振り向いた。その凄みに一瞬だけ怯む。マツブサがザフィールの手を強引に引っ張った。
「こいつが欲しいんだろ、アオギリ」
「えっ!?どういう、マツブサさん!?」
「マツブサ、何も教えてねえのか」
「どういうこと、マツブサさん!」
何がなんだか解らないけれど、何かの交渉に自分が使われていることは解る。むやみにマツブサを振り払いたくないけれど、アオギリに渡されるのも嫌だ。そもそも、アクア団が憎くてマツブサに拾ってもらったのに、そのマツブサに見捨てられてしまいそうな雰囲気。
「ヒトガタ・・・本当に蘇ったのか」
珠の前にいる老人が言う。ザフィールをまっすぐ見て。前にも謎の飛行物体に言われたが、いまいちピンと来ない。けれど老人は懐かしむようにザフィールに触れる。マツブサとアオギリの作る空気など無かったかのように。
「じいさん俺なんのことだかわかんねえよ」
「なんと、親から聞かなかったのか。ラティオスとラティアスからの啓示を伝えないとは・・・」
「いやだからなんの・・・」
「こういうことだろ」
マツブサはザフィールを突き飛ばす。突然のことで、避けるとか踏ん張るとかいうことができず、前につんのめる。そしてそこにあったのは、深海のような深い青をした珠だった。


「やっときた、もう一人の私」
目の前は真っ青。さっきまでおくりび山の頂上にいたはずなのに。どこを向いても青ばかり。そして正面には、不思議な模様が浮かんでいる。見た事がある。海の博物館で見た藍色の珠のレプリカに掘られていた模様と同じだ。
「もう一人?ってかここどこだよ!」
その模様が喋っているような、そんな感覚。人ではないものが話しかけてくるのは違和感がありすぎる。
「忘れたか私のこと。そうでなければあんな悪意のあるものたちと一緒になってるわけがないか」
「悪意?」
「全て話してやる。どうせ信じないだろうから、一回しか言わん」

模様が語りだすのはホウエンの昔話。大地のグラードンと海のカイオーガがそれぞれの領地を争った。どちらかにしか住めない他の生き物たちは大層困った。それで2匹に戦いをやめてくれと頼むと、他の生き物に迷惑をかけた事を詫び、二度と自分たちの意思で戦わないことを誓った。
 そして自分たちの力が必要な時に呼び出せるよう、紅色の珠と藍色の珠を創った。あちこち呼ばれるとまた争いの元になるから、珠を使える生き物を一つに決めようと言われた。なるべく考えられる生き物、なるべく解り合える生き物。そこで人間を指定し、使える人間を人の形をした紅色の珠、藍色の珠ということから、ヒトガタというようになった。

「以上。質問は受け付けない」
「いやいやいや、なんでそれが俺なんだよ。話の通りなら、俺の他にもう一人いるのかよ!」
「お前の親ならお前を保護して育ててくれそうだったから。それとお前の他にもちろんいる。協力せい。お前の場合は海のカイオーガを再びこの世に復活させかねない存在。悪い者の中に居続ければ悪いことにカイオーガを呼び出し、事態は最悪だ」
「悪いもの?なんだそりゃ」
「お前のいる今の場所だよ。それと、何があっても恨みとか憎いとかむかつくとかもいかん。そういう感情が私と通してカイオーガに伝わってしまうからな。暴れまくるカイオーガを押さえつけるのはさすがにお前でも無理」
「押さえつけられるものなのか?」
「もちろん。今のモンスターボールみたいな感じで戻せるぞ。一苦労だがな」
「どうやって?」
「いつもお前やってるだろ、捕獲みたいに弱らせてから私を投げつけろ。少々重いが、それでカイオーガの力を私の中に入れることが出来る。それが出来るのはお前たちだけ。がんばれ」
青い光がやたらと点滅する。目がちかちかして来た。頭にくらりと違和感を感じた時、目の前の景色はおくりび山に戻って来た。しかし青い光に包まれる前と状況が変わってる。混乱していたアクア団たちが正気を取り戻していて、その数が戻って来ている。そして自分はマツブサに抱えられている。
「ちょ、なんすかこれ!」
「起きたか。それしっかり握ってろ」
自分の手元を見ると、しっかりと二つの珠が握られている。紅色の珠と藍色の珠。アオギリがその二つを渡さないと叫んでいる。何がなんだか解らないザフィールはマツブサに地面に下ろされる。
「アクア団をすり抜けてアジトに向かえ。お前しかここを抜けられない」
「いや、マツブサさん。この状況ってどうしても無理じゃないですかね。俺の前にいるのって、アクア団のボスと大量の下っ端と・・・」
「お前もそう思うか。俺もそう思う」
なぜマグマ団の上層部はこう呑気なのか。どう逃げてもルートがない。空を飛んで逃げるにも、スバッチはまだ戻らない。遠くでカガリがイズミとほぼ互角の勝負をしているのが解る。マツブサは押し寄せる下っ端集団の相手で忙しそうだ。
「ちっ、あいつはどこほっつき歩いてるんだ」
アクア団の群れがいきなり崩れる。火柱が見えて、後ろに見えるのはフードを深くかぶった仲間。そしてその火柱を操るロコンが見える。そこを突破すれば。ザフィールが構えた瞬間、アオギリから受ける衝撃。強烈な蹴りがザフィールの腹部に入る。
「まさかお前とは思わなかったよ、ヒトガタがマグマ団なんてな」
その痛みに目から星が飛び出ると思ったくらいだ。うずくまっていると、乱暴に腕を掴まれる。このままだとヤバい。近くにいるマツブサが気づいてくれたが、アクア団の下っ端はそれを許さない。
「来い」
何かが跳んだ音がする。アクア団たちがさらに混乱し、あちらこちらに動く。この蹄の音。聞いた事がある。いななきと共に向かってくる足音に服の端を引っ張られ、ザフィールの体が宙に浮く。まさかの逃げ道。アオギリも掴んでいられず、手を離してしまった。
「イズミ!」
アオギリが怒鳴る。イズミの最後のプクリンが倒れたところだった。アクア団に撤退の命令が下る。素早くアクア団たちは姿を消した。あんなにたくさんいたアクア団は、誰一人残さず消えていた。
 マツブサは残された団員たちに声をかける。歩けそうなものは歩いて、無理そうならば抱えて。そして一人と目が合う。その瞬間、体をこわばらせたようだった。マツブサは何も言わず、その人の頭に手を乗せる。
「まだ最後の仕事が残っている」
アジトへ引き上げるよう伝える。もうほとんど立てないホムラを肩に支え、マツブサはおくりび山を後にした。
「すいませんボス」
「気にするな。まさかお前があんなに必死とは私も本気で見ていなかったようだな」
「考え直してもらえました?」
「いや、そのまま続行する。逃げられたら厄介だからな」
「そう、ですか……目的のためとはいえ、人が死ぬのは見てて辛いです」
マツブサの確固たる意思は変わらない。そうでなければ組織のトップなどいない。解っているけれど、ホムラはこれからの作戦を考えるだけで笑う気にはなれない。せめてそれまでは明るく笑っていたかったけれど、こうも傷がダメージが深ければ弱気になる。
「お前はアジトに残ってろ。カガリと出発するから」
「すいません」
ということは、一番の外れクジだ。ホムラはため息をつく。

 引き上げて行くマグマ団を見て、老夫婦は止めようか止めないか迷った。ヒトガタを上手く取り込んだ悪意のある組織。二つの宝珠は離れることを望まず、藍色の珠と共に紅色の珠までヒトガタの手に。それならばまだ安心か。けれどヒトガタは一人ではない。もう一人がどこかにいる。あのマグマ団のことだから、もう一人も取り込んでいるかもしれない。そうして二匹を復活させてしまえば、ホウエンは終わりだ。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー