マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.690] 36、大地グラードンと深海カイオーガ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/03(Sat) 02:13:39   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 乱暴に体を揺すられる。目を覚ますより先に姿勢が崩れた。床に頬をぶつけた痛みで目を開ける。まだ頭が重い。それなのに乱暴に頭が持ち上がる。そして腕をいたわりもなく引っ張られた。
「ぼさっとするんじゃねえよ」
目が合う。ガーネットは思いっきりユウキを睨んだ。それがどうしたと言わんばかりに、ユウキはさらに掴む力を強める。
「ユウキ、少しは手加減しておいた方がいいわよ。目標達成寸前に死なれても困るから」
潜水艦の出口から静かにカガリが言う。仕方なさそうにユウキは力を緩める。
「貴方も、こんなところにおいてかれたくないなら素直に言うこと聞いた方がいいわよ」
カガリが先に外へと出る。続いて外に出た。そこに広がるのはランタンに照らされた岩肌。さざ波が洞窟に反響していた。突然の侵入者に騒ぎだすズバットたち。
「…リーダー、ホムラより連絡です。アクア団のアオギリとイズミがこちらに向かってると」
「そうか」
「そしてそれを追いかけてザフィールがこちらに向かってるとのこと」
「……つかまりに戻るか。あいつは」
マツブサはそれ以上何も言わなかった。ただひたすらランタンの灯りを頼りに前を行く。心なしか、ガーネットを掴むユウキの手が再び強くなる。
「ユウキ」
「はい」
「あいつが来たとき。お前に全て任せる。どうなろうとも、お前の好きにするがいい」
「リーダー、それは!」
ユウキの返事よりも、カガリの方が早く口を開く。マツブサが振り向いた。
「どうしたカガリ?全てこの前伝えた通りだ」
「いえ、なんでもありません」
カガリは顔を伏せる。ランタンの灯りが彼女の顔を暗く映した。
 マグマ団たちのやりとりを後ろから見ていた。そしてガーネットは思う。カガリなら話を聞いてくれるのではないかと。ユウキも一言で従えることの出来る人ならば希望はある。それに、初めて会った時に知らないとはいえ、悪い人には全く見えなかった。
「勝手なことするなよ」
ユウキに押さえつけられる。隙を見逃すわけなかった。そして手を逆の方向にひねり上げる。苦痛の声がガーネットから漏れた。
「さすがねユウキ。でも、もう少し優しく扱ってあげて。ザフィールが来てるならなおさらね」
「……解ってます。だけどあいつには負けない。それにあいつが来るならこいつだって……」
「私情を入れるのはこの後。やる事やったら、ユウキの思う通りなんだから」
ガーネットが見上げたカガリの顔。何も変わらない。何も変わらないのだ、他のマグマ団と。冷たく、利己的な表情は、ランタンの光が作り出すだけのものではない。優しく思えたのも何かの間違いに思えた。
 マツブサはそれに構わずひたすら歩く。何も言わないで。それがかえって不気味だった。そしてこの洞窟の微妙な空気。それがガーネットにまとわりつく。奥に進むにつれて、言い様のないプレッシャーに胸の中心が助けを求める。一人だったら、立ち止まってしまいそうだ。
「流れが急だな」
洞窟の外とつながっているような水たまり。泳いで渡れるような速度ではない。マツブサは静かにモンスターボールを投げる。そこから出たギャラドスが静かにマツブサを見つめる。
「渡るぞ」
ギャラドスの背に乗せられる。どんどん近づいている。マツブサの持っている紅色の珠がそれを示している。誰もが確信していた。けれどガーネットはもう一つ気になることがある。もう一つ、持っている藍色の珠。その気配も強くなっていること。
 ザフィールが近づいてるのはまだ無さそうだ。彼は気配の届かない遠くを物凄い速さで移動している。藍色の珠がそう言ってる。そしてガーネットにしか解らない声で藍色の珠はさらに言う。ユウキから離れろと。できるならそうしたいのだが、ユウキは監視するように腕をつかんでいる。無言で、そして冷たく。

 狭い通路を通り、とても大きな空間に出たようだ。マツブサが歩みを止める。そして確認するように紅色の珠を見た。中の模様が浮き上がっている。そのことに満足した表情を浮かべ、後ろを振り返った。ガーネットの腕を掴むと、その手に紅色の珠を持たせる。
「お前たちはここで待て。何かあったらその時は頼む」
「解りました。何もないことを祈ります」
階段を下る。人が造ったと思うほど、一段一段の高さが同じだった。そして最後にたどり着く、一際しずかな泉。
 マツブサがランタンで照らすよりも早く、ガーネットはそのものを見上げる。こちらに来る日、トラックの中で見た夢に出て来た怪獣。今なら名前も解る。これがグラードンだ。
 反応するように紅色の珠が光る。中の青い模様も、まわりの美しい透けた紅も。そしてグラードンの血が巡るかのように、青い光が頭からしっぽの先まで駆け巡る。
 ガーネットが立っていられたのはここまでだった。紅色の珠を通じてグラードンへと力が吸い取られてるかのよう。地面に手をつき、なんとか倒れるのを防ごうとしても震えている。
「グラードン、さあ、目覚めるのだ。ヒトガタの力を奪って、無敵のポケモンへと……」
咆哮。静かな空間が一瞬にしてグラードンの天下へと変わる。マツブサの言葉など耳に入らず、その鋭い爪に巨大な炎を浮かべる。そしてそれを人間たちに投げつけ、太いしっぽで岩壁を凪ぎ払う。
「グラードン……?」
唖然と見つめるマツブサのことなど目に入らない。入るのは、落ち着けと言わんばかりの紅色の珠とそのヒトガタ。グラードンは解っていた。ヒトガタの持つ生命力が自分に変換されていること。ガーネットをその手に持ち、力を入れる。その生命力を全てよこせ、と。じわじわと削がれて行く生命力が、紅色の珠を通じてグラードンへと吸い込まれて行く。
「今だ、グラードンを……」
助けようなどとは思ってない。もとより使い捨ての駒に過ぎない。グラードンを捕獲するためにマツブサがポケモンをボールから出す。その持ち物から、少しだけ青い光が漏れる。
 それがグラードンの目に入る。そしてヒトガタはその手から放さず、マツブサを見る。その目は憎むべき目。心から憎悪し、叩きのめしつぶす意志が宿っている。
 空いている方の手でマツブサを切り裂く。そのほんの一瞬前、ユウキがマツブサに体当たりし、二人とも転がる。グラードンが二人に増えた人間を見る。その顔、その声。それだけでもグラードンの怒りに火をつけるのは十分だった。
 マツブサの持つ藍色の珠もさらに光を増す。美しい深海を思わせる光が溢れた。そして咆哮。グラードンのうなり声。大きく波うち、溢れる波がユウキを濡らした。
 その赤い血脈のような模様。そして鋭い牙。海を思わせる青い体。深い海のそこから飛び出すかのように、水面へと大きくジャンプする。人間たちには何が起きたか理解できなかった。なぜここにいる。グラードンと共に眠っていた。深海のカイオーガが。そしてなぜヒトガタもいないのに目覚めたのだ。
 何もかも解らないうちに、グラードンはユウキへとその手を伸ばした。逃げようとするも、次に来るのはカイオーガのハイドロポンプ。それをかわした直後、カイオーガの鋭い牙が、ユウキの足を捕らえたのだ。カイオーガに抵抗するが、全く効かない。そして泉へと引きずり込み、それを追ってグラードンも姿を消す。

 残された人間は何が起きたか解らず、2匹の消えた方向を見ていた。どれくらい経ったか解らない。紅色の珠も藍色の珠もグラードンとカイオーガが持ち去っていった。ランタンの灯りには、来た時と同じように静かな泉が照らされている。
「ユウキが……」
マツブサはようやく口を開く。真っ先にその名前が出るとはカガリは思っていなかった。
「リーダー、追いましょう。2匹はおそらく」
「マツブサ!」
足音が聞こえる。耳慣れた声で呼ぶのはアオギリだ。
「お前、まさかもう……」
「ああ、そのまさかだ。しかしグラードンだけでなくて、カイオーガまで」
「なんだと!?2匹を同時になんて、あり得ない!」
「そのあり得ないことがあったんだ。これは現実だ」
「マツブサ……ここに来る前、異常な低気圧と風向を観測した。そして日の出の光から物凄い強いものになっている」
「なに?そんなことあるはずない」
「とにかく、ここから出てあの2匹の行方を追うんだ。もうこんな争ってる場合じゃない。異常気象なんだよ!」
ようやくマツブサが何をすべきかを思い出す。そして連絡の取れるマグマ団全てに命令した。グラードンとカイオーガを探せと。


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