マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.555] 18、エントツ山 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/29(Wed) 02:43:57   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 思わず手が出てしまった。いくら彼でも、ダイゴのことを悪く言うことが許せない。けれど冷静になってみれば、力の加減もせずに吹き飛ばしたのはやりすぎたと反省の色が見える。過去は変えられない。完全に怒っていても仕方ないこと。自分が悪いとはいえ、怒らせたくは無い。ガーネットはあることを思いつく。謝ろう。受け入れてくれないかもしれないけれど。
 確か反対の方向に行ったはず。ガーネットが走り出す。彼は足が速いから、どこまで遠くに行ってしまったのか不明だった。けれどこの方向に行けば会えるはず。彼は目立つ。
 ハジツゲタウンを抜けて、続いている114番道路に出る。山道が多く、緩い下り坂。遠くに山も見えるし、キャンプをしている人もちらほら見られる。のどかな風景が広がっている。人の声に敏感になってるから、少しの話し声でも振り向いてしまう。けれど、大半はそんな人たち。仲のいい鳥のつがいが頭の上を飛んで行く。
「つかれたあ」
長い下り坂の次は、岩山登り。階段になっているけれど、上下の移動が激しくて、岩陰に座る。どこを探してもいない。あんなに目立つのに。ため息をつく。なぜこんなに必死なのか、認めたくない事象が起きてる。
「だって、あいつまだシロって決まったわけじゃないし!」
この間だって何かしていないとは限らない。けれども、何も喋らないでいると、自然と浮かぶのはザフィールのこと。一度思い出すと、止まることを知らない。遠くを見ながらずっと考えていた。
 ふと頭の上に何かが乗っていることに気づく。それなりの重量が、体にのしかかる。人影ではない。おそるおそる左手を頭に持っていった。なんだかふんわりしたものがそこにある。とても気持ちいい感触。甲高いさえずりが聞こえる。鳥?にしては羽がもふもふすぎる。
「な、なにこれ!」
ガーネットが頭から下ろし、見たものは青い体に翼が雲のようにふんわりとした鳥。しばらく見合うと、鳥はさえずり、歌い始める。その歌は、ガーネットの心の中にあるなんだか解らないもやもやを吹き飛ばしてくれるようだった。
「かわいいっ!うちの子になるかい?」
ふんわりとした翼を羽ばたかせる。そして、再びガーネットの頭の上に乗る。相当気に入った様子。バンダナの感触が心地よいらしい。このまま巣作りしてしまうんではないかと思うほど。青い鳥はご機嫌に、透き通った声で歌い続ける。幸せの比喩として青い鳥がある。まさにそうだった。その歌は感じている不安を全部ぬぐってくれるようで。


 歌声に混じって足音がする。ガーネットがそちらを見る。近くは無い。遠くに見える集団。昨日の今日だ、忘れるはずがない。アクア団たちだ。思わず岩陰に隠れる。見つからないよう、息を潜めて。あまりの数に、勝てるわけもない。見つかってしまったら、その時は最後だ。昨日のような奇跡が起きることはもう無いはず。
 足音は急いで通り過ぎて行く。まるで何か急いでいたように。もう大丈夫かと様子を伺うも、すぐに新しい足音がする。見つからないよう、再び隠れる。その中に一点、やけに速い足音が。それは軽快で、すぐに去って行く。その後を、集団の足音が追う。全てが聞こえなくなった後、しばらくしてからガーネットは顔を出す。
「もう大丈夫みたいだね」
どこにも妖しい影は見えない。乱れる脈を押さえるように深呼吸をする。ザフィールのことだから、アクア団なんかにやられるとは思えない。きっと岩山でポケモンの調査をしているはず。ガーネットは山道を行く。ハイキングコースと書かれた立て札の通りに。
 中腹まで登った辺りで、変な鳴き声を耳にする。道を外れたところから。人間の声では無さそうだった。なんだろうとそこへと足を踏み入れる。そして見たのは、大きな蛇が、タマゴを飲み込み、ふくれた腹でそこにいる姿。そしてもう一つタマゴを食べようとしていた。その親なのか、傷ついた白いイタチが蛇に食らいつこうとしている。
 ガーネットが助けようとボールを構えるが、父親の言葉を思い出す。ウバメの森で見かけたこと。野生のアーボが、傷ついたポッポを食べようとしていた。急いで帰り、父親に助けを求めると、それは出来ないといった。

「人間が助けるのは傲慢っていうんだ。ポケモンの命も、人間の命もみな平等。ならば、助けるなんてしてはいけない。」
「どうして?」
「もしポッポを助けて、アーボが死んじゃったら、ガーネットはポッポはいいけどアーボはダメだということだよね。そういう選別はいけない。自然は自然に任せるんだ。守ったり助けたりするのは、自分のポケモンだけ。ポケモンはトレーナーの都合にあわせてくれてるんだから」

 そうしてポッポはアーボの腹に収まっていたのか、戻ったら羽が散らばっていた。野生の厳しさを知った時のこと。目の前の蛇は巣にあったタマゴをもう一つ飲み込むと、満足したのか帰って行く。草むらの奥へと姿を消した。残されたイタチは自分が傷ついているにも関わらず、大声を出して蛇が消えた方向をにらんでいた。
「・・・自然、か。じゃあここで捕獲されるのも自然の成り行きなのかな」
ガーネットが空のボールを投げる。それは白いイタチを飲み込む。抵抗もなく、ボールにすんなりと収まった。地面に落ちたボールを拾い上げると、さっそく傷の手当を始める。その時、ガーネットのまわりをなにやら甲高いさえずりが回ってる。スバメが手紙を持っているのだ。
「まさか、ザフィールの?」
手紙を読む。そこには、良く解らない絵と、そこに行ってるというメッセージ。地元の人でない限り、この地図では理解が出来なそうだった。大きく煙りを吐いてる山、そして点線と矢印で作られた絵。
「火山の中腹なのかなあ?」
そういえば火山灰がどうの、彼が言ってたのを思い出す。そしてタウンマップと見比べ、意味が解らない地図を解読しようとする。おそらくエントツ山。そしてその中腹にあるフエンタウンだろうと思われる。確証ないが、手紙を書きなぐり、スバッチに渡す。その書いている時のオーラが恐ろしかったようで、スバッチは一目散に飛んで行く。
「・・・仕方ない」
シルクを呼び出す。堅い蹄が岩肌にかちんと当たった。走れるところまで走れと命じた。砂浜訓練のおかげか、走る距離はどんどん長くなっていく。ポニータという種族の特徴なのか、人間よりも走行距離はよく伸びる。


 エントツ山の頂上へ、ロープウェイが伸びている。観光スポットなのだ。そこに大勢でアクア団が押し掛け、次に来たマグマ団を見て、受付の人は顔を引きつらせていた。それでも事情を話すと乗せてくれるとのこと。
 そもそも、マグマ団としてはアクア団が行動してるからそれを阻止するためにやっているだけなのに、同列に見られては納得がいかない。不満そうな顔をしていると、再びホムラに頭を乱暴になでられる。
「しっかたねーだろ、俺たちはそういうもんだって教えてやったじゃないか」
「そうですけどー!」
「これだけ頂上に連れてって貰えるんだから、文句は言わないの。解った!?」
あまりに不満そうだったようで、マツブサの片腕のもう一つ、幹部のカガリにまで怒られてしまった。こちらは女の人で、黒い髪が特徴的な人。ホムラとはかなり昔からの知り合いらしく、二人でマツブサの仕事を増やさないよう、まとめている。
「まあまあ、まだザフィールはガキんちょなんだからさ」
「子供も大人も、マグマ団ってことは一緒でしょ。そうやってホムラが甘やかすから!解ってるんでしょ、ホムラだってどうなるか」
「そりゃ解ってるけどさ、しかたねーじゃん。あ、そうそう、カガリ知ってるか?こいつ好きな子いるんだぜー」
話題を変えるのはいいが、どうしてそこに持って行くんだ。ホムラに抗議するも、それを聞いたカガリは面白いことを聞いたとでも言うような顔をしている。
「違います!俺はあんなの好きじゃありませんってば!」
「カガリも知ってんだろ、アクア団に一人乗り込んで助けたのがその子だっていうんだぜー」
ザフィールはとても後悔した。なぜホムラになど話してしまったのだろう。もうマグマ団に広がってるのは確実。カガリもホムラにしか相づちを打ってない。こうして間違った情報は伝わって行くんだな、と大人たちを見て思った。
「だから、俺は好きじゃないですから!なんであんな怪力女を好きにならなきゃいけないんですか」
「へー、力強いの。イズミみたいな子ね。名前は?」
「へ?名前?ガーネットですよ、宝石みたいな名前ですけど、あいつ自身はそんな綺麗とはかけ離れた存在で・・・」
「赤い、宝石なのね」
カガリがつぶやく。ホムラと視線を合わせ、なにやら確信したようだった。どうしたのか聞こうとすると、ロープウェイが来たようで、行くぞと声をかけられただけだった。


 エントツ山は、青いバンダナで埋め尽くされていた。なんか増えてると心の中で感想を言った直後、小さく見えるアオギリに向かって走る。アオギリの目の前には、見た事もない機械が作動している。あれか。アクア団が言ってるには、火山活動を活発にし、火山灰を降らせ、空気を冷やして雨を増やすもの。そんなことしたらきっと海面が上がって、陸地が減ってしまう。災害も増える。なんとしても止めなければ。
 ザフィールの隣には、プラスルがいた。人数が多い。まともに相手をしている場合ではない。そんな時、電磁波で動きを止めてしまえばいい。プラスルはザフィールの声にあわせて技を放つ。青白い火花がぱちぱちと音を立てていた。スパークする電気が止まらない。
「ザフィール、そのまま道をあけろ!」
ホムラの指示が飛ぶ。幹部だというのに、下っ端を5人も相手にしていたら中々抜けることができない。カガリも苦戦しているようだった。
「昨日は良くもやってくれたわね」
目の前にあらわれるのは、アクア団の幹部、イズミ。その冷たい目は、敵を見る目。それが好かなかった。
「やってくれた?そっちが先に手を出したんだろ。俺だってあんなことにならなきゃ手も出さない」
「・・・まあいいわ。それにしても、あの発信器に気づくとは中々の腕ね、本当、アクア団でなくて残念だわ」
イズミはボールを投げる。出てくるのはプクリン。ピンク色のかわいらしいポケモンだ。
「さて、プクリン、あれは獲物。無傷で連れていかないとね」
イズミの指差す方には、ザフィールがいた。何かとジャマだと思われている様子。
「俺かよ。二度も遅れをとるようなヘマはしねー」
プクリンは歌いだす。プラスルを眠らそうとしているのだ。けれどプラスルはそれを止めさせるように電磁波を打つ。プクリンを麻痺させた。動きが鈍くなるプクリンにスパークを打ち込む。その直後、プラスルがふらふらし始める。特性が発動したようだった。プクリンのメロメロボディ。プラスルをボールに戻す。
「そう、中々考えているのね」
「年上の人に言うのは失礼かもしれないが、俺は非常に急いでるんだ。ボスの命令は絶対。それを守れないのは存在する意味もない」
プクリンも通り越し、イズミの側を走る。その素早さ、尋常ではない。最も素早いと言われているテッカニンのように姿が見えなかった。そのため、後ろへ通してしまったのである。その背後には、アクア団のリーダー、アオギリ。
「しまっ・・・」
「あら、イズミ。貴方の相手はこっち」
カガリがボールを持って目の前に立つ。黙ってグラエナを繰り出した。逃げ足に賭ける。例え子供であっても大人であっても、マツブサに忠誠を誓った身。全力でサポートするのが、マグマ団だ。

 
 その道は狭い。少し足を踏み外したらマグマが煮えたぎる火口に落ちてしまいそうだった。崩れていく石が、マグマに落ちていく姿は、自分の未来を示しているかのよう。慎重に進めながら、アオギリのいるところへと近づく。機械をいじり、今にも発動してしまいそうだ。
「来たな、マグマ団の小僧。それにしてもマツブサにはがっかりだ。こんなガキしかよこせないんだからな」
「黙れじじい。そっちこそ、こんなガキに負けないよう、覚悟しとけよ」
「勝てると思ってる?お前が?俺に?笑わせんな」
まっすぐ立っているつもりだ。足に力を入れる。そのくらいアオギリの持つプレッシャーは凄まじい。もしかしたらそれだけでザフィールなんか吹き飛ばしてしまいそうだった。
「さて、先日のアジトをダメにした件も含めて、たっぷりと礼がしたいんでね、本部まで来てもらおうか!」
ボールが投げられた。それはクロバットとなり、アオギリの前に立つ。
「お前のポケモンを一つ残らず火口に落としたいなら、かかってくるがいい。負けを認めた時点で、お前の運命も決まるがな」
飛べるポケモンは一匹もいない。スバッチはまだ帰って来ない。素早いキーチなら、なんとか避けれるとは思うが、相性が悪すぎる。ボールを選んでいる時、思わずそれを投げた。
「おいおい、アチャモなんかで間に合うと思ってんのか?」
「アチャモ、跳べ!」
号令にあわせてアチャモは地面を大きく蹴る。そしてクロバットに近づき、炎を大きく吐き出した。その熱さに驚いたか、クロバットは空中で少しバランスを崩す。翼で打とうとしても、アチャモの姿はそこになく、地面についていた。
「アチャモは足の力が強いから、飛んでる方が狙い定めにくいんじゃないか?」
地面にいるアチャモに向かってクロバットは翼で風を切る。エアカッターがアチャモに向かうが、すでに跳んだ後。クロバットの翼の一つをこんがりと焼き上げる。
「・・・どうやら本気でアクア団に刃向かうようだな」
まだ飛べるクロバット。アチャモに向かって鋭い牙を向ける。アチャモは跳んだ。けれどそれを追跡するようにクロバットの牙が追う。跳ぶことは、空中では全くコントロールができないということ。そして飛ぶものは、空中でも自在であること。毒の牙がアチャモを飲み込む。
「アチャモ!!」
レベル差がありすぎる。そしてクロバットは口にくわえたアチャモを火口中心まで持って行くとそこでふっと離す。重力に引かれ、アチャモはマグマの中へと吸い込まれて行く。助けを求めるように鳴いているが、ここからではどうやっても助けることが出来ない。必ず返せといっていた父親の言葉が巡る。
 アチャモの声を裂くように、さえずりが聞こえた。紺色の翼がアチャモの体を掴んで飛び上がる。小さなスバメだった。それが自分のスバッチであることに気づく。アチャモを主人に渡し、クロバットを睨みつけている。
「スバッチ、さすが!ツバメ返し」
小さな体。クロバットは牙を向く。どくどくの牙。猛毒をしのばせた牙がスバッチの体に食い込んだ。鳥らしい悲鳴をあげると、柔らかい口の中につばめがえしを放つ。避けられない技であるし、柔らかい口を攻撃され、クロバットはひっくり返ったように空中をふらふらしていた。
「戻れ」
低い声で静かに言う。スバッチは空中で構えるが、次のポケモンを出す気配がない。
「スバメか、相手が悪い。ここは一旦出直すとしよう。だがお前をアクア団に引き込むまでは諦めない」
アオギリが何やら低い音を発した。それはアクア団へ撤収を伝える信号だった様子。いつの間にやら、アクア団は目の前から消えて、エントツ山に残るのはマグマ団だけとなっていた。
「ふわー、生きてた、俺生きてたよスバッチぃ!」
ふわふわの羽に抱きつく。スバッチはクロバットの毒がまわっていたようで、とても苦しそうだった。そしてスバッチは光り始める。その姿を一回りも大きいオオスバメへと変えた。甲高い声が、落ち着いた声になるが、さえずりは変わらない。
「ああ、よかったスバッチ、進化できたんだ・・・メール?」
なぜスバッチがメールを持っているのだろう。読んでないのかな。そう思いつつ渡された手紙を読んだ。そこに書いてある内容をみて、ザフィールは心臓が凍り付くかと思った。
「まだ怒ってる・・・ああもう俺ダメだよスバッチ・・・」
喜んだり悲しんだり、忙しい人だな、とスバッチは思っていた。


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