マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
このフォームからは投稿できません。
name
e-mail
url
subject
comment

[新規順タイトル表示] [ツリー表示] [新着順記事] [留意事項] [ワード検索] [過去ログ] [管理用]

  [No.585] 28、災害の予言者 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/15(Fri) 14:31:13   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「似合わない」
もう何処から見てもマグマ団にしか見えない格好を、ガーネットはそう言った。フードをかぶってしまえば、冷たい別人のように見える。服装を変えただけなのに、こうも印象が違う。気づかなくてすれ違ったこともないとは言えない。
 それにまだザフィールがマグマ団だったということは受け入れがたい事実。目の前の人物がそうであっても、心の中ではどこか否定している。マグマ団であること、それと疑惑の人物であること。
「そういうなよ」
何も言わずにザフィールを見る。笑ったような、困ったような顔をしていた。
「数日後に戻ってくるよ」
そういって窓から身を乗り出す。そしてオオスバメの翼に乗って行ってしまった。小さくなっていく後ろ姿を見送って、窓を閉めた。ポケモンセンター内なら安全だから、と彼が言っていた。そしてふらつく頭でそのまま寝床につく。
 ミナモシティは遠い。地図をぼんやり見つめて、側にあるスポーツドリンクに口をつける。ここ最近、食べていないから元気が出ない。朝にたくさんかいた汗を湯で流したが、高い体温は変わらない。けれど少し気分が晴れたような気はしていた。
 突然、部屋の入り口のドアが大きな音を立てる。飛び起きた。そのままドアはノブを強制的にまわされてるような、カギを壊しそうな音がする。ポケモンセンターの中にだって来るようだった。金属のドア一枚が安否を分ける。まとめておいた荷物を取ると、窓を開けた。そして下を見ると意外な高さ。すぐに出ていこうとしたが、手が止まる。その間にも入り口のドアは蹴破られそうな音を立てていた。
「飛び降りろ!」
誰に言われたのか解らないが、ガーネットは窓のサンを乗り越えて飛び込んだ。もちろん、その瞬間から重力に引かれて下に落ちる。たくさんの枝が網のようなクッションの役割をしていた。そして最後は、やわらかいものに受け止められる。
「大丈夫みたいだね、ガーネットちゃん」
なぜいるのか。ダイゴがそこに。地面に下ろされてもまだ実感が湧かない。今までの冷たい感じではなく、前のような優しいダイゴだった。
「ダイゴさん!」
「気をつけて。悪い人はどこにでもいるからね」
「ありがとうございました。けど、私追いかけなきゃ行けない人がいるんです」
気のせいだったか、ダイゴが何かを言おうとして、途中から声がなくなったような。そんな腹話術のようなことをする必要がないと、ガーネットはダイゴから離れ、シルクのボールを出す。そしてシルクによじ上ると、行けと命令する。木々の間を抜うようにシルクは走る。
「真実も言わせてくれないのかい?随分と僕を利用しといて?君なら解ると思っていたのに」
ダイゴは自分の後ろにいるものに話しかける。迷いかけている心を指摘しながら。
「お分かりになりましたか。けれど、私もあの方々から言われてる身。その目的を果たすまではそうするしかないのです。特にヒトガタを敵にまわすと厄介だと」
「こうしてたまに自我を解放させて、君たちは僕をどうしたいんだい?あの子たちに何かあったら、僕はその場で君たちと共に」
ダイゴの持つボールの中身を感知し、本気を受け取る。
「私は貴方と話したいのです。貴方なら解ってくれるかもしれないと期待してるのですが」
「買いかぶりというものだよラティオス。僕は誰かを犠牲にしてまで平和を導こうなんて思ってない。それが知らない子でもね。それに解ってくれると思っているなら僕を解放してくれないかな。僕には待ってる人がいるんだ」
「それは出来ません。私自身の意思ではないのです。私としては・・・」
「本当、君とはいい友達になれそうだよ」
ダイゴはボールを変え、エアームドを出す。そして鋼の翼を広げて鳴くエアームドに乗る前、振り向いた。
「これが全て終わったら、また色々話したいものだ。君のお気に入りの話もね」
「ええ、私もそう思ってます。貴方は人間なのに中々面白い考え方をする」
エアームドは飛ぶ。そしてラティオスはそれを見送った。傍らにラティアスが寄ってきて、こんなことをしているのがバレたらどうすると聞いてくる。
「その時はその時でしょう。ラティアスも思ってますよね、レジ様に全面的に同意できないことくらい」
「う、うん。でも私たちには勝てないんだよね、どうしてもレジ様を頼るしかない」
「仕方ありません」
ラティオスとラティアスは光の弾丸となり、ヒワマキシティから飛び立つ。


 ゆったりとした風が流れる。雲が上空の風にゆられて時々日差しを隠す。この道はいつ来ても自然の変化に富んだ道だ。ザフィールはゆったりとした歩みで進む。少しスピードを出しすぎたスバッチがへばってしまって、今は休憩中。そして、時間には余裕がある。
「しかし置いてきて大丈夫かなあ」
いつも自分たちを見張るような視線はあった。しかもこちらが一人になるのを待っていたような感じであった。ヒワマキシティの真ん中にいれば、早まった行動をするような連中だとは思えないけれど。
 草むらに入った瞬間、ザフィールは盛大に転ぶ。何かが足を引っ張っている。起き上がり、足元を見た。白くて頭に死神の鎌を思わせる鋭い刃を持つアブソル。思わずザフィールは逃げ出す。情けないことに悲鳴をあげて。
 アブソルというのはその白い毛皮を現した時に災いを予知するポケモンと言われている。姿を見せる人間にそれは降り掛かると。そのことを知っていたから、ザフィールはサメハダーに襲われた時のように逃げた。草むらから野生のポケモンが飛び出してくるが、それらからも逃げるようにザフィールは走る。
 草むらが途切れている。これで追いかけてきてもすぐに解るだろう。後ろを振り返り、ついてきていないことを確認する。一息ついた。もしあのまま攻撃されていたらたまったものではない。
 ミナモシティへの道を歩み始める。一歩踏み出して止まった。いつの間に目の前にいる。頭の鎌を振りかざし、威嚇しているアブソルが。鎌が光る。空気を切り裂いて、黒い風が草むらを凪ぎ払った。辺りは元草むらと、風に傷ついた木の幹。
「うわあっ!!たすけてカストル!」
前もこんなことあったような。カストルと呼ばれたプラスルがボールから飛び出すと、火花を散らしてアブソルを威嚇する。アブソルは再び鎌を振った。それより早くカストルが電気をまとって突進し、鎌の攻撃は宙を切った。アブソルがひるんでいる。
「逃げるぞ!」
カストルは素早い主人に必死で追いつく。自慢の逃げ足で追いつけるポケモンなんていないはずだ。走ればきっと振り切れる。災害なんて逃げてやる。巻き込まれてたまるか。怖がるのは迷信だと笑えばいい。本当に災いを呼ぶポケモンなのだから。
 正確には災いを予知してその人物の前に現れるという。10年前も同じだった。目の前に現れ、じっと見てくるアブソルを迷信だと笑っていた。そして起きたあの事件。もう絶対同じことは繰り返さない。アブソルなんかいなくなってしまえばいいのに。

 
 こんなに息が切れるほど走ったのも久しぶりだ。大きな木の幹に手をつき、肩でしている息を落ち着かせる。気温が上がって来ているし、日差しもあるから汗が出てきていた。あまりに日差しに当たりすぎると昔からビリビリと足から痛くなってくる。日焼けなんてしようものなら歩けない時もある。
「もう、大丈夫だよな。はやく、いかない、と」
カゼノ自転車を取り出す。随分この自転車も汚れてしまった。泥はねが凄い。落ち着いたら張り切って整備しないといけない。ギアを変え、雨上がりの水たまりを走り出す。
 そして120番道路をさらに南下し、背の高い草むらも終わりに差し掛かる。自転車に草が絡まることもなく、なんとか通り抜けた。途中の段差も自転車ごと乗り越える。
 ミナモシティの方角を見ると、青い空が広がっていた。もうすぐ夏本番になる。入道雲はまだ出ていないようだが、海から吹く風は夏を知らせていた。
「おせーよ」
自転車を降りた。そしてその言葉と共にホムラの拳が頭に一発。完全に遅刻だと怒っていた。頭を下げるしかない。ここでただ一人、遅刻者を待っていたようだった。
「遅刻厳禁、現地集合現地解散!忘れたのかマグマ団規則第14条と25条!」
「忘れたわけでは・・・ないんですけど」
「それになんだ。仕事の迷惑だ。ポケモンはしまえ」
ホムラが指差した方向には、ザフィールの後ろにぴったりと寄り添うアブソル。いつの間にか追いついていたようで、ザフィールをじっとみて動かない。思わずホムラの後ろに隠れる。
「追い払ってください!あいつ、10年前も俺の不幸を予言しやがった。関わるとろくでもないポケモンなんですよ!」
「はぁ?そーとー懐いてんぞ、お前に」
のどを猫のように鳴らし、ザフィールの足元にすり寄る。匂いをつけるかのように足のまわりをぐるぐると。
「お前がうまそうにみえたんじゃないか?放置するとまた食われるぞ」
「うう・・・ホムラさんがこんなに酷い人とは」
ホムラの言う通り。このまま野生のアブソルにしておけばここを通った時に毎回襲われてしまう。災害の使者と言われるアブソルを持つこと自体が苦痛で仕方ないが、襲われるのはもっと苦痛だ。空のモンスターボールを投げると、アブソルはそこに収まっていく。
「もういい。行くぞ、ここから泳いでいったおくりび山だ」
今日のホムラはなぜか機嫌が悪そう。普段なら遅刻くらいでこんなに不機嫌になることなどない。ホムラが投げたボールからギャラドスが現われ、乗れと言われる。
 ホムラがギャラドスの上に乗り、行けと命令する。ゆったりとギャラドスは海面を泳ぎだす。
「お前、俺に言われたこと覚えてるよな」
「え?えーっと・・・?」
「お前の友達のことだよ」
「それは、ホムラさんとカガリさんが行くって・・・」
「バカか。お前がダラダラ遅い上に連れて来ないもんだから、ボスは連れてきたやつに多額の報酬かけてんぞ。本気で身を案じてるなら早く連れてくることだな」
「なんで!?どうしてそんなあいつを連れてくる必要が」
「あるからいってんだよ。俺にグダグダ聞くんなら、ボスに直接聞け」
会話は途切れる。終止ホムラはイラついた言葉を投げつけていた。マツブサと激しい意見のぶつかり合いがあったようだった。ギャラドスに指示するときも、いつものように声をかけるのではなく、大雑把に言うだけ。
 マグマ団はその性質から目的のための手段は気にしない。アクア団にかどわされた時のようなことを再び起こすのか。それだけは避けなければ。前を向いているホムラに気づかれないように、スバッチのボールを開けた。そして海風に乗り、大空へと舞い上がる。


 おくりび山は全ての命が終わる場所だと言われている。役目を終えた命がここから天へ旅立つと。そのような言われがあるため、いつの間にかポケモンたちの墓が並ぶようになった。
 海に囲まれた島なのだが、昔は陸続きだったようで、山だと呼ばれている。ザフィールがギャラドスから降りると、墓参りに来たトレーナーとすれ違った。そして吐き捨てるように「マグマ団風情が」と呟いたのである。
「ああ、中じゃなくて外のコースな。登山コースの案内通りに頂上まで」
「はーい」
登山コースも墓参りルートも幽霊ポケモンが出ることで有名だった。できればあまり見たくないポケモンだが、世間ではこれをかわいがる人たちがいるのだから、よく解らない。
 野生のロコンがこちらを見ている。中には生まれたてなのか白くてしっぽが1本のロコンもいた。春にタマゴがよく見つかるというが、少し遅くうまれたのだろう。ザフィールたちを警戒して、毛を逆立てて威嚇している。関わらないように注意を払っておくりび山を登る。
「ザフィール、やけに騒がしいと思うよな」
登るにつれて騒がしくなる頂上。ホムラの言う通りに嫌な予感しかしない。なぜバレたのか。そして目的のものは無事なのか。
「用意はいいか?アクア団なんかに遅れをとるなよ」
「もちろん」
二人は走る。上り坂を一気に駆け上がった。もちろん、二人の目の前に入るものは予想とそう違わない。持っていたボールを投げた。


 地面が揺れて盛り上がる。ところどころマグマが流れて。荒れた風に大波が巻き起こり、海岸へと押し寄せる。どちらも優勢のようで劣勢のようだった。高い山の頂上で吠えている怪獣はその体に青い模様を光らせ、深い海のそこで吠えてるシャチはその体に赤い模様を光らせる。
 やがてその2匹から美しい光がうまれる。炎のような赤い色と、南国の海のような青い色。どちらも不思議な模様をたたえて。そして丸い宝珠となり、怪獣は赤い宝珠、シャチは青い宝珠をお互いの境界線に収めると、静かに眠りについていった。


 さえずりに目を覚ました。ガーネットの目の前に紺色の翼がある。こんなに懐いているオオスバメは、ザフィールの手持ちしか知らない。足にくっついている手紙を見る。
 ヒワマキシティを飛び出したのはいいけれど、まだ万全ではない体調。木の上で少し眠ってしまったようだった。時計を見ると、かなりの時間眠っていたようだった。手がじんわりとしている。スバッチに主人の元に行くように言うと、木から降りる。そしてポルクスと名付けられたマイナンのボールを見る。ヒワマキシティから出る時、ザフィールは絶対に戻ると約束し、その証拠に名前をつけたプラスルとマイナン。うまれる前から一緒である双子座の名前。
 その約束が果たせなくなるならば、こちらから行くしかない。シルクのボールを開く。
「空は快晴。雨はない。行くよシルク」
炎のたてがみが水たまりに映える。シルクが走り出した。やわらかい土が蹄につく。そして一斉に刈り取られたような草むらを過ぎて、スバッチが教えてくれた場所へと向かった。


- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)

- 以下のフォームから自分の投稿記事を修正・削除することができます -
処理 記事No 削除キー