マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.483] 3、マグマ団の仕事 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/01(Wed) 01:22:50   69clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「間に合った!」
トウカの森の集合場所に、ギリギリで滑り込む。そもそもマグマ団の制服を仕事時は着用、他は私服でなければならないというルールのせいで遅れかけた。人目をしのんで着替えるのも一苦労。ザフィールは白い髪を全て覆い隠すようにフードをかぶる。顔を影にし、皆同じに見える服装。冬はいいのだけど、夏は結構きつい。
「珍しいな、お前が一番最後だ」
「いやちょっと変な女にからまれてて」
名前までは出さないけど、ガーネットのことをマグマ団のメンバーに話す。人のことを犯罪者呼ばわり、そして犯人をあげろと迫ってくる怪力女。マグマ団たちに哀れみの表情が浮かぶ。
「お前、マグマ団ってバレてるわけじゃないよな?」
「いやそりゃないと思う。まずバレてたらその場で死んでた気がするし。本当、エントリーコールまで探られなくて良かった」
「そうか、それならいい。さて今日の仕事だが、デボンの社員がここを通る。それをアクア団が狙っている。それを守るんだ」
マグマ団ともう一つ。目的を違え、何度も対立してきたアクア団。それこそ水と油のごとく。陸上に生きる生き物たちへ、大地を広げようとしているマグマ団と、全ての生命の源の大海を広げようとしているアクア団。対立はいつからか過激なものとなり、地域住民からは煙たがられ、犯罪者として名前が通ってしまうほど。それでもザフィールはマグマ団に好んでそこにいる。リーダーのマツブサの思想に共感し、全面的に服従している。そのためには何だってやってきた。それこそ犯罪すれすれどころか、警察の御用になってもおかしくないことも。それでも役に立てることが嬉しくて、マツブサに従っている。それに、年齢が年齢なだけに、息子のようにかわいがってくれる。ザフィールにとって第二の父だ。
 森の木の影に隠れ、アクア団が現れるのを待つ。息を殺し、森と同化する。目の前をジグザグマが不審な目をして去って行く。落としたオレンの実をスバメがつついている。そしてこちらを見て、取るなとでも言うように威嚇している。
「あっちいけ、何もしないから」
ザフィールが体を動かして追い払うけど、スバメは彼のまわりを飛び回る。鳴きながら。まわりのマグマ団が何とかしろという合図を送っている。ザフィールはポケットに入れた空のモンスターボールを投げた。あんなにやかましかったスバメはボールに吸い込まれ、大人しくなっていった。そのボールを拾い上げ、ベルトのボールホルダーにかける。
「ねえねえ、君、キノココって知ってる?おじさん大好きなんだよね」
あれがデボンの社員。ものすごい運動不足の弱そうなおじさんだ、とザフィールは心の中だけで言った。しかも誰に話しかけてると思えば。ザフィールは再び木の影に隠れた。なぜあいつがいる。なぜ追いついた。心拍数が上がる。力じゃ絶対敵わない、ガーネットだ。


 お昼ご飯は父親におごってもらった。ジムのトレーナーも一緒にラーメン屋。父親と昼食となるとラーメンか牛丼の二択。ホウエンの出身だという父親は、トウカのラーメン事情に詳しい詳しい。どこがまずいだのどこが上手いだの。さらに店主がかわった、チェーン店になった、弟子が誰やめた、と情報の種類は多岐に渡る。仕事を求めてジョウトに行っても、そこのラーメン事情だけは詳しかった。そしてそれにくわえてお弁当も食べていたのだから、どれだけ食べるんだとトレーナーが口々にいっていた。
 すでに14時。お昼前に別れたミツルも家に帰っていったし、最初に会った時より健康そうに見えた。ラルトスと出会えたのが良かったのか、それとも違う何かか。最後に名前をつけて欲しいと言われ、ジグザグマのしょうきちと並んでいる姿が、麦の穂を持った人に見えた。それでスピカとつけて別れたのである。
 そのしょうきちは地面の匂いを嗅いで何かを探しているようだった。たまに姿が見えないな、と思ったら良い傷薬を拾ってきたりしている。誰かが落としたものだろう。ありがたくいただいておこう。そうやってトウカより西に歩いて行く。白い髪の男の子の目撃情報を辿り、こちらに慌てて走っていったとの情報があった。
「そろそろおやつにしようか」
ポケモンたちは賛成とでも言うようにボールから出て鳴いた。そしてガーネットはそのまま目の前の大きな森に入って行く。
「こういう森には、天然のおやつがいっぱいあるんだよ」
お菓子のようなものを期待していた面々は、ガーネットの行動には恐れ入る。実をつけた木に登る。その慣れた登り方は、毎日遊んでいたとしか思えないほど。唯一木に登れるしょうきちが、ジグザグと歩きながら登ってくる。シルクは木を見上げ、シリウスはそこに座っているだけ。
「ほらあった、これがチーゴの実・・・」
たわわに実ったチーゴの実をちぎっては下にいるシルクに投げる。下に落ちたチーゴの実を2匹は拾って食べ、しょうきちは直接チーゴの実を食べている。そしてガーネットも苦みのあるチーゴの実をもいだ。そして口をつける瞬間、何者かがすごい勢いで奪っていったのである。その方向を見ると、木の枝に器用にぶら下がっているキノコのポケモン。見せつけるようにチーゴの実を食べている。
「あのポケモン・・・ただじゃおかない」
食い物の恨みは恐ろしい。誰であろうと例外は無い。ガーネットはしょうきちに命ずる。体当たり。命令通り、しょうきちは枝と枝の間を跳んだ。そしてキノコにかぶりついたのである。思わず身をよじって暴れるキノコ。頭から粉のようなものを振りまく。特性の胞子。触れた相手を状態異常にするものだ。しょうきちも胞子を吸い込み、体がしびれた様子。力なくキノココから外れ、落ちて行く。その下は堅い岩。しびれているから、着地も出来ない。
 かつん、と堅いものが当たる音がする。シルクの蹄が岩の上に乗り、しょうきちを体で受け止める。落ちたしょうきちはしびれているだけで、怪我はない。
「ナイス、シルク!」
木の上から声をかける。しかしシルクばかり見てるわけにはいかない。ガーネットは枝の上に立つと、空のモンスターボールを手に取った。
「後で見てらっしゃい、食いしん坊め!」
力強く投げられたボール。キノコが吸い込まれ、ボールごと落下する。揺れてるか揺れてないかも解らない。ガーネットは幹を伝って降りた。その頃にはすでに動かないボールがそこにある。中身もしっかり入っているボール。
「そうだな、お前には巨人っぽくリゲルにしよう」
よく食べるし。自分のポケモンに食い物の恨みをしつこくぶつけているガーネットは結構食べることが好き。今回はチーゴの実だったからまだ良かったのかもしれない。これがヒメリの実かロメの実だったらどうなっていたか解らない。
 森はまだまだ続く。微動だにしないナマケロを踏んでしまったが、悲鳴ひとつあげず、そこにいた。死んでるのかとおもったが、瞬きをしていたから生きてると思っておく。そういえば父親の使ってるポケモンもこんなんだった。ご飯のときすら動かない。どうやって餌をあげてるのか解らないけど、父親はかわいがっていた。
「ねえねえ!」
突然目の前に現れる人。しかも中年のおじさん。思わずガーネットは構える。知らない人には関わっていけないと教えられてきたし。
「君、キノココって知ってる?おじさん大好きなのよね」
「え、ちょっと、あの!」
「わぁ、かわいい、キノココ!」
腰につけていたキノコのボールに手を伸ばされ、一瞬手をはたき落としてやろうかと構える。他のところも触ってきたら迷わず吹っ飛ばす。というより離れてくれないかな。キノココがかわいいかわいいしたいのか、触りたくて近づいてきた変態なのか解りゃしない。
「そこの色ぼけじじい!いい加減にしやがれ!」
静寂な森を吹き飛ばす大声。スバメと呼ばれる青い鳥ポケモンが何匹も飛び去って行った。青いバンダナを巻いた、海賊のような風貌の男。
「わわっ!」
おじさんがガーネットの後ろに隠れる。思わずおじさんを目で追うけれど、ガーネットの後ろで海賊を見ている。
「ちょっとおじさん、いくらなんでもそりゃないでしょ!」
「おいねえちゃん、大人しくそのじいさん差し出しなよ」
その通りだ。こんな怖いやつに関わったらろくなことがない。その通りだ。こんなやつに関わったらろくなことがない。けれどガーネットは従わなかった。シリウス、と名前を呼ぶとミズゴロウのボールを出す。
「渡さないわ。それよりあんたを・・・」
「その書類は渡さないぜ!」
マグマ団を囲うよう青いバンダナを巻いた海賊が現れる。それを合図に一斉に増えるマグマ団。一体何がどうなっているのか。ガーネットはいまいち状況を読み込むことができない。一斉にトウカの森は赤と青の2色で染められる。
「来たなアクア団!我々マグマ団のジャマをするとは!」
二つの集団はにらみ合う。エロいおっさんであるが、一応安全そうな所へと誘導する。森の中であんなポケモン同士のドンパチが始まってしまえば、巻き込まれるのは必然。シルクに乗って、一気に森を駆け抜けた。


 今、どうなっているんだろう。ここから抜けてカナズミシティの伝令に行けと言われ、ザフィールは一人104番道路を走っていた。この足ならきっとあと数十分。デボン社の高いビルが見えている。大きく広がる池からハスボーが顔を出す。ものすごいスピードで疾走している人間を面白そうに見ていた。
「ってか、この服目立つんだよな、人通りいないと」
保護色のようなもので、数人でいるから解らないようなものなのに。赤いフードは前からの風で脱げ、白い髪が揺れる。デボン社に張っている仲間に知らせるために走る。トウカの森にアクア団がいたと。


 森を抜ける。誰も追ってきていない。大きな池が広がり、渡る風が心地よい。ただ後ろにいるエロおやじがいなければ。キノココのボールを触ってると見せかけて、体触ってるようにしか思えない。シルクの足が止まる。ここまでしか無理だ、と。
「ありがと、戻れ」
ボールに戻っていくシルク。一日でこんなに走ったのは始めてだ。今日はゆっくり休養させてやらないと。
「ありがと、親切なお嬢さん!君のおかげで大切な書類を奪われずに済んだよ」
後ろを向いてるガーネットの肩に手を置く。彼女の動きがいったんとまった。
「この先のカナズミシティにあるデボンっていう会社で働いてるんだ。ポケモンのこと研究したりグッズを販売してるから暇だったら来てみてよ!」
不用心なのか能天気なのか、おじさんはそのまま大きな池にかかる橋を歩いていった。鼻歌なんて歌いながら。
「はぁ……とりあえずこっちなのかな、カナズミシティ」
まだトウカの森でポケモン調査しているのか。それとももう先に行ってしまったのか。道ばたのトレーナーに聞くが、ザフィールの姿は見ていないという。けれどあの戦争の中に再び潜り込むわけにはいかない。日はすでに赤い。夕暮れの104番道路をカナズミシティに向けて歩いて行った。


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