マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.558] 20、鳥使いハルカ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/06/30(Thu) 22:49:06   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 アチャモにつつかれ、我に返る。信じられないものを見た。すでにそれの気配はないけれど、目があってしまった上に喋った。確実にザフィールの方を見て「ヒトガタ」と。人の形してて何が悪いんだ。アチャモをなでると、ひよこらしい鳴き声をあげる。随分と元気になったものだ。最初は全く鳴かなかったのに。
「ザフィール!?どこっ!?」
急いでる足音が後ろからやってくる。声からしてガーネットか。濡れた髪のまま、何かを話したそうに走って来た。
「あ、あのね!・・・人じゃないもの見たの」
「なんと奇遇な!俺も人じゃないもの見た!」
二人の話を合わせると、同じもののようだった。宙に浮いた妖しい生き物。そして喋ること。さらに気になるのは、同じこといっていたという。
「ヒトガタは確かに言ってた。けれどこちらは、北風の娘とも言ってた」
どこかで聞いたことがある。北風のポケモンがいると。けれどそれは関係ないかもしれないし、あるかもしれないし。ガーネットのシダケタウンのコンテスト会場でもいたということも引っかかる。
「そういえば、あれが現れたら連絡欲しいって言う人がいてね」
「え、どんな人?」
「えー?どんな人って、喋り方が丁寧で、赤い目が特徴的だったなあ」
それ以上思い出そうとしても、中々思い出す事が出来ない。何もかも知っているような、けれど厳しいような。何かを決意していたような感じでもあった。それを聞いて、よくわからないとため息をついた。
「ごめん、役に立たなくて」
悲しそうな顔をザフィールは笑い飛ばす。
「いや、そういうつもりじゃないんだ。世の中って広いなあって」
「それなら、いいんだけど」
「それに走って来てくれたんだしさ。乾かさないと風邪ひくぞ」
まさか腰を抜かしていたとは言いづらい。なんとかごまかして室内に帰る。その間、ザフィールは無言で行くのもまずいと思い、ずっと引っかかっていたことを聞いた。もちろん、あのダイゴのことである。
「なあ、ダイゴってやつが優しいとかいってたよな?」
「あ、まあ、うん。ダイゴさんは恩人だよ。だから、今のダイゴさんが・・・」
「そうか。人は変わるから、またいつか戻るよ」
「それより、思うんだけど、ザフィールって自分のことあんまり話さないよね。ポケモンのことは良く話すけど」
そんなことは無いと反論するが、ガーネットは譲らない。あんまり話すとマグマ団だとぼろが出そうだから最低限のことしか話していないかもしれない。何が知りたいと聞いても特にないと言う。
「あ、そうだ。明日あたり、またミシロ帰るから」
「え、どうして?」
「アチャモ返しに行かなきゃいけなくてさ」
「・・・私も行く!」
「ダメ」
即答する。マツブサに聞いたあの話。おそらく付近にはまだアクア団がいるはずだった。
「いいか、アクア団だってバカじゃないんだから、また狙ってくる可能性だってある。そうしたら家族にも迷惑になるし」
「・・・私そこまで弱くない!だから」
食い下がってくるガーネットにザフィールも悩む。人の目があるから、ド派手に狙ってくるとは考えにくい。夜など、見えにくいものを避ければいいだろうか。30秒ほど黙った後、了解したことを伝える。


 自転車よりも速い。シルクの足だったら、ほとんど時間かからずに家につく。そうしても全く息が上がっていない。久しぶりの家の玄関を開けると、ただいまよりも先に父親の所在を訪ねる。
「あらおかえり。お父さんだったらトウカジムでしょ」
「わかった。行ってくる」
ほとんど家に滞在する時間もなく、ガーネットは出て行く。それと入れ替わるように、くれないが下に降りてくる。
「今、お姉ちゃんいたよね?」
「いたけどすぐ出て行っちゃったよ」
「そうかあ、残念だなあ。エネコ行こう」
ピンク色の猫がくれないの後を追う。再び2階に上がって、部屋の中でエネコと遊び始めた。


「お父さん!」
前にも来たことがある、トウカシティのジム。そこのジムリーダーを務める父親をたずね、ジムの扉を開ける。ちょうど講習会が終わったようで、父親が入り口付近にいた。
「お、ガーネット帰って来たのか。しばらくはゆっくりするのか?」
トウカシティ所属のトレーナーに囲まれ、とても忙しそう。いつもは寝ているケッキングも働いているのだから、きっとかなり忙しい。
「そうじゃないんだ。私を鍛えて!強くして!」
「別に構わないが、私は手加減はしない。それにうちにいるトレーナーたちにも勝てるようじゃないと鍛えるどころか負けるだけだからな」
ガーネットは頷く。所属トレーナーたちがいいのかと聞いていたが、それは決めたことだと伝える。
「じゃあ、まずはうちのニューフェイスを倒せるくらいになってからかな。倒せたら次の人にいけるよう伝えておくから。ああ、ケッキングそっちじゃなーい!」
本当にあれでジムリーダーが務まっているのだろうか。ケッキングは自分のペースで手伝っている。
「うーん、センリさんの娘さんかあ・・・緊張するなあ」
目の前のトレーナーは最近ここに所属になったというトレーナー。ガーネットはシルクのボールを投げる。
「うわあ、ポニータ!僕のポケモンはこれです!」
鈴がついたような大きな猫。エネコロロという、エネコが進化したものだ。ガーネットは息を吸い込むと、シルクに指示を出す。



 空から庭に戻った。きっと自宅のソファーで寝ながらせんべいでも食べてるはず。そう思って庭から帰ったことを伝えた。すると母親がどうしたのかと聞くかのように、やってきた。
「あら、お父さんなら研究所よ。それと貴方にお客さんが来てるわよ」
「へ?誰?」
「それは会ってのお楽しみ。お客さんも研究所にいるわよ」
検討もつかない。とりあえず家から走ってすぐの研究所に向かう。本当に、父親の所在を掴むのは難しい。もう夏に差し掛かろうとしているのだから、少しは落ち着いて欲しいものだ。

 研究所の扉を開く。研究員がそれを見ると、フィールドワークに出かけたと伝えてくれた。神出鬼没。一体どこで待ってればいいんだ。狼狽しかけた時、さらにザフィールに声をかけるものがある。
「あ!やっぱりさー君だ!久しぶり!」
「え、もしかしてお客さんってハルちゃん!?」
最近会ってなかった幼なじみのハルカ。昔はよく遊んだものだけど、あの事件からほとんど遊ばなくなった。もうあれから約10年。大きくなったハルカは全く変わらない。黒い髪も、目は小さいのに長いまつげも。けれども少し大人になったようで、かわいらしくなっていた。思わずアチャモのことも忘れ、ハルカを外へ誘う。机にメッセージとアチャモのボールを置いて。
「さー君はやっぱりオダマキ博士のお手伝いしてるの?」
「してるよ。今はいろんな町に行きながら調べてるんだ」
「えー、すごい!昔からポケモン詳しかったもんね!」
少しイントネーションが強めの言葉は、聞く人からしたら怒っているように聞こえる。けれども、昔からハルカを知ってるザフィールは、そうではないことを知ってる。それに表情が明るくて。
 日が暮れるまで二人は懐かしさもあって遊んでいた。田舎のミシロタウンだから、遊ぶというよりはだだっ広い空き地で話している。今、置かれてる状況も忘れて話し続けた。ザフィールの頭の中には、まだ帰って来てないガーネットのことなど入ってなかった。それよりもこの幼なじみと話すことが楽しくて。
「ねえ、さー君あのね・・・」
「うん、どうしたの?」
「お父さんが死んじゃって・・・その時は本当に・・・」
ハルカがうつむく。慰めるようにザフィールがそっと肩に手をまわす。
「あの時のことは、ハルちゃんのせいじゃないんだ。気にすることないんだよ」
「ありがとう。お母さん一人で私のことを育ててくれて、それなのに、去年死んじゃったの・・・」
「えっ!?あのお母さんが!?それは知らなかった」
「そうでしょ。そうだよね。さー君には関係ないからさ・・・今、私一人になって、もうダメなんだ」
声が震えてる。ハルカが言いたいことを言えるように、ザフィールは黙る。
「もう生きていけないの・・・でも一人で死ぬのは怖い」
「そんな、ハルちゃんはまだこれから生きていけるよ!大丈夫だよ、俺だって・・・」
「さー君、ありがとう。じゃあ、一緒に死んでくれる?」
ザフィールは座った姿勢から一気に立ち上がる。そして数歩前に避けた。そうでもしなければ、地面に突き刺さる嘴と一緒に貫かれていた。オニドリルが刺さった嘴を地面から抜き、ハルカの元へと戻って行く。
「なんで避けちゃうの?さー君は私のこと嫌いなの?」
「いやいやいや、ハルちゃん落ち着いて!俺はハルちゃんのこと好きだよ?でもさ、一緒に死ぬことは出来な・・・」
「好きなら死んでよ・・・私、一人で寂しかったの。さー君が好きなのに」
ザフィールの言葉を待たずしてオニドリルが鋭い嘴を再びザフィールめがけて突き刺してくる。頭をねらってきている。思わずザフィールはしゃがんだ。頭の上を、大きな風が通り過ぎる。
「プラスル助けて!」
およそトレーナーと思えない指示が出る。プラスルもオニドリルをじっと見つめ、電気をため始めた。
「ねえオニドリル、私がさー君が好きだって伝えてよ。そのドリルくちばしで」
「こ、怖い・・・電磁波!」
プラスルの電磁波は範囲が広い。けれどオニドリルは大きな翼で届かない空へと逃げる。ザフィールは本当に命の危機を感じる。そして数秒後に急降下する。狙われてる。ザフィールは思わず手で顔を覆う。させるかとプラスルがオニドリルのくちばしを電気の鎧で受ける。まとっていなかったらプラスルがいなかったことだろう。スパークがオニドリルに辺り、しびれているのか、翼をか弱く動かすのみ。
「オニドリル・・・」
ハルカがボールに戻した。解ってくれたのかな、とザフィールは安心する。けれどそれは一瞬のことでしかなかった。
「食べちゃって、ペリッパー」
呼び出されたペリッパーは、大きなくちばしで物を運ぶポケモンだ。そしてそのくちばしは人間の子供なら丸呑みできるという。もちろん、ペリッパーが狙うのはザフィールの命。
「く、くわれたくない!!」
情けない声をあげるトレーナーの代わりに、プラスルが大きなくちばしへ電気をまとって突進する。弱いはずだった。けれどもペリッパーはそのまま口をあけると、大きな水の輪をプラスルに当てる。水の波動が、プラスルを混乱させる。元々、トレーナーの指示がなかったから、次に何をしていいか解らないのは当然。
「さあ、今よペリッパー。さー君みたいに幸せなのが許せないでしょ?」
「待って、ハルちゃんまじで待って!」
プラスルは動けない。戻す暇もなくキーチがペリッパーの前に立つ。そして鋭い葉の刃でペリッパーの翼を切り裂く。痛みにペリッパーはうなるけれども、キーチにそのまま翼で攻撃をする。その大きさから、キーチはだいぶ辛いようだった。けれども、キーチは踏ん張る。
「大丈夫だよ、さー君・・・私もすぐに逝くから。離れたりなんかしないから」
ハルカが近寄る。キーチはペリッパーのくちばしに挟まれ、振り回されている。逃げようにもポケモンを置いていくわけにもいかないけれど、手が言うことを聞かない。一歩一歩近寄ってくるハルカにあわせて、少しずつ後ずさり。
「ねえ、さー君、大好きよ。だから、死んで!」
ペリッパーを戻す。そしておそらくハルカの手持ちの中で一番の大物。最も美しいポケモンの地位を争ったことのある鳥、ピジョットの登場だ。その大きさは普通のものと代わりはないのに、ザフィールへのプレッシャーは桁違いだった。そしてハルカの命令にあわせてザフィールへと飛んで行く。その鋭い爪を向けて。
「レグルス、行け」
小さな命令。ザフィールの耳にはっきりと残る。そして堅いものが当たった音が目の前でした。白い体に赤い模様のザングースが、ピジョットの爪を受け止めている。
「良くやったレグルス。そいつは私の大切な証人、死なせるわけにはいかないの」
ポニータの隣にいるその人。思わずザフィールは目を疑う。いくら田舎町でも、こんな場所が分かるなんて思いもしなかった。そしてレグルスと呼ばれたザングースはそのままピジョットの爪を押し返す。
「だれよあんた!ジャマする気なの!?」
「私はガーネット。トウカジムリーダーの長女。それとザフィール、あんた彼女いるじゃないの」
これは彼女ではない。ザフィールはやっとのことで動く手でプラスルとキーチを戻す。そして否定された瞬間、ハルカは物凄いまくしたてた。
「嘘!私とさー君は愛し合ってる!だから死ぬ時も一緒なのよ!何も知らない人は黙ってて!」
「・・・うーん、泥沼の恋愛劇には付き合ってられないんだけど、とにかくザフィールは私にとってある事件の生き証人なわけ。勝手に持って行かれても困るのよ!」
「なによ、出ていって!」
ピジョットに命じる。吹き飛ばせと。それを阻止するかのように、レグルスが鋭い爪でピジョットを切り裂いた。数枚の羽が地面に散り、その上に赤い血が落ちる。
「出ていけるか!私の自宅はこっちだ!」
「知らないわよそんなの!」
再び空へと飛び上がるピジョット。レグルスを狙って。その前に攻撃しようと電光石火の速さで攻撃するが、すでにピジョットは空の上。
「あんたも一緒に死んじゃえばいい!何もかも消えてなくなればいいのよ!」
ザフィールは足に力をいれた。ガーネットを直接狙ってる。被害を出すわけにはいかない。なんとしても止めなければ。今ならまだ間に合う。ピジョットの爪を代わりに食らうくらいなら。
 突然、ピジョットは炎に包まれる。同時にレグルスも。何が起きたか解らず、3人はその場で固まる。そして次に来たのは、雷と間違うほどの怒声だった。
「おまえたち!何をやってるんだ!!」
足元にアチャモを連れた、オダマキ博士だった。


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