マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.707] 38、お前を殺す 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/10(Sat) 01:23:56   48clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「突然の大雨と強い日差しにより、気圧が乱れています!」
テレビの前でレポーターが叫ぶ。レインコートを着て、必死でカメラをみて。カメラが映しているのはずぶぬれのレポーターと何かにつかまっていないと飛ばされそうなほどの強風。すでに何匹かのポケモンが飛ばされているところを映している。
「なお、この大雨で現在の行方不明者は500人以上にのぼり、死者も50人を越えています。明け方にミナモシティ沖の海が凍り付いたという現象も報告されていますが、今の所関係性は不明です。大雨による今後の警戒は必要です!」
テレビの中継が終わる。それと同時に本部から連絡が入った。退避しろと。海岸沿いのミナモシティ、カイナシティ、離島のトクサネシティ、サイユウシティ全てに、退避命令がたった今、発令した。



 突然グラードンに投げ出された。蒸気で不快な暑さがへばりついてくる。体を起こす気力もなく、地面にうつぶせのまま目を開けた。グラードンがカイオーガを叩きのめし、カイオーガは勢いのある水圧でグラードンの腹を遠慮なく攻撃する。トレーナー同士の戦いや、野生のポケモンが攻撃するのとはまるで違う。殺意がそこに立ちこめる殺し合いだ。だからこそ相手より有利に立つためにグラードンはヒトガタの命を欲しがる。カイオーガも同じこと。
 止めなければ。近くにある紅色の珠が言っている。ガーネットはそれに手を伸ばした。少しでも声を聞き取るために。
「残念だったな」
左手に重圧がのしかかる。思わぬ痛みにうめき声をあげた。そこに見えたのはユウキの靴。見上げれば勝ち誇った顔で、藍色の珠を持っていた。異常なほど光り輝いて。カイオーガの強さを物語っているように。
「こいつらを復活させたら後はお前らに用はない。後は捕まえるだけなんだからな」
さらに体重がかかる。手がつぶれそうだと悲鳴を上げた。苦しんでいるガーネットを嘲り笑うかのようにユウキは紅色の珠を遠くへと蹴飛ばした。手の届かない場所に。
「お前がヒトガタかなんだか知らねえが、余計な真似するなよ」
グラードンの咆哮が聞こえた。カイオーガが放った大砲のようなハイドロポンプの轟音と共に。カイオーガは動きの鈍くなったグラードンにさらなる追い打ちをかける。蒸し暑さが嘘のような冷えきったエネルギーがカイオーガから生み出され、グラードンへ襲いかかる。触れたところは霜がついたように白く見えた。
「そのままだ、カイオーガ。そのままこいつも消せよ。俺を偽物扱いしたやつらを!」
ユウキの言葉に導かれるかのようにカイオーガがさらに力を込める。グラードンから受けた傷からたくさんの血を流しながら。体に赤い模様を浮き上がらせ、目標をグラードンに定める。
 直後、グラードンが最後の抵抗とばかりに雄叫びを上げる。洞窟全体が揺れて、冷たい水がしぶきを上げてあたりを濡らす。それを押さえようとカイオーガがグラードンにハイドロポンプを放つが、揺れる中で狙いを定めることができずに外れた。洞窟の壁が派手に崩れ、上からも小さな岩が降ってくる。
 その破壊力に、人間たちは言葉が出ない。それぞれの目で、ただじっと2匹を見ていた。ユウキの持つ藍色の珠はさらに青い光を増している。
「それだけはやめろ。これ以上グラードンに恨みの心を渡すな!」
紅色の珠からそう言われた気がした。頭を持ち上げるだけで精一杯の体力では負けるかもしれない。けれどガーネットは解っていた。。2匹に気を取られてこちらの動きを察知していない今だけがチャンス。逃したらもう後はない。
 立ち上がる。息を止めて力を入れて。そしてユウキの背後から飛び掛かり、腕を首にまわした。突然のことにユウキも離そうとするが、ガーネットの力にはかなわない。彼の手から離れた藍色の珠は遠くへと転がった。
 先ほどまでの弱い力がどこにいっていたのか不思議なほど、今のガーネットは力が強かった。まるでグラードンのように。そのまま体重を利用し、後ろへ引く。気道が締まり、ユウキの苦しそうな息が聞こえる。けれどもガーネットは容赦しない。
「人殺しが!」
ユウキが腕を振りほどこうと力を入れる。
「てめえが何をしたのかわかってんのかよ!てめえみたいなクズ、死んでも誰もこまらねえよ!てめえが奪ったもんはてめえの命で償え!」
心の奥底から湧いてくる罵る言葉。そしてそれを実行するための力。グラードンの声もカイオーガの声も聞こえない。目の前には苦しみから逃げようとするユウキしか見えない。
 ずっとこの時を待っていた。犯人に復讐する時を。親友の命を奪い、自分の心を傷付けたことへの怒りをユウキにぶつける。そして望みは、彼の死をもって償わせること。
「死ね!てめえは死んで当たり前なんだよ!」
さらに締め付けた。ユウキの抵抗が少し弱くなった。もう少しで彼の命も消える。それこそが一番の手向け。
「やめろガーネット!」
彼女の背後から、二人を引き離す力が加わる。あのびくともしなかった力が嘘のように離れ、ユウキは地面に手をつき、酸素をたくさん求めるように呼吸をする。
「何するのよ!離して!あんたなんかに解るわけない!」
しめつけていた手を、たった今に来たザフィールにしっかりと握られていた。ガーネットが何度も振り払おうとしても、彼は離さなかった。地面にすわり、彼に優しく抱き込まれて。
「俺には解らないかもしれない。けど、ガーネットの手を汚す必要なんてない」
大きくユウキがむせ込んだ。ザフィールは黙って立ち上がると、彼の前に行く。ユウキが見上げると尋常ではないほどの威圧感で、見下ろされていた。
「マツブサとどういう関係かは知らねえ。だがお前もマグマ団なら俺の敵だ。容赦はしない。死にたくなきゃ失せろ」
ユウキは息を飲み込む。この状況では明らかに不利だ。ザフィールが一歩前に出る。思わずユウキは後に下がる。
「ガーネットと違って、俺はすでに色々やってる身だ。今さら殺人が加わろうが大したダメージじゃねえよ。それに今だったら事故に見せかけることだって簡単だからな」
「お前……」
何かを言おうとしていた。けれどもザフィールの冷たい視線がユウキの言葉をつぶす。最後までザフィールの目を見ていた。そして数秒後、うしろも振り返らずに走って行く。その速さはザフィールと並びそうだった。

 黙ってザフィールは転がった藍色の珠を拾う。水に濡れてすこし冷たい。そして離れたところにある紅色の珠も。 二つは一層光を強め、中に浮かぶ模様をくっきりとさせている。それはおくりび山においてあった時は無かったもの。グラードン、そしてカイオーガが暴れていることの印。
「立てるか?」
紅色の珠を差し出す。視線を合わせるようにしゃがんで。少しの間じっと見つめ合い、やがて差し出された手を掴む。
「終わらせよう。あんなもの、現代にいていいポケモンじゃない」
ガーネットを支えるようにザフィールは手をそえる。彼女も離れないよう、彼をしっかりとつかんで。そして二人は何も言わずに、モンスターボールに手をかけた。
「戦えシリウス」
「終わらせろスバッチ」
2匹のポケモンが、巨大なグラードンとカイオーガへと向かう。シリウスはその力でグラードンを、スバッチは素早さでカイオーガの狙いを狂わせて。トレーナーの声が咆哮の合間に聞こえる。
「濁流で押し流せ!」
「影分身でカイオーガを惑わせろ」
傷つけ合い、それも癒えてないうちに他のポケモンからの攻撃。グラードンも傷口にえぐられるような濁流には悲鳴に近い鳴き声をあげる。そのままさらに攻撃しようとした時に、グラードンが振り払うかのように、シリウスをきりさく。体重もあり、がっしりとしたラグラージの体が吹き飛ばされる。
「ありがとうシリウス」
代わりのポケモンを。一度くらったらもう二度目はない。それだけ巨大な力だ。それにまだグラードンを封じ込めるには体力がありすぎている。素早くて力もあるポケモン、キノガッサがガーネットの隣に現れた。
 ザフィールもスバッチの動きをずっと追っている。撃ち落とそうと何度もカイオーガはハイドロポンプを撃つ。実体が見えず、当たらないことにイライラしているのかカイオーガはシャチのような大きなヒレを動かした。水しぶきが何度も跳ねる。
「つばめ返し!」
カイオーガの傷を狙え。そう指示した。素早い動きで敵との距離を確実に詰める。右のヒレの大きく裂けた傷口。まだ血が流れているところへとオオスバメの紺色が風となって斬りつける。その痛みに暴れ、翼にカイオーガの体が当たった。
「戻れ!」
鳥は飛びやすくするために骨が軽い。オオスバメは戦う鳥ポケモンであるから、普通の鳥よりは丈夫だが、あのカイオーガのヒレを何度も受けられるほど強くはない。その直後、カイオーガのハイドロポンプがザフィールへと向かう。それを受け止めたのは、カイオーガより大きなホエルオー。
「転がれイトカワ!」
体を横にして、カイオーガへと転がる。転がっているのか、のしかかりなのかもう区別などつかない。そんなのどうでもいい。カイオーガを確実に弱らせることができるなら。
 マッハパンチがグラードンの顔をとらえる。一見して強くなさそうであるのに、キノガッサはとても力が強い。油断していたのか、グラードンがうなる。けれども腹の底から響かせるような声ではない。ガーネットは違う指示を出す。
「リゲル、キノコの胞子!」
しっぽのような部分から、大量の粉が飛び散る。この湿気が無かったら、自分の方にも飛んで来そうなほどの。
 ホエルオーの下敷きになりながらも、なお攻撃しようと狙ってくる。けれどホエルオーの体にはカイオーガの攻撃がほとんど効かない。ザフィールのあらたな指示で、カイオーガの正面に来る。
「捨て身タックル!」
咆哮ではなかった。うめき声のような声、しかも先ほどより小さい。確実に弱ってきている。このままならいける。ザフィールもガーネットも、相手の体を強く握りしめた。もう離れないように。
「消えろ2匹とも!」
紅色の珠をグラードンに、藍色の珠をカイオーガに投げつける。ヒトガタだと言われた時に意味が解らないと戸惑ったことが嘘のように。腹をくくり、覚悟を決めて二つの宝珠に願いを託す。
 紅色の珠の光がグラードンをとらえ、藍色の珠の光がカイオーガをとらえる。その瞬間、ガーネットの体から残りわずかな体力を奪い尽くし、ザフィールの体には全身が焼けるような痛みが走る。それでも二人は無理だとは言わなかった。二つの宝珠と、相手を信じて。
 やがて光が治まる。そこにはもう2匹の姿は無かった。あるのは模様の浮かばない紅色の珠と藍色の珠。かなり痛みは残り、体も動かしにくいが、全てが終わったという安堵感が残る。
「終わったな、終わったんだよ」
ザフィールが思わず言葉に出したのと同時に、倒れる音が聞こえた。


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