マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.560] 21、登場!緑猫 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/03(Sun) 00:34:56   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あの後は散々だった。ハルカは泣いてるし、ガーネットは帰されるし、オダマキ博士の怒りは全てザフィールへ。家に行ってもずっと怒ってるし、何より喧嘩の道具にポケモンを渡したのではないという内容で話がループしていた。母親が止めてくれなかったら深夜まで続いたに違いない。部屋に帰ると、プラスルが電気のボンボンで励ましてくれた。スバッチがもふもふの羽でなでてくれた。エーちゃんは顔をなめてくれた。キーチは肩をそっと叩いた。
「ありがとうな・・・」
にこやかなポケモン博士と世間では評判になっているが、子供となれば話は別。厳しい父親に、ザフィールもため息しか出ない。しかも話を聞いてくれない。明らかに今回の騒ぎはハルカの行動だったのに。けれど本人はずっと泣いてて、話になるわけがない。

 元気がないもう一つの原因。ハルカの投げつけた言葉。ザフィールはベッドに寝転がると、自分の髪を触った。白い髪が指の間から見える。子供の頃からずっと、からかいの対象だった。時には集団で白い髪のことをからかって、泣いて逃げてきたこともある。そんな思い出のあるこの髪だって、ハルカだけがほめてくれた。それを糧にして、堂々と生きてこれたのに、彼女は言ったのだ。
「その白い髪だけは好きになれない」
後は全て愛してると。けれどその言葉はザフィールの心を砕くには充分破壊力があった。ずっとハルカだけが支えてくれていたのに。いきなり杖を奪われたような気持ちだった。それを感じると同時に、思い出は全て嘘だったのかと、ため息をつく。


 一晩の間を置いて、ザフィールはガーネットを訪ねる。助けてくれたことの感謝や、ハルカに対する誤解を解くなどのことを話したい。そう思って、オダマキ博士に家を聞いて、やってきたのである。いささか緊張する気持ちを抑え、ベルを押した。
「はーい!」
家にいることに少し安心し、さらにプレッシャーを感じる。どのような顔をして会えば解ってくれるのか、近づく足音を聞きながら考える。自身の心臓なのか、足音なのか区別がつかない。
「どちらさま!?」
玄関が開いた。目線の先に顔がない。疑問に思い、少し下にずらす。ガーネットが見上げているのだ。
「だれー?だれー!?おにいちゃんだれ!?」
「え?え?だれって、俺だけど、え?ガーネット?え?っていうかお前が誰だよ!」
「にゃっ!」
目を輝かせる。子供の声にテンションがかかり、少し早口気味なのが、さらに早口になる。
「わかった!おにいちゃんは、おねえちゃんのかれしでしょ!」
「はぁ!?」
まだ早いよ、と言いそうになる自分の口を押さえる。そこではない、そこを否定したいんじゃないぞ。そんなザフィールのことなどおかまいなしに、子供の声でまくしたてる。
「だってきのうおねえちゃんがいってたもんおにいちゃんといっしょにたくさんいろんなところいってたんだよねおねえちゃんはおとこのひとあんまりすきじゃないからずっといっしょにいれるなんてかれしができたとしかおもえないからおにいちゃんはかれしでしょじゃないとたぶんおにいちゃんいきてないよだっておねえちゃんすきじゃないひととはいっしょにあそばないからおにいちゃんはかれしだとおもう!」
だってまで聞こえた。後は物凄いスピードにザフィールはリスニングしそこねる。外国語なんていうものではないのに。固まっている彼を放置して、スピードは早くなるばかり。しかも声は大きく、この小さなミシロタウンに響き渡っている。
「ね、ねえ、解ったから君は誰?」
「くれない、どうしたんだ?」
玄関の奥から顔を出す男の人。見たことがある。テレビで何度も新しいトウカのジムリーダーだと映っていたセンリ。そういえばガーネットは自分のことをトウカジムリーダーの長女だと言ってた。ここに来るまで知らなかったのも、彼女は全く話さなかったからだ。
「あ、おとうさん!おねえちゃんの・・・」
「こんにちは。父がお世話になってます」
さすがに話が早かった。何かを言いかけたところを割り込み、会話をやっとこちらのペースで進める。
「おや、オダマキんところの、確かザフィール君だね。ガーネットが君のこと話してたよ」
「え!?なんて!?」
「逃げ足の早いアニメ好きだって言ってたっけな。ガーネットなら今はポケモン鍛えにいないんだけど、なんだったら上がっていきなよ」
センリに言われるまま、家に上がらせてもらう。くれないと呼ばれた小さな子は、エネコと共にザフィールについてくる。そして2階へ上がったかと思うと、おかしの袋を持って来た。彼女なりのもてなしらしい。リビングのソファにすすめられ、くれないがキッチンで何やらお茶を入れてくれているようだ。センリといえば、ザフィールの対面に座り、難しそうな顔をして話を切り出した。
「そういえば、ザフィール君はガーネットと一緒にいたんだって?」
「え、あ、そうです・・・」
「何かされなかった?吹き飛ばされたり、投げられたりとか」
3ヶ月近い付き合いを全て思い出し、確かに最初の方はあったなと思ったが、ザフィールは否定した。相手の親に告げるのは、少し卑怯な気がしたのだ。
「そう、よかった。あの子ね、ちょっと学校で色々あってね。それから男の子は敵だと思ってるんだよ」
「えー!?」
くれないが湯のみにお茶を入れて来た。口をつけると香ばしい玄米の味がした。飲み物は気持ちを落ち着けるというが、全く落ち着かない。センリの話とガーネットの態度が矛盾も等しいくらいにつり合わない。
「こちらに来たばかりのときね、男の子にポケモンの取り方を教えてあげてと言ったけど、とても嫌そうな顔だったしね。だから君の話が出て来た時は驚いてね。もし何かあったらオダマキに顔が立たないじゃない?」
「あの、何があったんですか?」
「学校の同級生を・・・って言っても、不良グループにからまれて、反撃で骨折させちゃったの」
ガーネットの本気を知った気がした。まだ骨折していない分、マシな扱いなのかもしれない。けれど、いつ骨折させるような攻撃をされるか解ったものじゃない。センリはずっと同じように難しそうな顔のままだった。
「それって・・・」
「私もずっと人には叩いたらいけないって教えてたから、加減も解らなかったみたいで。学校もケガした方ばかり擁護してね、それからガーネットは男の子避けるようになっちゃって。関わりたくもないって言ってたからねえ」
ため息をついた。そしてザフィールの目をまっすぐ見た。
「だから、もし大人になっても彼氏いなかったら、ザフィール君がもらってあげてよ」
センリの後ろから、嬉しそうな目でくれないが見ている。そしてその横にはエネコが。
「いやいや、ザフィール君の都合だってあるよね。ごめん、忘れて」
難しい顔から一転し、明るい顔でセンリは尋ねる。お昼は何が食べたいのか、と。そこまでお邪魔する気はないと答えても、いいからとしか言わない。くれないはずっとザフィールを嬉しそうに見ている。一応、喜ばれているのかとセンリの厚意に甘える。

 
「よし、スカイアッパーが随分命中するようになってきた」
ジムトレーナーのレベルは予想より高かった。エネコロロに3匹も倒されてしまうとは本当に思ってもなかった。なんとかとどめをさしたリゲルが、エネコロロの経験を得てキノガッサへと進化する。格闘技が得意なキノガッサと、野生のポケモン相手に練習していたのだ。ボールに戻した時、ガーネットは空腹を思い出す。
「帰ろうか、今日はお父さんいるからきっとラーメンだな」
こちらに来てすぐに出ていってしまっため、我が家というには何となく違和感がある。けれど、今の住居はここなのだ。玄関を開けると、何か違うような気がした。いつも出ている靴より多い。しかも見た事あるような。誰か来ているのかと、リビングへ行く。
「あ、おかえり」
「おねーちゃんおかえり」
「おじゃましてます・・・」
なぜこの3人が一緒にいるのか理解できず、ガーネットは一瞬かたまった。しかも仲良く昼間からお好み焼きと来た。リビングの隅では、センリのヤルキモノがウインナーを貰って食べていた。
「食べるか?」
「食べる・・・」
この異様な空気は何だろう。そしてなんで3人はこんなに楽しそうなのか全く理解が出来ない。焼けたお好み焼きを見て、キャベツと桜えびと紅ショウガしか入っていないことに気づく。作ったのはセンリと理解するのに1秒ともかからない。けれど一口たべると、珍しい味がすることに気づく。チーズが入っていた。
「ザフィール君がね、チーズ入れるとおいしいっていうからさ、やってみたら中々いけるんだよねこれ!」
「へー。ところでご飯は?」
「おねえちゃん私もー!」
「炊飯器の中にあるよ」
「くれないは自分でやりなさい」
「お好み焼きと、ご飯・・・?」
いつの間にかガーネットもその中に入っていることにも気づかず。昼間から騒がしいパーティは、しばらく収まりそうにもない。そしてそんな時、くれないは大きな声でまた聞いていた。おにいちゃんはかれしなの?と。その時のガーネットは、にっこりと笑ってそして言った。
「いい加減な嘘をつくのはやめなさい」
ザフィールは凍り付く。顔は笑ってるのに声が笑ってない。けれどくれないは何ともないように返事をして、昼食を続行している。そして姉妹をみていたら、なぜかザフィールに飛び火する。
「ザフィール君はご飯大盛りだよねえ!?中学生だもんねえ!?」
どんぶりなみの大きい茶碗に、マンガに出て来そうな山盛り。通称「昔話盛り」と言っていた。そもそも、お好み焼きとご飯を一緒に食べる習慣がない。けれどガーネットの手を断ったら後々に響きそう。扱いに困る茶碗を左手で受け取った。


 騒がしいパーティは、夕方まで続いた。母親も仕事から帰ってくる。ザフィールはそろそろ帰ると言った。家まで送るとガーネットが立ち上がる。二人はまだ明るいミシロタウンへと出て行く。ちなみに彼らは知る由もないが、くれないが「つきあってるよね」と両親に笑顔で言っていた。
「なあ」
「なに?」
立ち止まり、振り返った彼女の手を引いて、家の方向と違ったところへ行く。そこはミシロタウンの唯一の公園。子供がたまに遊んでいるけれど、主にいるのは野生のスバメやジグザグマ。たまにキャモメが迷い込んでくる。
「昨日はありがとう。ハルちゃんって凄く優しくかったから、俺もどうしていいか解らなくて」
人影はない。気配もない。ミシロタウンが眠る準備をしている時間。二人きりで話せるには、これしかない。公園のベンチに座った。
「でも、誤解しないで欲しいんだけど、まじでハルちゃんは彼女ではない。付き合ってない」
信じてないかのような目でザフィールを見つめる。慌てているのが解った。
「まじだってば!」
「そんな焦んなくとも解ってるよ」
ため息まじりで、良かったと言った。その事が心に引っかかっていたようで、その後の顔はとても晴れ晴れしている。
「ハルちゃんって、俺のことかばってくれた人だと思ってた。でも違ったんだ」
「どういう風に?」
「髪のこととかさ、事件のこととか。俺のこと一生懸命・・・他人と自分でこんなにも思ってることがずれてたなんて、想像もしなかった」
気遣うようにガーネットが肩を叩く。それはとても優しいように思えた。うつむいていた顔を上げた。
「つまり君は初恋の子にこっぴどくふられた挙げ句に殺されかけてたというわけか」
ストレートな言葉が、ザフィールの心を刺したようだった。泣きそうな顔でガーネットを見ている。
「そんなさ、他人と自分が同じ思いなんてしてるわけないじゃん。そんなの当たり前で」
「でもさ、軽く言うけど、俺の髪のこと、ほめてくれたのハルちゃんだけだと思ってたんだぜ。それなのにそれまで否定されて・・・違うわけないんだ、あんなこといってくれるのはハルちゃんしかいないはずなのに」

「『ゆきみたいできれいだね』」

ザフィールはさらにガーネットを見る。彼に少しひるんだのか、ガーネットは距離を取ろうと体を避けた。
「なによ?どうせそんなこと言われて、舞い上がってたんでしょ。ザフィールは本当、単純なんだから」
夏らしい風が吹く。ザフィールの白い髪が揺れた。さらさらしていて、ガーネットからしたら男の子なのにうらやましいくらいに。本人の性格から、色を気にしてるような素振りは無かった。けれど、話を聞いたら結構悩んでいたこと。そして本人も気づいてないことがあること。それを伝えようかと思ったけれど、あえてガーネットは言わなかった。これが自分の思い違いだったら。今のザフィール以上に沈むのは間違いない。だったら言わない方が良い事だってあるのだから。
「そ、それよりもさ、センリさんに言ったの?アクア団のこととか・・・」
「言うわけなし。心配させるだけだし、何より外に出してくれないからね!お父さんより強くなって、アクア団なぞ恐るに足らん相手にしてやるから、そこはいいのいいの。そのために明日も練習だから、早く帰るね!」
明るく振る舞う。本当は名前を聞くだけでも思い出してしまう。けれど彼の手前、そんな態度を出すわけにもいかない。そして、アクア団と手を結ぶべきかどうかも。



(読み方講座)
緑猫=みどりねこ

(漢字翻訳版)
「だって昨日お姉ちゃんが言ってたもん。お兄ちゃんと一緒たくさんいろんなところ行ってたんだよね。お姉ちゃんは男の人あんまり好きじゃないからずっと一緒いれるなんて彼氏が出来たとしか思えないからお兄ちゃんは彼氏でしょ。じゃないと多分お兄ちゃん生きてないよ。だってお姉ちゃん好きじゃない人とは一緒に遊ばないからお兄ちゃんは彼氏だと思う!」


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