マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.621] 32、七匹目のポケモン 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/01(Mon) 22:15:44   51clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 もう日が沈みそうだというのに、落ち着かない様子で家の中をウロウロしている。白い体に茶色の縦縞。流線型の体で、もぞもぞと動く。
「どうしたのしょうきち?お散歩いきたいの?」
マッスグマの体で見上げる。少し入り口のドアを開けてやる。そうすれば少し大人しくなるかもしれない。その少しの隙間を見つけた瞬間、流星のごとく走り出す。扉を壊す勢いで。
「しょうきち!しょうきちー!!」
名前を呼んでも振り向く気配はない。すでにしょうきちの姿はなく、砂煙をあげて走って行く。あんなに急いでいるしょうきちの姿は初めて見る。


「アクア団が侵入!」
アジト内の警報が鳴る。同時に全員にその内容が行き渡る。おくりび山の一件からつけられていたようだった。だるそうにマグマ団の下っ端が言う。
「めんどくせえなあ。ちゃんと見張っておけよ」
そういう彼の言われた仕事は、ポケモンたちを見張ること。モンスターボールに入ったポケモンたち。それは仲間だったザフィールと、ボスの目的の女のだといっていた。
「あーあ、めんどくせ。こいつらやっちまおうか」
めんどくさがりの彼に任せたのが悪かった。全てのボールが開放され、ポケモンたちが出て行く。その勢いはすさまじく、下っ端は何をしたのか自分でも後悔する。まさかあんなに勢いがあったとは思わなくて。


 思わず飛び出してしまったけれど、道は複雑だ。どこからともなく漂う血の匂いもする。エーちゃんことエネコは慎重に歩いている。今まではボールに揺られていたけれど、ここにきたのは初めてである。
 曲がり角を曲がった先。青いバンダナをつけた人間に出会ってしまった。うなり声をあげて、体毛を逆立てて威嚇するけれどそんなもんがなんだと言うように人間はボールを投げる。そこから素早いテッカニンが出て来ていた。
「エネコの姉貴!」
そう呼ばれたのは久しい。その呼び方をするのは故郷の草むらにいたポケモンだけだ。
「ツチニン!?無事だったの?」
「もうダメです、姉貴。人間に使われて・・・」
テッカニンとなって羽は生えている。透き通る羽には、ところどころ焦げ跡が。治癒しているようだが、普通のテッカニンにはない模様。
「姉貴しかいない。俺を殺してください!」
人間は命令する。テッカニンにきりさけと。その動きはゆっくりとして、エーちゃんでも避けられる。
「もう従うのか死ぬのかどちらかしか・・・お願いします!」
飛び掛かる。一番強い技、捨て身タックル。覚えたてで上手く行かないときもあるけれど、テッカニンの頭に当てることが出来た。ふらふらと左右にふらつき、テッカニンは上手く飛べてない。
「ぐっ」
「甘いよ!」
戦いに向いているエネコ。それがエーちゃんの個性。普通のエネコよりも高い威力の捨て身タックルでテッカニンをどんどん攻める。素早さでは敵わないけれども、こうも連続して攻撃を出せればさすがのテッカニンだってひるむはず。
 頭にぶつかられてふらふらのテッカニン。腹部にも攻撃が入り、とても苦しそう。人間は怒鳴ったような声を出す。そしてふらついているテッカニンを蹴り飛ばした。前も見た。なぜこの人間たちは平気で蹴り飛ばして怒鳴っているのか。エーちゃんには理解のできないこと。
 そしてそれでも言うことを聞かなければならない彼。それがトレーナーとポケモンなのか。エーちゃんはザフィールとの出会いに感謝する。目の前で多重に分裂するテッカニンを目で追う。影分身という技だ。このままでは技が当たらなくなる。
「姉貴、よけて!」
「させないから!」
さらに素早い動きで、テッカニンの後ろを取る。流れるような動きに、テッカニンも避けることが出来ない。鋭い牙と、エネコにしては強靭な顎でテッカニンを攻撃する。今までのスピードとは違った動きを見せて相手をだまして攻撃するだましうち。
「あねき・・・ありがとうござい、まし」
テッカニンの羽は動かない。エーちゃんがかけよって顔をなめてもぴくりとも。人間は罵声や怒声に近い声をあげた。心配したり、いたわるような声ではない。かつての部下を自分勝手に使い、あげく使い物にならないとあれば罵倒する。その態度が気に入らない。うなり声をあげて、人間に飛び掛かる。
「エーコ!」
「エネコのお姉さん!」
人間が倒れる。その背後には二つのそっくりな影。プラスルとマイナン。その名前で呼ぶのはカストルとポルクスのコンビだ。二匹とも体に電気をまとっている。人間を攻撃したのもおそらく二匹。なぜならまだ人間の体にはわずかに電気が残っている。
「血の匂いがする。心配だから早く!」
カストルに言われるままエーちゃんはついていく。他のポケモンたちは無事かわからない。

 アクア団たちはマグマ団のアジトを片っ端からつぶしていく。おくりび山でかなりのダメージを与えたのが良かったのか、まともな抵抗が出来るマグマ団はいなかった。
 幹部のイズミはゆっくりと中を歩いている。探しているのは奪われた藍色の珠とそのヒトガタ。おもりのホムラもいない今、絶好のチャンス。ようやくアクア団にも運が向いて来た。下っ端たちがこの場所を撹乱している。誰もイズミに注意が向くことがなかった。
「待ちなさいよ」
目の前に現れる赤いフード。いつだってこいつだけはどんなに撹乱しても狙ってたかのように立ちふさがって来た。
「あらカガリ。彼氏の状態はもういいのかしら?」
「不法侵入の上に器物損壊していくあんたたちに答える義理はないわ」
「否定も肯定もしないのね」
「人の家に上がり込んどいてよくもそこまで言えるわね。トラップ一つ警戒しないなんて、アクア団らしくないんじゃない?」
イズミの後ろからぱちぱちと弾ける音がする。マルマインたちがイズミを取り囲むようにして。いつの間に現れたのか、カガリを守るようにマルマインたちは迫ってくる。
「死ぬ気!?」
「死ななくて結構。足止めさえ出来ればいいんだから」
カガリは消える。残ったマルマインたちは、指示してくれる人間がいないために、どうしていいかわからないようだ。とりあえずイズミを囲んでただじっとしている。少しの刺激で爆発するマルマインに囲まれるのはどうもいい気持ちはしない。


 カリカリとドアをひっかく音がする。何かが来る。思わずガーネットはザフィールを強く抱きこむ。手が彼の顔に触れて、冷や汗が伝わってくる。誰が入って来ても絶対に離したくない。
 ついに隙間が開く。ふわりと外の風が入って来た。内開きのドアが開く。視線を上げた。けれどそこに顔はない。下の方に見える白いもの。そちらを見ると、マッスグマが息を切らせて入って来た。そしてガーネットと目があうと、嬉しそうに寄ってくる。
「え、まさか、しょうきち?なんでここに?あの子は?・・・無事で良かった」
ガーネットの顔をなめる。そして彼女から離れると、血の匂いを嗅いだのかザフィールの足に鼻を近づける。少し勢いの止まった血が、しょうきちの前足を染めた。
 ぺたぺたと足音が響く。人のものではないそれ。開いたドアから次々にポケモンが入ってくる。血の匂いと、主人のいるところを勘で探り当てて。
 みんな痛めつけられたような跡もなく、元気で入ってくる。みんな心配そうにザフィールを見ている。それに対して、大丈夫だよと、か弱い声で彼は答えた。そしてボールに戻るように指示する。見つかったら危ない。
「シルクがいない?」
その事に気づいても、迎えに行くことは出来そうになかった。開きっぱなしの扉の前に、仁王立ちしていたカガリ。そしてその隣にいるユウキ。
「そんなにくっつかなくてもいいでしょ。本当、仲がいいのね」
フードの下から見えるカガリの顔は、以前見た時とは違っていた。冷静に任務をこなすマグマ団の幹部。それが今のカガリの顔だった。
 ガーネットからザフィールを引きはがすようにカガリは引っ張る。ガーネットの腕から力なくザフィールが離れて行く。二人ともカガリのことなんて見ていない。離れては生きていけないように、お互いを見ていた。カガリは捕まえるようにガーネットをつかむ。
「予定が変わったわ。今すぐ出るのよ。ユウキ、この子と先に行ってて」
ユウキにガーネットを押しつけ、残るザフィールを見下ろす。血だらけの手で、カガリの足を掴んでいた。
「何かまだ用があるわけ?」
その力は強い。決してカガリを行かせないかのよう。
「ありますよ。あいつ、アクア団でも、なんでもない。だから、そんな、手荒なこと、しないでください」
カガリはその手を振り払う。思いっきり足に力を入れて。
「まだそんなこと言うつもり?相当死にたいようね。楽にしてあげるわよ!」
ザフィールの口を押さえる。その手の平から落とされるもの。あまりの苦さに彼は暴れるが、カガリは簡単に放すわけがない。息を塞がれ、数秒後に喉が動く。
「良薬は口に苦がしね。すぐに楽になるわよ」
苦みにもがくザフィールを振り返ることなくカガリは出て行く。舌に残る苦みを吹き飛ばそうと、何度も何度もザフィールは咳き込んだ。けれどしびれるような苦みは口の中から出て行く気配がない。そして胃の中から焼けるような熱さを放つ。わき上がる熱さに、思わず手をあてる。

 奥に連れて行かれる。聞こえてくる波の音。ひろい空間に出たと思えば、そこには潜水艦が浮かんでいた。そして入り口付近でマツブサが待っている。ユウキはガーネットを引きずるように歩く。自分本位の移動に、抵抗も諦めた。ポケモンたちがボールに収まっていることがバレてないのが幸いかもしれない。
 そして近づくとマツブサの他にホムラがグラエナにつかまりながら立っているのが解る。
「ユウキ、そいつを中に入れろ」
その言葉には、いたわるとかほめるとかいう感情が含まれてない。ただの命令。ザフィールから聞いていた人物と随分違いすぎる。じっとマツブサを見ていると、ユウキに突き飛ばされるようにして潜水艦に押し込められる。
「一応丁寧に扱っておけ。カガリ、準備はいいか?」
「いつでも」
「ホムラ、完璧にとは言わない。被害を最小に。そんで生きてる間のあいつをアクア団に取られるな。必要とあれば息の根を止めても構わない」
「・・・解ってますよ。留守番組は大人しく待ってます」
最後に乗ったカガリがドアを閉める。閉め切られた中は息がつまりそうなほどの閉塞感。そして全体に響くエンジン音。ゆっくりと動き出すのが解る。どこか遠くへ、知らないところに。


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