マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.719] 39、終幕 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/09/14(Wed) 20:46:54   73clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「大丈夫か?」
倒れたガーネットを抱き起こそうとザフィールがしゃがむ。その瞬間にぎりぎりと締め付けるような灼熱感が全身に走った。思わず地面に膝をつく。同時に轟音へ気を取られた。先ほどまでグラードンとカイオーガが争っていたところの壁が崩れたのだ。そういえば地面にはところどころ亀裂が走っているところ、裂け目から水が吹き出していたりしている。
「崩れる……やばい」
痛む肘、悲鳴をあげる太腿。それでも体を起こす。そしてガーネットの体を起こす。視線をあわせてもどこか遠くを見ていて、はっきりとザフィールの方を見ていない。そして感じるのは体温の異常な上がり方。それなのに手は冷たく、体は震えている。
「ガーネット、帰るぞ」
小さくうなずく。本人は答えるけれど、体には全く力が入ってない。手を握られても返す力は本人の元と思えないほど弱い。
「もう終わったんだ。あいつらの思い通りになんてさせない」
ザフィールも万全ではない。一人の体重を全部支えられるほど力が出ない。けれどもここにいたら危険だ。それに何より自分を消そうとしたマツブサの思い通りになりたくない。まだ一つも課題を片付けていないのに、閉じ込められてはたまらない。
「ザフィール……」
つぶやくような声にザフィールは手を止める。
「大丈夫だよ……もう」
「大丈夫なわけないだろ。こんなところで倒れてさ」
「もう……私は無理だから、ね?」
何も言わずガーネットを抱きしめる。頬は熱を帯びて、耳元で聞こえる呼吸は弱々しい。
「そんなこと言うな。絶対に帰る」
岩が落ちる。もうすでに安全な場所ではない。ザフィールは顔をあげた。
「ザフィール……ありがとう。でも、二人で死ぬことなんてないよ」
「ふざけんな。冗談だって言っていい時と悪い時があるだろ!帰るんだよ。それであいつらに」
黙ってザフィールの手に握られるもの。ポケモンが入ったモンスターボール。
「道連れにするわけにはいかないから、連れて行って」
「バカ、お前だって一緒に帰るんだ。まだたくさん……」
次の言葉は遮られた。突然のことでザフィールも状況が解らない。ゆっくりと体を起こしたガーネットが、そっとザフィールの唇を塞ぐ。全く思いもしないこと。時間が止まったかのように、まわりの音が聞こえなかった。ただ目の前の事柄が全てのように体が動かない。
「な、おまえ……」
一度離れてみたガーネットは少し笑ってる気がした。その後に続く言葉が出て来ない。
 崩れ行く壁や天井の音にまぎれ、力強い蹄の音。立派な角を振りかざし、二人の手前で前足を折ってしゃがむ。乗れと言うように。立ち上がろうとした時、強い揺れにザフィールの体がよろける。もうすぐ近くまで岩が落ちていた。
「シルク?大丈夫なのか?」
じっとギャロップの目がこちらを向いている。長いまつげ、強い意志。でも見ているとなんだか力が抜けるような。糸が切れたかのようにザフィールが倒れる。
「ああ……ギャロップ……ザフィールをお願いね」
解ったとでも言うようにギャロップの角が揺れた。背中にザフィールを乗せると走り出す。
「シルク……ふざけんな、ガーネット!」
振り向いて叫んだ方向。すでに遠くにいる彼女。催眠術により動かない体で叫ぶ。まだ見える範囲だから降りてしまっても間に合う。彼女を迎えにいかなければならないのに。
 耳を裂くような轟音。すぐ目の前が岩で塞がり、ギャロップの足は逃げるように飛び跳ねてかわす。
「え、な、なんで」
何も見えない。後ろには次々に岩が落ちてくる。必ず生きて送り届ける意志が、ギャロップの目に宿る。それが亡き主人の意志。
「とまれ、とまれよ!俺は戻らなきゃいけないだ!戻らなきゃいけないんだよ!」
炎の風は止まらない。とても強い催眠術をかけたのに、背中の人間はもう起きた上に暴れだす。強く脇腹を蹴られたけれど、足を止めることなど絶対にない。


 大きな岩が視界を遮る。最後まで無事を見届けられなかったのは残念だが、絶対に大丈夫だと確信していた。きっと願いをかなえてくれる。光の届かない真っ暗な空間にただ一人仰向けになる。
「ガーネット」
頭の方にぼやっとした人影が見える。辛いけれど少し体を起こした。
「キヌ……さっきはありがとう、ギャロップかしてくれて。おかげで私の大切なものを守ることができた」
「いいんだよ。私の為に真実を求めてくれて。それだけでいいんだよ。生きてるガーネットが幸せにならなきゃいけない」
「幸せか……」
頭の中に巡るのは今までの事。ホウエンに来てザフィールに出会って、あれからもう三ヶ月も経って。まさかマグマ団だとは思わなかったけれど、今回のことでちゃんと決別できたのだろうか。それともまだいるとしたら。
 ガーネットはそこで考えを止める。なぜこんな時だというのに家族よりも誰よりも先に彼の顔が出て来たのか。そんなこと疑問に思うこと自体が間違っている。もう答えはそこにあった。
「ザフィール、ありがとう。誰よりも好きだった」
今度会えたら、この言葉を何よりも真っ先に言いたい。また会えたら……。


 いきなり明るい場所に投げ出される。まともに受け身が取れない状態だったザフィールは背中から地面に落ちた。呼吸が一瞬つまった。
「いてえ……シルク?」
今まで自分を乗せて思うままに走っていたギャロップはそこにいない。最初からいなかったかのように跡形もなかった。残された蹄の足跡以外は。
「行かなきゃ」
ザフィールが立ち上がる。そしてそれ以上の言葉が出せなかった。めざめのほこらの入り口は落ちてきた土砂により埋まっていた。もう誰も立ち入れず、そして何者もここから出さない。
「うそだろ」
大雨が嘘のように晴れている。穏やかな初夏の風が吹き抜ける。それなのにザフィールの頬には冷たい涙が流れる。
「俺、なんてバカなんだろう、こんなことになるまで気付かなくて」
親のように慕っていたマツブサ、兄のようだったホムラ、姉のように優しくしてくれたカガリ。そして一緒に行動した仲間たち。それらが全て偽りで、その反動が全て自分ではなく最も関係のないガーネットに。
「ガーネット、嘘だって言ってくれ!」
人目をはばからず叫んだ。そうしていなければ立っていられなかった。


 何も変わってなかった。景色も風も。ミシロタウンから見える海、そして大きな雲。この季節にちょうどいい空模様。全てが終わらせる為に戻って来た。
「どうしたの?」
家の玄関を開けたセンリが、暗い顔をしたザフィールに問いかける。何も言わず、センリにモンスターボールを突き出した。
「あいつのポケモンです。すみません!俺は何も守れなかった。何一つ!」
「え、どういう?ザフィール君?」
センリが呼び止めるのも聞かず、ザフィールは走る。まともに顔なんて見れるわけがない。まともに伝えられるはずがない。そもそもザフィールがその事実を認めてない。
 走って走って、走り抜いた。どこへ行く宛などない。どこへだって良かった。まともに寝ていない体ではそう遠くに行けるはずもない。気付けばコトキタウンを抜け、103番道路にいた。
「おにいちゃん!」
呼び止める声がする。ザフィールが振り向けばガーネットの妹、くれないがエネコと一緒に立っている。
「おかえり!おにいちゃんどこいってたの?すごかったね!おにいちゃんはみた?あらしのなか、とんでくおっきなとりポケモン!」
むじゃきな笑顔にザフィールは答えられない。ただ事ではないことを察知したのか、くれないの口調が強まる。
「おねえちゃんは?いっしょじゃなかったの?」
「ごめん、ごめん!おねえちゃんは……」
くれないを抱きしめ、涙が流れるままにザフィールは泣いた。何がどうなったのか解らず、くれないはただザフィールの言葉を待った。そしてはっきりと告げる彼を突き飛ばす。
「そんなことあるわけない!おにいちゃんのうそつき!」
強くにらまれた。嘘だと思う気持ちと、なぜ何もしなかったという軽蔑の眼差しが混じっていた。
「おにいちゃんのバカ!」
背を向けて走り出すくれないを、エネコが必死に追いかける。ザフィールのことなどおかまいなしに。
 彼もちょうど良かった。もう一人になりたい。背負うものが大きすぎる。大きな木の根元に腰を下ろした。そこから見えるのは、のどかな103番道路。そこに生息する野生のポケモンたち。
「そういえば、ここで勝負したときは、ふっかけた上に負けたっけか」
出会いの印象は最悪の一言。それしかなかったのに、いつの間にか心に入り込んできた彼女。木の実栽培が趣味で、ポロックをたくさん作ってて。うそなきも使えば爆裂パンチも使う、絶対に勝てそうになかった相手。どうやって知ったのかカナシダトンネルでは助けてくれたし、カイナシティでは……。
 次々に浮かぶガーネットのこと。こんなことならなぜもっと早く優しくしなかったのだろう。あんなことならもっと早く伝えればよかった。
「ガーネット、ごめん。誰よりも好きなんだ」
あんな形で告白されても先がないなら意味がない。答えられないなら意味がない。もう会えないのに、伝えたい言葉はたくさん出てくる。受け取る人はもういないのに。

「……もう行かなきゃ。まだやることはある」
ザフィールは立ち上がる。まだ心は落ち着かないけれど、いつまでもここにいるわけにはいかない。後押しするかのように初夏の風が吹き抜けた。

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後書き
ルビーサファイアが発表されたころ、行きつけのサイトの絵が主人公二人だったのですが、その絵がどうみてもマグマ団の二人にしか見えなかった。
なので彼にはマグマ団になってもらいました。
ルビーサファイアは他の人は比較的温厚な感じで書かれてるのに対し、ロケット団なみに冷酷な話になってしまった。
この話で一番かっこいいのは実はギャロップ(シルク)であると信じている。
凍った海を渡るシーンが一番書きたかったので、そのためにホウエンにいないポニータを使って使って使って、ようやく書いたあのシーン。
本当はガーネットが乗って行くはずだったのだが、ザフィールになったためなんか王子様っぽくなったが結果オーライ。
元々の名前のルビーとサファイアでいいじゃないかと思ったよ。次書く時はそうするよ。
ガーネットはルビーと同じく赤い宝石、ザフィールはサファイアのドイツ語です。耳慣れない響きだし、なんか悪役っぽさが増したのは、マグマ団なんかやってるし、いいかと思って。
この話のテーマは解る通り復讐。小さい頃の仇を討つと誓ったザフィールも、親友の仇を討とうとしたガーネットも、どこかで気付けば迎える終幕は違ったものかもしれない。ホムラだって命令と自分の心情を秤にかけて迷うことだってなかったはず。無意味ということに。
けれど結果はこのようなエンディング。
それでも一時的には幸せだったのが救い。


この話を読んだ方の最も多い疑問。
ユウキって誰?→敵。
ハルカって誰?→小さい時のザフィールをまあ精神的に助けてくれた子。

え?あらしの中の大きな鳥ですか?
やだなあ
ジョウトの子が海の神様って言ってるんだからもちろん(当局にスナイプされました)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【何をしてもいいのよ】


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