マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.536] 10、カイナの海岸線 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/16(Thu) 18:23:32   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 追い掛けなければいけないのに、歩みは遅い。足が止めているかのように、動いてくれない。
 それでも行く人行く人にたずね、キンセツシティを南へと抜ける。目の前に広がるのは海沿いの道と、サイクリングロード。自転車で風を切る人たちを立ち止まり見つめて、それから再び前に歩き出す。道に生えるのはポケモンが生息していそうな草むら。海風になびき、心地よさそうに踊っている。
 その道をさらに南へ。その先にカイナシティという大きな港町があるという。そこは人の集まる大きなところだ。ならば彼もいるかもしれない。
 カイナシティへの道を歩く。時々、野生のポケモンが飛び出してきたりしていた。それをミズゴロウのシリウスが追い払う。ここに来てやけに電気タイプのポケモンが多く見られるようになってきた。水タイプのミズゴロウは苦手なはず。けれど力強く水を放したり、塩水と土が混じった泥を投げつけて攻撃する。そのおかげでだいぶミズゴロウの体力も上がってきたようだった。
 次に出て来たのは緑色の四肢動物、ラクライだった。同じようにミズゴロウが泥を投げつけた。それにひるみ、ラクライは体の電気を溜め込む。今までの電気タイプの戦い方からして、きっと次はそれを放出して攻撃してくるはず。先手必勝、ガーネットがミズゴロウの名前を呼んだのと同時に水をおもいっきりラクライに飛ばす。後方の草むらに吹き飛び、そのまま戻って来ない。
「やったね、シリウス!」
頭のヒレをなでる。こうしてもらうことが一番喜ぶ。ミズゴロウが嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らした。そして全身を水を切るように震わせると、その体を光らせる。思わず飛び退いた。何がこうなってどうなった。ポケモンって光るのか。初めて見る光景に、ガーネットは混乱状態である。光は大きくなり、その姿を変えて再びガーネットの前に姿を現す。
「え、なに、これが進化?」
幼いミズゴロウの影は無い。進化したヌマクローがそこにさらに嬉しそうに立っていた。進化すると聞いたことはあるけれど、その瞬間を見たことがなかった。驚いて声も出ない状態から、その喜びのあまりヌマクローに抱きつく。少し湿っている皮膚は変わらない。ご褒美と称して作ってきたポロックを一つ。空色ポロック、苦くて甘い味。期待する目でそれを受け取り、口にもって行く。ぐっぐっと喉の奥から声を出しながらそれを食べる。食べ終わり、とても満足そうな声で鳴いた。
「じゃあ次に行こう。あ、そうだ、そろそろ新しいポケモン捕獲してみようか?」
ヌマクローとなったシリウスは素直に頷く。次に出て来たポケモンを捕獲する。そのことに期待し、草むらをかき分ける。飛び出してくる、2匹のポケモン。赤と青のウサギ。色でしか判別がつかないほど2匹は酷似していた。ガーネットの姿を見かけると、赤い方はとっさに逃げ出す。青い方はヌマクローを見てものすごい電気をためて威嚇している。
「いけ、みずてっぽう!」
空のモンスターボールを用意して。ヌマクローの攻撃のタイミングと共にそれを投げる。


 動かなくなったモンスターボールを拾い上げる。新たな仲間。おそらく電気タイプのポケモンだ。様々な期待に満ちた目でそれを見た。名前や育て方、どう仲良くなったらいいのかなど、考えることはキリがない。
 まわりを見回し、先ほど逃げてしまった赤い方を探す。けれど既に遠くへと行ってしまったようで、目立つ黄色と赤をみつけることは出来なかった。ため息をつくと、本来の目的、カイナシティへと足を運ぶ。
 草むらが途切れたところで、古い建物が目に入る。入り口には「近日新装開店!」としか書いてない。不思議に思いつつも、そこから離れていく。幽霊が出そうなほど古いから、あまりいい印象は持たない。お化け屋敷か何かなのだろう、縁は無いようだ。
 さらにそこから南へ行くと、潮騒の賑わいが強くなる。高い波が近いのだ。行き交う人々の声も聞こえてくる。道案内など見なくても、カイナシティに着いたことを実感する。初めて見る港町。思わずガーネットは走る。山育ちの為に海がとても珍しい。潮風が強くガーネットを迎えた。人が多く、ごちゃごちゃしている感じは都会なのだということを思わせる。同時に本当にみつかるのか不安が襲う。
「考えててもしゃーない」
体を伸ばす。そして潮風をおもいっきり吸い込んだ。地道に聞いていけばすぐにみつかるはず。新雪のような髪をした男の子など世に二人といないはずだ。


「なんだ、まだやってないじゃないっすか」
任務後、マグマ団の制服から着替えたザフィールは、カイナシティでゆったりとしている先輩に出会った。そこで話をしていたらカイナシティの少し外れたところにあるカラクリ屋敷に誘われる。興味津々でついてきたのはいいけれど、近日新装開店!という張り紙があるだけ。カギもかかっているし、そもそも屋根が茅葺きで今にも崩れそう。入るには勇気がいる。
「あれ、少し情報が違ったか。まあいいか」
「いいじゃないっすよもう・・・俺はポケモンの調査するんで、じゃ」
「おう、気をつけろよ」
カラクリ屋敷前で別れる。野生のポケモンを調査するために110番道路の草むらへ。この辺りはキンセツシティに近いし、何よりもホウエン全土の電気を賄っている発電所、ニューキンセツがあるために電気タイプのポケモンが多い。どんな電気タイプがいるのかと心ときめかせながら草むらに入る。
 その瞬間、視界が黄色に染まった。思わず後ろに手をついて倒れる。そして冷静になって顔に張り付いたものに手をかけた。ズームアウトしていくにつれ、はっきりしてくるそれ。
「なんだ、プラスル?」
仲のいいコンビにの例えにプラスルとマイナンという言葉がある。それくらい、プラスルとマイナンはいつも2匹で一緒にいる。別の種族なのに、いつも仲がよい。それは野生でも変わらず。相方のマイナンがどこかにいるのかと思い、見渡すもそれらしき影は見当たらない。ザフィールの手に掴まれたプラスルは電気で攻撃することもせず、ただ高い声で鳴く。
「っても俺はお前の言葉を理解は出来ないんだがなあ」
空のモンスターボールをみせる。逃げるのかと思いきや、それを見るとさらに激しく鳴く。ポケモンにも色々変わったのもいる。そのままプラスルの入ったボールを持ち上げた。
「よーし、じゃあ110番道路の調査も始めるか」
研究所を構えてから中々遠くに出かけることが出来なくなった父親のため、ザフィールは草むらに飛び込んだ。後ろをついていくのはキモリ。キーチと呼ばれる度に野生のポケモンをなぎ倒していった。


 夕方になり、疲れた足でカイナシティへと帰る。空腹もあって、暖かい食べ物を想像しながら。まだ夕日は出ているとはいえ、薄暗くなる今の時間に草むらに入るのは危険だ。
 ザフィールは達成感に溢れた顔で、カイナシティを横切る。まずは夕飯を食べてからにしようか、それとも母親に頼まれていたカイナの近海産の煮干しを見に行くか。ポケモンセンターでポケモンの回復をさせながら何にしようか考える。
 回復から戻ってきたポケモンたちを確認する。ジュプトルに進化できたキーチ。元気が有り余ってるスバッチ。やたらと攻撃力が強いエーちゃん、海の戦闘は右に出るものがいないイトカワ、そしてどんなに調査しても相方のマイナンがみつからないプラスル。きっと違うトレーナーに捕獲されたか、補食されたかどちらかだろう。野生のポケモンなんてそんなもの。手持ちのボールを全て用意すると、ポケモンセンターを飛び出した。
「お、灯台がもう光ってる」
カイナシティの岬にある灯台が発光を始めていた。海に向けて、遠くを行く船の為に。まだ日があるというのに、早いものだ。これがカイナシティの名物の一つ。観光気分で灯台へと近づく。
 慣れたとはいえ、潮風はやはり嫌い。近くまで行こうとして、ザフィールは足を止めた。
「あの、すいません。僕をこうやって掴むのは」
海が嫌いだから止まったわけじゃない。足が動かないのだ。手を掴まれて。どんなに力を入れても動けない。もうそれはあの人しかいない。
「ガーネットちゃんしかいないと思うんですが、ご本人でしょうか」
ザフィールがその名前を呼んだ人以外、存在すると想像するのは頭が痛い。後ろも振り向かず、ザフィールは高なる心臓を感じた。後ろにあるのは殺意と面倒をかけさせたための殺意と苦労をかけさせた殺意のオーラが混じっている。
「どこいってたのかなあ、ザフィール君」
ザフィールの体が宙に舞った。


 堅いコンクリートの地面に叩き付ける。受け身をとった割にはザフィールは痛そうで、声が出ていない。そしてガーネットは彼が立てないように、体の上に乗る。今日の恨みを晴らそうと左腕を振り上げる。その瞬間、カナシダトンネルでの出来事が頭をよぎる。血だらけだったこと、本当に死ぬんじゃないかと思ったこと。
 そう思ってしまったら拳の勢いはつかず、頬にふれただけだった。やわらかい頬をその手でつねる。
「人のことをうざいだのジャマだの良くも言ってくれたわね」
「いたたたたたたいたいですいたい!」
手を離す。頬が赤くはれている。そして反対の頬もつねる。
「やっぱりあんたなんでしょ。白状しなさいよ」
「いたたたたたたったいってば!」
必死に懇願する。ガーネットの目は簡単なことでは許してくれそうにない。今度こそ鎖でつながれてしまいそうだ。
「だってだってアクア団みたいな連中がいて、何してくるか解らないのに、これ以上一緒にいられるか!」
「私より弱いくせに何いってんのよ」
「じゃあ、試すか?俺は2回も負けるほど弱くねえよ。俺に負けたらもう追い掛けてくるんじゃねえぞ」
ザフィールを解放する。今度はトンチで逃げようともしていない。真剣勝負を挑んで来ている。ガーネットはモンスターボールを構える。
「行け、シリウス」
「イトカワ、得意の海だ!」
ボールから出たヌマクローは、敵の姿を探す。いないのだ、イトカワと呼ばれたポケモンが。
「体当たり!」
海の波間から飛び出した丸い生物。一瞬にしてシリウスが引き込まれるように海へと消えて行く。夕闇の暗い海は、2匹の姿など見えない。何が起きたか解らず、ガーネットが叫んだ。思わず海に飛び込もうと波の荒いヘリに立つ。
「やめろ、夜の海は!」
後ろからザフィールが押さえつける。がっしりとつかまれた。振り払おうとしても、しっかりとつかんで離さない。
「だって、シリウスが」
「夜の海は誰も見えない、水ポケモンくらいしか動けないんだ、それなのにお前が行ったところで」
ホエルコが海中から飛び出す。技の為に飛び出たのかと思われた。そのまま陸に飛び上がる。固いコンクリートに叩き付けられたホエルコは完全に伸びていた。その後に波の間からシリウスが顔を出す。人間たちは何が起きたか解らない。
 ガーネットをおいて、ザフィールがイトカワに近寄ると、たくさんの泥や砂でキズついたと思われる跡を見た。最後は水流で吹き上げられたようだった。重たいホエルコの体を持ち上げることが出来るのは、激流という特性のおかげのようだ。傍目で喜んでいるガーネットを見た。知ってか知らずか、いずれにしても彼女も彼女のポケモンも油断ならないやつに見える。
「マッドショットか、指示なくてもここまでやるとは、あなどれないなヌマクロー」
イトカワ、とホエルコの名前を呼んで戻す。ガーネットもほめてからヌマクローを戻した。
 ザフィールは本気で取りかかる。海中がダメなら陸上のポケモン。そしてボールを投げる。ピンク色の猫、エネコのエーちゃん。普通のエネコより少し大きく、戦闘向きではないといわれた種族だけど、このエーちゃんは違った。
「しょうきち!」
ガーネットの呼び出したのはジグザグマのしょうきち。今まで素早い動きで敵を倒して来た。今度も出ると同時に頭突きを指示する。まっすぐではなくじぐざぐと曲がりながら大きなエネコに突進する。
「猫の手!」
ザフィールの命令した技は仲間の覚えている技を呼び出すもの。エネコの体から不快なものが発される。それを正面から受けたしょうきちの動きが鈍くなる。電磁波だった。ポケモンを麻痺させてしまうもの。それでもしょうきちは耐え、エネコに頭からぶつかる。その攻撃力にエネコは後ろにのけぞる。攻撃してきたジグザグマはエネコをじっと見て動かない。
「よし、エーちゃんのメロメロボディ発動だ!」
「メロメロボディ!?」
「攻撃してきた異性のポケモンをメロメロ状態にしちまうエネコの特性だ!お前のジグザグマは麻痺にメロメロ、もう動けないぜ!」
エネコはしっぽをムチのようにして何度もジグザグマの顔をはたく。
「しょうきち!」
ガーネットの呼びかけにも反応しない。エネコに何度もはたかれ、痛い思いをしてもメロメロ状態は続く。動かないしょうきちを倒すのはエネコでなくても簡単だった。エーちゃんはいとも簡単にしょうきちを瀕死に追い込む。
「それなら・・・戻ってしょうきち」
ジグザグマをボールに戻す。まだ甘い夢を見てるのか、ボールに戻る直前まで足がばたばたと最後まで動いていた。
「いけ、リゲル!」
ボールから出たのはキノココ。エネコは見た瞬間に楽勝とばかりにしっぽではたく。
「あ、エーちゃんだめだって!」
気づいた時には遅い。攻撃を受けて発動する特性をキノココも持っていた。キノココであるリゲルは、胞子という特性がある。触れた相手を状態異常にしてしまう技。触れたしっぽについた胞子が、エーちゃんの体を蝕む。毒がまわり、具合悪そうに体を丸める。さらに宿り木のタネを絡ませ、体力を吸い取っていく。
「やばい、戻れエーちゃん。頼むぞスバッチ」
ボールに戻ったエネコの代わりに、出てくるのは小さな鳥スバメ。
 もう暗いというのに、くちばしを開けて高い声でさえずる。エネコの代わりにキノココのメガドレインを食らうと、ザフィールの指示に合わせて嘴でつついた。苦手な攻撃に思わずキノココがしびれごなをまき散らす。それを吸い込み、スバメが麻痺したというのに、ザフィールが戻す気配がない。
「これを待ってた、つばさでうつ!」
小さな鳥の翼が、キノココに当たる。それなりに体重があるはずなのに、一撃で吹き飛ばされる。キノココをキャッチすると、目をまわしているのでボールに戻した。思わぬ攻撃に、何があったのか飲み込めてなかった。
「根性あるんだよなあ、スバッチは!」
「こん、じょう?」
「状態異常になると強くなるんだよ!いろんな知識がないとやっていけないぜ!」
挑発するような言い方に、ガーネットのボールを掴む力が強くなる。
「ならばもっと根性みせてみなさい!行け、シルク!」
暗い闇を照らす炎。コンクリートに堅い蹄の音が響く。進化していない状態では強い方に入るポニータ。麻痺しているスバッチを焦がすなど余裕のことだった。火の粉が舞い、スバッチの羽を燃やす。
「スバッチ!やばいから戻れ」
 完全に燃え尽きる前に、ボールに戻した。ザフィールは少し考えているようだった。毒状態のエーちゃん、相性が悪すぎるキーチ、そして新米のプラスル。せめて、とエネコを最初に出す。
「エーちゃん頼む!」
「エネコに炎の渦!」
炎がエネコを囲む。ザフィールが戻そうとするも、炎に阻まれて届かない。毒と炎、両方に体力を奪われながらもエネコは歌って眠らそうとした。けれど完全な調子が出ないエネコの歌声が届くはずもなく、炎の渦が消えるころにはエネコはコンクリートに伏せていた。
「相性完全に悪いが、キーチ頼む!リーフブレード」
「押し切るのよシルク!」
素早いキーチを炎の渦が捕らえた。苦手な炎に囲まれ、キーチがそれでも渦を突破し、シルクを斬りつける。炎のたてがみが草の剣を焦がした。体へのダメージはほとんどない。
「くそ、居合い切り!」
シルクは再び火の粉を巻こうとしている。再び巻き込まれたら次はない。キーチは上に跳んだ。前ばかり見ていたシルクは見失う。
「シルク上!」
ガーネットの声も遅かった。キーチは腕の刃をつかい、上から攻撃を行なう。居合い切り。葉の刃を剣に見立て、細い木ならば切ってしまえるもの。体を切られ、ポニータが悲鳴をあげる。ダメージはそれほどないものの、冷静に炎の渦を命中させることが出来ない。ジュプトルは森の中では無敵を誇るポケモンだ。キーチは陸でもそうだった。素早さでポニータの動きを封じる。火の粉も当たらず、キーチは斬りつけてくる。
「いまだ、リーフブレード!」
ポニータの後ろを取る。そのまま近づいたら危ないが、キーチは上からの攻撃が出来る。跳んだ。炎のたてがみを避け、確実にダメージが入る場所に葉の剣が食い込んだ。
「シルク、今だ!」
その瞬間、炎のたてがみが燃え盛る。ジュプトルにその炎は燃え移り、悲鳴をあげた。そしてそのまま暴れ馬のようにジュプトルを振り落とす。ザフィールの足元に倒れたジュプトルは、ところどころ焦げていた。もう戦えない。新緑の力をもってしても炎タイプには相性が悪すぎる。ボールに戻した。
「これが最後だ、プラスル!」
「シルクももう戦えない。こちらも最後よ、マイナン!」
その場に出た2匹は固まった。敵だと言われて出た相手。それは野生の時にみつけた相方。どうしたらいいか解らず、プラスルもマイナンもにらみ合うだけ。
「あ、そのポケモン!」
「もしかして、相方のマイナン!?」
お互いに頷いたようだった。人間の言葉を理解したわけではない。覚悟を決めたような頷き。プラスルにもマイナンにもその目に闘志が灯っている。そして次の瞬間、主人の指示により戦いが再開される。
「プラスル電磁波!」
「マイナン、鳴き声!」
プラスルの方が速い。ザフィールの指示で特殊な電波を飛ばし、マイナンを捕らえる。麻痺したマイナンは、動きの鈍った体を引きずるように動かした。ガーネットの命令を遂行するために。
 喉の奥から鳴き声を振り絞る。プラスルの攻撃力が少し弱まったように感じた。
「プラスルスパーク・・・」
「マイナン電光石火!!」
プラスルに突っ込んだ。必ず先に攻撃できる技、電光石火だ。不意をつかれたプラスルはマイナンに向き直ると電気をためて、勢いをつけて突進する。プラスルの体から青白い火花が散っていた。
「よし、スパーク決まったな!相手は麻痺してる、そのまま決めろ!」
しびれて動けないマイナンに、容赦なく降り注ぐ攻撃。電気タイプは、電気技をあまり受けないけれど、何度も受けては体力が減って行く。
「マイナン、電光石火!」
「させるか、プラスル、こちらも電光石火だ!」
麻痺していない分、プラスルの方が速い。マイナンのやわらかい腹部に向かっておもいっきり攻撃する。麻痺したマイナンではそれを避けきれない。マイナンは倒れ、痛がって起き上がろうとしない。ガーネットはボールに戻した。
「勝った、勝ったぞプラスル!よくやった!」
ザフィールと共に嬉しそうにしている。すでに夕日は沈み、夜の闇が広がっていた。ところどころの街灯が灯り始める。昼のようにはっきりとは見えない。白い光が、等間隔で灯る。街灯が背にあるガーネットは特に見えづらい。
「わかったな、これでついてくるんじゃねえぞ」
勝ち誇ったように言う。そして彼女の横を通り過ぎてカイナシティの中心部へと帰る。これでもう何もかも解放される。自由に見つかることにおびえず、堂々と歩けるし、マグマ団のことだってバレずに済む。足取りは軽い。
「なん、で?そんなに、ジャマなの?」
「なにいってんだよ、あたりまえ」
振り向いたザフィールは言葉が出て来ない。体も声もそのまま固まったように動かない。
 泣かした。泣かしてしまったのだ。気の強いガーネットのこと、こんなことくらいで泣くとは到底思えなかったのに。調子に乗りすぎたのか、ジャマだと主張しすぎたのか。いずれにしても、ザフィールが混乱しているのは目に見える。このまま去ろうとするけれど、足がどうしてもその方向に向かない。
「い、いや、その・・・泣くことないじゃねえか」
「ザフィールに、うざいって言われて、私は悲しいんだよ?」
ガーネットの言葉は彼をさらに混乱させるには充分だった。人通りがないのが救い。知り合いとはいえ、大泣きしている相手を放置して去れるほど冷酷になりきれない。
「うーん、だから・・・ごめん、俺が悪かった。ついてきていいからもう泣きやんでくれよ」
肩をそっと叩く。自分でも驚くほどの言葉を発していた。自然に出てきたのだ。泣かれてしまうとものすごい罪悪感が出てくる。ガーネットが心の中で勝ち誇ったように笑ったのにも気づかずに。
「言ったわね」
途端に低くなる声。何が起きたのか解らず、ザフィールは固まる。
「ついてきていいって言ったわね。ザフィール君」
「な、まさか嘘泣き!?ありえねえだろおい、待て、今のは・・・」
「言ったからには守ってもらうわよ!」
がっしりと腕を掴まれた。抜こうとしようものなら肩の関節の方が抜けそうだ。逃げるにも逃げれず、ザフィールは海に向かって叫んだ。その叫びは、荒波にかき消され、他の人に届くことはなかった。


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