マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.596] 30、マグマ団アジトにて 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/24(Sun) 15:36:46   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 シルクに乗ったままミナモシティにつく。ガーネットの手に抱えられていたザフィールは、そこで下ろされる。マグマ団の姿に街行く人々は驚きと軽蔑の視線を送る。一緒にいるガーネットまで。ミナモデパート前で残っていたマグマ団に声をかけられた。アジトでの留守番組だ。そしてガーネットを見ると、その腕をつかんだのだ。
「何するんですか!」
そう叫んだのはザフィールの方。手を振り払い、ガーネットを自分の方に引き寄せる。そしてかばうようにマグマ団との間に入る。
「何って、知らねえのか?ボスがそいつが欲しいってよ」
「ガーネットは物じゃない!」
いきなり噛み付かれてマグマ団たちは驚いたのような顔をする。ここで反抗するのは得策じゃないと冷静になる。そして大人しい口調で、俺が一緒に行くからいいんだと言った。ガーネットの了解も得ていないけれど、彼女の手を引っ張って歩く。
「ザフィール、待って!」
「待てるか。ここでお前が拒否するなら、どんなことしても連れて行く。もう時間がない」
どうしてマグマ団は皆冷たく見えるのだろう。ガーネットは不思議で仕方なかった。小さく行くと言い、ザフィールについていく。



「ここなら誰も来ないから」
ホコリっぽく段ボールが積み上がっている狭い部屋。整理されてない物置のよう。背負っているガーネットを要らない本がつまった段ボールの上に乗せる。そして隣に座った。
「倉庫?」
「要らないもの置き場かな。俺が勝手に私物化してるだけなんだけど」
ミナモシティにあるマグマ団のアジト。そこの一角。掃除すらされていないような、まさに掃除が苦手な人の部屋。
「マツブサさんが帰ってきたら、俺行くからその時は待っててよ」
「行っちゃうの?」
「行かなきゃさ、まだ他にも追いかけてると思うし」
何も言わずにザフィールのかぶってるフードを取る。影になっていた顔が薄暗い明かりに照らされる。
「マツブサさんってどんな人?」
「顔は怖いんだけど優しくて。これは誰かが言ってたんだけど、理想の上司らしいよ」
ザフィールは左手でガーネットの額に触る。かなりの熱感が左手に伝わってくる。頬も赤い。
「まだ帰って来ないだろうから寝てなよ」
「ザフィールは?」
「着替えてくる。これ洗濯しなきゃならないし」
立ち上がる。自分の着ているマグマ団の服を指して。
「さっきもいったけど、ここ本当誰も来ないから。失敗してここで一人で泣いてたりしたんだぜ。んじゃ、着替えてくる」
そういって左手でドアノブをまわす。カギがないし、倉庫なんだけれど誰も来ない。ここにおそらく大事なものは無いのだ。だから段ボールの中身がザフィールが家から持ち込んだ雑誌だったりする。何年も前に刊行された物で、すでに本人も読む気がないもの。
「待ってるから!」
「解ってるよ」
一回だけ振り向いて、ザフィールはドアを開ける。消えて行く後ろ姿をガーネットは見ていた。さらさらしていて雪のような白い髪。ドアの向こうに隠れるまでずっと。


 マグマ団の服を脱ぎ、元の上着に着替える。タイミングを見計らったかのようにポケナビに連絡が入る。マツブサからで、アジトについたという連絡。紅色の珠と藍色の珠は無事かと聞かれた。ガーネットにさえ見られないようにこっそりしまったのだ。鞄の中を確認し、二つの珠が光るのを見る。
 そのままマツブサの部屋に来るように言われる。制服汚して洗濯中なんてまた小言を言われるに決まってる。けれど仕方ない。二つの珠を持ち帰るのが受けた命令だ。誰かが間違って入ってきても解らないような、海岸の洞窟を利用したアジト内。小さい頃からずっといたのだ、そんなの迷うわけがない。
「マツブサさん!」
専用のデスクに座ったマツブサは疲れた顔をしている。おくりび山の一件は、忘れられないくらいに圧されてしまった。その反省と成果を考えているような顔。
「ザフィール、良くやったな」
「はい。これがそれです。あと、お願いがあるんです」
「なんだ?」
目の前に出された二つの宝珠。それを見ることなく、マツブサはザフィールを見た。
「あの、ガーネットなんですが・・・あいつは連れて来なくてもちゃんと来ますから。俺が連れてきますから。だからムリヤリなんてやめてください。アクア団の時だって怖がってたのに」
「来ているのか?」
「はい。それと友達がマグマ団に殺されたっていって、マグマ団のことだって怖がっているのに、あんなことしたら」
「解った。伝えておこう。それとここに連れて来い」
「ありがとうございます!」
とびっきりの笑顔で外に出て行く。子供だなという感想を口には出さず、近くの受話器を取る。
「お前のここ一番の仕事だ」
それだけ言うと電話を切った。失敗は許さない。ただ一回の切り札。一回だけでいいのだ。後はどう切り離そうがこちらの自由なのだから。


 体が熱くて少しじっとしていたらすぐに眠くなる。横になり、少し目を閉じる。それと同時にドアノブが回る音が聞こえた。体を起こす。見れば着替えたザフィールが見える。いつも見慣れたものでなく、半袖を着ていた。何か不思議な服装だなと思ったが、マグマ団の服よりマシだ。
「おかえり、早かったね」
何も言わず、彼は近づいた。そして右手でガーネットの体を引き寄せる。突然のことでどうしていいか解らず、されるがまま壁に押し付けられる。そして右手で頬に触れて来て、唇が近づく。その手前、ガーネットは今の出せる全ての力で突き飛ばす。
「あなた誰!?ザフィールじゃないわ!」
驚いたような顔をして立っている。顔立ちも体格も全て同じだ。雪のような白い髪も。けれど違う。
「何を言ってるんだよ。俺なんだけど・・・」
「ザフィールは左利きよ!あなたは右手で私に触れた」
この3ヶ月。ずっと一緒にいた。モンスターボールを投げるのも、ポケモンをなでるのも、ずっと左手だった。直接左利きなのかと聞いたことはないけれど、ずっと見ていれば解る。それにいつだって左手で触れて来た。
「・・・ふうん、解るんだ。そんなことで」
見覚えのある手首のリストバンド。同じ声なのに他人を徹底的に排除するような冷たい言い方。知っている。会った事がある、この男に。ホウエンに来る前にマグマ団と一緒にいたあの男。親友を殺して笑っていたその男。
「思い出してくれた?あの時は逃げられたが、今度は逃がさねえ。まどろっこしいことさせやがって」
腹部に強い衝撃が来る。声も出せないほどの痛み。持ち上げられることに抵抗も出来ず、そのまま持ち去られる。こいつに反撃したいのに、体が言うことを聞かない。


 誰も来ないけれど、早く行って安心させたい。ザフィールがアジト内を急いで走っていた。強そうに見えて、意外なところで心配性だし、よく泣くし。どちらが本当なのか解らない。けれど、どちらも本当なのだろう。だからこそ自分のせいで泣かせるようなことはしたくない。
 もう少しで倉庫だ。自然と足が早まる。曲がり角を曲がって、少し走ればすぐだ。息が切れることもない。心が軽いような、緊張するような解らない感じ。ザフィールは足を止める。目の前にいる、奇妙な人間。
「よぉ、本物さん」
バカにしたような言い方。目の前にいるのは、自分そっくりの人間。身長から肩幅、そして声まで同じ。こんなことがあるのか。ドッペルゲンガーを見ているようだった。けれどそんな優しい現象ではなさそうだ。そいつは確実にガーネットをどこかへ連れていこうとしているから。
「邪魔なんでね、通してもらいたい」
「いいぜ。ただしその子を下ろせよ」
ザフィールは一歩前に出る。臆することなく、そいつはモンスターボールを投げる。中からロコンが現れた。
「それは出来ないね。ボスの命令は絶対だ」
ロコンはしっぽから妖しくうねる炎を燃やす。そこから放たれる光は相手を混乱させるもの。それに気付き、一瞬目を覆った。それだけではない。さらに光は閃光弾のように激しくなる。ふとそれがなくなり、ザフィールが前を見ると、忽然と消えている。男もロコンも。
「しまっ・・・」
人を連れて、そう遠くへはいけないはず。追跡できるよう、キーチのボールを探る。いつものホルダーにあるはずのモンスターボールは全て空気を触っていた。
「あれ?あれぇ?」
ボールが見当たらない。一つたりとも。
「まさか、取られた!?」
胸の辺りから広がる感覚。虫が這うように不安を伝える。焦る心に落ち着けと呼びかけた。一人でも追いかけなければ。そして取り戻す。ガーネットもポケモンたちも。


 
 ボスの命令は絶対だとそいつは言っていた。ならば行く先はおそらくマツブサのところ。アクア団とも考えられたけれど、ここをすいすい通行できるのはマグマ団しかいない。多少は寄り道したが、全力で走れば追いつくはず。
「おい、待て!」
読みは当たる。マツブサの部屋に続く廊下で、ザフィールは追いついた。足元にはバクーダが主人と似た男を睨みつけている。
「ザフィール・・・」
絞り出すような声でガーネットが呼んでる。大型の技が得意なバクーダで攻撃するのは得策ではない。
「しつこいな。そんなにこの女が心配なのかよ」
「それはお前の知る事じゃねえだろ。もう一度言う。放せ。それで俺のポケモンも返せ」
にらむ。似た男は表情一つ変えない。いくら熱があるとはいえ、あのガーネットを完全に抑えこんだやつだ。ザフィールは冷静を装いながらも、飛び掛かるタイミングを見計らっていた。
「従わなかったらそのバクーダでこの女ごとぶち抜くか?後ろも解らないやつが、ねえ」
「どういうことだ?」
「こういうことだよザフィール」
乾いた音。同時に右の太腿に灼熱の激痛が走る。振り向く間もない。支えきれない体が倒れる。堅い靴音が冷たく側を通り過ぎる。その声、足元は見慣れたもの。最も信頼し、最も尊敬していたマツブサの。
「遅かったなユウキ」
何も言わずにユウキは連れてきたガーネットをマツブサに引き渡す。まだ言葉を発する余裕がないのか、ユウキを噛み付きそうな勢いでにらんでいる。
「それで、あいつはどうする」
ユウキが見ている。完全に勝利したような目で。なぜマツブサがこんなのと話しているのか、そしてマツブサが自分に何をしたのか理解できない。そうすることなんてあり得ない。
「鍵のかかるところにでも閉じ込めておく。朝には出血多量で死ぬだろう」
「マツブサ・・・さん?」
「明日の朝早く出発する。お前はそのままこいつらを見張れ」
バクーダが主人を守るように立つ。後ろ足がまともに動かないけれど、背中の火山から吹き出す炎は歴戦の強者を思わせる。
「・・・邪魔だ」
銃口を向ける。トリガーがかかっている。本気で引く気だ。
「戻れボル」
手元にあったボールのスイッチにようやく触れた。こんなところで昔からの戦友を失うわけにはいかない。マツブサに手を踏まれ、そのボールが転がったとしても。
「もうお前の役割は終わったんだザフィール。だからそのまま消えろ。アクア団の手に渡らないうちに」
踏まれた手に液体が触れる。自分の流れた血が、床に広がっていた。今も激痛は変わらない。マツブサの言う通り、このままでは朝を待たずに死ぬ。こんなところで、しかも裏切られたまま死ぬ。そんなことがあってもいいのか。体が引きずられる。投げ捨てられるようにして狭い部屋に入れられる。
「朝までは一緒にしてやるよ」
ユウキは笑ってガーネットを突き飛ばす。そしてすぐさま扉をしめて鍵をかけていた。
 電気の切れかかった照明。ザフィールは自分の手についた血を見た。激痛、そして止まることを知らない血。床にもどんどん広がっていく。
「ザフィール・・・」
心配そうにガーネットが見てくる。血のついていない左で彼女に手を伸ばす。その手をつかむ力はいつもより弱い。けれども堅く、離さないように。
「ガーネット、本当、ごめん。俺が、マグマ団なんかに、いなかったら、こんなことに・・・」
「バカ、そんなことじゃないよ・・・ザフィール」
血がつくことも恐れずに、ガーネットは自分の巻いていたバンダナをほどき、傷口を押さえ込むように巻く。触れただけなのに、ザフィールの中にさらなる激痛が走る。ただの傷ではない。そして血はこんなことで止まることはない。元々赤いけれど、さらに深い赤で布を染めていく。
「ザフィールじゃ、なかった。私の方こそ、ずっと言いがかりつけてごめん」
「そうか、わかってくれて、うれしい。これで、遠慮なく、言えるんだ」
「なんでもいい。だからザフィール、死なないで。お願いだから!」
出来るならばそうしたい。けれど意思とは関係なく自分の生命が弱っていくのが解る。アクア団に復讐するなんて子供のような考えを利用されて、このまま裏切られて。マツブサに撃たれたこと、そして不要なものとして扱っていることは事実だ。あの時に優しく迎えてくれたマツブサはもういないのに、どこかで否定していた。


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