マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.669] 34、ホムラの本気 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/29(Mon) 01:12:50   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「こうして見ると、マグマ団も大したことないのね」
机に頭と体を押しつけられ、身動きが取れない。圧倒的な力でイズミに押さえつけられては、微動だにすることも許されない。呼吸するたびに息苦しさを感じる。
「あんまり力いれんなよ。イズミだったら握りつぶしかねない」
入り口でウシオはそう言った。ミナモシティの港の倉庫にアクア団がいること。もうすでに日付が変わった。人通りも少なく、気付いたものは無い。
「大丈夫よ。そんなヘマはしないわ。それに子供の力だもの、あんたを押さえるよりかなり楽よ」
イズミに対し、ため息で答える。そしてアオギリが来るであろう方向をじっと見ていた。まだマグマ団のアジトを探しているのだろうか。街灯に人影はなく、今か今かと待っている。すでに出発の準備は整っていて、他のアクア団たちも仮眠を取ったり、休憩したりして待機中だ。

 どのくらい時間が経ったか解らない。高い外洋の波音に消されて足音は全く聞こえないが、街灯に照らされるアクア団の目印が見える。ウシオが体を動かし、その人物を迎えた。長身、そして体格の良い体はアオギリの特徴だ。
 辺りは暗い。アオギリの顔の詳細までは見えないけれど、マグマ団のアジトで何も収穫が無かったのは解った。そして休むこともなく、ウシオとイズミに声をかける。
「よし、マグマ団を追いかけるぞ。水中戦となればこちらの有利だ。先を越されるな」
号令と共に二人は動きだす。イズミはザフィールを完全に動けないように持ち上げ、ウシオはアオギリを導くように先頭を歩く。
 それから数歩。全く進んでいないところで、ウシオは止まる。夜の海風は一層強く、波も岸壁に打ち付けられ、大きな音を立てていた。だからこそ気付かなかったのか。
「うひょひょ、リーダーの命令は絶対なんでね。そいつを置いてもらおうか。そうじゃなきゃ、もったいないけどそいつごと食いつくぜ」
グラエナの隣に立っているマグマ団。それを確認すると、ウシオは一歩前に出た。
「あれだけ食らって、よく立てるもんだ。その根性だけは認めてやるよホムラ」
「ありがとよウシオ。だが今はそんな長話してる暇もねえ。そいつを返せ。じゃなけりゃまとめて噛み砕く。俺としちゃあ、イズミみたいなナイスバディをわざわざ傷付けたりしたくないわけだ。でも、リーダーの命令となりゃ別。もう一度言う。そいつを返せ。そうじゃなきゃ噛み砕く」
聞いたことのある声に、ザフィールは動けない体をやっとのことで動かし、そちらを見た。この状況で嘘のような人物の登場だ。すがるような思いで、ホムラを見つめる。
 助けてくれると期待して。マツブサに見捨てられた分、ホムラに期待をかけて。ウシオとにらみ合い、グラエナが今にも飛び掛かりそうにうなっている。そしてホムラの手が動いた。
 そのグラエナは真っ黒な毛皮を暗闇に溶かし、風のごとく走る。そしてイズミに突進し、その手からザフィールが開放された。転がりながらも助かったことを覚え、立ち上がろうとすると、背中を踏まれる。グラエナに。
「ザフィール、お前も動くんじゃねえよ。おっと、アクア団のお三方も同じだ。下手に動けばグラエナがそいつの頭を噛み砕く。必要なんだろ?ずっと探してたヒトガタなんだからなあ!」
いつもの、優しいホムラではなかった。ガーネットが言っていた、みんな冷たい人に見えるとはこういうことだった。もうマグマ団の幹部としてのホムラでしかない。マツブサの命令を忠実にこなす、冷徹なマグマ団。あの特徴的な笑い声さえも、氷柱のように耳に突き刺さる。
 目標を殺されてはたまらない。アオギリはイズミとウシオに動くなと伝える。ホムラの隙をうかがっている。グラエナはいつでも大丈夫だと言うようにホムラを見ていた。
 この状況、前もあった。その時は本当に子供で何もできなくて、ただ怖かった。泣き叫び、背中に感じる灼熱の痛みから逃げようとしていた。その時と全く同じではないか。強くなるとマグマ団でマツブサの言う通りに鍛えて強くなったと信じていたのに、何もできないことは変わってない。
 辺りは暗く、誰も気付かなかった。強い波と風で、声はかき消されていた。コンクリートを濡らす涙も見えなかった。唯一、背中に乗っているグラエナだけが異変に気付く。主人の命令でこうしているけれど、グラエナには今までホムラがかわいがっていた人間にいきなり敵意をむき出しにすることは難しい。グラエナの顔が、ザフィールの顔に近づく。どうしたんだと尋ねるように、頬をなめた。
「グラエナ!」
ホムラの声にグラエナは体をびくつかせた。まっすぐ主人の方を向き、ちゃんとやっているとでも言うようにしっぽを軽く振る。
「あとな、おくりび山ではよくもやってくれた。悪いが、単なる恨みじゃすまねえぜウシオ。それにアクア団のリーダーさんよ」
「ふっ、自分自身も守れない小僧の生き残りが何を言う。単なる逆恨みでよくも幹部にまでなれたものだ」
アオギリがホムラの神経を逆撫でするかのように喋りだした。
「誰が勝手に喋っていいっつったよオッサン。、あんたたちみたいのを助けるために、俺の弟は死んだんだぜ?復讐できるなら、マグマ団に利用されようが知ったこっちゃない。ようやく、リーダーの願望が実現されて、俺たちはあんたたちに復讐できる。カガリの分も一緒にな!」
激しい怒りを見せるホムラ。こんなホムラは見た事がなかった。いつも笑ってるかぼーっとしてるか、グラエナと戯れているかのどれかだった。そもそも昔のこととかマグマ団に入る前の話は一切しなかった。きっかけなどみなバラバラだが、最も深い怒りを潜めている。
「あの日、天気予報は台風そのもの。なのにあんたらは危険だという沿岸のおっさんのまで振り切って海にもぐったよな!特にアオギリのオッサン。結局帰れなくなって、レンジャーだけでなく、トレーナーまでかり出して、捜索させた挙げ句に助けに来たやつらを見殺しにして助かりやがった。あんたらだけ生きてるのはおかしい。おかしいだろうよ!」
煮えたぎるマグマのごとく、ホムラの怒りが弾ける。肩で息をしていたホムラが、大きく息を吸い込んだ。そしてうってかわって大人しい口調へと戻る。やるべきことが目の前で待っている。
「人んち荒らしといて、よくもまあ、そんなこと言えたもんだな。それに壊滅させてもらったようだが、俺たちの底力なめてもらっちゃ困る」
生き残りの意地か、赤いフードたちがアクア団の下っ端たちを囲んでいる。立場が逆転しているようにも思えた。アクア団の方も全ての人員を連れて来ているわけでもない。追跡のために少数で組んでいた。おくりび山の光景とは逆のことがいま起きている。
「さて、と。夜明けまで付き合ってもらおうか。足止めできればそれでいい。アジトにつれていけ」
ホムラが命令すれば、マグマ団の下っ端たちが動き出す。ここから離れてしまったが、岬にあるアジトへは人目を気にせず運べる。夜の闇にまぎれて。
 そして残るは幹部とアオギリ。それを見計らったかのように、最後のマグマ団が十分離れた時、アオギリは手を動かした。暗闇でも縦横無尽に空を飛ぶクロバットが現われ、ホムラのグラエナを翼でたたく。驚いたグラエナは、思わずザフィールから離れた。
 その隙をウシオが逃がさないわけがない。グラエナがかみつこうとしても、クロバットがそれを邪魔する。
「下っ端などいくらいなくなろうが、関係ないんでね。じゃ、マツブサによろしく頼むよホムラ」
アオギリがクロバットにそのままを命じる。飛び出そうとするが、ダメージが回復しきってないホムラが素早く動くことなんて不可能。ホムラは叫んだが、待つわけがない。
 ホムラのすぐ側を大きな風が通った。街灯の影にうつるのはオオスバメ。こんな夜中に飛べるのか。そのオオスバメはそのままウシオにぶつかる。何が起きたか解らず、ホムラはその光景を見つめた。そしてグラエナがクロバットを振り切ってザフィールを救出する。
 オオスバメはザフィールの側によると、心配そうに翼のもふもふした羽毛でなでる。そして近寄るグラエナを警戒し、翼を大きく広げて威嚇する。グラエナは近寄るに近寄れない。
「スバッチ……行け」
涙がかかった声で短く命令する。その言葉通りにスバッチは翼で風を起こす。グラエナは強い風に耐えられず目を閉じ、クロバットは吹き飛ばされて飛ぶことが出来ない。
 ボールをあらたに出す力もないけれど、スバッチに命令することくらいなら出来る。合流するのが遅いようにも思ったが、この状況ではありがたいことだと修正する。
「ちっ、隠し玉か。時間がないというのに」
ウシオは部下に命ずる。作戦変更だと。イズミが素早く船に乗り込む。その姿を確認すると声を張り上げて宣言する。
「思ったより藍色のヒトガタは元気が有り余ってるようだな。こうなればマツブサを何がなんでも止めて、それからアクア団の目的を遂げる。そうマツブサに伝えておいてくれ」
ホムラの方を向いてはっきりと言った。もう立つ元気もないホムラは、膝をつきアオギリをにらむ。
「させる、かよ……」
グラエナに命令するより早く、羽ばたく音がする。波の音よりも大きく。
「お前らの思い通りにさせるかよ。せめて、相打ちにしてやる」
地に這いながらも、ヘビのような執念でアオギリに全ての恨みの感情をぶつける。煩わしそうにアオギリはクロバットを出そうとするが、海からの風も強まっている。そして得意の毒攻撃をオオスバメは攻撃力として返してくる。相性が悪い。
 それに、うっかり近づこうものなら、オオスバメが鬼のようなツバメ返しを放ってくる。アオギリには時間がないのだ。マツブサはすでにグラードンを呼び出す準備を整えて目的地に向かっている。ならばそれを先に止めなければ。見張りとしてウシオを残す。
「ではウシオ、後を頼む。帰ってくるまで逃がすなよ」
その動きは素早く、ザフィールの命令も届かなかった。アオギリは船の中へと消え、もやいが解かれて岸から離れて行く。それと同時に、ホムラの体はさらに強い衝撃を受けて倒れ込んだ。


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