マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.597] 31、空の青、海の蒼 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/24(Sun) 17:11:30   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あれはまだ父さんがオダマキ博士ではなく、オダマキ教授と呼ばれる方が多かった時か。
 ミナモシティにある大学で、父さんは海のポケモンについて研究していたし、講義もしていた。本当はいけなかったのだけど、母さんが仕事で遅くなるような時は学校の方に連れてきてくれた。小さな子供は嫌がられたけれど、家庭の事情なら仕方ないと、大目に見てくれた。
 そこで会ったのが、海洋研究のクスノキ教授、そして同じく海洋研究していたササガヤ教授。特にササガヤ教授の方は父さんと同じような家庭環境で、よく子供を連れてきていた。それがハルカ、そうハルちゃん。大人しくしていろと言われてたから、走り回るなんてことはしなかったけれど、邪魔にならないところで、よく二人で遊んでいた。
 その大学の建物からは、よく海が見えた。綺麗な透き通るような蒼の海。夏は窓を開けて潮風を研究室に入れたり、危ないと言われていたけれど身を乗り出したり。それで一度落ちかけて大人全員に怒られたのも思い出だ。
 俺はそこから見える景色が好きだった。野生のポケモンが飛んでいったり、運のいいときはホエルオーが遠くに見えたり。特に大学の夏休みを利用した研究日は絶好のチャンスだった。朝から夜まで光がうつっていく海が見られる。東の空と海の間から見えてくる明るい光、そしてオレンジ色の夕日に染まった金色の海。その不思議をしきりにクスノキ教授とササガヤ教授に聞いても、二人はうんざりともせず答えてくれた。その後、いつも父さんは邪魔するなとしか言わなかったけれど。
 
 いつものようにハルちゃんと遊ぼうとしてササガヤ教授のところに行くと、見た事もないような真剣な顔をしてクスノキ教授と話していた。子供心ながら聞いてはいけないんだと思った。けれどこちらに気づいたササガヤ教授は、いつものように笑ってハルちゃんを呼んだ。別の部屋で、アイスを食べてたハルちゃん。さーくんの分だと一個くれた。お父さんが買ってくれたのだと。この時は何とも思わなかった。ハルちゃんはいつもお気に入りの本を読んでいるか、絵を描いてたりするかのどちらかだったのだ。
 そこで二人で遊んでいた。そして、そこにクスノキ教授が来たのだ。
「さーくん、ハルちゃん。いい子だね。大きくなっても、正しいことは忘れちゃいけないよ」
そういって俺とハルちゃんに言う。何を言われてるのか解らないけど、とりあえず返事をする。今思えば、クスノキ教授にしても頭を悩ませていたに違いない。
「私は授業だから、お父さんたちによろしくね」
授業を終えたら帰る。クスノキ教授のいつもの予定だ。そしてササガヤ教授が研究室の戸締まりをして、夜の9時に帰る。ごく普通の、いつものこと。何の疑問も持たずに俺は食べ終わったゴミを捨てた。

 夏の潮風は気持ちいい。冷房がいらないくらい。いつものように開いてる窓から、波の音、ポケモンの鳴き声が聞こえる。何のポケモンなのかクイズをハルちゃんとやっていると、ササガヤ教授が来て答えを言ってしまったのだ。
「あれは、アブソルだね」
「あぶそる?」
「そうだよ。さーくんのお父さんのが詳しいけれど、災いポケモンって言われてるんだ。何か大きな災害があると姿を見せるっていうんだよ。それで昔は不幸の使者って言われてるけれどね。ほら、あれあれ」
ササガヤ教授が窓の下を指す。見えたのは器用に木に登り、こちらを見て鳴いている白い毛並みを持った黒い鎌。
「かわいい!」
「かっこいい!」
ハルちゃんと俺がほとんど同じタイミングで叫ぶ。プラス方面に思われたのが通じたのか、野生のアブソルはこちらを見て鳴く。
「かわいいね。けれどまたハルカもさーくんもポケモン持つには早すぎるなあ」
「ササガヤ教授!」
部屋の入り口で誰かが訪ねて来ている。いつも学生が出入りしているような所だし、授業以外でも活躍しているササガヤ教授のこと。ノックをして出て行く。誰が来てくれたのか少し興味があって、俺とハルちゃんはそのままササガヤ教授についていく。
「何度言ったら解るんだ。そちらの考えが変わるまでこちらも考えを変えない」
体格のいい大人の男。良い色に日焼けしている肌からは、スポーツに優れたような体。それも数人。いずれも青いバンダナを巻いた、海賊のような格好だった。全員が入ったと思うと、ドアに鍵をかけて。
「そうですか。では、これではどうでしょう?」
俺の体が浮き上がる。後ろから男たちに押さえつけられて。ハルちゃんも一緒に押さえつけられる。暴れたって子供の力で大人に叶うわけがない。
「子供を人質になんて卑怯だぞ!」
「そうでしょうか?いくら昔の教え子だからといって、貴方が訴えるようなものではありません」
「研究をそんなことに使うアオギリの考えは間違ってる」
「ササガヤ教授のお子さんたち、恨むならお父さんを恨みなさいな」
俺の背中に熱が伝わった。びりっとした痛みが伴う。その痛みは酷くて、体を引き裂かれるようだった。
「おまえたち!?」
「ああ、一匹ぐらい死んでも構いませんよ。親子心中だと思われて終わりでしょうから」
「違う、その子は私の子では・・・」
その間も俺の背中を斬りつけられる。何度も何度も。泣いても泣いても容赦はなかった。頭を押さえつけられ、うつぶせの状態で。ハルちゃんは大泣きしていた。その中で、ササガヤ教授の絶叫を聞いたような聞かなかったような、ぼんやりとした音。けれど痛みだけははっきりと意識に語りかけてきた。


「ザフィール!」
うつぶせで寝かせられていた。真っ白な布団とベッド。母さんが心配そうに俺を見ていた。たくさんのチューブにつながれた俺。最初は、いつ眠ってしまったのか解らなかった。けれど記憶をたぐり寄せ、背中の痛みが襲うようになった。全ての記憶が蘇る。それが怖くて、母さんに伝えようとしても全く出て来ない。声が出ないのだ。
「お父さんが気づかなかったら・・・ハルちゃんだけでも無事で良かった」
ハルちゃんだけは無事。その時は何を意味していたか解らなかったけれど。とにかく起き上がろうとしても、痛くて動けない。
「何か食べたいものある?辛くない?どうしたのザフィール?」
言いたくても言えない。声が出ない。母さんはさらに驚いた顔で俺を見ていた。そして泣いてた。何も言いたくない。言えない。声を出したらまたあの恐怖が襲ってくるような、理解のできない怖さがそこにあったから。
 ふと母さんの鞄が見えた。棚にある鞄から、鏡が見える。なぜ見えたのか解らなかったけれど、少し視線を動かして自分の姿を見る。そこにいるのは、まぎれも無く俺だったんだけど、全く違うものが映っていた。俺の髪が、全ての色が抜けてしまったように真っ白に。その姿を見ていることに気づいたのか、母さんは取り上げた。けれど、一瞬でも映ったものは忘れる事が出来ない。

 怖い、痛い。大人が怖い。回診に来る医師すら怖かった。いつも泣いてた。その度に母さんは困った顔をしていたけれど。ストレスで髪の色が白くなってしまったこと、そして喋れないのは一時的でしょうと言っていた。「あ」すら発声できないのに、喋るようになるなんてあり得ないように思えた。
「そうそう、ザフィールくん。今日はきみの新しい先生を連れて来たよ」
そういって入って来たのが、マツブサだった。名刺を母さんに渡した。そこにあったのは、「児童心理カウンセラー」というもの。
「私は事件にあった子供の心理学を勉強し、そしてカウンセラーをしています。事件に遭遇してしまったお子さんというのは、大人よりも傷つきやすく、カウンセリングを必要としています。どうでしょうか?ザフィールくんを私に診せてもらえないでしょうか?」
そう、最初はそうだった。母さんも疑うことがなかった。話を聞いた父さんも何も言わずに。どんどん接近してくるマツブサに、俺だって何も疑わなかった。ただ、優しいおじさんが助けてくれると思い込んでいた。

 背中の傷も治ってきて、歩けるようになったころ。いつものように来てくれたマツブサから言われたマグマ団への誘い。あの事件の犯人はアクア団だと教えてくれた。マツブサの言うアクア団の特徴と、実際にみた男たちの格好が一致する。
「私たちは、そういったアクア団を止めるために活動しているんだ。実際にアクア団の被害にあった君みたいな子を増やさないためにも、協力してくれないか?」
この言葉はとても甘く響いた。アクア団にやられたこと、そして助けてくれるマツブサの言葉に乗らないわけがなかった。

 退院と同時にマツブサのところにいって、そしてマグマ団に正式に入ったことを感じた。同時にモンスターボールを渡される。中には自分の肩までありそうなドンメルが入っている。
「アクア団はポケモンを使う。お前も負けないよう、育てろ」
「解った!」
そいつにボルとつけて、俺はアクア団への復讐だけを考えて育てて来た。進化して、バクーダとなって。その時はマツブサも祝福してくれた。それがどんなに嬉しかったことか。ますます頑張ろうと思って、一層マグマ団として活動していた。
 その辺りで、今のホムラとカガリが幹部として活躍するようになる。やけに明るいホムラと、なんだかんだいって世話をやいてるカガリ。ボルの育て方も教えてくれた二人だし、俺はさらに嬉しかった。けれど、最初、二人は俺を見て一瞬目をそらす。何でそんなことするのか解らなかった。けれど今なら解る。こんな作戦が最初から既に始まっていたのだ。最後には俺を始末するという計画が。
「生きろよ」
常にホムラがそういってたのはそういう意味なんだ。カガリも会議のたびに苦しそうな表情をしていたのも。全て計画の上で、俺はその通りにされていた。思うがままにマグマ団にいて、不要になったら捨てられて。そんなことあるものか。まだ、死ぬわけにはいかないんだよ!


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