マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.557] 19、仲直り 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/30(Thu) 18:13:26   53clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「どうしたの?」
シルクは走ることは好きだが、飛び跳ねることは苦手な様子。ジャンプ力がポニータにしてはあまりない。ガーネットが乗っているとはいえ、いくらなんでも跳ばなすぎる。けれど、フエンタウンに行く坂を登りきることなんて朝飯前だったようだ。
 そうしてやってきたフエンタウン。シルクから降りると珍しい人に会う。シダケタウンで会ったミズキ。今日はヒノアラシではなく、青く光る輪っかが特徴のブラッキーを連れている。元気がなさそうに見えたのか、そう聞かれた。
「いや、その、友達を理不尽に殴っちゃって、謝ろうと思うんだけど、どうしたらいいか解らなくて」
指定の場所に来てみたけれども。何をどうしていいか、ガーネットには一向に思いつかなかった。もう一度会う前に、なんとかしたいとは思っている。
「そうなんだ。友達の好きなものとかプレゼントしてみたら?それを渡すついでに謝ってみればいいと思うよ」
「プレゼント?何が好きなんだろう、思えば何も知らないや」
「ちょっとお土産屋さん見て行く?何かいいものあるかもよ」
観光の町だ。それも悪くない。ミズキに誘われて、ガーネットは暖簾をくぐる。

「あっ、これ・・・」
白いエネコのぬいぐるみ。ガーネットは知っていた。マジカル☆レボリューションに出てくる魔法のエネコ、ミルクだ。温泉地のコラボ商品らしく、フエンタウン限定と書いてある。そういえばエネコは好きみたいだ。けれどぬいぐるみなんてプレゼントして、男子が喜ぶものなのか。手にとってじっとぬいぐるみとにらめっこ。
「あっ、なつかしー!アニメの!」
目を細めてミズキは眺める。エネコの愛らしさがデフォルメされて、さらにかわいさが増してる。本物のエネコだってかわいいのに、これがかわいくないわけがない。
「え、懐かしい?」
ザフィールによれば、そんなに前からやっていたアニメではないらしい。ガーネットの言葉に、ミズキは少し表情を変えた。
「えっ、あっ・・・いやほら、昔やってたなーって」
「見てたの?」
「最終回をちょこっと知ってるくらいかなー。ガーネットも?」
あのアニメに最終回なんてあるんだ。ガーネットは不思議に思った。
「うん、友達が好きで見てた。男子なのにアニメみてて、声優オタクで、毎週見るものだから覚えて来たし」
「友達って男の子なんだ」
むしろ女の子だったらどれだけ楽だろう。なんであいつは男なんだろう。そうでなければ、こんなにガーネットは悩んでない。
「そう。だからこんなの貰っても喜ばないかなあって」
何をすれば喜んでくれるのか、そんなことも解らなかった。ずっと側にいたと思うのに、何一つ。
「喜ぶのってさ、貰うものよりも、誰から貰うかっていうことじゃない?」
「・・・そんなんだったら、私から何をもらっても喜ばないかな」
手の中のエネコは、何もいわずに微笑んでいた。ふかふかの感触が残る。
「それだったら、何をあげてもいいんじゃない?当たってくだけるのもよし、散るのもよし!」
他人事だからか、ミズキはとても楽しんでいるように思える。足元のブラッキーはあきれたように主人を見上げていた。
「それってさ、告白する時に使うよね、普通・・・」
「細かいことは気にしない!」
「そういうものかなあ。すいません、プレゼント用にお願いします」
かわいい紙袋にリボンをつけて。きっとお店の人も小さな女の子にあげるのだと思ったようだった。


 その紙袋を大切に抱えてフエンタウンのポケモンセンターにいた。ここで待っていれば来るような気がしたのである。そしてなぜかヒノアラシのお守りをお願いされてしまい、ミズキのヒノアラシと一緒に座っていた。
 ポケナビが鳴る。ザフィールからだ。取ろうとする手が震える。何度も何度も鳴るコール。ガーネットはついにポケナビを取った。待っていた人の声がする。
「大丈夫!?今どこ?」
「フエンタウンのポケモンセンター・・・」
「えっ!?」
いきなりポケナビが切れた。なにかと思えば、目の前を見てガーネットは言葉を失う。ずっと会おうと思っていた人がいる。物凄い堅い表情で。思わず立ち上がる。そして、言えなかった言葉を出す。
「ごめん!」「なぐって!」「一人にして!」
お互いに頭を下げて。しかも同時に。その事に気づいた二人は顔を上げた。そしてどちらからともなく吹き出す。
「・・・怒ってなくてよかった」
安心したようなザフィール。いつものふざけたような顔に戻っていた。
「あの、それとお詫びなんだけど・・・」
ガーネットが綺麗なラッピングの包みを差し出す。ザフィールが受け取るとふわふわとした感触がした。ピンク色の紙袋に、赤と金の派手なリボン。ザフィールが持っているのは似合わないけれど。
「わあ、なんだろう?あけていい?」
「いいよ、大した物じゃないし」
ザフィールがとても嬉しそうに包みをあけていく。がさがさと開けられていって、中身を見た時の彼の顔は、欲しかったおもちゃをもらえた子供のよう。その笑顔はとてもきらきらしていて、思わずガーネットは釘付けになる。
「わあ、ミルク!しかもフエンタウン限定の!すっごく嬉しい、ありがとう!」
ザフィールがガーネットを見る。そして、彼女は彼をじっと見続けていたことに気づく。
「べつに・・・そこに売ってただけだし」
そっぽを向く。何となくみつめていたことはバレたらいけないような気がした。けれどもっと見ていたかった。
「どうしたの?ガーネット?」
心配そうに覗き込んでくる。それを払うように、手を振った。
「なんでもない!」
「そう?これどこに飾ろうかな。自宅でもいいし、あーずっと前につくった秘密基地に飾ろうかなー」
ミルクをなで回して、ザフィールは楽しそうにつぶやく。宝物の隠し場所を探しているようだった。その度に秘密基地という言葉が出てくる。
「秘密基地?」
「最近流行ってんだよ、秘密基地作るの。空洞がありそうなところとか、木の上とか。ミルクって解るやつが来ないかな」
「あ、そう」
「いっとくけど教えねーぞ!なんたって秘密基地だからな!」
子供っぽいな。ガーネットはそう思った。けれどそんなところも不快には思わなかった。ミルクを抱きしめたり、なでているのをみて、少し複雑に思う。
「俺のは結構高いところにあってな、そこから見える景色がまた綺麗なんだわ。近くに滝があったりして、秋とか紅葉の季節は綺麗なんだぜ」
「そ、そうなんだ」
「今の時期だと、コイキングとかヒンバスが川で孵化してさあ、海に行く季節なんだよ。それがまた豪快な勢いで見えるんだ。知ってる?ヒンバスって野生じゃあほとんどが進化できなくて・・・ごめん、俺ばっかり喋ってんな」
「いいんだよ、ザフィールらしくて。ポケモンのこと詳しい上にアニメオタクっていう、変なやつ」
ガーネットが笑う。ザフィールはそれが嬉しかったようだ。
「なんだよそれ」
否定しきれない事実に、ザフィールも笑うしかない。
「事実じゃん。ねえ、お腹すいたなあ、ザフィールごはん食べたの?」
「まだ。どこか行こうか。あ、そういえばさ、俺の先輩が、お前に会ってみたいっていうんだけど、どう?ってか俺の先輩こわくて断れなくて、解ったって返事しちゃったんだけど」
「なにそれ」
文句いいつつもガーネットは楽しそうだった。次には、何を食べようか楽しそうに話している。


「上手くいってよかったね!」
ちょうど席を離れようとした時、ミズキが帰ってくる。そして二人をみて、すぐにガーネットに言った。友達の成功を祝うように。連れているアッシュも一緒に。
「うん、ありがとう」
「え、ガーネット誰?」
一人のけ者にされて、ザフィールはガーネットの肩を叩く。それに気づいたようで、ミズキはにっこりと笑う。
「あ、私はミズキです。ポケモントレーナーなんだけどね。この子はアッシュ。タマゴの時から一緒なの」
「俺はザフィールです。父親の手伝いでトレーナーやってるようなもので。ところで、知り合い?」
「うん、シダケタウンで会ったの」
そういえば、コンテストのこととか、その時にあったことを話していたような気がする。それがこの人なのか。それにしても、青い服と白い上着は、ザフィールのとある記憶を思い出す。
「さっきもうちのカペラに笛で歌を覚えさせようってしてて。それで覚えたんだけどね」
笛のメロディの通りにカペラは歌うようになる。技としての歌というより、芸としての歌。ガーネットがカペラと呼んだチルットを出してそれを披露する。山うずらの歌だと教えてくれた。珍しいメロディに、ポケモンセンターにいる人たちはカペラに注目している様子。
「へえ、笛吹くんだ。ところで、なんかガーネットと同じようななまりっぽいけど、ジョウト出身?」
「うん、そう。ジョウトのワカバタウンから来たの。シロガネ山の麓で、水がおいしいよ」
「ワカバタウン?もしかしてウツギ博士がいるところじゃない?」
とたんにザフィールは元気になる。知ってる人が出て来たので、彼も話しやすいのだろう。ミズキの方は変わらず、落ち着いて話している。
「いるよ、ウツギ博士。隣に住んでる」
「やっぱり。ウツギ博士ってタマゴ学の人で、すごい研究家でさ、論文は微妙に飽きてくるんだけど、それなりに良い事書いてるよな」
「飽きるねえ・・・確かにウツギ博士って何度も同じような物を繰り返し書くからそうかも。でもちゃんと解りやすくなってるんだけどね」
苦笑いしている。ミズキは下書きを読んだことがあるようで、何度か直してみたことがあると言っていた。それをうらやましそうにザフィールは聞いている。
 そうして3人で盛り上がっていると、声をかけてくる人物が。振り向くと、ラルトスを連れた人物がいる。ガーネットもミズキも知っていた。そのテンションの勢いで話しかけるものだから、その人物は少しひるんだ。
「ミツル君だぁっ!久しぶり!!」
「あれ、ガーネットさんにミズキさん?それに?」
ザフィールの方を見ている。軽く自己紹介をすると、「ああ、あの入院してた方ですね!」と言われる。一体、どこまで話が広がっているのかザフィールには予想不可能。
「ここの漢方は良く効くんです。それを買いに来たんですが、皆さんは?」
「温泉かなあ」ミズキは言う。特にアッシュがそのようで、じっと待っている。
「ここに来いって言われて」事実そのままをガーネットは言う。
「ここの辺りのポケモン調査したくて」まあ、それはマグマ団のついでなのだけど。
ポケモンセンターに来たのも、スピカを回復させるついでだといった。急いでいるからこの辺で、とミツルはスピカと共に行ってしまう。それと同じように、ミズキも行くからと去っていった。
「不思議な人だなあ・・・」
ザフィールはミズキの後ろ姿を見送って言った。どうも引っかかると思い、ずっと考えていたのだが、スピカを見て彼は思い出した。
「どうして?」
「なんか、青いサーナイトみたいな人だよな。髪が短かったり、色の比率が似てるだけかなあ・・・」
「サーナイト?」
「ほら、スピカだっけ。あれが進化するとサーナイトっていうのになるんだけど、ミズキみたいな感じのポケモンなの」
あのがっしりとした足は人間だろうしなあ、とザフィールは言う。



 昼食後、ザフィールが言っていた先輩というのと待ち合わせしているところへと行く。時間の少し前にやってきた、大人の女の人と、不良っぽい金髪の男の人。とても人が良さそうだった。そして座るなり、女の人が口を開く。
「あら、貴方がそうなの」
ガーネットを見てそう言った。正面から見ると本当に綺麗な人だ。見ているとこちらがドキドキしてしまいそう。
「はい、ザフィールの友達です」
「そう。私はカガリ。ザフィールにポケモン教えてあげたり、いろいろ面倒みてきたりしたの。ザフィールがアクア団のアジトに行ったっていうから、どんな子かと思って来たけど、なかなかかわいい顔してんのね」
「ほうほう、なるほど、これが噂のねえ・・・」
いきなり話にぬって入ってくる金髪の不良のような男。カガリと同い年くらいの人だ。見た目は派手なのだけど、とても優しそうな人。
「ホムラ邪魔」
カガリが邪見に手の甲で叩くがおかまいなし。カガリの前に身を乗り出して、ガーネットに話しかける。
「そういうなよ。俺はホムラ。弟分が活躍したっていうから、来てみたんだ」
「全く、甘やかしすぎなのよ」
ホムラを押しのけ、カガリの目の前をすっきりさせる。かたづけられたホムラはわざとすねた感じでカガリを見ている。さすがザフィールの先輩なんだなと納得してしまった。
「それはそうと、ザフィールを最初は付け回してたんだって?それまたどうして?」
「私の親友はこいつに殺されました。そしてこの2ヶ月半一緒にいても」
「証拠が上がらないんだね」
ガーネットが頷く。ザフィールは俺やってないと口の動きとジェスチャーでカガリに伝える。
「ん?なんでお嬢ちゃんはそう思うんだ?」
今までぼーっと頬づいていたホムラいきなり入る。
「あいつが、仲間のマグマ団に殺したと言っているのを見たんです。けれど、本人はそんなこといってないの一点張り、マグマ団は怖いやつらだしか言わなくて」
「なるほど、自白だけじゃなあ、俺もザフィールを犯人じゃないと言いきれないし。何か物的証拠が見つかればいいな」
「ありがとうございます」
ザフィールが酷い酷い言っているが、ホムラは軽く頭を叩いただけ。じゃれあっている男二人を見て、似た者同士とカガリはため息をつく。
「この前、その事でアクア団に言われました」
カガリもホムラも、その言葉に反応するかのようにガーネットを向く。それに気づかず、ガーネットはカガリを見て話す。
「マグマ団の中にいる犯人をみつけるのを協力してくれるって。そうなれば・・・」
「ダメよ、アクア団なんて。あいつら目的のためには手段を問わないし、何より古代のやたら強いポケモンを研究しているっていうし。危ない噂しか聞かないわ、やめときなさい」
今までの口調と違うカガリに、一瞬ガーネットはひるんだ。ホムラはさっきと変わらず、まあそんなやつらの言うことなんて止めておけと言っていた。その後も、カガリはアクア団を親の仇かのように罵る。
「はあ、そうですよね」
「解ってもらえて光栄。こんなかわいい子を悪の道に染めたらもったいないわ。ね、ザフィール」
時計を見て、カガリは席を立つ。ホムラがそろそろ帰ると言っていた。最後の言葉の意味を聞こうにも、カガリはすでにホムラとの軽い打ち合わせに入ってるようで、全く聞いてもらえない。店の外に行くと、二人はポケモンを出して飛んでいってしまった。
「ねえ、ザフィールの先輩、優しそうな人だね」
「そうだろ?俺がドンメルの育て方解らない時にいつも教えてもらっててさあ」
「ドンメル?持ってるの?」
見た事がなかった。あのラクダのような亀のようなポケモンである。主にキーチが出てくるせいか。
「ちょっとケガしちゃってな、足が動かなくて引退したんだ。進化もしたし、中々強いんだぜ」
相づちを打つ。やはりポケモンのことを話す時のザフィールは本当に子供っぽい。それを聞いているだけでも、心はとても楽しいと感じていた。


 夜になり、名物の温泉に入ろうとガーネットは一人でいた。外の空気は少し冷たい。体を洗っている間、昼間のカガリの言葉と、アクア団のイズミの言葉が巡る。ホウエンでは良く無い連中だと思われているアクア団ではあるが、マグマ団に対抗する手段はそれしかないように思えた。カガリでなくても止めるだろう。けれども、イズミの誘いはガーネットの心に確実に残っていた。
 そもそもなぜこんないきなり結論を急ぐようになったのか。そこから辿る。考えても考えても行き着く理由は同じだった。ザフィールを犯人じゃないという証拠が欲しい。もし本当に犯人でも今の宙ぶらりんな状態からは抜け出せる。
「ガーネット!」
呼ぶ声に思考は遮断される。ミズキがアッシュと共に入って来たのだ。先にアッシュを石けんまみれにして、洗い流してポケモン用の温泉に入れる。そしてその後に体を石けんに包んで湯船に入ってくる。
「あ、ミズキ!今から入るんだ」
「うん。ちょっと買い物してたら遅くなっちゃったからね。ガーネットは温泉好き?タンバの温泉いったことある?あそこの露天風呂から見える朝日がすごい綺麗なの」
「えー、いったことない。私さ、あんまり旅行とかいったことなくて」
「今度いってみなよ!すっごくいいからさ。今も覗きがいなければもっといいんだけどね!」
ミズキは近くにあった桶を取ると、フリスビーのようにそれを投げた。その行き先は満天の空に隠れていた。黒いフードをかぶって宙に浮いている。そして桶はそのフードをかすめ、顔をあらわにする。確かに疑っていたが、本当に人間の顔ではなかった。見た事もない顔と色。
「北風の娘か・・・ヒトガタもいるのは分が悪い」
「アッシュ!黒いまなざし!」
言われなくともアッシュはその目を開き、宙を見る。けれど眼差しを受ける前に、それは姿を消していた。どうするのかと聞くように、アッシュはじっとこちらを見ている。
「ちっ、また逃げられたか」
立ち上がるとミズキは足早に出ていってしまった。あんなのが出てはゆっくりもしてられず、ガーネットも続く。


 先に出ていたザフィールは、部屋でミルクをなで回していた。これをくれた時のガーネットはとてもかわいかった。それを思い出し、頬につけたり、匂いをかいだり、あんまり人に見せられるようなものではないけれど。
「はあ、ガーネットかわいいところあるんだけどなあ・・・何かいる」
飛び出す。そして建物の外に出た時、星空にとけ込むようなものをみつける。それは人間などではなく、見た事もない生き物だった。
「うわああああ!!!」
「ヒトガタか・・・あいつらめ」
手が手じゃない。左右違う形をしている。思わずザフィールは腰を抜かす。そして見ている目の前で体の形を変え、夜空へと消えて行く。その様子が信じられず、しばらくザフィールはその場で空を見つめていた。


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