マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.571] 26、ふたりだけのひみつきち 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/06(Wed) 22:40:14   49clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ガーネットは目を覚ます。見た事もない場所。手触りのいいふわふわマットに、頭の下には柔らかいぬいぐるみ。体を起こす。雨で体が冷えて、体温がどんどん上がっているのが解る。とても寒い。震えているのはそれだけじゃない。
「起きた?大丈夫か?」
まだマグマ団の格好のまま。いつもより冷たく見えたのはそのせいかもしれない。ガーネットは手元にあった白いエネコのぬいぐるみを投げつける。
「消えろ!お前なんか知らない!」
熱のせいで力が入らない。エネコのほほえんだ顔のまま、ザフィールの腕に収まる。何を言っていいか解らないような顔で、彼はそこに立っている。知る限りの罵りの言葉を伝えたいのに、上手く出て来ない。感情が溢れ、涙が頬を濡らす。
「ごめん、黙ってて」
「近寄るな!全部お前だったんだろ!」
差し出された左手を払いのける。びくっと体を動かしたのが解った。けれどガーネットは変わらずザフィールをにらみつけている。呼吸も乱れて声も涙掛かっていた。
 ザフィールが身をかがめる。そしてそのままガーネットを抱きしめた。離せと抵抗するけれど、今の彼女では払いのけることは不可能で。マグマ団の服越しに感じる彼の匂いは変わらない。
「何するんだよ!離せ」
「嫌だ、離さない」
それでもこんなに心臓が乱れるくらいに、後に引けなくなっていた。だからこそ、現実を認めたくなかった。けれども優しく抱きしめてくれるザフィールは反社会的なマグマ団で、そして一番思いたくなかったことだった。
「確かに俺はマグマ団だよ。アクア団に復讐したくて、ボスに拾ってもらった」
聞きたくなかった。本人の口からそんな言葉。耳を塞ぎたくても、ザフィールの言葉が次々に入ってくる。
「ずっと言おうと思ってた。けれど俺にそんな勇気がなくて、こんな時になって、本当にごめん」
耳元に残る彼の声は震えていた。
「ふざけんな」
この胸に抱かれてる時に出てくる感情。ずっと否定していた心。もう否定することは出来ない。自分に嘘を突き通すことは出来なかった。
「私の心を返してよ。味方だって思わせておいて、そうやって」
涙が止まらない。入るだけの力で、ザフィールを抱きしめた。本当はこうしていたかった。アクア団の誘いに迷ったのも、ザフィールの潔白を証明したかったから。そして断ったのも彼が悲しむと思ったから。それなのに、マグマ団だったなど、受け止めるには重すぎる。
 大きな声で泣いた。ザフィールは黙って抱きしめてくれていた。言葉にならない声。たくさんのことを伝えたかった。それなのに何一つ意味のある言葉にならず、声となって出ていってしまう。


「落ち着いた?」
ガーネットは黙って頷く。大声を出して気持ちがすっきりしたのか、今はだいぶ現状を受け止められるようになってきた。一度腕から離れてみる彼は、まぎれもなく市井で見るマグマ団そのもの。フードの隅から見える白い髪が、本人だと証明している。
 聞きたいことはたくさんある。どうしてマグマ団にいるのか、ジョウトで見たのは本人なのか。何も言わず、ザフィールはこちらを見ている。そんな彼を見ていたら、今は全てどうでもよくなった。濡れているザフィールの体を引き寄せて、そしてフードを取らせる。つららのようになってしまった白い髪。
「本当に、ごめん。今まで黙ってて。バレたくなくて、ずっと嘘ついてた。疑われるのが嫌で、ずっと言えなくて」
今のザフィールから出る言葉は、嘘ではないようだった。まっすぐと見て、今の素直な気持ちを言葉にして。
「それでも、カナシダトンネルとか、ハルちゃんのこととか、助けてくれたことはすっごい嬉しくて、余計に言えなくて。いつ言おうかって迷ってた」
悪いことをしたときの子供のようだった。ガーネットは全てを聞き逃さないように頷く。
「だから、許してくれなんて思ってない。俺が隠してたのが悪いんだから。それに、マグマ団の活動だからって、人にほめられないようなことも、違法行為だってしてきた。だけど、一つだけ、本当に信じて欲しい。俺は人を殺してない」
真剣な顔つき。けれどガーネットはそれを突き放す。
「信じられるか。なんで、そんなこと、信じるなんて」
心に引っかかるその事実。マグマ団にいるという時点で、一つまた黒へと近づいたというのに。けれど、事実は事実、ガーネットの心はそれと反していた。
「信じたいよ、ザフィール。でもどうしてマグマ団にいるの、どうして」
私に優しくしたんだ。その言葉を言えず、ザフィールの体を抱きしめた。力を入れても、熱のために上手く入らない。どうして目の前の人はこんなに優しくしたのだろう。そうでなければ、こんな気持ちにはならずに済んだのに。

 それからしばらく二人で黙っていた。外は夜だというのに全く変わらず雷雨が続いている。雷光が中まで通る。どれくらいまで熱が上がったのか解らないほど体は熱かった。それなのに寒気を感じている。手は冷たい。
「ザフィール、バッグとって」
外されていたポーチの中身を見た。何度みてもそれは無い。
「何使うの?」
「寝れる薬」
「どうして?いつも早く寝てるのに」
「私の友達がね、死んだ時、真っ赤な血が溢れてた。浴室を赤くしてさ。それを見てから、目を閉じるとそれが見えてきて」
被害者ではないのにね、と笑った。
「でも大丈夫、きっと熱があるから寝れる、多分ね」
ふかふかマットの上に横になる。自分の荷物を枕にして。そしてそのままザフィールの方を見ていった。
「近寄ると、うつるよ。おやすみ」
おやすみ、と軽く返し、ザフィールもなれない床についた。


 もう一人の私。もう時間がない。早く、早くそこにいるならば私を迎えに来て欲しい。邪悪な気に取られる前に。


 何やら眩しい。朝日が顔を照らしていた。ザフィールは体を伸ばすと、外の様子を見た。昨日と打って変わって快晴。雲一つない綺麗な空だった。近くの川はまだ増水した時のままだが、他はすっかりいつもの通り。
 空腹だというように腹が鳴る。そういえば夜はあんなことがあったために何も食べずに寝てしまった。何かあったかと鞄を探すと、チョコレートとおいしい水が出て来た。空腹を満たすように、まずおいしい水を一つ開ける。喉が潤い、少し空腹も満たされる。
「ガーネット何か食べる?」
声をかけても反応はない。いつもなら自分より早く起きるはずなのに、今日はまだ眠っていた。調子が悪いんだな、と側による。
「・・・かわいいよな」
最初は凄い怖いと思っていたけれども。カナシダトンネルでは本当に救いの天使に見えたし、フエンタウンの時はこちらの好みを把握してプレゼントくれるし、ミシロタウンに帰ったらハルカからかばってくれて。それに髪のことだって、気にしてるなんて一言も言ってないのにからかうこともなく、聞いてくることもなく、雪みたいだと言った。
 まだ眠ってる。そのガーネットを独り占めしたい。けれどそんなこと受け入れてもらえるわけがない、今となっては。だから、この瞬間だけでも。気づいたらザフィールはガーネットの唇に触れていた。やわらかく、そして熱い。唇を味わう。ガーネットから離れ、その顔を見つめる。冷静になったのか、何をしてしまったのか考え、誰もみていないよな、とまわりを確認する。
「本当、なんでこうなっちゃったんだろ」
だったらなぜその行為に及んだのか疑問は残る。それでも、後悔は無かった。少しでも自分のものに出来た。今の状態では、到底受け入れてもらえそうにない。それだけで、ザフィールは良かった。
「・・・ヒワマキ行くなら着替えないと」
入り口付近に鞄を置きっぱなし。昨日はここに運んだ直後に天気研究所に戻り、そうしたらもう終わったと言われ、途中で抜け出すなとマツブサに一言怒られる。そしてそのまま帰って話して。着替える暇もなかった。外を見ながら、服を脱いだ。


 何度も見た、血が飛び散る様子。夢は白黒ではなかったのか。思わず目を開ける。けれども今日は何か違った。もう大丈夫だよ、と暖かい声をかけられた瞬間に目を覚ましたようだった。目覚めの不快感が無かった。もう朝日がのぼってきていたようで、日差しが見える。
「ザフィール?」
だるさの残る体を起こし、離れている彼を見た。服を脱いで、背中が見える。そしてその背中には、見た事もないような大きな切り傷が何カ所もついていた。すでにどれも傷跡。
「どうしたの!?その傷」
慌てて振り返る。見られたくないものを見られた顔をして。悪いことやいたずらしたのではなく、他人には気軽に話せないような。
「なんでもない!なんでもないから!」
隠すように服を着た。見慣れた姿に戻る。そして足元の鞄を取ろうとして、ザフィールは止まった。どうしたのと近寄ると、ザフィールの足元に何かいる。背びれは穿孔していて、他のヒレもみすぼらしい。
「なにこれ、魚?」
ピチピチとザフィールの足元で跳ねている。その力は全く無さそう。
「ヒンバスだよ。きっと昨日の大雨で流されて来たんだな。こいつさ、野生だと綺麗なミロカロスの鱗が手に入らないと進化できないんだぜ。最初のヒンバスはどうやって進化したか知ってるか?」
「知らない」
「渋い味の木の実が災害で台風で流れ込んでさ、それを食べたヒンバスから進化できたっていう説があるんだ。今はトレーナーのヒンバスはポロックだね・・・って!?そんな大量に食べるわけないよ!?」
ザフィールが話している側でガーネットはポロックケースの渋い味がするポロックを全部ヒンバスの前に出した。非常食としてたくさん作ってあったもの。持ち運びしやすいからと作りすぎたと思っていたのでちょうどいい。それにガーネットは渋い味が苦手だった。
「ほら、食べてるじゃん」
目の前のポロックの山をヒンバスは一つずつ片付ける。水もないのに、よく動くヒンバスだ。ガーネットは自分が正しいと言わんばかりにザフィールを向く。
「いやいや、量がね・・・まあいいのかな」
進化できる条件だと本能が知ってるのか、ヒンバスはポロックを食べ続ける。
「ガーネット、支度できたら早く行こう。昨日より熱あるし、夏だからって濡れたままじゃ悪化するし」
「昨日、より?」
「そう。熱で涙目になってるし。早く行こう。ここからならヒワマキシティは近いから」
荷物を持って立ち上がる。ザフィールが左手を差し出した。それをガーネットはつかむと立ち上がった。再び足元でピチピチ音がする。両腕で抱えられるほどあったポロックの山をヒンバスがたいらげたのだ。
「まじかよ、すげえなコイツ。もう川に帰れ。干涸びるぞ」
ザフィールが左手で掴むと、川へ向かって投げる。ぱちゃんという着水音がして、ヒンバスの姿が見えなくなった。
「ちゃんと生き残ればいいな」
「ねえザフィール」
左手を掴む。そして何かを言おうとしてやめた。ヒワマキシティに行こうとだけ言うと、ふらつく頭と足を踏み出して歩く。
「無理すんなって」
ザフィールがかがむ。その距離くらい行けるから、と。ガーネットは何も言わず、彼の背中にぴったりと近づいた。離れないように、しっかりと手をまわして。
「んじゃ、まずはヒワマキのポケモンセンターだな」
「そしたら、ザフィールを警察につきだして・・・」
「ええっ!?そこ!?」
「そんでマグマ団を壊滅させて・・・」
「いやいや、それは困る!」
そんな話をずっとしていたけれど、二人ともとても楽しそうだった。半分冗談、半分本気で。一番言いたい、マグマ団をやめるように諭す言葉は中々出そうにない。もし、可能ならもう関わらないで欲しいのに。
 そして、長い丈の草むらから、二つの目がのぞいていた。いつ飛び出そうか、いつ現れようか。あの二人の前に現れていいものなのか。けれど予知した二人はあれに違いない。


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