マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.551] 16、期待と裏切り 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/27(Mon) 11:08:16   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 眠れてないのに、頭はすっきりとしていた。隣には、まだ夢の中にいるザフィールがいる。昨日はわがままいって、こんなに近くにいてもらったけれど。どう思っているか解らない寝顔を起こさないように布団から出る。灰で少し汚れた服も体も洗いたい。けどなんとなくすぐに行動したいと思わず、少しの間、座って離れないようにしていた。小さな声で、行ってくるねとつぶやく。聞こえてるはずもないけれど、無言で行くのも忍びない。
 暖かい湯が体を伝う。汚れも灰も全て落ちていくようだった。シャンプーの香りが広がる。火山灰を再利用した商品らしく、色が黒い。流した後、なんともいえないさっぱり感がある。
 
 湯を使っている音に目が覚めた。いつものくせでポケナビで時間を確認する。まだ朝早い。そして少し昨日のことを思い出し、隣にいるべき人がいないことに気づく。それは彼の目を完全に覚ませるのに充分だった。布団をはね除け、飛び起きる。
「ガーネット?」
それしか頭になかったのと、カギがかかってなかったのと。両方あって、思わず風呂場のドアを勢いよく開ける。
「ちょ、ちょっと!?」
「大丈夫なのか?昨日といい、そんなに・・・」
ここで気づくザフィールも相当視界が狭い。自分がどういう状況のときにどうしていたか、自覚すると何も言わず回れ右で一目散に出て行く。逃げ足の速さは、ガーネットに反論、反撃の隙間を与えない。台風が去っていったような騒がしさに、彼女も唖然と見送る。
「完全に、見られたよね」
まだ濡れている体は、何もまとっていない。

 布団の中でじたばたしていた。何をしてしまったのか、何をどうしてしまったのか。その後に来るであろう制裁の恐怖もそうだが、過去は変えられないことをひたすら頭の中をまわる。掛け布団を頭からすっぽりかぶり、暗闇の中であーでもないこーでもないとうなっている。
 どう謝ったらいいのか、どういったら制裁を受けなくて済むのか巡っていると、布団の上から何かが押してくる。頭だけ出して上を見ると、部屋着姿のガーネットがいる。ヤドカリのごとく素早く布団の中に潜る。
「ねえ、ザフィール?どうしたの?」
「いや、その、怒ってるんじゃないかと・・・いや本当ごめん、見るつもりはまじで無かった!」
布団の中でもごもご動いている。あまりにぐだぐだしているためか、ガーネットは立ち上がると、その掛け布団をいとも簡単に引きはがす。
「わあーー!まじでごめん!」
何をそんなにじたばたしているのか、ガーネットには理解不能。とりあえず黙ってみていたが、それはもう、ピンチの時にポケモンが放つじたばたよりも見ていて動きが面白い。体力があると威力が低い意味がよくわかる。無駄な動きが多くて、ダメージにつながらないのだろうな。そこまで考察して、かわいそうだし止めてやることにした。
「ねえ」
背中をおさえつけられ、彼の動きが止まる。
「落ち着いてよ。ザフィールも入る?昨日はいってないでしょ?」
見上げる。彼が見たガーネットは、怒っているというよりも不思議な生き物に遭遇したような顔だった。それに安心し、軟体動物のように起き上がる。
「本当、すいませんでした!」
「・・・変態」
暴力的な制裁こそなかったものの、その一言がザフィールの心に刺さる。それだけ言うと後は何もなかったかのように、ガーネットは支度を始める。その様子を見ていて、ザフィールは昨日に言おうとしていた事を思い出す。
「なあ、ガーネット、昨日着てた服は洗濯?」
「え?そうだけど?」
「それ終わったらでいいから、全部出して。下に着てたのも全部・・・にらまないでください。まじめな話、アクア団が何かの追跡してないとも限らないし、思い違いであればいいから、見せて」
不審者を見るような目をしていたけれど、全部洗い終わった後に黙って衣類を渡す。ザフィールはそれを受け取ると、表から見た後、裏に返す。別段不振な点は無さそうだけど、もし自分だったら一番気づかれないところに隠すはず。GPS機能だけのやつなら本当に小さいものだってある。襟の裏、縫い目のところ、裾のところ。そして一度も脱がさないで簡単に付けられるところ。
「本当にあるの?」
「思い違いならいいんだけどね」
そして特に上着とか鞄とか、常に身につけるもの。洗濯の回数が少なそうなもの。その方が、自然に落ちてしまう可能性が低い。機械だけじゃない。モンスターボールにだって取り付けられる。一つ一つ調べていったらキリがなさそうに思えた。
 ザフィールがガーネットの上着に何か違和感を感じた。畳に押しつけ、アイロンのように手でなぞる。そこにある少し膨らんだもの。微細すぎて、砂利かと思うくらいだった。けれどよく見てみれば、小さな発信器であるようだった。
「みつけた」
無効化するため、プラスルを呼び出す。朝だったため、とても眠そうだった。スパークを命じた。電気を全身に回し、小さな機械に集中する。それは何も音はしないが、よく電気が通ったようだった。そしてその小さな粒を窓から外に投げ捨てる。
「さて、紳士的に夜は来なかったが今から来ないとも限らないし、早めに出よう」
まだ朝は動き始めたばかり。疲れが完全に取れない足で、支度を始める。少しこの灰かぶった体を洗いたい。


 連絡が途絶えた。きっと見つかったかなにか事故でもあったか。これではGPSが使えない。ウシオはどうするとイズミに聞いた。それにしてもマグマ団が側にいるのは厄介だと笑う。
「それだけじゃないわ。トレーナーカードのIDを読み込んだからね、ポケモンセンターの利用歴なら追えるから安心して。それと今回のことで自宅に帰るかもしれないから、ミシロタウン周辺と、後はトウカシティジムを1週間見張るのね」
「あのマグマ団はどうする?」
「確かにそうなのよねえ、あの子一人ならいいんだけど、ジャマよねえ。なんとかこちらにできないものかしら。あーもー、全てがうちはなんで後手にまわってんのよ」
「もうあれは仕方ない。まさかかつての教え子をササガヤ先生が訴えるとは思ってなかったし、そうでもしなきゃ今は無い」
「卒業して何年も経つってのに、そんなにボスがかわいかったのかしら、まったく」
この状況をひっくり返せる何か奇策は無いのか。イズミは黙った。幹部をやっている以上、下のものに指令をしなければならない。気配を消すのが得意なものは見張りへ、実力があるものはマグマ団を見張らせる。


 朝食の席で、ポケナビが鳴る。こんな時に何かとザフィールが出ると、思ってもない人からの着信だった。思わず席を外す。マツブサからだ。きっと何かある。
「電話に出れるってことは、上手くいったのか?」
「はい、おかげで俺の友達も無事で」
「それは良かった。それでアクア団なのだが、どうやら流星の滝に何やら行くらしい。目的は一切不明だが、今日の10時、必ず来い」
「あ、その、ちょっと、昨日のこともあって、友達を送っていかないと・・・」
「何を言ってるんだ?そういう時、マグマ団ならどうするか考えての発言か?」
「あっ・・・そうだ、しばらくは関係のありそうな場所は見張ってる。ダメか、うーん」
「なんでもいいから来い。だいたいそんな遠いところにいるわけじゃないだろう?」
「まあ、はい。行きます」
切る。戻ってくると、座ってるガーネットが、何時間も待たされたような顔でそこにいる。会話の内容も疑わしいようだった。
「ごめん、待たせて」
「はあ?誰が待ってるなんていうわけ?」
電話の前と全く態度が違う。言い方も、さっきはこんな刺を含んだものじゃなかった。いくら待ってたとしても、そんなに怒らなくてもいいのに。
「え、なんか待ってたっぽいし・・・」
「だからさあ、待ってるわけないでしょ!」
怒りながら席を立つ。そして食器を下げにいってしまった。何がなんだか解らず、残りの朝食をかたづける。


 何を怒らせてしまったのか、原因は掴めぬまま。それでもついてくるのだから、もうザフィールには理解不能。どこへ行くのと聞き込みから始まり、ハジツゲタウンに出てアクア団がいないかどうか確認してくるにもついてくるし、集合のために薬を買おうと店に寄るときもついてくるし。その間、声をかけようものなら距離を取られ、かといってそのままにしておけば近づいてくる。
「意味が、解らない」
レジで会計する時に目に入るアンケートに、思わずその言葉を書いてしまった。その事しか考えられてないのに答えてしまったのもおかしいけれど。
「はあ、昨日ので俺から離れてくれないかなあ」
無理だろうなあとため息混じりの独り言を、店の外でつく。集合時間まで後少し。いっそこのまま置いていこうかと考える。怒ってるのを無理に一緒にいることもないだろうし。マグマ団であることを言うのにちょうどいいと思ったけれど。しかしその時はどう説明したらいいだろうか。言葉を考えていると、腕を引っ張られる。
「行こう」
今は怒ってないみたいだった。機嫌が直ったのかと思い、流星の滝に行こうと誘おうとした。けれど流星の滝に行くことを口走る前に、それは止められる。二人の前に男の人があらわれる。普通のスーツを着た男。
「あ、ダイゴさん」
ガーネットの知り合いのようだった。それにしても身長が高いせいか、見下されているような感じがして、ザフィールには好印象を与えなかった。それどころか、無機質なその目はアクア団より人間味のないもの。
「やあ、ガーネットちゃんと・・・」
「ザフィールです」
「ザフィール君か。そうか、そうなんだね。君がそうなんだ」
口角が上がる。気味の悪い男だ。しかもこちらのことは知っていたようで、余計に感じは悪い。非常に悪い。
「あの、ダイゴさん?」
「ああ、そうだね、楽しみだね」
知り合いにしては、会話もかみ合ってない。背中を向けると、何も言わず流星の滝の方向へと歩き出す。姿が見えなくなってから、ザフィールは自分がまっすぐ立ってることを確認する。アクア団にさえひるんだこともないのに、あんなに怖い人物がいるなんて、思いもしない。
「知り合い?」
「昔、ジョウトにいたときに世話になった人なんだけど、前はあんなに冷たい人じゃなかった。優しい人だったのに」
「へー。優しさとか全くの無縁な感じしかしないけどな」
魂の抜けた人形のような。視線はあっているのかあってないのか解らず。それに優しさを感じることは出来なかった。けれどガーネットはそれにかみつくように反論する。
「なんでそんな酷い事言うの?ザフィールはダイゴさんの何を知ってるの?」
「俺は正直な感想言っただけだよ。さっきだってあいつは俺のことを完全に下に見てたのに、いい気なんてするわけない」
「バカ!」
顔面が殴打された。右の頬が打たれて痛い。勢いに押され、数メートル吹き飛ぶ。その防御力も大したものだ。
「何も知らないからそんなこと言えるんだ!」
滝とは反対の方向へと走っていってしまう。呼びかけても聞こえるだろうけど届いていない。それに殴打されて地面に打った頭が痛い。触ると少しふくれていた。流血していないだけマシか。
「なんだよ、あいつ・・・」
起き上がる。そしてなぜか抱いた感情を飲み込んだ。こんなにも心が曇ってすっきりしないのは初めてだ。朝はなぜ怒ったのか、そして今の怒りも理解ができない。思い出せば思い出すほど、感情がさらにわき上がってくる。
「そんなにあいつが良くて俺が嫌いかよ」
最初に会った時からそうかもしれないけど、ここまで嫌われていたとは思えなかったのに。離れたのに中々晴れてくれない心。それを消すかのように、流星の滝へと走り出す。走っていれば、いくらか落ち着くと思った。


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