マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.518] 8、かっこよさとは 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/08(Wed) 22:30:59   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 コンテスト会場は、マスコミに囲まれていた。カナシダトンネル崩壊にくわえ、コンテスト会場に現れた謎の黒いローブ。放っておくわけがなく、入り口はあっという間に塞がれる。観客の一部はインタビューに答えていたが、ガーネットとミツルはそれに興味がなかった。むしろ目の前で全ての力をかき消した男の人。そこらのポケモンには出せないような強い力を一瞬で無にした。そのことが引っかかる。
 無言で歩いて行く。コンテスト会場から遠くなるように。ふと思い出したようにお互いの顔を見合わせた。意思疎通ができるわけでもなく、どちらかともなく口を開いた。最初は無難な会話だったが、だんだんミツルの話題が傾いてくる。
「あの人は、無事ですかね」
あの人とはコンテストに出ていた人。カイリューがとても目立っていたし、何より青と白の統一された服装は目立っていた。ミツルが気になるのも無理はない。ガーネットも妙に気になる。どうみてもコンテスト用に調整されたカイリューという感じはしないし、戦場をくぐってきたような強さが溢れていた。
 しばらく行くとミツルが駆け足で去って行く影にぶつかった。ラルトスがかばうように前に出る。その影は振り返ると、小さく謝る。さらに行ってしまいそうだったのをミツルが引き止める。コンテストに出ていた人だ。
「あっ、トウカシティの!」
驚いたようにミツルを見ていた。青いブラウスに濃い青のスカート。紺の靴は履き慣れている。白い上着は走った後でとても暑そうだった。誰かを探しているようだった。けれど走ることなくミツルに近づく。
「初めまして。私はミズキ。一応ポケモントレーナーよ」
「あ、ミツルです、よろしくおねがいします」
「ガーネットです、どうも」
ミズキの足元には炎の鼠、ヒノアラシ。早く行こうと誘うように飛び跳ねる。足にすり寄り、あまえてるようにも見える。けれどぴたりと動きをとめ、背後から来る人間に威嚇の構えを見せた。ミズキが唖然とした表情を見せる。ガーネットとミツルも驚いた。あのステージに上がってきた男、その人だ。
「ご無事でしたか、ミズキさん」
ヒノアラシは今にも噛み付きそう。コンテストの様子から知り合いだと思っていた。けれどヒノアラシを見れば一目瞭然。ヒノアラシだけじゃない。その場の人間は密かにボールを構えていた。
「妖しいものではありませんから、そうポケモンを構えなくてもよろしいでしょう」
「妖しくないのであれば、まず名を名乗りなさい」
男はミズキの命令に導かれるように話しだした。
「私はハウト。ただの興味であの黒いローブを追い掛けてます」
落ち着いた様子。悪い人には見えないけれど、信じるには材料が足りなすぎる。警戒したようなミズキの目がそういっていた。
「まあ初めましてがあんな場所では信じてもらえないのも納得です。けれど私は貴方の敵ではないと断言しておきます。私はホウエンに住んで長いですので、貴方が探している人のことも教えられると思うのですが」
「なぜそれを知ってるの!?」
「私はホウエンにかなり長いこと住んでいますから、たいていの事は解りますよ。それとガーネットさん、貴方の片割れは無事ですし」
見透かすような紅色の目。じっと見続けると意識を持って行かれそうだ。思っていることが全て筒抜けになるような感覚がする。ミツルに肩を叩かれ、ようやくガーネットは目をそらした。
「またあの黒いローブのやつは来ます。ただ本当に予想がつかないので、危なくなったら私に連絡ください。出来る限り飛んで来ますよ」
自分から連絡先を明かす。ハウトのメモを受け取るミズキの顔は困惑していた。それだけ言うと去っていくハウトを見送る。不思議さが残る出来事だった。


 ハウトが言っていた、片割れが無事ということ。もしかしたらの期待を胸に走りに走って、彼のところへと急ぐ。エレベーターも待ってられず、階段を駆け上がって。廊下を走るなというポスターに目もくれず。目当ての病室へ走り込み、閉まっているカーテン越しに声をかけてみる。息が上がって上手く声をかけられない。
 返って来たのは、間の抜けたような声。起きたのか、とカーテンを開けたら、エネコと共においしそうにプリンを食べてたザフィール。最後に見た姿とうってかわって元気そうな彼に、多少の力が抜ける。
「お、ガーネット無事だったんだ!」
「無事も何も・・・全くもう」
しかし一体いくつ食べたんだ。空が積み上がっている。訳を聞けば、空腹が耐えられないと訴えたところ、口を切ったこともあって柔らかいものなら許可が出たそうだ。それでその有様。また歩けるなら歩いて良いと言われてしまったがためにこんな大量のプリンが。ゴミ箱を覗いたらアイスの袋もある。あきれてガーネットは二の句がつなげない。
「ご飯食べれば良かったじゃない!」
「いや気付いたらさあ、お昼ご飯過ぎててさあ。夕方からならいいよっていわれたんだけど待てなくて」
今度は食べ過ぎで入院してしまえ。軽く頭を小突く。一つ食べるかと誘われ、ありがたくもらった。プリンのふたをはがした時に、思い出したようにザフィールが側の棚に手をかける。その時、袖からのぞいた手はかなり先まで包帯が巻かれている。
「これ、ありがとう。血で汚したみたいで、ラッキーが洗ってくれたらしいんだけど」
「あ、忘れてた。大丈夫、怪我した時のために赤いもんだから」
ラッキーの洗濯技術はすごい。汚れたらしいが、全く跡がない。元々、目立たないように赤い色をしているのだ。外で何かあったとき、応急処置ができるように。帽子兼救急のバンダナ。再びガーネットが頭に慣れた手つきで結ぶ。
「ワイルドだなお前・・・」
「そう?外に行くんだから当たり前じゃない?」
「そんな用意のいい人間なんていないよ」
笑ってる。一応、褒め言葉として受け取る。話してるうちに、ザフィールが10個目のプリンを完食していた。次に手をかけた時、さすがにもうやめなよ、と言葉が出た。
「プリンばっかりじゃ飽きるでしょ。明日やわらかいもの買ってきてあげるから」
「いいの?」
「仕方ないじゃない、けが人なんだし」
まだプリンが5個も見える。明日食べろと、全部冷蔵庫にしまわせる。


「はー、やっぱり足りねえよ」
その日の夕食も完食。けれど成長期の彼には足りないらしく、9時の消灯後に空腹で目が覚めた。廊下しか電気がついてない。他には誰も起きてない。トイレに行こうかと起き上がる。夜の病院は昼に聞こえない機械音が目立つ。少し長い廊下を行くと、一人の男とすれ違う。自分のことは棚にあげて随分若いなと思った。
「みつけた、負の感情・・・」
大きくなった。真っ黒な人形がザフィールに覆いかぶさる。思わず叫んだ。足は痛むが、逃げなければ殺される。そんな予感がした。人間は明るい方へと行く習性があるのだという。夜中も明るい詰め所へと駆け込んだ。
「ゆ、ゆうれい、幽霊がでたんです!!!」
それを聞いたスタッフはあきれたように言った。
「そんなものいるわけありません。ゴーストタイプのポケモンはもういませんから、安心して寝てください」
「いやちがうそういうのじゃなくて、真っ黒な人形みたいのが!!!」
「だから・・・」
ラッキーが肩を叩いた。スタッフたちにここは任せろと言ったようだった。怖がるザフィールの手をひいて、幽霊を見たという現場に行く。そこにはすでにいつもの夜の廊下だった。
「いやだからここにいたんだよ、幽霊が!」
ラッキーは歌いだす。わけのわからなくなって暴れる人を眠らせる為の技、歌う。例外なくザフィールもその音色に眠ってしまった。


 元気なのだから、怪我が治り切る前に退院できそうだった。ということはその日まではそこにいるということ。それに午前はどうしても会えないのだから、その間はシダケタウンの散歩となる。疲れて公園に座った。そういえばどうして助けてしまったのだろう。あのまま見ていれば、直接手を下さなくても死んだはず。いや目の前で人が死ぬのを見ていられなかった。それが誰であっても。
「ガーネット!」
手を振っている人。確かあれはミズキ。青と白の服装は相変わらず。
「まだいたんだ!てっきりもう違う街に行っちゃったのかとばっかり!」
「知り合いがちょっと入院しててね、それまではここにいようかと思う」
相変わらずヒノアラシがくっついて来ている。隣に座ると、ヒノアラシもミズキの膝の上に乗ってきた。
「そうなの?大変だら」
「怪我したのは私じゃないからね」
ヒノアラシがガーネットの膝の上にも乗ってくる。随分と人懐っこいポケモンだ。先日のハウトを警戒していた時とは大違い。
「そういえばミズキはコンテストたくさんやってるの?」
「あんまりやってないんだら、久しぶりにやってみようかとおもって。かっこよさコンテストって迫力あって一番好き」
「ミズキの思うかっこよさって、迫力なの?」
「そこまで言うとちょっと違うかな。かっこよさってね、普段どれくらいだるくてなまけててもね、決めるところ決める。それがかっこよさだと思うんだよ」
「どういうこと?」
「そうだねえ、私は音楽を習った時に先生に言われたのが、決めるところ決めることが出来るなら、後はみんなバラバラでもいいって言われた。確かにその通り。人間の記憶なんてね、全部残らないんだから。しかもコンテストみたいな時間の流れる舞台では、ここだというところで技を出せれば全て決まるもの」
ミズキが立ち上がる。もうそろそろ昼食の時間。一緒にどうかと誘われる。不思議な人だけど、どうも知らない人という感じがしない。言葉のイントネーションが地元に似ているからだろうか。もっとカントー寄りの音に似ている気がした。


「どうしたのそんな顔して」
甘いのが好きならモモンの実。やわらかくて評判だった。時期は多少はずしているけれど。喜ぶと思って持って行ったら、ザフィールはものすごい真剣な顔つきをしていた。真剣というよりもおびえたような顔だった。エネコが慰めるように彼の上に乗っている。
「ガーネット、俺の話信じてくれる?」
「ザフィールが犯人って白状する話なら信じてあげる」
数秒の沈黙。ザフィールが顔をそむけた。誰も信じてくれない落胆の顔で。
「・・・で?」
「信じてくれる!?」
食いつきの良さから、誰にも相手にされなかったのだろう。話してみ、とガーネットが言うと、小声で話し始める。
「実は、幽霊を見たんだ」
「病院に幽霊がいるって有名じゃん、見たことないけど」
「それが、昨日会ったんだ。大きな黒い人形で、わーっと大きくなったと思ったら、『みつけた』とかいっちゃって、俺にかぶさってくるの。怖くてスタッフさんにも言ったんだけど誰も信じてくれなくて」
「にわかに信じられないけど、どこで見たの?」
「部屋でて廊下を右にまがってしばらくいったところ」
行ってみようと誘い出す。ガーネットを前にして、おそるおそる歩いているのを見ると、やはり本当に見たのだろう。昼間は明るく、外の光が入ってくる廊下は、見舞い客や他の入院している人が行き交う。ガラガラと点滴棒を引きずった人が、若いねーとはやし立ててくる。
「ここか、夜になると出るのかもしれないね」
「しれないじゃなくて・・・」
昨日見た男。青い死んだような目でこちらを見た。そしてザフィールと目が合うと、にやりと赤い口角をあげる。
「今日は2ひき・・・負の感情・・・」
大きくなる。そして黒い幕が広がり、飲み込まれそうになる。逃げたいが、手を引いて逃げ足を出せるほど今は状態が良くない。
「行け、シルク!」
ポニータのたてがみの炎が揺れる。その熱さに一旦影は引いた。そして火の粉を命じる。室内にも関わらず、ゆらゆらと揺れる火の粉は影の本体を捉えた。熱さに身もだえる黒い影。その正体は随分と小さいもので、ザフィールはポケモンの名前をつぶやいた。
「カゲボウズ・・・」
「え?なにそれ?」
「人の恨みとか妬みとか、そういったマイナスの感情を吸い取って生きてるって言われてるポケモンだ。もしかして!」
カゲボウズは恨むようにシルクを睨みつける。頭の上に小さな黒い玉を作り出す。それはどんどん大きくなりトレーナーに向けて発射される。それはザフィールの方へ飛んで行き、彼の胸を直撃した。あまりの痛みに座り込む。全ての傷が再び主張を始めるように痛みだす。廊下に倒れそうになった時、ガーネットが体を支えた。
「火の粉で燃やせ!」
火の粉がカゲボウズの作る影に舞う。影が風で火の粉を本体に飛ばさないようにしていた。シルクは届くまでずっと火の粉を飛ばし続ける。やがて焦げ臭い匂いが廊下一帯に充満する。何が焦げているのか解った時にはカゲボウズは悲鳴をあげていた。恨みを込めて生まれた人形の体に、火がついたのだ。そして火災報知器や煙探知機が警報を鳴らす中、熱さにたまらず空いていた窓から外へ出て行く。

「シャドーボール食らったねこりゃ」
そう診察され、痛み止めを処方されただけだった。これくらいなら何も治療しなくて大丈夫と。後でもらえるとのことで、ベッドで待つ。
「さすがの病院ね、あんなゴーストポケモンがいるなんて」
「それは、病院だけのせいじゃないよ」
ザフィールは覚えてる。カゲボウズは負の感情が2匹といっていた。夜中にカゲボウズに会ってしまったのも、自分の中にある負の感情が餌だったのかもしれない。これじゃガーネットのことを言えた義理じゃない。
「ザフィール?」
「いや、なんかそう思ったんだよ」
心配そうに見てくるガーネット。大丈夫、と笑って和まそうとした。なんだかんだでいつも助けてくれる不思議な彼女を。


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