マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.532] 9、海の博物館 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/14(Tue) 20:42:50   65clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 その日の午前、やっとコンテスト会場は再開した。待ちわびたトレーナーたちが今か今かと並んでいる。
 そして今日は退院する日。昼ご飯を食べた後に出ると言っていたから、それまでコンテストの観戦と、木の実をまぜて作るポロックというお菓子を作るため。コンテストに出る人は必ず作る、コンディションの調整などを行なうものだ。人が食べてもそこそこ行けるし、何より持ち運びが便利ということで、それを作りに来た。それに、作ってる時にいろんな人から情報をもらったり出来る。
 特に好きなのは空色ポロック。渋くて甘くて、柿を食べてるような感じがする。入れる木の実によっては渋い方が強かったり、甘い方が強かったり。木の実がなくなったから違うのを入れていたら酸っぱくて渋い紺色のポロックも出来た。味見をすると、あんまり食べたくない味がする。その反応を見てまわりのトレーナーが笑ったりして。そんなやりとりをしていて、すっかりトレーナーとして定着していた。


「じゃ、ありがとうございまーす」
ザフィールが荷物をまとめてスタッフに挨拶をする。後から話を聞いたら恐ろしい状態だったことを話されて驚いた。そんな状態だったのをがんばって看病してくれたスタッフに感謝の気持ちを込めて。若いスタッフが口々にポケモントレーナーらしい格好だねとほめていた。そして最後に主治医に頭を下げる。
「あれ、今日は彼女一緒じゃなくていいの?」
「へ?あいつですか?あれは彼女じゃなくて、友達です」
「へー、君が意識なかった3日間、毎日来ていて、それでいて身の回りの片付けとか全部やっていって、友達ねえ・・・」
驚いた。ものが整理されていたのもそのせいだったのか。
 それにしても話してくれればいいのに、なぜガーネットは黙っていたのだろう。あまりの恥ずかしさに語尾がぼやけながらそこを去る。
 建物を出るまでガーネットのことが頭に巡っていたが、今日は久しぶりのマグマ団の仕事がある。おそらくもう会うことはないはずだ。時間もずらして伝えてある。もし会ってしまったら、その時は突き放してでもおいていこう。



 予定より少し早めに迎えに行くと、荷物もすっかり整理されて出てきていたザフィールがいた。今にも去るところだったようで、駆け寄るとあからさまに不機嫌な顔をしていた。昨日までは確かに嫌そうな顔はしていたけれど、ここまで顔に出ていなかった。
「なんで来るんだよ」
彼の言葉の端も刺々しい。まだ何も言ってないのに姿を見かけた時からその言葉。思わずおめでとうと言いそびれる。解りやすく大げさにザフィールがため息をついた。
「だってこの前みたいに・・・」
とても冷たいザフィールの視線がガーネットを見る。それによって言葉が遮られてしまった。
「まとわりついてくるのがうぜーしジャマだっていってんだよ。んなこともわかんねえのかよ。どけ」
右手だけで乱暴に突き飛ばす。その反動で後ろに倒れた。まさかザフィールがそんなことしてくるとは思わず、避けきれなかった。すぐに起き上がればよかったけれど、何が起きたかもいまいち理解しきれずにいた。
 起き上がった時にはすでに遠くの彼方。暴言はかれた怒りと突き飛ばされた怒りと、少しだけの悲しさを爆発させ、その後を追った。


 そして今にいたり、ガーネットが怒りのオーラを振りまいて111番道路を歩いている。それは野生のポケモンはもちろん、トレーナーすら避けて通るくらいの。
 シダケタウンからどこか行くには111番道路を通らなければならない。出ていった時間からいって、すでにどこか遠くへと紛れ込んでいるかもしれない。全く宛もないが、まっすぐな111番道路をひたすら歩いていた。
 もうすぐ大きな街、キンセツシティが見えるというところまで来て、思わず足を止める。知ってる人がいる。それもかなり昔の。他人のそら似か、本人か。おそるおそるガーネットは声をかける。
「あ、あの!!」
声をかける。その人物は振り向いた。その目、その顔。知っている。ジョウトにいた時、旅をしていると出会ったその人。忘れていた感情が、今までの辛いことなんてなかったかのようにこみ上げる。
 こんなところで会えるとは思っておらず、懐かしさと連絡をくれないもどかしさ、最近のこと、どれから話していいのか。だから次の言葉が出てこなかった。次に口を開いたのはその人だった。
「ああ、久しぶりガーネットちゃん」
自分の表情が凍り付いたように感じた。前に会った時はこんなつっけんどんな言い方をする人じゃなかった。そして何より見る目が冷たい。久しぶりに会ったというのに。その笑顔が作ったような、感情のこもっていないもの。
「ダイゴさん・・・」
「覚えててくれたんだ、ありがとうね」
灰色の髪をした身長の高い男。スーツを来て、あの時より堅い印象がある。それは服装だけの問題ではない。話していても自然な表情がないのだ。彼には。
 それでも良かった。もう会えないと覚悟していたのだから。あの時から今までのことを懐かしむように話しかける。
「あの、あれからいろいろあって、話したいことが」
近寄って来た。そしてダイゴは両手を伸ばしてくる。それはガーネットに触れる手前で止まった。
「なんで君の話を聞かなければいけないんだい?」
言葉も冷たく、心を凍り付かせるには十分だった。次の言葉をつまらせ、ガーネットは口を閉じる。その笑みも言葉も、全く変わってしまったように思えた。
「僕は忙しいんだ。もうカイナシティに行かなければならない。君の相手をしてる時間はないんだよ」
足早に去る。暖かみに溢れ、優しくしてくれたダイゴとは全く違う。別人にも思えた。数少ないホウエンの知り合いだったのに、なんだか縁を根底から切断されたような、そもそもなかったことにされたような。悲しいと一言で片付けられるほど単純な気持ちではない。何が起きたのかどうしてしまったのか、ガーネットの心は混乱していた。


「よかったな、退院できて」
カイナシティの海の博物館前。現地集合、現地解散のマグマ団の集合がかかる。アクア団より早くここにあるパーツを交渉、あるいは奪うというもの。リーダーのマツブサが来るというから、ここで集合している。ところが忙しいのか集合の時間になってもまだ来ない。
 カイナシティは海が近い。嫌でも潮の香りが鼻につく。前はあんなに好きだった海。今は嫌いだ。昔を思い出すから。なるべく思い出さないように別のことを思い浮かべる。
 そうすると自然と今日のことを考えてしまう。マグマ団の集合がかかったとはいえ、逃げるように来てしまったこと。次に会うのが怖いからもう二度と会いたくない。それにシダケタウンからカイナシティまでは距離がある。それが解るはずもない。それに返すものも返した。もうないはず。
「あっ、ハンカチ……」
血に染めてしまったハンカチをすっかり忘れてた。ラッキーに聞いてもスタッフに聞いてもなかったと言っていたからすっかり忘れていた。
 なかったんじゃない、汚した上になくしてしまったのである。しかしこれに関しては諦めていただく方向にしたい。二度と会いたくないのだから。
「中々元気そうじゃないか」
頭をつかまれる。ふりむけばマグマ団のリーダー、マツブサが立っていた。その貫禄は変わらず。思わずザフィールはマツブサに飛びついた。飼い主に会えた犬のよう。しっぽこそないけれど、見えないそれが大きく振れている。
「あんまりじゃれつくな、それ着てる時は全力で目の前のことに集中するんだ。それと、退院祝いと、最近がんばってることを兼ねて、このポケモンを育ててくれ」
ポケモンを育てることを任命されること。それはものすごくマグマ団の中では重要な地位にいるということを示していた。モンスターボールを握りつぶす勢いで受け取る。普通の人間に変形させるような力は無いけれど。そして目の前でそのスイッチを開けて中身を見た。
「どうだ?かわいがってやれよ」
「これって、なに、ホエルコ・・・?」
近くの海の波間から顔を出し、ザフィールのことを見つめてる。丸い形のクジラ。水タイプのポケモンはアクア団が使ってくるイメージも相まってあまりいい気はしない。けれどあのマツブサ直々の命令だ。期待に応える以外の選択肢はない。戻れと命じる。
「そいつは、イト川というところに迷い込んだのを保護したんだ。迷うことないようちゃんと育ててやれよ」
「はーい。イトカワよろしくな」
イトカワとつけられたホエルコはボールの中で主人には聞こえない返事をした。


 マツブサの合図により、海の博物館へと入る。中は広く、海の不思議な現象を展示していた。全体的に青い光に包まれた空間は、不思議な感覚を呼んだ。心の中が穏やかになるような、懐かしいような。
 昔は窓から見えるきれいな海が大好きで、静かに待っていろといわれた時もそこで見ていた。白い波、潮風、透き通る青、時々通りかかるホエルコ、キャモメたち。
 昔を思い出しながら展示をなんとなく見ている。ふと強く引きつけるものがある。それは青い宝石だった。名前はサファイア。英名:Sapphire、独名:Saphir。その昔、カイオーガというポケモンが海の底に消える際、自分の力を封じ込めた石だと言われていると。その色は様々で、特に青くて中から光を放っているようなものはカイオーガの化身とも考えられ、高価な取引がされているという。おくりび山にある藍色の珠は特にその力が強いとされていて、ここにあるのはそのレプリカだという。
「変な模様」
レプリカにも模様が浮かぶようになっているが、その模様が見たこともないもの。いいデザインとは思えず、こんなものが神聖だとか全く思えなかった。ザフィールが率直な感想を口にして、バカにしたように笑う。
「早く来い!」
突然手を引っ張られ、2階へと連れて行かれる。随分とそれに見とれていたようだった。
 無理矢理引きずられて連れてこられたところは、マグマ団がずらっとある人物を取り囲んでいるところ。ジャンプして誰をどうしてるのか見ようとした。すると遠く見える、メガネの人物。
「クスノキ教授!?」
ザフィールは知ってる。小さい頃、一人で海を見ていたときに、寂しいだろうと構ってくれた人。父親はかまわないでいいと言っていたけど、クスノキ教授と、もうひとりササガヤ教授は暇を見つけては相手をしてくれた。どちらも父親とは全く違う分野の研究員だったのに、実の子供みたいにかわいがってくれた。特にササガヤ教授の方は同じくらいの女の子がいて、よく遊んでいたし、仲良くて。あの事件から会う回数は減ったし最近は会ってないけど、顔は忘れない。
「君は!?大きくなったな」
目が合う。クスノキはマグマ団に囲まれながらも知ってる顔をみつけて安心したのだろう。ザフィールに近寄る。そしてその服装を見て、ひどく落ち込む。仲間だとやっと解ったのだろう。諭すようにザフィールに話しかけた。
「もう、あのことは忘れなさい・・・オダマキも忘れさせようと必死だったじゃないか」
「俺は忘れない。あいつらが今でも憎い。これが一番ベストだって、マツブサさんは教えてくれた。だから俺はこうしているんだ。ジャマしないでください」
クスノキは何も言わなかった。ザフィールの真剣な目つきに、友人の子を止めることは出来ないと感じていたようだ。
 二人の間にマツブサが割って入る。威嚇するように、そしてザフィールを守るように。最初の目的のものを果たすよう、再度クスノキを問いつめる。静かに、そして厳しく言った。明け渡せ、と。しかしクスノキもそこで頷くわけがない。
 しびれを切らした団員から、早くしろという声が上がり始める。それでもクスノキは言わない。マツブサも穏便に済ませたかったようだが、ついにクスノキの胸ぐらを掴む。それでも一向に従おうとはしなかった。
 ふとクスノキの横を緑色の何かが通る。キモリの姿だった。白衣のポケットから何かをかすめていった。そんな気がした。そしてキモリは持ち主の元へと、奪ったものと共に帰って行く。銀色に輝くカギと共に。クスノキは顔色を変えた。団員たちからは良くやったとほめられる。それこそ、マグマ団の目的、潜水艇のカギだった。
「何の為に!?非合法な手段も使うと聞いたが」
「アクア団の野望を阻止するため。それだけだ。そのためには全てがマグマ団のためにある」
マツブサは解散の命令を出す。一瞬にして姿を消す術。それと共にマグマ団員たちはいなくなった。ただそこに残されたクスノキは茫然となる。
 今しがた起きたことが信じられない。そしてあの事件のことを引きずっているということも。クスノキも思い出さないわけではない。けれど太刀打ちできるものではない。武装集団になど。それに刃を向ける、あのときの子供。マツブサの甘言に乗り、マグマ団などに所属しているとは、信じられなかった。
 静かになった博物館の2階で、クスノキは2度目の来客を迎えた。肩を叩かれるまで気付かなかった。デボン社に頼んでいたものだった。何度か部品を届けてくれたダイゴという男。最近は来ていないと思っていたが、マツブサよりも冷たいオーラを漂わせていた。
 ダイゴからパーツを受け取る。潜水艇に乗せようと思っていた水圧に耐えるもの。それもなくなってしまった。落ち込み、ため息をつくクスノキに、ダイゴは冷たく言い放つ。「もう一つ作ればいいのでしょう?」と。反論しようとすれば、ダイゴはすでに背を向けていた。そして何もなかったかのように遠ざかる。


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