マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.577] 27、ツリーハウスの住人 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/09(Sat) 22:04:53   50clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 ヒワマキシティにあるポケモンセンターも例外ではなかった。木の上に家を造り、生活するヒワマキシティを象徴するように、ポケモンセンターも高いところにあった。といっても、一階部分は他と変わらず、2階から上が木と合体しているのである。きっと、前は2階にあったのに、旅のトレーナーからいろいろ言われて下ろしたような、とってつけた内装だった。
 正午を少し過ぎた頃。仮眠室にガーネットを置いて、ザフィールは外に出た。寝ているのを起こすのもしのびないし、また過ちがないとは限らない。気づいた時にはすでに時が遅かった。最初から言っていれば、どうだったのだろう。後悔は止まることを知らない。
「あーあ・・・」
ため息をついたところで時間が戻るわけでもなく。ザフィールはヒワマキシティを観光しようとツリーハウスを登る。昔は木登りしていたようだが、今は木で編んだスロープがついている。重たいものも楽に運べるというわけだ。ツリーハウスをつなぐ橋は、手すりがないところもあり、落ちたら痛そうな木の上。
「ザフィール!」
振り向き様に、黄色いものが目の前に張り付いた。バランスを崩し、橋の上から重心が出た。ヤバいと思ったら、その黄色いものは顔面から離れ、橋の上に着地している。
「あっ!橋の上に戻れ!」
落下を始めていた体が何かに押し戻されるように、橋の上へと上がった。何が起きたか解らず、ザフィールはただ張り付いて来たものを見る。
「ごめんごめん」
青いサーナイトのような格好。フエンで会ったミズキだ。マグマラシを連れていた。嬉しそうにザフィールのまわりを跳ねている。こいつが張り付いて来たのか。マグマラシに張り付くなと一発叩いた後、ボールに戻した。
「今日は一人?暇?」
「今は一人で一応暇」
「ちょっと付き合ってくれない?」
時間をつぶすにはちょうど良いと、ミズキに頼まれるままついていく。ツリーハウス同士を結ぶ橋が、足並みにあわせて揺れた。急いでいるわけでもなさそうだけれど、楽しそうでもないミズキ。鞄についている鈴の音色が動きにあわせて揺れていた。


 まだ寝ているのかな。薬は要らないと言っていたけれど、あんなに熱が高いのに要らないわけがないだろうし。何を買っていけばいいのか検討もつかない。起きた時にいなかったらまた怒るのか。けれど昼からずっと側にいて騒がしくしても休まるはずもないし。
「どうしたの?ぼーっとしてるけど」
ミズキに声をかけられて、現実に戻る。頭の中が占められていたことに気づく。こんなに苦しいならば、もっと早く言えば良かった。この思いを伝える時、どんな言葉にしたら一番いい結果になれるのか。そして何より、今のガーネットに聞いてもらえるのか。
「悩んでるなら聞こうか?」
「いや・・・あのさ、ミズキって彼氏いる?」
失礼なことを聞いたかと思った。ガーネットなら確実に怒ってもいいところ。けれどミズキは平然と答えた。
「えー?いないなあ、好きな人はいるけど」
彼女も同じ境遇なのか。そういうミズキから全く悲壮感が出ていない。むしろその状態で安定していると言うように。
「どんな人?」
「うーん、どんな・・・身長も体重も大きくて、病弱だったって言う割にはタバコも酒も節制しないし仕事で・・・」
「えっ!?年上!?」
「そうだよ。かなり年上。こんな子供なんて興味ないからね、向こうは。だからさ、このまま秘密でもいいかなって最近になってやっと落ち着いたんだよ」
ミズキの落ち着きはそこから来ていたのか。通じなくてもいいなんて、そんな仏のような心なんてザフィールには持てそうになかった。
 しばらく行くと、ツリーハウスの前で止まる。新しい感じの家で、ミズキは何やら難しそうな顔をしている。戸惑っているような、勇気が出るのを待っているような。そして深呼吸を一つ。
「こんにちは!」
ノックをする。親しい友達を訪ねる様子ではない。ザフィールは少し後ろで待っていた。家の中は静かであったが、いきなりドアが開く。準備もなく開くドアに、ザフィールは頭を思いっきりぶつけた。
「あっ、ごめんね!どちらさま?」
金色の目をした女の子が、ミズキを見ている。
「私はミズキ。ハウトがここだっていうから寄ってみたんだけどいるかしら?」
「あ、なるほど。私はフォール。よろしくね。ちょっと待ってて、呼んでくるから」
フォールは足音一つ立てず家の奥に引っ込む。玄関には靴が並んでいるが、一つだけサイズの違うものがある。誰か来客中なのか、それだけやけに整っている。
 ハウトとは誰なのか、ミズキに聞く。ホウエンに来てからの知り合いだと言っていた。そして、謎の黒いものを追いかけてる人だと。赤い瞳孔が特徴だとも。そういえばフエンでガーネットも同じようなことを言っていた。ここで話が全てつながる。ザフィールもどんな人なのか見たくなってきた。
 しばらくすると、やはり静かに目的の人が出てくる。確かに深紅のルビーのような瞳孔が特徴的だ。見た目で言えば、とても優しそうで、そして世間一般ではイケメンと言われてもおかしくなさそう。けれど、どこか引っかかる。
「ああ、こんにちは。お久しぶりですね」
「そうね。ちょっと近くを通ったから来てみたの」
ミズキの顔は笑ってない。何かを探るような言葉。ハウトと名乗る人物は、二人に寄っていかないかと誘う。
「誰か来てるんじゃないの?」
ザフィールが言うと、ハウトはそれを否定した。一足だけある雰囲気の違う靴。それを指摘してもハウトは違うと言い張る。
「せっかくですし、少しくらいどうぞ」
「そうだよ、せっかくだし!」
いつの間にか現れたフォールに手を引っ張られるようにしてミズキが入っていく。続いてザフィールも。

 ツリーハウスの中は、普通の家とあまり変わりなかった。あるとしたら、ポケモンが自由に出入りできそうな入り口があるくらい。そこから今もトロピウスが顔を出す。手慣れたようにフォールはトロピウスに木の実を渡した。するとトロピウスは去っていく。
「そういえばザフィールさんに会うのは初めてですね」
「あ、そうか、はじめまして」
ソファに座ったまま頭を下げて気づく。いつ名前を教えたっけ。ミズキと話しているのを聞いてたのか。疑問を浮かべてハウトを見ると、どうしたのかとでも言うように見ていた。
「それにしても、一時はどうなることかと思いましたが、なんとかなりそうですね」
「へ?ああ、ハウトまで知ってるのか」
どこまでガーネットは広めたのか検討もつかない。ハウトはにっこりと微笑む。
「ええ、知ってますよ。悪い人というのは何処にでもいますが」
「まあ、いるよなあ」
「でも、私は言葉というもので解決できないかと思ってます。難しいことですけどね」
ハウトの話は小難しい。そして深紅の視線が刺さるようだった。ザフィールの隣に、だまったままハウトを見ているミズキ。何か、何かこの感じは前もあったような気がする。けれど思い出せない。
 

 夕方にハウトの家を出た後、ミズキはにっこり笑って手を振る。けれど心からではない、警戒を解いてないような顔だった。そして陽が沈んでいるというのに、今からミナモシティへ行くという。ヒワマキシティの端までミズキを送る。
「気をつけてね」
別れる瞬間、ミズキはそういった。お前こそな、と言うとそういう意味ではないという。
「ハウトは何か隠してる。でもそれが何かまではちょっと解らないんだけど」
「うーん、そうかなあ?すごくいい人っぽいけど」
「まあ、確かにね。んじゃね、お・・・いやいや、ザフィール」
「じゃあな!」
夕闇に青いサーナイトのようなミズキが消えていく。足元にいるのは青い光を放つブラッキー。確かアッシュだといった。イーブイの時は灰色の毛並みだったからだとか。記憶が確かなら、イーブイの希少種はそんな色だった。イーブイ自体が希少種といっても過言ではない。そういえば実家がイーブイのブリーダーだとか言ってたな。
「え?待って、そんなブリーダーいるはずないんだが」
ポケモンの繁殖を行なってる者は、規模に関わらず研究機関が全て把握している。そして、イーブイは何度も試してだめだったポケモンで、やろうという人間もほとんどいない。
「俺の勘違いかな、現にそうだっていってるんだし」
帰りにスポーツドリンクを買って行く。もうさすがに起きて待ってるのかな。それともまだ寝ているのか。様々なことを考えながら、ツリーハウスの橋を走る。


 暑い。手はじんわりと暖かい。きっとピークは超えた。後は数日すれば自然に下がるはずである。ガーネットはぼんやりする頭を起こして、聞こえる声の主を見た。とても冷たいスポーツドリンクを頬に当ててくる。
「はい、これ」
ザフィールが袋を手にしている。中にはまだ3本。
「ご飯食べる?」
「いらない」
「そう」
貰ったスポーツドリンクを一口。体の中が冷えていくような感じがした。食欲は湧かないけれど、これならば飲めた。ザフィールが何か言いたそうな顔をしている。
「どうしたの?」
彼は視線をそらす。下を向いてばかりで、顔を見ようとしない。
「あのさ、明日、俺ちょっと呼ばれてるんだわ」
「誰に?」
「・・・マグマ団に」
目をそらした意味が解った。両肩を掴んだ。びっくりしてこちらを見たようだ。
「行かないで」
「いや、そういうわけにはいかなくて」
「ダメ。そんな犯罪者集団にいく必要なんてない!」
優しくガーネットの手に触れる。そして諭すように穏やかな口調でザフィールは言った。
「そう言うと思った。だけどさ、俺が行かなきゃアクア団と戦うのに不利になる。どうしても行かなきゃならないんだよ」
止められない。ザフィールを止めることが出来ない。一度走ってしまえば普通の足では追いつけない。突風のように去ってしまって行く。
「あとさ、お前のこと俺の先輩たちが来てくれって言ってた」
「なんで!?行けるわけない」
「そういうと思ったんだけど、ここ数日アクア団の監視も厳しいし、マグマ団にいた方が安全かと思って」
「やだ。誰がなんと言おうとやだ。ザフィールも行かないで。行っちゃやだ!」
だだっ子みたいだ。騒ぎながら冷静に思った。ザフィールは困ったような顔で見ている。どうしたら引き止められるのか。全く解らなかった。それに、今の状態ではまともに走れるわけがない。せっかく治ってきたのに、また戻ってしまいそうだ。


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