マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.643] 33、紅色の珠 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/08/16(Tue) 01:42:55   59clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 楽になってきた。まだ舌に残る苦みは取れない。勢いが弱まった血が、靴の中にも入ってきてなんとも気持ち悪い。もしかしたら今なら立てるだろうか。ザフィールは物につかまり、左足に体重をかける。
「ぐっ」
動くと同時に走る激痛。思わず手を放す。再び床に伏せた。派手に転び、手が壁にぶつかる。そちらも痛いが、右の太腿はもっと痛い。しばらく仰向けでうずくまると、上半身を起こす。
「動け、動けよ……」
思いっきり叩く。血の出ている部分を。思ったよりも激しい痛みに、目の前が揺れた。呼吸が止まるかと思ったくらいだ。しばらく仰向けのまま痛みが治まるのを待つ。少しくらいなら動かしても激痛は無い。ものにつかまり、立ち上がる。
 歯をかみしめる。まだ忘れるなというように苦みが上がって来た。こんなものを続けて飲まされるポケモンが懐かなくなっていくのが理解できる。漢方薬の力の粉をムリヤリ飲まされて苦みは後を引き、胃の中までじわりと暖かい。けれどそのおかげで、少し歩けそうなくらいに体力が戻った。
 壁に手をつき、ゆっくりと歩く。一歩足を出す度に、目の前が揺れるような感覚。それでも前に進む。聞き出さなければならない。今、何が起きているのか。そしてユウキとは誰なのか。まだマツブサの行動が信じられない。どこかで彼への信頼が崩れてないと感じていた。
 いつもなら走ってすぐのマグマ団アジトでも、距離がとてつもないものに思えた。歩いても歩いても全く進まない。振り返れば、歩いて来たところに血で引きずった跡が残っている。まだ目的の場所は遠い。


 潜水艦の操縦をオートに切り替えて、カガリは立ち上がる。目的の場所までの時間が表示されている。夜明けと共に到着といったところ。そしてひさしぶりに立ち上がると、後ろでずっと静かなガーネットに声をかける。
「随分と大人しいのね」
黙って見上げた。そしてすぐに視線を外す。
「ザフィールは、仲間じゃないの?」
「そうよ。大事な大事な、リーダーに忠誠を誓った仲間。それがどうしたの?」
「リーダーは、マツブサって人って聞いた。それなのにどうしてその人はあんなことしたの?」
「最初からそういう計画だった。あの子がいるとね、アクア団の目的へと近づくのよ。そして私たちの目的を果たすための餌。紅色の珠のヒトガタをおびき寄せるための。もうそれは手に入った。そうしたら、アクア団の妨害をするのが筋だと、リーダーが決めたのよ」
「それだけ?それだけのために、あんなこと……」
「それが何?あの子が貴方の何だって言うの?家からずっと後を追ってくるしつこいやつがいて困ってるって、いつも言ってたけれどもね。それでも大切だっていうわけ?」
「それは……」
こちらを向いてないから解らないけれど、顔色が変わったのが何となくカガリにも解った。離す時だって二人とも離れたくないという表情をしていた。そこに最初から二人しか存在していないかのように。
 カガリには、はっきりと二人の関係が解る。だからこそザフィールを取り込んでいたのだ。ヒトガタにしか解らない、ヒトガタを引きつける感覚。本能とでも言うべき能力が、言葉にしなくても溢れ出ている。それはフエンタウンで会った時から思っていた。
 そして宝石の名前。ユウキがジョウトで逃がさなければこんなに探しまわることもなかった。まさかこんな近いところにいたなんて。幸運としか思えない。
「とにかく、その体では体力が持たない。寝なさい、貴方に危害を加えるわけではないのだから」
マツブサが預けてきた紅色の珠をガーネットに近づける。待っていたかのように、紅色の珠の中に青い模様が浮かぶ。本物なのだな、とカガリはさらに確信を強めた。そして模様がガーネットに話しかけるように点滅する。


「だから忠告したというのに」
ガーネットが目を開ける。そこはなんだか不思議な空間で、立っているのか寝ているのかも解らない。ただ目の前に光るのは青い模様。
「何を?」
「争うな、誰も恨むなと。それなのに藍色の珠のヒトガタと争い、その心が完全に消えたわけではない。正直に言うと、今の状況は最悪一歩手前だ」
「その前に、偉そうに何よ」
「偉そうにって、お前を作った……正確には」
「やっぱり、そうなんだ。謎のやつも私をはっきりみてヒトガタって言った。その意味」
「私が作っただけのある。藍色の珠のヒトガタより頭が回りそうだな。全てを言わなくても理解できる、賢そうなヒトガタになってもらえてよかった」
「……一つだけ解らない。なぜ私たちを選んだの?」
「選んだのではない。お前の両親はちゃんと育ててくれそうだったから私は預けた。一応、予備も用意したが、それは必要なさそうだがな。まあお前の両親がホウエンを離れることだけは想定外だったけれど。
 しかし戻って来てしまったが為に、邪悪なものたちにも悟られた。もうこうなったら最悪の状況になり、それを押さえるのも役目。ただし」
「え?何?なんで黙るの?」
「いつもポケモンを捕まえるようにして私を投げればいい。けれど、解るな?」
「体力が多いと捕まらないんでしょ?」
「そうではない。私をなげれば必ずグラードンは抑えられる。しかし、その分お前の体力を使わせてもらう。グラードンの力を引き出すのも、グラードンの力を押さえるのも自由に出来るのが、人の形をした紅色の珠だ。それゆえ、押さえるのに弱っていなければ、お前の体力が全て使われて死んでしまう」
「えっ!?」
「驚くな。大丈夫だ、いつものように体力を減らし、弱ったところで私を投げてくれれば。自身を持て。グラードンの特徴が体に現れてるのが、ヒトガタであることの何よりの証拠だ」
「解った。本当に自分でもいまいち信じられないけど」
「そして絶対、恨みの感情を忘れるな。それが負の感情で最も強いもの。それに触れて、グラードンは強さが変わる。だから今、考えてることはやめろ」
「それはできない。それだけは!」
青い光は消える。そして不思議な感覚もなくなっていた。

 肩を叩かれる。振り返る暇もなく、体は固定されていた。後ろからがっちりと押さえられ、身動きが取れない。今の状態で、派手な動きが出来ない。暴れるたび、右足が激痛を訴えた。
「こんなところに一人とは、随分用心じゃないなマグマ団も」
この声はアクア団のリーダーのアオギリだ。今、一番ザフィールが会いたくない相手。なぜここにいるのかという疑問よりも、どうにかして拘束を解く方法が頭の中に巡る。
「何するんだよ!離せ!」
「重傷の割には随分と元気だ。これならカイオーガを呼び出すだけの体力はあるだろ」
「やめろ、さわんな!」
「……俺はマツブサみたいに甘くないんでな」
アオギリは容赦なく右の太腿を叩き付ける。声にならない短い声がザフィールの口から漏れた。全身に力が入らない。
「無駄なんだよ。しかしマツブサに先を越されたとはな」
藍色の珠のヒトガタの特徴を忘れたわけではない。けれど重要なところを部下任せにしてしまったところがアオギリの一番の失敗だった。そこに上手く取り込み、アクア団の手に渡らないよう妨害し続けていたマツブサが恨めしい。けれど目的のものは目の前だ。
「ウシオ、こいつを連れていく。マツブサを追うぞ」
「解りました。水中部隊が追ってるのをついていけばよろしいですね。手配します」
「ぬかるなよ。俺は少しここを調べて行く。マグマ団の残党に気をつけろ」
「了解。イズミと合流して、港の方で待ってます」
ウシオに乱暴に掴まれ、体が持ち上げられる。アクア団なんかの言うことなど聞きたくもなければ、従いたくも無い。けれど抵抗するだけの力が今のザフィールには無い。ボールを出したくてもウシオが見ている。その間に傷をえぐられてはまた同じ事。


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