マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.565] 24、ニューキンセツ 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/07/04(Mon) 21:39:39   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 アクア団の誘いを蹴った。その事だけでもう充分だ。ホムラにその事を伝えると、じゃあ俺とカガリが行くと言ってくれた。もう心配なことは何も無い。それに充分強い。進化しないと悩んでいたポニータだって、すでにギャロップ。ジムリーダーの子って、才能まで受け継ぐのか、育て方がいいように思えた。
「はい、もしもし」
カガリからだった。ホムラは別の用事でいないらしく、代わりに連絡をしたと前置きする。
「それでね、今は自宅?」
「はい。ちょっと父親に怒られて、しばらく出て行くのはダメだって言われて」
「ふっ、未成年だもんね、仕方ない。みんなが揃ったら行きたいところあるんだけど」
「遊びじゃないですよね」
「遊びみたいなもんよ。あるところに天気を自由に変えられるポケモンがいるって知ってる?また連絡するから、謹慎してなさい」
受話器の向こうにいるカガリは少し笑っていた。そんなポケモンは聞いたことがない。一時的に天気を変える技ならあるが、あれは本当に一時的。恒久的に変えることが出来るのは、マグマ団が探しているグラードンくらいなもの。もう一対、天気どころか天候まで変えてしまうカイオーガというのもいるらしい。もしかしたらその2匹のどちらかが見つかったとでもいうのだろうか。
「あー、だるい」
落ち着く事ができないヤルキモノのように、ザフィールがうろうろしている。完全なとばっちりもいいところなのに。ミシロから外出禁止がこんなに辛いとは思わなかった。さらに辛いのは隣の部屋に厄介になってる人のこと。入り口にタンスを置いて、完全封鎖しているからいいものの、勝手に入って来られるのである。
「さーくん!さーくんあけてよ!」
オダマキ博士によれば、両親がいないハルカがかわいそうではないのかという訳の分からない理論によるのだ。じゃあ、何も部屋を隣にしなくてもいいものなのに。全く話を聞いてもらえず、家なのにリラックスすることもできず。ベッドの上でキーチに対して延々と愚痴を述べるのみ。
「ハルちゃんどうした?」
「さーくんが開けてくれないんですー!」
部屋の入り口でオダマキ博士とハルカの声がする。ああもうやめて。二人が合わさるとこちらが不利になるばかりなのに。オダマキ博士まで開けろコールをしてくるのはもう地獄だとしか思えない。仕方なくタンスを移動し、入り口を開ける。
「さーくん!」
開けた瞬間に抱きつかれ、不意打ちをくらったかのごとく後ろへ転ぶ。しかも移動したばかりのタンスの角に頭をぶつけて。左手で押さえると、少しふくれていた。こぶが出来たようだ。
「よし、姉弟仲良くしろよ」
それを見たオダマキ博士が言った言葉。最初は聞き流したが、後から意味を理解して起き上がる。
「待って、どういう意味!?」
「そういう意味だ。お姉ちゃんが出来るんだ、よかったなザフィール」
どうしてそういう展開なのだ。確かにオダマキ博士は両親がいないハルカに対してとても情をかけている。だからって、なんで、しかも義理の姉になるのか理解できない。すでに母親は了承済みであるとか、知らないのはザフィールばかり。それにしても、こんな抱きついてくるのが姉だなんておかしいと思わないのか。いろいろ言いたいことがあるのに、オダマキ博士は素知らぬ顔。
「それより、お前そろそろ外に行きたいんじゃないか?」
見透かしたような言葉に、ザフィールの目は輝く。その後のオダマキ博士の言葉に、二つ返事で了承した。


 というのもハルカから逃げたかったため。ついでにガーネットから距離を置くため。最近は町中で買い物ついでに会っても笑ってもくれない。少し前まではあんなに笑ってくれていたりしたのに。理解不能の女が身近に2人。ああ、さらに緑猫をくわえて1匹。カガリだけだ、この難解な人間関係の文句を不満な顔一つせず聞いてくれるのは。
 スバッチの翼で空を行く。そして見えて来たのはホウエン最大の電気街。そこのジムリーダーに会うのだと言われた。キンセツシティジムへ、地図を頼りに歩き出す。

「いやだ!」
ジムの前まで来ると、入り口でもめている人影があった。見た事ある、フエンタウンで会ったラルトスを連れていて、名前は確かミツル。彼の横にいるラルトスがどうしていいか解らず、きょろきょろとしていた。
「僕だって強くなった、それを証明したいんだ!」
「そんなこといったって無理だよ。まだ治りきってないんだから」
「あれから発作も起きてない、引き起こすようなこともなにひとつ!だから伯父さんお願いします」
近づくとミツルがこちらに気づいたようだった。何をしているのかと聞けば、ジムに挑戦したいとのことだった。
「ザフィールさんからも言ってください!」
「えっ!?いや、いいんじゃないの?やってみなけりゃ解らないし」
うかつに言ったことが間違いだった。ミツルの叔父はなぜそんな無責任なことを言うんだと怒る。こちらに矛先を向けられても、とザフィールは小さくなった。
「なにをやっとるかね!」
豪快な声が聞こえる。ジムの中からほがらかなおじさんが出て来たのだ。確かこの人がジムリーダーのテッセン。何でもないと言うようなミツルの叔父をよそに、ミツルはテッセンにそのことを訴える。
「ほっほっほ、オダマキ博士の息子に頼もうかと思ったんじゃが、お前さんにも出来そうじゃのう。やってみるか?わしに挑戦する以上のことじゃから、出来たらバッジを渡してやろう」
「そのオダマキ博士の息子って俺なんですけど・・・」
テッセンはザフィールの方を見る。そうじゃったそうじゃったと豪快に笑いながらザフィールの肩を叩く。
「じゃあお前さんがた、ちょっと頼まれてくれ。ニューキンセツっていうな、発電所が最近なにかと暴走してのう。爆発したら大惨事じゃ。その前に止めてくれないか?」
まだ大爆発するような大惨事にならんから大丈夫じゃーと笑っている。父親を経由したとはいえ頼まれたことなのだからザフィールは行くと答えた。ミツルは決めかねているようだったが、ザフィールと一緒なら、と答える。


 無人とはいえ発電所である。セキュリティのため、道路と面していない。淡水と海水が混じる付近の海に面していて、船で渡る他はない。けれどザフィールは曲がりなりにもポケモントレーナー。久しぶりに海に出れたことが嬉しそうなホエルコのイトカワに乗って渡る。大きなポケモンだから、ミツルも一緒に。
 大きな建物めざしてイトカワは進む。ザフィールは預かったニューキンセツのカギを握りしめた。入り口近くで降りると、イトカワをボールに戻す。ボールに戻るのが嫌そう。いつか海水浴行くからなーと声をかける。
「さて、ここか」
見てばかりの建物だったニューキンセツ。入れば地下へと続く階段がある。薄暗く、切れかけの蛍光灯がちかちか点灯している。
「怖くないんですか?」
ミツルが聞く。ザフィールの影に隠れるようにして歩いていた。
「んー、そりゃ何か出そうな気がするけど、大丈夫だろ」
「すごいですね」
ミツルがため息をついた。慰めるかのようにスピカがズボンの裾を引っ張った。
「危ない!」
ビリリダマが後ろからやってくる。キーチの素早いリーフブレードで斬る。うなるようにビリリダマは転がっていく。そして前に進もうと振り向けば、コイルがいる。
「電気に引きつけられてやってきたのか。面倒なことになってるな」
気づけばもっとたくさんの野生のコイルやビリリダマがいる。キーチが全てを斬りつけられるわけもなく、スピカがねんりきで攻撃している。念力を出す瞬間、赤い角が光り、それにつられてさらにポケモンたちが集まって来た。面倒なことになってきている。ザフィールは思った。
「逃げる!走るから」
といっても、マグマ団の時みたいに相方が健康で走れるわけでもなく、ガーネットの時みたいに蹴散らしてくれるわけでもない。かといって走ればミツルを引き離してしまうのは解ってる。スピカの体力もそろそろ限界を迎えるようだった。
「イトカワ!のしかかれ」
ボールから出た大きなイトカワ。そのまま下にいるビリリダマやコイルを下敷きに。少しは数が減った。それに、この攻撃で少しひるんだ様子。逃げ出すポケモンもいる。するととたんに動きが止まった。
「な、なんだ!?」
ザフィールが思うのも無理はないこと。いつの間にか現れたのか、にこにこしているポケモンがビリリダマやコイルの背後に立っている。
「ソーナノ・・・しかもたくさん」
影踏みで動けない野生のポケモンをソーナノたちが囲っている。一体なぜこんなことになっているのか、人間たちには理解できない。キーチもザフィールの傍らに立ち、ソーナノたちを見守っている。
「いまのうちに!機械を止めたら大人しくなるかもしれない」
ザフィールは走り出す。こんなに自分が足が速かったかと思わずにはいられない。少し走っては止まり、ミツルを待つ。彼もザフィールについていくのが精一杯だ。視界も、ちらつく蛍光灯のせいで見えにくい。しかも建物のセキュリティのために扉が開いたり閉まったりするものだから、余計に難しい。こんなにも一緒にいて気を遣わなければいけないのも初めてだった。
「ここ、です、ね」
ミツルの息が上がってる。対してザフィールはいつもと変わらず。その二人は、建物の一番奥へとたどり着く。セキュリティも万全すぎて、中々着くことができなかったけれど。
「そうだな、これを止めればいい。しかし凄い熱」
近づくだけで暴走していることが解るくらいの熱気が伝わる。なるほど、大爆発間近というわけだ。機械のまわりに、電源の切り替えボタンを発見し、おそるおそる手を伸ばす。熱くて火傷しそうだ。パチっという音とともに、機械の作動音が低くなり、停止する。
「よし、これで大人しくなるはずだ。あれ?」
「どうしました?」
「スピカどうした?」
いつも子供のようにミツルの後を引っ付いていたのに、全く姿が見えない。ミツルの慌てっぷりを見ると、ボールにしまったわけではなさそう。ということは・・・
 二人は顔を見合わし、元来た道を戻る。どこにおいてきた。その検討もさっぱりつかない。暴走した野生のポケモンに食われていなければいいが。セキュリティをくぐり抜け、時には挟まれかけたりしてニューキンセツの地下を走る。探してもスピカの特徴をみつけることが出来ず、二人は言葉に出さないまでも、内心は焦っていた。
 楽しそうな声がする。セキュリティの扉を1枚隔てたところで。それを開けると、たくさんのソーナノの中に、赤い花のようなスピカ。二人をみつけると、ソーナノがにこにこの顔で迎えた。まわりには動かないビリリダマとコイル。事態が良く飲み込めてない二人をよそに、ソーナノたちはとても楽しそう。


「いやー、助かったよ!」
キンセツシティに戻ればテッセンが大きな口をあけて笑っている。ジムリーダーがジムを空けるわけにもいかないし、かといって暴走した電気タイプのポケモンを押さえられるトレーナーは限られてる、と悩みのタネだったようだ。
「やっぱり、何かあったらオダマキ博士を頼るのは正解!あの人は詳しいし親切だ。坊やもそうなるんじゃよ!」
ザフィールの肩をばしばし叩く。お礼として電気タイプの技を教えてやると言うのだ。
「あー、俺はいいや、プラスル結構強いし」
ミツルを向く。足元にはスピカに懐いてしまったソーナノも一緒に。
「え、いいんですか?」
「いいよ。ほら、ジムリーダー直伝の技だから覚えて損はないぜ」
「わっはっは!疑うようなら、そのラルトスに覚えさせてやろう!これが、10万ボルトじゃ!」
スピカの角が光る。テッセンの直伝の技が記憶に吸収されていく。それを見て、良かったなと声をかけた。そしてザフィールはテッセンに軽い挨拶をした。
「それじゃ、オダマキ博士によろしく伝えておくれ」
「はい。解りました。ミツルも元気でな。無理すんなよ」
スバッチのボールを掴んだ。それと同時にポケナビが鳴る。集合は急いでるのだろうか。電話に出ると、ホムラの声が聞こえる。
「よぉ、お楽しみでしたか?謹慎中のザフィール君」
もう伝わってる。しかもさりげなくネタを混ぜて。ザフィールは本当にホムラに話してしまったことを悔やむ。
「もうとけました。今はキンセツシティです」
「なんだ、やっぱり電話してよかったわ。さっきカガリから聞いたと思うんだけど、天気研究所に行かなきゃなんねーのに、人数がいねえんだわ。どうよ?」
「聞くまでもなく行きます。何時までに?」
「ん、明日でいいよ。ほら、明日だと凄い低気圧が来るらしいから、雨だと外にトレーナーもいないしな」
時間を覚えると、ポケナビを元に戻す。家に戻らず、このまま行こう。そのために全て持って来たのだから。手持ちに後一匹余裕がある。ならば、それでも探してようとした。キンセツシティを抜け、大きな川で遮られているところへと出る。
「やあ」
その声に立ち止まる。優しさとは無縁の、人を見下した目。身長もあるのだけど、それだけではない。ザフィールが好かない人間だと思っているダイゴ。身なりはフォーマルなのに、どこか変な感じがするのは気のせいだろうか。
「ザフィール君、会えて嬉しいよ」
言葉だけ。ダイゴの目は相変わらず見下している。負けじとザフィールもダイゴをにらんだ。
「君は自分の住んでいるホウエン地方が好きかい?」
「は?好きとかそういう問題なんですか?」
「僕はホウエン地方が好きだよ。それにポケモンたちもね。僕はみんな大好きだ。それを乱そうとするのが、僕の一番大嫌いなことなんだよ」
「え、だからなんの・・・」
「だから、君に生きて・・・」
いきなりダイゴににらまれる。視線が少し変わった。何が起きたのかよくわからず、ザフィールは1歩後ろへと下がる。ダイゴはしばらく黙り、そして元の見下すような目で見てきた。
「君のポケモンはまだ弱い。育て方が足りない」
ダイゴがポケットからボールを出す。そこから出たエアームドは大きく翼を広げた。勝負を挑まれているのか、ダイゴはそのまま立っている。海が近い。イトカワのボールを出す。
「ホエルコ、か。進化すればホエルオー」
「そうだよ、ホエルコでわるか・・・」
イトカワが得意の海に潜ろうとした時だった。エアームドが大きく翼を動かす。エアカッターがイトカワを切り裂いたのだ。ザフィールが指示するより早く。そしてその威力は普通のエアームドではない。
「解っただろう、君は弱い」
エアームドがボールに戻って行く。瀕死のイトカワをボールに戻すということもせず、ただ見つめている。強さも半端ではない。余裕の表情で、何が起きたか解らないザフィールを見ている。
「君ごときに負けるわけがない。天と地の差だ」
茫然と水面のイトカワを見つめていたが、その言葉にザフィールはダイゴをにらみ返し、ダイゴの腕を掴む。
「覚えてろ・・・俺はお前を超える。その時に同じことを言ってやる。覚悟して待ってろ!」
イトカワをボールにしまった。そしてダイゴの前から逃げるように去って行く。その後ろ姿を見送ることもせず、ダイゴは立っていた。
「僕はもうダメだ、代わりに・・・」
手がボールを選んだ。エアームドのボールを。移動しろという命令。
「ラティオスとラティアスがヒワマキシティで待っている。行け」
エアームドが舞い上がる。ダイゴを乗せて。鋼の翼が風を切った。


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