マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.761] 41、南の孤島 投稿者:キトラ   《URL》   投稿日:2011/10/02(Sun) 18:45:22   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 最近会ってないし、全く手がかりもつかめてない。ホウエン地方って広すぎる。

 ぼーっと海を眺めながら吹いていたせいだ。いつの間にか音は外れ、それに気付いて息を入れるのをやめる。師匠より習ったこの楽譜のない曲は、耳の良さと集中力がものを言う。どこかの民族の舞曲で、神様が降りる曲だと言われているが、未だに見た事がない。カイナシティの港に腰掛けて、銀色の笛をケースにしまう。
 本来ならばこんな潮風の強いところで出すと塩気に当てられてすぐに痛んでしまう。けれど手がかりもなく、何をしていいかも解らない状態で、やることがなかった。
「もうここに来て何ヶ月も経つのに、手がかり一つないなんて」
海に向かって歌う。先ほどの曲を口ずさんで。美しく、どこか引きつけられる旋律は、現代の楽譜に表すことなど出来ないのだろう。もし出来たとしても、記号が多そうな曲だ。
「竜の舞、ですか?」
後ろから話しかけられて、何のためらいもなく振り向いた。
「竜の舞を知ってる人がこの現代にもいるとは思いもしませんでした」
「よく知ってるのね」
不思議な雰囲気は変わらず。その深紅の目は宝石のように見入られる。ハウトという名前も本名かどうかも妖しいのに、本人の前では自然と警戒を解いてしまう。
「私はその舞が出来た当時の完全な踊りを現代に伝えています」
「結構激しい踊りなような気がするけど、ダンスも出来たのね」
「ええ、結構踊っていませんが、その曲を聞くと体が動き出すようです。ところでミズキさん」
「なに?」
「もしよろしければ明日、ミナモシティから出る船に乗りませんか?」
ハウトが差し出したのは、一枚の紙切れ。不思議な模様が描いてあり、見ているとその世界に吸い込まれそうだ。
「貴方の探しているもの、見つからないのでしょう?」
ミズキは黙ってハウトを見る。誰にも探しに来たことを教えていないはず。なのに心の中を見透かすようなハウトの言葉は、ミズキに不信感しか与えない。
「たまには気分転換も良いと思いますよ」
何者なのか喋らせようとしたが、遅かった。ハウトは早足で街の方に歩いて行き、倉庫の影に一瞬だけ隠れたと思えば、すでに姿はなかった。


 朝は早い。久しぶりに自宅へ戻ったせいか、今までより深く寝ていたようだ。体を起こすと、身の回りの支度を始める。鏡を覗き込み、あの頃から全く変わってくれない白い髪を見る。誰もがいつかは戻るって言ったけれど、何も戻る気配もなかった。
 鞄に必要な道具、そしてモンスターボールを確認する。まだキーチが眠そうだ。他は皆起きていた。そして一つのボールに目を向ける。
 アブソルだ。災害を予知して人の前に現れるというアブソル。触りたくも無かったが、道行くトレーナーに白い毛並みがお揃いだと言われたり、かっこいいと言われたりして、そうそう悪いものではないと思い返す。アブソル自身が災害を起こしているわけではない。特にアブソルは天災を予知はできるが人災など予知できない。
「お前にずっと濡れ衣着せてたな。ごめんな」
人の言葉など理解できるわけがない。モンスターボールを準備して、ザフィールは外に出る。直後、オオスバメの元気な鳴き声が朝のミシロタウンに響き渡った。

 
 ミナモシティはすでに活気づいていた。漁港ではすでに競りが始まっているし、客船では準備に大忙しだ。それらに合わせて店の開店時間はどこよりも早い。その中を時間になるまでザフィールは色々見回っていた。何度か来たことはあるけれど、やはりその日によって出ているものが違う。
「もうそんな季節か」
季節の魚と銘打って安くなっているのを見て、時間の流れを感じる。毎年のことだが、今年だけは物凄く早いように感じた。頭を振り、過去は変えられないとわき上がる気持ちを押さえる。
 ため息まじりに息を吐く。そして遠くを見た。その景色の中に、知ってる人間が混じっている。人ごみをかき分けてザフィールは走る。
「ミツル!」
その人物も振り向いた。サーナイトを連れたのは、間違いなく彼だった。この三ヶ月、幾度となく会っていたし、頼りにしていた。その彼にこんなところで会うなんて思いもしない。
「あれ、ザフィールさん!どうしたんですか?」
「俺も聞きたいよ。何してんだこんなところで」
「いや、その……」
ミツルが一瞬だけ目をそらす。けど後ろのサーナイトが手を肩に手を置いた。本当のことを言えと言うように。
「僕、家出してきたんです」
「なんだって!?なんでそんなさらっと言えるんだよ」
「これはスピカのために出ることにしました。確かにシダケタウンはいいところです。だけどスピカはそんなところに収まるポケモンじゃないって思いました」
「どうして?」
「他のポケモンを育ててきて思ったんです。成長の度合いが他と違います。戦う為に生まれたような、そんな気がします」
「ミツル……サーナイトとかって、人間の気持ちに応えて成長するんだ。だから……」
これ以上は言っても仕方ない。サーナイトがそれだけミツルの強い気持ちに応えようとしたこと、他人に言われるまでもないだろう。言葉で言わなくても、何となく理解できていれば、言うことなんてない。
「まあ、そう言いますよね。だからこそ、スピカにはたくさん強くなってもらいたいんです」
「無茶だけはするなよ。おじさんだってすっごい心配してるんだから」
ふとニューキンセツに行ったときのことを思い出す。あの時はまだ何も方向性がなかったミツルだったのに、なんだか立場が逆になっているような気がした。同じ時間しか経ってないのに、この違いはなんだろう。おそらくこれが、過去にとらわれて進まなかった自分とミツルの違い。ザフィールはふとため息をついた。
「そういうザフィールさんこそ、まだ家に帰ってないんですか?」
「いや、昨日帰ったよ。そんでこんなものもらったんだ。あ、そうだ、今日は予定ない?ないなら2枚もらったからどうよ?」
チケットらしきものを見せる。ミツルも同じことをいった。何にも書いてないと。
「……大丈夫です。けど、行き先も何もないのは怖いですね」
「俺もそう思うんだけど、ちょっとこのチケットは色々あって」
ザフィールが届いた経緯を話す。それにはミツルも不思議そうな顔をしていた。
「俺はそんなイタズラみたいなことをするやつを突き止めようと思う。そういう冗談でもやっていい事と悪い事ってあるだろ」
「僕も行きますよ。ガーネットさんに続いてザフィールさんもいなくなったら僕も嫌です」
サーナイトも頷いた。ミツルに不思議な色のチケットを渡す。自分だけが読めることに、疑問どころか答えしか出て来ない。藍色の珠に関係あることなのだ。まだ終わっていない。ザフィールは気取られないように、明るく振る舞っていた。

 
 そこそこ大きな船だった。客船にしては、乗客がいない。自分たち以外に乗ってないのではないか。船の中を一周しかけた時、懐かしい姿を見つける。ザフィールは声をかける。
「ミズキ!」
船の手すりからずっと外を眺めている彼女は、一瞬みただけではサーナイトのようだった。
「あ!しばらくぶり!元気だった!?」
ミナモシティで会った時から変わってない、ように思える。眠そうな顔でそれでもサーナイトのように言葉で包容してくれたのを今でも忘れない。
「あの時は本当、死んじゃうかと思った!でも元気そうでなにより。あれ?今日は一人?ガーネットは一緒じゃないんだね」
「ああ、ミズキにはまだ言ってなかったか。あいつは……もういないんだ」
言葉に出すたび、息がつまりそうになる。まだ認めたくない。認められない。
「へ?どういう意味?なんで?意味わからないんだけど!」
おとなしめな彼女が、いきなり早口になる。それほど彼女にとっても衝撃的な事実だった。
「だから、そのままの意味だよ」
「なんで?なんでよ?だったら……いやなんでもない」
ミズキは黙る。そして海の方をみた。誰かに詫びるような目をして。
「誰のせいでもないんだ」
ザフィールは言う。それでもミズキは納得いかないようで、ずっと海を見ていた。


 かなりの時間、船に揺られていただろうか。正午近い時間になって、ようやく着くというアナウンスが入る。外に出てみれば、遠くにかすむ島が見えた。人が住んでいなそうな島で、木々に覆われている。こんなところに何の用があるというのだろう。
 船を降りる。ミツルのサーナイトが彼の腕を掴む。行くな、と。なだめるようにミツルが撫でるが、サーナイトの態度は変わらない。
「スピカ。サーナイトなら、僕の気持ち解るよね?」
頷く。けれどかたくなに行かせようとしない。どうしてかミツルの言うことを聞こうとしなかった。仕方なくミツルはボールに戻す。そして3人は何もない森のような島を歩き出した。
 歩けど歩けど何にもない。熱帯に生息しているような植物があるばかりで、何も見えて来ない。しかも山のように坂になっているから、足もだるい。それでもこの先に何かあると感じて、3人は歩き続ける。
「あれ、何もない?」
道は終わり。山頂には、逆に木が少なく、原っぱのようになっていた。その真ん中に神秘的な色をした石が一つ。
「イタズラにしては程が過ぎる」
ザフィールがついに怒ったようす。人影などなく、気配もない。そんなところにこんなことをされて平気でいられるほど寛容ではない。
「イタズラではありませんよ」
落ち着いた声。その声の主を見ようと顔を上げた。
「ハウト?それにフォールも?」
ミズキが驚いたようにその名前を呼ぶ。先ほどまでいなかった石の向こうに、いきなり現れた二人。
「私たちは貴方たちを呼びました。全てを終わらせるために」
ハウトが一歩踏み出す。思わずザフィールは息を飲んだ。その神秘的な目が3人に予想以上のプレッシャーを与える。
「終わらせる……?」
「お分かりになりませんか、ミズキさん。せっかくだから教えてあげてはいかがでしょう。貴方は本来ここにいるべき人間ではない。貴方は……」
動揺するザフィールとミツルをよそにミズキはハウトの声を遮るように、そして挑発するように話しだす。
「そうよ。ごめんね、二人とも。私は本来、貴方たちより物凄い年下。むしろ子世代」
「へ?なんで?俺より年上じゃないの?」
「私は変わってしまった歴史を取り返すために来た。私の存在を守るために過去に来た。誰にも邪魔はさせない」
その場の空気が変わった。ザフィールとミツルは驚きのあまり声が出ない。そもそも状況が理解できない。過去に来た、そして年下ということから未来から来た人間?そもそも時間を越えてどうやって。中々正解を出せない二人をおいて、ミズキはさらに続ける。
「でもハウト、それはフェアじゃないわ。私が嘘をついていたように、貴方たちも嘘をついている。何度も見破ろうしてもダメだった。今こそ正体を全て見せなさい!」
「もうとっくにお分かりでしたよね」
ハウトとフォールの口角が少し上がったような気がした。そして二人の空間がねじ曲がる。そう見えた。そのねじ曲がった空間の向こう、そこにいたのは青い鳥のような竜と赤い鳥のような竜だった。
「私はラティオス」
「私はラティアス」
「私たちは、レジ様たちに従い、ホウエンを汚すものを排除します」
そのイリュージョンには誰もが二の句をつなげない。何を言ったらいいのか、何を言ってはいけないのか。目の前で起きたことなのに、全く信じられなかった。


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