マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.486] 4、わたしのなまえ 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/02(Thu) 01:35:03   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 街に火が灯る。カナズミシティの街はネオンが明るく、夜でも不自由がない。結局、ザフィールは見つからない。夜のトウカの森にいるとは考えづらいし、戻ってなければここに来ているはずなのに。
 街灯に照らされたベンチに座り、一人ため息をついた。このまま知らないところに一人でいるのも心細いような気がする。けれど、今から自宅に戻ることなんて不可能。勢いで出てきてしまったことを少し後悔した。けれどもあいつを野に放っておくわけにはいかない。
 ふとガーネットは立ち上がる。目の前の人ごみの中に見たことある姿を見つけた。見失わないうちに後をつける。気付いてないようで、後ろを振り返ることもない。だんだんと人ごみから外れ、静かな通りのポケモンセンターに入って行く。チャンスだ。走り込み、ザフィールの肩に手をかけた。
「ザフィール君、さっきのトンチはどういうことかな?うん?」
しっかりと力を込めて。ザフィールは微動だにしなかった。


「おなかすいたんだよー!」
ポケモンセンターの食堂で、チーズハンバーグを前にザフィールは突っ伏した。目の前のガーネットから恐ろしいオーラが出ている。
 トンチでまいたと思ったのに追いつかれたし、なんでいるところがバレてしまうのか。それとトウカの森で、マグマ団の連中がガーネットのことを見たといっていたのにここにいるということは逃げたのか。
 けれど、そこまで思い出すと、マグマ団の言っていた「デボンの社員といちゃいちゃしてた」というのがすごい気になる。なぜ気になるのかも解らないけど、あんなおっさんと笑顔でいちゃいちゃしてるガーネットが想像できない。
「あの、ですね」
むっくり起き上がると、ガーネットを見た。
「何?」
冷たい。言い方にやわらかさなど全くない。怖いけど逃げたら蛇みたいに追ってくるし、がまんして続ける。
「104番道路におじさんといたじゃん?あれだれ?」
「ああ、なんかキノココ好きなセクハラじじい。トウカの森でさ、海賊風のおっさんと、あと・・・」
黙った。まっすぐこちらを見つめてくる。その怖いオーラそのままで。
「ザフィールはマグマ団なの?」
「えっ!?なにいきなり!?」
体の中を冷たい汗が流れる。バレたのか。確かについてきていたのに気付かなかったし、気配を消すことが出来るのかもしれない。そこを見られていたのかもしれない。血の気が引いたのが解ったのか、ガーネットは少しだけ話し方を柔らかくする。
「そんなに怖い存在なの?冷や汗かいてるよ」
ポケットからハンカチを差し出される。大丈夫、といって断る。
「そ、そう、ホウエンですごい有名で、トレーナー集団なんだけど怖いやつが多いんだ、俺も何度か・・・」
「そう、しらを切るわけ?ジョウトであんたはそのマグマ団だといって、その隣にいたでしょ?」
誘導尋問だったのか。ザフィールは胸が凍る思いしかない。
「だ、だから俺じゃ・・・」
「さて、本当にザフィール君じゃないのなら犯人探してくれるんだよね?探さないとどうなるか解ってるんだよね?」
いただきます、と食事に手をつける。ザフィールもいいのかな、と少し冷めたチーズハンバーグに手を付けた。

 なぜなんだ。なぜこうなるんだ。
 ザフィールは嘆いた。ポケモンセンターに泊まると話したら、都会であるために一部屋しか空いてないと。知り合いの人だったらまとめられてしまう。食堂で一緒にご飯を食べている姿を見られている。言い訳をしようにも出来なかった。別にしろなんていうわがままが通るくらいなら最初からそうしている。
 そして今にいたる。
 彼女が先にシャワーを使っているため、今なら逃げられるはず。しかし出来ない。なぜなら鞄を人質に取られているのだ。
「のぞいたら殺す」
と宣言までされて。けれどそこまで言われると、少し見てみたい気もしてくる。冷静に見れば良い体つきをしている方だ。しかしバレたらどうなる。殺されるでは済まないのではないか。
 4畳半より狭く、だいたい2〜3畳の畳に転がりながら考える。そして、落ち着いてくると、なぜそんなことをしてまで見なければいけないのかという結論にたどり着く。畳の上に仰向けになった。時計が目に入る。いつも見てるアニメが始まる時間だ。テレビをつけた。
 ガーネットが上がってくる頃、オープニングが始まっていた。寝間着姿の彼女が何見ているのかと寄ってくる。画面にうつった小さい女の子向けのアニメに、二の句がつなげてない。まさに大きなお友達が出来た。
「マジカル☆レボリューションっていうアニメ。この主役の珠里たんをやってるプリカちゃんっていう声優がオープニング歌ってんの。でね、人間じゃねえんだぜ。プリンだぜプリン!ポケモンがあんな流暢に声優できるんだぜ!?」
「はぁ・・・そう」
「めっちゃ声かわいいんだ。このスタールビーファイアなんて、もうアニメのオープニングなのにCD売り上げ初登場1位のまま3週間維持してたんだから!」
そこでザフィールは気付いた。自分を刺す冷たい視線に。今までとは違う、哀れむ冷たさ。ちょうどオープニングが終わり、コマーシャルに入っていた。
「ルビーかぁ」
「ま、ガーネットみたいにそんな振り回すような女じゃなくて、プリンのぽふぽふって感じの、もっとこう癒し系でぇ・・・」
「ねえしめられたい?骨を砕かれたい?お望みの死はどっち?」
言い過ぎた。だらけた姿勢から一変、平謝り。その笑顔が恐ろしいと何度思ったか。誠意が通じたのか拳は下ろしてくれたのだが、大きなお友達を哀れむような目は変わらない。
「確かに、声きれいだね」
テレビから流れるアニメを見てガーネットがぽつりと言った。
「だろ!?これでプリンとかって凄いよな。まじプリカちゃんかわいい」
「この歌いいよね。私と同じ名前なのに」
「え?どういうこと?」
特に好きでもないキャラがうつっているらしく、ザフィールはテレビから目を離してガーネットを見た。
「違うよ、私は最初、ルビーっていう名前になる予定だったらしくて。それが直前、お父さんがルビーなんか絶対だめ、宝石の名前つけるなら他の赤いやつにしろっていうからこの名前になったんだ」
「へー、今の名前で良かったんじゃないの?清楚でかわいいプリカちゃんの声で歌うタイトルと違って、お前の性格じゃぁねえ」
一言多いのだ。ガーネットの手が、軽くザフィールの首を絞めていた。

 風呂場の鏡で見れば、首がうっすらと赤い。青くないだけマシか。暴れるザフィールを押さえつける腕力。力には自信があったのに、あっさりと覆されては良い気もしない。特性だから仕方ないけれど、ああも完封されてしまっている。絶対に直接対決だけは避けなくては。そして絶対にマグマ団とバレないようにしなければ。
「でもマグマ団と疑ってる節もあるよな」
しばらくはマグマ団の仕事が出来そうにもない。幸い、明日以降はまだ招集がかかっていない。
「ああ、本当早く諦めないかな」
いつまでついてくるつもりなのか。今日の疲れを取るように体を洗い、寝間着に着替える。
 そして部屋に戻れば、二人分の布団がすでに敷いてあった。狭い部屋だから布団が二つくっつくように。誰がやってもそれしか出来ないだろう。
 ガーネットがそのうちの一つに入って、うつぶせに寝ながらタウンマップを見ていた。
「布団ありがとう」
「ああ良いよ別に。それと無断で布団入ってきたら覚悟しな」
「誰もお前みたいな魅力ない女はおそわねえよ怪力」
小さく言った。それなのにガーネットはそのタウンマップを投げつけてくる。紙切れだからダメージらしきダメージは無いが、その目は怖かった。

 彼が次の朝日を拝めたのは慈悲によるものだったのか。あの後、散々固め技でやられ、体中が痛い。カイリキーに掴まれたのかと思ったくらい身動きが取れず、やられる一方だった。目が覚めるとすでにガーネットは行く支度まで整えている。何分前に起きたのか予想もつかない。起きたことに気付いたのか、ガーネットがこちらを向いた。
「おはよう、今日はどこ行くのかな?」
「へ?」
寝起きで声も上手くでないところに、いきなりガーネットの尋問。
「今日はどこも・・・」
「へえ、104番道路も116番道路も行かないわけ?おかしいなあ、そうやっていつまで出し抜こうとしてるのかなザフィール君」
どこへ行くか言わないと明日がなさそう。ザフィールは思いつきで、104番道路に行くと言った。


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