マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.543] 12、シダケの風 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/23(Thu) 17:22:05   60clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 美しい笛の音が聞こえる。清らかな風に乗り。

 気づいたらスピカがいなかった。あわててミツルは家の外まで探しに行く。どうして出ていったのか検討もつかなかった。
 従姉妹のミチルが自分を呼ぶ声がする。けれどそれを振り切ってシダケタウンの中心部へと向かう。ここなら目立つ赤い角、それが解るはずだ。
 そんなに大きいところではないけれど、コンテストがあるために多くのトレーナーが行き交う。彼らにまじってしまえば、見つからないのは必須だった。
 ミツルは振り向く。歌っているような響きに誘われて。その音色は穏やかで、鳥の歌声のようだった。足が向くままに進むと公園に入っていった。そして見えてくる特徴のある姿。ベンチに座り、ゆったりとした顔で。思わずミツルは駆け寄る。音色が止まった。
「こんにちは」
スピカの横には、久しぶりに会う人がいた。今日は白い上着を脱いでいて、いっそう青い服装が目立つ。
「お久しぶりですミズキさん」
この前と違うのは、彼女が銀色に輝く横笛を持っていたこと。それが奏でる音が風に乗って聞こえてきたのだろう。スピカはそれにつられて来たようだった。
「どうしたんですか?コンテストの優勝絵画を総嘗めにしていたのに」
「あら、まだいたらいけないって顔してるけど?」
「いえ、そういうことでもないんですけどね」
ミツルは彼女の隣に座る。短く切られた髪は風にあわせて揺れていた。年上の女の人はミチル以外にあまり会わないからか、ミツルは少し緊張していた。
「これ、吹いてたのはミズキさんですか?」
握られた横笛を見てミツルは訪ねる。太陽に反射して、とても眩しい。
「そうよ、私。こっちに来ても練習だけはしておけって先生から言われてるの」
厳しい師匠なんだけどね。そう言うミズキはとても嬉しそうだった。
「とてもきれいですね。相当練習したんでしょう」
「ありがとう。練習した甲斐がある」
「もしかしてポケモンもそれで指示したりとか?」
「いやいや、そんなに上手くないから無理。そもそも、これは遠くまで音を飛ばすよりも、まわりとの調和で響かせるから、騒音だらけのバトル中じゃあそうそう的確に指示だせないし。例えばさー」
ミズキは目の前のガラスケースを指す。中にはたくさんのエネコ。まわりにはたくさんの人だかりが出来始める。
「エネコみたいに、耳がいいポケモンばかりだったらそれもありだし、技が読まれないと思うんだけど。私の友達はクラシック式で指示だすから読めなくて」
「クラシック式?」
「技の番号を覚えさせて、実戦中は番号で指示するやつ。あれ本当に解らないよね」
ミズキは立ち上がり、エネコのケースを見に行く。どうやらここにいるものは売り物であって、おまけのモンスターボールもついてくるという。滅多に見つからないポケモンで、ボールつき。捕獲にかかった人件費も込みで1000円となると、だれもが頭を悩ませる。
「かわいいらー、エネコ本当にかわいい」
そう言いながらも、ミズキの目は笑ってない。じっとエネコを見て、何か話しかけるようにして動かない。何人かの人がエネコを買おうと決断したとき。へばりつくように見ていたミズキがジャマだったのか、店主が追い払うように言う。買う気はあるのか、と。
「飼う予定は無いですけどね」
「ジャマなんだ、そこどいてくれよ。こっちだって商売なんだから」
「この子たち、野生ですよね?それなのにこんな・・・」
その言葉に集まっていた人たちがミズキを見る。暴発しそうな店主、動揺する集団。それに気づいてミツルはミズキの服を引っ張るが、彼女は動こうとしない。むしろじっと店主を見て、構えた姿勢でいる。おびえた様子はまったくない。
「だからなんだよ、売っちゃいけねえっていう法律があんのか!?」
「野生のエネコは数が少ない希少種。だからこそブリーダーもエネコの繁殖に関して最大の注意を払っているというのに、こんな狭いガラスケースに入れられて、ストレスがたまるわよ」
限界を迎えたようだ。店主はミズキの胸ぐらを掴む。商売をジャマする生意気なガキ、と。
「危ないわよ」
ミズキが一言だけ発した。同時に光の束が電撃となって周囲へ発散される。その雷エネルギーに店主は吹っ飛んだ。だからいったのに、と冷たい言葉を投げつける。周囲は騒然となり、公園からは人がいなくなった。
「はぁ、まったくホウエン地方は怖いわあ」
「・・・今、最も怖いのはミズキさんだと思うんですよ、みんな」
見たこともないポケモンだった。光は大きな虎のような形だったが、一瞬のことで細かい形は覚えていない。けれども並の電気タイプでは一瞬であそこまで放電することが出来ないはず。けれど何事もなかったかのようにミズキは振る舞う。
「そう?さて、お店の人もどっかいっちゃったし、このエネコを元の生息地に戻さないとね。アーチェ」
加速の名を持つカイリューがあらわれる。小さく羽ばたくと、ガラスケースごと抱えた。そして落とさないよう、揺らさないよう、宙に舞い上がる。その姿を見送った。そしてミツルのスピカも小さい体で一生懸命エネコを抱えてテレポートをして。


 その作業が終わったのは、夕方になってから。いくつ捕獲したのか解らないほど。おそらく、生態系を根こそぎ変えてしまいそうなくらいに捕まえたのだろう。中には子供も多数いた。元の公園に戻ったアーチェが一仕事を終えたようにボールの中に戻る。
「ありがとうね、ミツル君」
「いえ、そこはいいのですけどね・・・ミズキさん、貴方が持っていたポケモンって何ですか?あの雷のエネルギーを一瞬にして放出する速さ、どんな強いエレブーでも出来ないと言われてます。なのに・・・」
ミズキは微笑む。そしてそっとミツルに語りかける。
「そういうことは、お口にチャック。今は解らなくても、いつか解る時が来るかもしれないんだから」
後ろにのけぞる。ミツルの服を誰かが後ろから引っ張ったのだ。スピカをしかろうとしたら、目の前にいるし。緑色の地面に目立つようなピンク色。
「あれ、まだエネコが一匹・・・」
「ミツル君に懐いてるみたいだら、飼ってあげたら?」
スピカと一緒に遊んでるエネコ。少し小さいピンク色のしっぽを振って。
「そうか、じゃあお前も来るかい?」
エネコはミツルを見て、一声鳴いた。


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