マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.479] 2、ファーストアタック 投稿者:キトラ   投稿日:2011/05/29(Sun) 02:20:13   75clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 寝坊した。そう気付いたのは時計の針が9時をまわっていたから。飛び起きると自分の服を探す。けれど引っ越したばかりでろくに荷物も開けられない中、そうそう見つかるわけもなく、2個目の段ボールを開けた時に目に入った服を引っぱりだす。昔に来ていた赤い襟のついたサイクリング用のシャツに、下は白いスカート。その丈も短いというので、下にスパッツはいてた気がする。そして靴下を履くと、急いで玄関まで走っていった。
「お姉ちゃん!」
ドタバタに目を覚ましたのか、妹のくれないが赤い布を手に走ってくる。急いで自分の靴を下駄箱から探す。忙しくているため、背中を向けたまま生返事。適当にされてるのが解るのか、後ろから近づいてガーネットの頭に布をかける。
「ぼうしがわり!おそといくならしていかなきゃ!」
よく近所の森を探索するときにしていた赤いバンダナ。慣れた手つきでしばる。そしてその手に渡すようにして外用の手袋を一組。
「だんボールあけたらでてきたよ、おねえちゃんのぶん」
「ありがとう。準備がいいのねくれない」
頭をなでる。嬉しそうに笑顔で。
「あら、ガーネットでかけるの?」
すでに飛び出る用意をした後で、母親が布に包まれた箱を持っていた。
「お父さんお弁当忘れちゃったみたいなのよ。ちょっと出かけるならついでに届けてくれる?」
「うわ・・・うん、仕方ない行く」
お弁当を受け取る。いつもなら忘れることがあまりないけど、昨日の引っ越しが疲れていたのか。とりあえずすでに日は高く、追い掛けるには遅すぎる。玄関のドアが壊れる勢いで飛び出した。

 
 そのままザフィールを訪ねるも、予想通りだった。出かけた後だという。しかも長いこと帰らないで、遠くまで行くと言っていたと。適当な返事をして、いてもたってもられず、勘の働くまま走り出す。ミシロタウンを出て道路の先の先の。今から全力で走れば間に合うはず。持ってきたモンスターボール、そのうちの一個、シルクを呼び出す。本気で走れば勝てるものはそうそうない。
「ずっと走って!」
素直に従う。ポニータの足は加速していく。初めて見る木や草が、炎の風の通過により騒がしくなる。

 101番道路をずっと走る。やがて小さな町が見えた。ミシロと同じような田舎町、コトキタウン。疲れたと言うようにシルクの足が止まる。ここまで全力で走ったことをほめ、モンスターボールに戻す。まだ子供だ、少し走らせすぎたかもしれない。少し休ませてやろう。小さくても力があるミズゴロウもいる。
 コトキタウンに住む人たちにそれとなく行方を聞くと、ポケモンセンターに寄って、それからフレンドリィショップで物を買っていたところまでは判明した。ポニータの足でも追いつかないほど距離があるのか。コトキタウンの先には二つ道があり、どちらも野生のポケモンの宝庫だというから、どちらに行ったか皆目検討もつかない。
「どっちだと思う?」
ミズゴロウは地面の匂いを嗅いだと思うと、そこらの壁に前足をこすりつける。気ままに振る舞うミズゴロウ。言葉が通じないし、相談するのも違うけれど聞かずにはいられない。
「犯人は北に逃げるっていうから、北かなあ?」
それはカントーでの犯罪者の心理であるが、この時のガーネットには真偽はどうでもよかった。ただ何となくの手がかりが欲しい。それに、お昼までには父親のいるトウカシティまで行かなければならない。ポケモンセンターでもらった地図を見つめて、いつまでにコトキタウンを出ればいいのか考える。
「まずは行動!行くか!」
いつの間にか歩き出した主人を追うようにミズゴロウが歩く。103番道路への道を行く。


 ポケモントレーナーの姿すら見えない。そういうところにはポケモンたちが多く生息するようで、ミズゴロウは野生のポケモンと出会う度に体ごとぶつかっていく。反撃も食らうことだってある。
 特に黒い犬、ポチエナは噛み付いてきた。ポチエナの牙で、ミズゴロウの青い体がところどころ赤い筋が増えていく。追い払った後に傷薬を塗ってやると、喜んで飛びついた。
 するとミズゴロウめがけて一羽の鳥、キャモメが飛び出す。木の枝の間から飛んで来た。かまえるより早く、その後に続く木が折れる音、そしてさらに何かが落ちてくる音がした。それから逃げていたのか、キャモメはそのまま大空へ消えていく。地面には葉っぱが舞い、それにまぎれるようにして着地に失敗したらしい人間。思わず近寄る。
「なんで落ちてんの?」
ガーネットが思わず口走った言葉。白い髪の男の子、そしてその顔。探していたザフィールがなぜか木から落ちてきた。外の活動がしやすそうな首まである赤と黒の上着と、黒いズボン。とても動きやすそうだけど、腰から落ちたようで、とても痛そうにしている。
「いや、その・・・あのキャモメが木の上に止まっててさ、取ろうって思ったら逃げられただけなんだけど、なんでお前いるんだよ!」
見上げてきたザフィールの表情は、とてつもなく驚いていた。そして逃げられないと思ったのかため息をつく。そして立ち上がった。
「ってかお前がそこにきたからキャモメがいきなり逃げたんだ。まじで調査ジャマするつもり?」
「はぁ?誰もジャマしてないし、大体からあのキャモメはうちのミズゴロウ狙ってきたし。言いがかりも大概にしなさいよ」
にらみ合い。どうみてもザフィールはガーネットを引きはがしたいとしか思えないし、ガーネットもそれに対抗するかのごとく反論する。そのうち、ザフィールの方からモンスターボールを突き出す。
「もう我慢ならん、勝負して勝ったらついてくんなよ!」
「わかった、じゃあ負けるわけにはいかないのよ」
ザフィールが投げたボールから出てくるのは小さな緑色のトカゲ、キモリ。主人と同じようにすばしっこそうな動きをしている。それを受け止めるのはミズゴロウ。
「いけ!にらみつけろ」
「ミズゴロウ攻撃!」
キモリの方が速い。鋭い眼光がミズゴロウを捕らえ、一瞬体が震える。ひるむことなくミズゴロウはキモリにぶつかっていく。細い体にはミズゴロウの重い体当たりは堪えた様子。攻撃をくらい、一歩後ろに下がる。
「大丈夫か?でもお前のが速い、いけキーチ、はたけ!」
速かった。キモリが跳んだと思えばミズゴロウの頬を思いっきりひっぱたく。低い声でミズゴロウがうなった。
「どろかけ!」
ガーネットの声に反応し、前足を強く地面に押し付けた。泥というより土がキモリの顔めがけて飛ぶ。ダメージはそんなに無いようだが、何より目に入った土を出そうとして、攻撃どころではなさそう。
「ミズゴロウ体当たり!」
「させるか、もう一度はたけ!」
もう一度。キモリがミズゴロウの頭のヒレを叩く。気にもとめない勢いで、ミズゴロウの体がキモリの下あごに突っ込んだ。キモリの目から星がでた。そのまま仰向けに倒れて起き上がる気配がない。
「よし、約束よ、あんたに・・・」
ミズゴロウはガーネットの元に喜んでやってくる。ほめてと言いたげに。
「誰も俺が勝ったら、なんて言ってないだろ」
「は?」
「だから、俺が勝ったら、なんて言ってないだろ。どちらにしろ、この勝負関係なくついてくるんじゃねえ!」
あまりのトンチに開いた口が塞がらない。見ている間に、じゃ、とだけ言うとザフィールはものすごい勢いで逃げ出した。追わなければと気がついた時にはすでに彼の姿はない。
「やられた!あの男、ゆるすまじ!」
時計を見ればもう出発しなければお昼にトウカシティにつくことができない。ミズゴロウをボールにしまうと、ミシロからコトキよりも距離がある道路、102番道路へと走り出す。そのためには一度コトキタウンに帰らなければならない。


 102番道路のトレーナーたちと戦ううちに、慣れたのかミズゴロウは楽しそう。シルクはまだ炎の扱いが上手くないために、ほとんど肉弾戦が多かった。それでもやっと火の粉程度なら扱えるようになってきた。堅い蹄の攻撃の方が効率は良さそうだが、炎が扱えることが嬉しいようで、目の前にポケモンがいなくても火の粉を飛ばしている。たまに草に燃え移ってしまうが、素早くミズゴロウが泥をかけて消火している。体はミズゴロウの方が小さいけれど、お兄さんのように見張ってる。
「そこのトレーナー!勝負しようぜ!」
遠くから声がする。受けて立つとミズゴロウが前に出たら、シルクがさらに前に出る。思わずガーネットはミズゴロウをボールに戻した。

 正午5分前。トウカシティの端に到着する。人通りが多く、野生化した元手持ちポケモンだったようなものが道路にウロウロしている。野生のエネコが目の前を通り過ぎ、その先にはエネコロロがいる。ジグザグマの親子が群れているし、タネボーが街路樹にぶら下がっている。
 看板を見て、ジムへ向かう。大きな通りの真ん中に、大きく構えた建物。トウカジムの看板に引かれて中に入っていく。初めて入るポケモンジム。そして父親の職場。どういう雰囲気なのかも解らずとりあえず入っていく。
 ジムの受付にはおじさんがいて、挑戦するのかと聞かれた。今はそこではない。名前とお弁当を届けに来たと伝えると、父親が数分後に出てきた。汗かいてるところを見ると、またポケモン相手に格闘していたと思われる。
「おお、ガーネットお弁当とどけてくれたんだな、ありがとう。一人で来たのか?」
「うん、シルクもいるし、昨日オダマキ博士からミズゴロウもらったし」
包みを届ける。また当初の目的である、ザフィールを追い掛けなければならない。
「それとさあ、オダマキ博士の子供のザフィールっていう男の子来なかった?」
「ああ、ザフィール君かい?来てないなあ。そういえばあの子は」
話が長くなりそうだった。これからしばらく家を開けることを父親にも伝えると、すぐにジムから出て行く。入れ違いになるように人影にぶつかる。軽く肩がぶつかり、大して力を入れていないのにその影は後ろによろけた。
「すみません」
ガーネットより少し小さい男の子。緑色の髪が揺れる。あまり体調が良くないのか、肌が白い。ガーネットの横を通り、センリにまっすぐ向かっていく。
「あの、センリさん、ですか?」
「そうだが、君は?」
「僕はミツルといいます。明日、引っ越すことになって、それでポケモンと一緒にいきたいんだけど、僕は捕まえたこともなくて、どうしたらいいか・・・」
病弱そうな少年。ポケモンなんて連れて大丈夫なのだろうか。他人事ながら心配そうに見ていると、センリと目があった。思わず避けるが、後の祭り。
「ガーネット、ちょうどいい、この子のポケモンを捕獲するのを手伝ってあげて」
ほら昼休みだし、と笑顔で言っている。これから休憩時間だからと二人を追い出すように手を振っている。忙しいとかそういう文句を受け付けないのだ、父親は。昔から全部自分の都合で動いているようなもの。
「わかった、行くよ」
強い言い方に圧されたのか、ミツルは黙って歩く。その一歩がとてもゆっくりで、さらに強く言ってしまいそうだ。


 外に出ると、その辺に持ち主不明のポケモンはいるけれど、みんな姿を見せただけで逃げてしまう。草むらにいるポケモンを探した方が飛び出してくれるかもと提案する。移動するにもゆっくりと歩くので、なんだか見ていて苛ついてくるのが解る。一度深呼吸し、後ろを歩くミツルを振り返った。
「大丈夫?」
「はい、すみません、僕に付き合ってもらって・・・」
細い腕、そして足。押せば簡単に折れてしまいそう。あいつとは随分違う。そう思うと、そればかりに気がいって、早く終わらないかと自然に態度にでてしまう。
「あの、ガーネットさんは、センリさんの娘さんなんですよね?」
「え、そうだけど?」
「だから、ポケモントレーナーになろうって思ったんですか?」
「お父さんは関係ないよ、親友の代わりに」
「そうなんですか、強いですねガーネットさん」
何が言いたいのか解らない。先ほどの苛つきもあって、それ以上返事はしなかった。黙って102番道路にある草むらに入った。
「ここにいるんですね!」
「いるよ」
「あの、ちょっと捕まえ方見せてもらってもいいですか?」
ここでガーネットは気付く。空のモンスターボールも持っている。野生のポケモンも戦った。トレーナーとも戦った。けれども、ポケモンを捕獲したことは一度もない。というよりミズゴロウやシルクを育てることに気が行ってて気にしたことがなかった。つまり、見せるもなにも、やったことがないのである。
 ミツルを見れば、期待をこめた目で見ている。ここはやるしかない。成功するかどうかも解らないけれど、ガーネットは草むらに一歩踏み出した。かき分けていくと、その音に興味を持ったジグザグマがジグザグ走りながらやってくる。同じような体格のミズゴロウを呼び出す。
「どろかけ!」
顔に泥をかけられて一瞬ジグザグマはひるんだ。そしてミズゴロウに向かってぶつかってくる。ジグザグの動きがミズゴロウには読めない。直線的な動き以外が予想できないのだ。
「よし、もう1回どろかけ!」
ジグザグマはのんきにしっぽなんか振っている。それが攻撃技だと知るのは、ミズゴロウのやる気が少し抜けたように感じた後。
 向こうも焦ってるような気がする。左手に空のモンスターボールを持った。それをミズゴロウとの距離を計ってるジグザグマに投げつける。体が吸い込まれ、抵抗するようにボールが動き回る。やがてその振れは小さくなり、完全に止まる。かちりというロックした音が聞こえた。
「すごい!ジグザグマだ!」
草むらの外からミツルが嬉しそうに見ている。頬が紅潮して、少しは健康に見えた。
「いや、そうでもないけど・・・」
ボールを拾い上げ、ミズゴロウを戻す。ジグザグマのボールを見て、ミツルは珍しそうに覗き込んだ。
「そういえば、この子に名前つけないんですか?ミズゴロウもそのままなんですか?」
「特に考えてないな」
「じゃあ僕が考えていいですか?」
ジグザグマのボールを見てミツルは目を輝かせた。それをみてダメとは言えない。
「この子はしょうきちがいいです!」
「しょうきち?」
「だいきちだと、あたりよすぎてもう上はないけれど、しょうきちなら上も下もあるから」
嬉しいのかしょうきちはボールから出てミツルにじゃれていた。そしてガーネットの足元によってきて体をこすりつける。
「ミズゴロウはどうするんですか?」
「え?」
「この子、結構強いですよね。それに進化するととても大きくなる種族じゃなかったでしたっけ?」
「さあ?進化後を知らないから解らないけれど、強いなら」
ミズゴロウを持ち上げる。こののほほんとした顔が後に強くなるなんて想像がつかない。ときたま犬のように吠えたりするし、青い色をしていることから、ガーネットにある名前が浮かぶ。
「シリウス。青い色の一番明るい星だよ」
シルクみたいに名前をもらったのが嬉しいのか、シリウスも一緒になってミツルと遊んでる。
「さて、次はミツルの番だけど」
「はい、僕も・・・」
何かを念じるようにして草むらに入る。一歩踏み入れた。その足音を聞き分け、草が動く。そう見えた。違う、緑色のポケモン。コケシのような、見たこともないポケモンだった。
「これは?」
「ラルトスです、僕も実物は初めて・・・」
ふわっとミツルの体が浮き上がる。ねんりきだった。地面に叩き付けられる寸前、ガーネットが彼の体を受け止めた。
「大丈夫?なんかすごい凶暴・・・」
「大丈夫です、あのラルトスもしかして・・・」
ふと野生のラルトスを見ると、肩で息をしているように見える。何かから逃げてきたのか。傷を負っているようにも見える。
「保護しないと!」
ミツルがモンスターボールを投げる。ラルトスが吸い込まれ、ボールに収まる。地面に落ちて激しく抵抗していた。その抵抗もやがておさまり、ボールは停止した。
「やった、ポケモン・・・」
ミツルは身をかがめる。顔が青白い。呼吸をするたびに笛を吹くようなぴゅーという音が出る。とても苦しそうな顔をしていた。
「え?どうしたの?」
「喘息、です、早く家に帰らないと・・・」
シルクのボールを出す。ポニータの足ならば素早くトウカシティまで帰ることができるはず。乗せようとミツルの体に触れた。
「大丈夫ですか?」
通りがかった女の人が声をかけてくれた。トレーナーらしいのだが、ミツルを見て少し驚いたような顔をしていた。そしてミツルの手を握る。
「大丈夫ですよ、もう治ります、苦しいのは取れてすっきりしますよ」
背中をさする。その動きに合わせるかのようにミツルの呼吸が少しずつ少しずつ元に戻ってきたのだ。
「もう元通りです、ラルトスのシンクロには気をつけてくださいね。傷をおって、それをシンクロにして飛ばしてる。頭のいいラルトスです」
では、と女の人は立ち上がると去っていった。鞄につけた小さなスズが美しい音色を奏でていた。


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