マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.507] 6、激流 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/07(Tue) 02:40:40   58clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 キモリの攻撃がはじかれる。弱点のはずの草が全く効かない。レベル差がありすぎる。まだ間に合ってなかった。
 サイホーンの攻撃がキモリの腹に当たる。突進だった。柔らかい急所を突かれ、体ごと飛ばされた。ザフィールが上手くキャッチする。キモリはほとんど体力が残ってなさそうな顔をしている。すでにスバメは瀕死の重症だった。これ以上ポケモンがいない。キモリをボールにしまうのと同時に後ろを向いて走り出す。
 事前に確認しなかったのが不幸か。後ろには、別のアクア団がいたのである。2対1、勝ち目は無い。なるべく二人が視界に入るよう、ザフィールは立ち位置を取る。後ろは壁だ。狭いトンネルの中、二人の男に囲まれる。
「こいつがマグマ団の裏のエースとか言われてるやつか」
「間違いない、俺は一度こいつを見たことがある。こいつをやっちまえば、マグマ団の戦力は大幅に削げる」
一人の男が指の関節を鳴らした。ザフィールはため息をついた。避けるだけなら、きっとキモリ以上に動けるとは思う。
「そんな風に評判になってくれて嬉しいけどな、俺はそんなに簡単にやられねえよ」
自分に言い聞かせるようにザフィールは言った。アクア団達は少しずつ距離を縮めてくる。後ろは壁だ、逃げ場は無い。けれど攻撃の瞬間、隙が生じる。そこから逃げればいける。せめてマグマ団の応援が来るまで無事でいればいい。
 突如、ザフィールの体は右に跳ぶ。そこにいたら顔が持ってかれたのではないか。耳に残る、拳が風を切る音が物語る。そうと思えばもう一方が押さえつけようとザフィールの腕を掴もうとする。寸でのところで逃れた。アクア団たちの包囲網から外れる。
 今しか走るチャンスがない。道さえあれば勝ったも同然。地面を蹴りだし、走る。
 いきなり揺れた。地震があったかのように。立っていられずに、前に転んだ。そして目の前に見たものは、道を分けるように深く割れた地面。後ろにいるのはサイホーン。そのまま走っていたらこの地割れに飲み込まれていた。そして、完全に退路を経たれていた。
 跳ぶのも考えたが、それより先に首根っこをアクア団につかまれる。
「さてと、簡単にやられないか試してみようか」
トンネルに響く音は、年齢にふさわしいものではなかった。壁に押し付けられ、腹部に重い一撃が来る。声も出ず、息苦しい。首をじわじわと締められ、抵抗しようにも子供の力では大人に敵わない。
 そしてもう一発、今度は顔に。後ろの壁にもぶつけ、視界がぼやける。口の中を切ったようで、血の味がした。アクア団が楽しそうに笑う。反論したくても、息がまともにできない。そして反対の顔にも拳が入る。二人のアクア団が獲物をいたぶる捕食者に見えた。

 その様子をエネコは物陰から見ていた。あの時、助けてくれた人間に興味を持ち、ずっとついてきていた。大きな人間二人は、今まさにその人をいたぶって楽しんでいる。動くべきか動かないべきか。動こうとしても、足が震えて動けない。敵うわけがない、人間とあのサイホーンには。けれど、ここで出て行かなければあの人は死んでしまうかもしれない。

 大きな人間はさらに思いっきり腹部を殴りつけた。指先はほとんど動かない。助けてくれた恩があるのに、なぜそれを返せない。恩を返すのは群れのルール、それをリーダーが守らなくてどうする。
 エネコは決意したように跳ぶ。そして男の後ろ足に噛み付いた。手加減なしで。けれど男はエネコに反撃することもできずに倒れる。パンチを出したら右に出るものはいないエビワラーのような素早いパンチが男二人の頬を捕らえていた。
 男たちは殴られた方向に飛んでいった。エネコが見上げると、赤い服を着た人間が大切なものを壊されたような目で男たちを見下ろしていた。


「遅いっすねえ」
一通りのアクア団は排除した。けれどさっきからザフィールが見当たらない。カナシダトンネルにアクア団が逃げたから追うと報告を受けてからだいぶ経つ。さすがのマグマ団もざわつき始めた。
「まさかやられたとか・・・」
「いやそれはないだろ、ザフィールだぞ、簡単に捕まるわけもない」
逃げ足には定評があり、誰にも出来ないことをやってきた。それに器用なやつであるから、捕まっても逃げられるだろう。そういう評価があるからマグマ団たちも一人で追わせたのである。
「そうですね。そういえば、この前のトウカの森で、アクア団に食って掛かってた女いたじゃないっすか。あいつが入って行くのを見たんですよ」
「なぜそれを言わない!ザフィールが危ない!」
間違って一緒にボコされたらどうするんだ、とマグマ団たちはカナシダトンネルへと入って行く。


「歩ける?」
簡単な質問にも答えられないようだった。目だけで訴えてくる。息をするのも苦しそうだった。開いた口から、血が滴り落ちる。
 その赤が目の奥に染み渡るようだった。頭がふらつく。頭痛もしてくる。体が受け付けてくれない。全てを吐きそうだった。けれどここで何とかしなければ、また目の前で死んでしまう。奥歯を噛み締め、じっとザフィールを見た。
「ガーネット、なんで、来たんだ」
「なんでって、教えてくれたでしょ!ほら喋らないで」
頭のバンダナをほどくと足の傷口を押さえるようにバンダナを巻いた。口から出る血は、少し小さいハンカチを当てる。青いハンカチがすぐに赤く染まっていった。
 そしてそのままザフィールの体を支えて立ち上がる。彼の足には力が入っていなかったが、重いとも思わなかった。待機していたポニータに乗せる。落ちないように支えながら。そして地割れの前で止まる。
 この地割れくらいなら、ポニータがジャンプすれば届いてしまう。けれど、今のザフィールにシルクから落ちないようにしているのは難しいし、二人乗ってしまえばジャンプ力がなくなる。
 考えたところで、ザフィールの容態が悪くなるのは解っている。すでに口元のハンカチは色がかわってしまっていた。顔色も悪い。ポニータの足並みにそろえるように、エネコがくっついてくる。ザフィールのものなのか、ずっと心配そうに見上げている。
「大丈夫、お前の主人は助けるよ」
とは言うものの、妙案は浮かばない。ここは一か八かに賭け、跳んでもらうか。縄みたいので体を固定できればいいが、そうしたら次は自分が出られない。壁を伝うことも思いつくが、キモリでは人の体重を支えることはできないだろうし、そもそも瀕死に近い。どうしたものかと自分のボールを見る。ジグザグマとミズゴロウのボール。
「しょうきち、シリウス。壁に穴をほって通り道つくって」
2匹はすぐさま作業に取りかかる。どんどん穴が出来ていき、人が通れるくらいの大きさにしていく。任せておいて大丈夫だろう。むしろこのけが人の方が心配だ。
 流れる血から目をそらすように様子を見る。血はさっきより勢いは止まっているけれど、力が入らないのは変わらない。一応、呼吸はしているので今の所は大丈夫であるのだろうけど。
 後ろからいきなり押さえつけられる。足が宙に浮いた。太い腕、そしてその高さ。片頬が腫れているアクア団だった。目を覚まし、ガーネットを捕らえている。
「こいつにガールフレンドがいたとはな」
「残念だけど、私とザフィールはそんな関係じゃないわ」
「そうかい、じゃあこいつがいま死んでもいいんだな?」
もう一人がザフィールの体をかかえていた。そして地割れの前に持って行く。
 ガーネットはミズゴロウの名前を呼んだ。その合図にあわせ、水鉄砲がアクア団に飛び出す。突然のことでザフィールを手放した。崖から落ちないよう、ポニータとエネコがザフィールの服を噛んで引っ張っている。
 二匹の後ろからアクア団が近づくが、ポニータの後ろを取るということがどういうことかわかってなかった。反射的にポニータの後ろ足でダイヤモンドなみに堅い蹄の強烈な一撃を与えたのである。それを見てガーネットもアクア団を力任せに振り払う。痛がっているアクア団を持ち上げた。
「ちょっとジャマしないでね、だからあっちいっててほしいんだ」
ほうり投げる。アクア団はトンネルの奥へと再び姿を消した。往生際が悪いのか、もう一人のアクア団は足元にいたミズゴロウを地面に押さえつける。
「動くなよ、動いたらこのミズゴロウを」
ミズゴロウが暴れるが全く効いてない。前足で地面を掻くが、ただへこむだけ。
「よし、そのまま動くんじゃねえぞ。お前みたいなやつは持ち帰ればボスにほめられるんでね、なるべく傷つけず持って帰りたいんだ」
「私は物じゃないし、あんたたちの仲間になる気もない」
ガーネットの右足が揺れる。そこから何かが飛んで、アクア団の顔にめり込む。靴だった。走るのに最適なランニングシューズだからそんなに堅くもない。シルクの蹄より痛くないでしょ、と声をかけると、気絶しているアクア団を放って穴掘りを再開させる。ガーネットは再びザフィールの体をシルクに乗せた。


 運が悪いとはこのことで、そのすぐ後、地割れの向こうに赤いフード、黒い服の集団が見える。マグマ団だ。地割れがあるから助かったようなものの、もしなかったら今の状態では守りきれない。
「いたぞ、あの女!」
「やっぱりあの女にやられてたのか!くそっ!」
マグマ団が空を飛べるポケモンを繰り出した。ズバットだ。他にもズバットゴルバットキャモメペリッパー。あまりの数の多さに対応しきれない。
 けれどやらなければ。キノココのボールを開き、全員総出の戦い。1匹が何匹も相手しなければならない。それでも負けられない。ザフィールを下ろし、ポニータは炎のたてがみを揺らした。
 しばらくは持った。けれど体力のないものから次々に倒れて行く。キノココ、ジグザグマ、ポニータそして最後までねばったミズゴロウも今や押し負けそうだった。力のないものからボールにいれてやると、何かが飛びついてきた。戦いに気を取られ、全く気付いてなかったが、地割れに梯子をかけてマグマ団たちが渡ってきている。そして人海戦術とばかりに、ガーネットを次々に押さえつけたのである。


「みんなで乗ったら気絶するだろーが!!!」
さすがのガーネットも何人もいたらはねとばすことができずにこの有様。マグマ団たちは会議を始める。まずザフィールは病院へ連れて行くのは当たり前として、ガーネットをどうするか、である。
 マグマ団たちの足元をぬって、残った体力でガーネットに近づく。ミズゴロウが心配そうに顔を近づけた。何の反応もないガーネットを見て、悲しくなったのか大声で泣き出す。最初はうるさいな、とマグマ団も言っていたが余裕がなくなった。死んだと勘違いしたミズゴロウがさらに大きな水の固まりをマグマ団に当てる。その威力は強いもので、吹き飛ばされている。そして残ったマグマ団にも同じく水の固まりを当てた。体力がなくなると水技が強くなる特性、激流。その名前のごとく、水鉄砲が激流となり、ミズゴロウから乱射されている。そしてその水は低いところにたまり、地割れを満たすまでになる。
「やばい、あのミズゴロウやばいぞ!」
歩ける団員は逃げ出した。ミズゴロウはガーネットとザフィールの服の端をくわえると、今までよりも大きな技を呼び起こす。津波にも似た大量の水が山奥のカナシダトンネルを襲う。壁からも水が漏れだし、全ての空間が水で埋まる。その勢いで、カナシダトンネルが崩れていくニュースが、その日の一面トップに躍り出た。


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