マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.544] 13、カラクリ屋敷の怪 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/24(Fri) 01:52:18   61clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 もう何時間も同じところをぐるぐるまわってる気がする。景色がまったくかわらない。室内なのにどこにいっても木、木、木、木、木ばかり。細い木をジュプトルのいあいぎりで叩ききっているが、気のせいかすぐに生えてきているような感覚がある。なぜなら背後に道がない。まさか遭難してしまったとは認めたくない。広いジャングルならともかく、限界があるはずのカラクリ屋敷だからだ。


 前日、ザフィールのお気に入りの「マジカル☆レボリューション」というアニメの間に珍しいコマーシャルが流れていた。販促物のものが主流なのに、これだけ異質でよく目に入る。しかも放送側のボリュームが一段大きいようだった。

 カラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリみ・に・き・て・ね!わーお!
 カラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリた・の・し・い・な!
 カラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリあ・そ・び・た・い!わーお!
 カラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリカラクリみ・ん・な・で
 ああー 遊ぶのならばー カイナの 北にある ステキな時間の カラクリ
 とっけないー カラクリがー たくさんの カラクリ屋敷 本日開店!

 やけに耳に残るBGM。二人ともあまりの異質さに思わずその変な歌を口ずさんでいた。映っているのは変なおっさんとボロボロの廃墟。ザフィールはこの前の建物を思い出した。まだ休業中と書いてあったそこがカラクリ屋敷。あんな古びた廃墟か。ため息をつく。コマーシャルも物凄いうさんくさく、行く人いるのか疑問ではあるが、隣のガーネットがすでに洗脳されてしまったらしく、ずーっとカラクリ屋敷の歌を「カラクリカラクリ」と繰り返している。
 それにまで洗脳されそうだし、自分の身も危ない。なんとか黙らせる方法はないかと、隔離してみたが、どうも上手くいかないみたいだった。家庭環境的に、あまりメディアも目に触れることがなかったらしいし、意外に洗脳されやすいんだなとザフィールは心の中だけで言った。本当に口に出してしまえば、カラクリパンチが飛んできそう。
 だけど行く予定はなかった。なかったのである、本当に。ザフィールが113番道路のカイナシティ側を調べるというから、それにガーネットはついていった。そして、人気のあまりない廃墟の前を通り過ぎた時、それは起きた。二人の頭上にいきなり網がかかったのだ。何が起きたか判明する前にさらに黒い布がかぶさる。思わずザフィールはガーネットの手をつかんだ。どんなに引きずられてもそれだけは放さないように力をこめて。
 ふと視界がひらける。体に絡んだ網は変わらず。そして目の前には「我が輩に挑戦するがいい!カラクリ大王」と書かれたメッセージ。そして室内と思われる天井と照明と、見渡す限りの木の中。とりあえず室内なら限界があるからと、適当に歩き始めた。それにしても他の人の気配がない。
「ありえん。まじ犯人倒す」
隣には捕獲されたことで物凄い激怒しているガーネット。こういうときに関わるなら原因に当たり散らしてくれとザフィールは思った。



 そして今にいたる。妙な建物に閉じ込められてから5時間。ひたすら歩き続けた。昼食も取らず、歩くだけ。気温は調整されておらず、とても蒸し暑い。この植物たちの生育環境がそうなのだろうけど、真夏のように汗がどくどく出ていた。
 さすがにきつく、ザフィールは太い木の幹に腰掛けた。そして鞄からぬるい「カイナの海洋深層水」とパッケージに書かれたボトルを取り出すと、口に含む。少し水分が補給されて体が楽になる。
「しかし今どこにいるのか、室内なのに解らない」
ガーネットが物凄いまじめな顔で言う。怒っているというよりも、考え込んでいるような感じで。こちらは甘いミックスオレを飲んでいた。ぬるいのに甘かったら飲みにくいだろうな、と他人事ながら思う。
 半分ほど口をつけた後、足を見た。ズボンで隠れているけれど、足が疲労しているのが解る。やはり気温と湿度が関係しているようだ。
「それにしてもキーチは元気だな」
熱帯の気候にあっているのか、今もザフィールの側を離れて木に登っている。その動きは速くて目視できない。移動したところの枝が揺れるのを見て、大体の位置をつかむ。そういうところはジュプトルの性質なのだと感心していた。
「少し休憩する?」
ガーネットの問いに、ザフィールは二つ返事で答えた。

 その間にもガーネットは喋る。疲れないのかと聞けば、歩いても仕方ないから喋ると言う。
 けれど内容が支離滅裂だったりして、きっと疲れてるのだとは思う。シルクで焼き払いたいとか、リゲルを埋めてみようかとか、そういえばホエルコって植物食べないのとか。いつもならまず言わない。もしかしたら混乱もしているかもしれない。
「俺まだ死にたくないから火だけは勘弁」
野生のポケモンはいないみたいだ。鳴き声もなにも聞こえない。草むらをかき分ける音も。しばらくするとまた汗が出る。喉の乾きを訴える。半分のこった水を一気に飲み干した。少しだけ体温が下がったように思える。
「生き物はみんな水が必要だからね・・・本当、夏の川とか天国に思えるよ」
「お前アクア団みたいなこと言うんだな。水がありすぎて洪水になったり高波になったりするんじゃん。活動できる陸が多い方がいいよ」
いきなり噛み付かれてガーネットはびっくりしたようだった。早口でまくしたてるザフィールに。疲れて反論も出ず、黙り込む。しばらく沈黙が続いた。お互いに黙り込み、もくもくとこの室内のジャングルを見ている。
 その沈黙を破るかのように、ザフィールの腹が盛大に鳴る。昼食もなしに歩いてきたのだ、もう我慢の限界というところ。隣でガーネットが笑いをこらえきれなかったようで、見ないようにそっぽを向いていた。でも体が震えているから、きっと笑っている。
「よかったら食べる?ザフィールが入院中に育てた木の実とかもたくさんつかって作ったんだよ」
ガーネットが差し出したのはポロックケース。貰えるのかとジュプトルが期待して寄ってくる。
「ほら、ザフィール、ポロックだよー!」
「俺はポケモンか!」
そう反抗したのもつかの間。ポロックケースから曲線を描いて投げられる空色ポロックを逃さないと、ザフィールは跳んだ。そしてちょうどフリスビーをくわえる犬のごとく、口で見事にキャッチ。苦くて甘い味が広がる。ザフィールは少しガーネットに懐いた。ザフィールの毛づやが心なしか上がった。
「かしこさとかわいさが上がったかな」
「だから俺はポケモンじゃねー!」
隣のキーチにはポロックケースから手のひらに乗せてやり、丁寧に渡していた。ポケモン以下の扱い。しかもキーチにはワンランク上の灰色ポロック。辛くて酸っぱくて苦い味らしい。キーチは特に好き嫌いがないので、おいしそうに食べていた。
「そうだ、明日あたり収穫の日だ。そういえばこの前、モコシの実をもらったんだ。また取りに行かないとな」
「その前にここから出ようぜ。ポロックありがとう」
「どういたしまして。さて、歩こうか」
再び歩き出す。疲れた足で歩き回るのは危険だ。このまま室内で遭難、閉じ込められて死亡なんていうエンドになりかねない。
 いあいぎりで切れない木を除き、全ての木を切るようジュプトルに指示する。プラスルとマイナンがいつの間にかボールから出て、キーチを応援していた。白い火花のボンボンが散る。それが余計暑苦しいのだが、二人はしかることはしなかった。
 枝葉が落ち、いくらか視界がひらける。そして見えるのは壁に区切られたドア。出口だ。思わず二人は駆け出す。それを追うようにプラスルとマイナンも続く。これで出られる。そして捕獲までしてよくもこんなところに閉じ込めたと文句を言ってやろう。実力的なことはガーネットに任すとして。ザフィールはドアに手をかける。
「なんで、開かない?」
「ザフィール、何か書いてる・・・合い言葉だって」
「そんなもん・・・からくり だいおう しね、からくり だいおう ころす、からくり だいおう はげ、からくり だいおう 」
全て表してしまうと、彼の人間性を疑われるので途中で省略。隣にいたガーネットは罵詈雑言に驚いたようで、現代的にいえば完全にひいてる。当然のごとく、ドアはなにも反応しない。我慢の限界か、ザフィールが左手でドアを殴りつける。
「ごるああ!!わいばくらすっぞーー!!」
ついにザフィールがキレた。普段は見ることのできない、彼の本気モードで殴り付ける。親の仇かとでもいうように。それに何を話しているか解らない。それもそのはず、地元民同士でしか使わない言葉。ガーネットにはまったく伝わらないが、なにやら凄んでることは解る。しばらくして反応が一切ないことに諦めたのか、急に大人しくなった。
「はあ、開かねえなあ。これちょっと蹴破ってよ」
「無理ねえ、これカギもそうだけど、この扉、壊されないように二重になってるし。カイリキーよりもすごいポケモンがいたとしても壊されないようになってるわ」
ガーネットが冷静にドアを見る。マイクに合い言葉を吹き込めばいいのだ。そしてこの室内にあることは間違いない。
「ねえザフィール、ここにいてくれない?」
「え?なんで?」
「合い言葉を探しに行く。あんたのその白い髪、遠くからでも目立つからすぐに帰ってこれる。それに、もう限界なんでしょ、その足。さっき走った時、いつもより少しだけ遅かったからね」
逃げるわけじゃないから、と言おうとしたが、すでにガーネットは背を向けて歩きだしている。
「待って!」
駆け寄る。確かにどちらの足も踏み出すととても痛い。今、襲われたらおそらく逃げれない。
「あの、こんなときに、死亡フラグっぽいんだけど・・・」
「マンガじゃあるまいし。何よ?」
「この前の、お礼。ずっと忘れてたんだ」
彼の左手から、きれいな包みを渡す。ガーネットが丁寧にラッピングをはがしていった。そこにあったのは、パステルピンク色のハンドタオル。そこにプリントされているのはポケモン界のアイドルとして名高いピッピ。といってもこの地方ではまず見ることがなく、たまに違う地方から来る人が連れてくるのを見るくらい。
「カナシダトンネルで、なくしちゃったし」
「別によかったのに。でもありがとう」
ポケモンたちに向ける笑顔より嬉しそうだった。鞄に大切そうにしまう。かわいいところあるんだなと感心し、入院していた時のことを口にした。
「そういえば、先生から聞いたんだけど、俺が3日寝てた時に、荷物整理したり、エーちゃんの世話してくれたんだってな、なんで言わないんだ?」
「私はザフィールの荷物を妖しいものがないかどうか確かめただけだし」
聞き間違いか。ザフィールの表情が凍りつく。汗だけが熱さを伝えていた。
「は?荷物を、見た?」
「そうよ、荷物みて証拠でもあったらいいかなと思って、鞄の中身全部見たわよ」
「おい、なんだそれ。人のもの勝手に見ていいと思ってんのかよ」
見られたくないものなんてたくさんある。ポケナビのマグマ団関連のものは見たら消去してるからいいとして、制服とか制服とか制服とか。
「助けてあげたんだからそれくらいいいでしょ」
「よくねえよ、いい加減にしろよお前」
気づけばプラスルがザフィールのズボンの裾を、マイナンがガーネットの足を引っ張っている。今は喧嘩している場合じゃないと伝えるかのように。二人はなにも言わず、お互いに背を向ける。


 こんな熱いところで暴れた上に大声を出した。余計に熱い。ドアを背に座り込む。もう一つのカイナの深層水を取り出すと、一口含んだ。もう夕方近い。今日は一日こんなところにいた。しかも最後に嫌なことを聞く。人のプライバシーにまでずかずかと入り込む、無神経さ。それがザフィールには信じられなかった。そしてそのことを悪びれるでもなく平然としていることが許せない。熱さも手伝って、イライラは増すばかり。
「あの女、いつか見てろよ・・・」
諦めて一緒にいるフリをして、いつか痛い目にあわせてやる。そのための計画を、熱さでまともに動かない頭でひねり出す。アイディアがまともに浮かばず、遺恨だけがそこに残る。


 合い言葉を探しに来たガーネットは道を適当に行く。ジュプトルのような木を切れるポケモンがいないから、それらを避けて。そしてどうしても行かなければいけないときは、その力で引っこ抜く。室内に植えられた木なので、根を張り巡らせた天然の木より軽い。そうして木の残骸を増やしながら、ガーネットは進む。
「でも大したもの入ってなかったのよね、きずぐすりとモンスターボールくらいで」
濡れたものを洗って乾かしてくれたのはラッキーたちだし、2日目にはすでにたたまれて鞄にしまわれていた。服を調べて妖しかったらラッキーが教えてくれるだろうし、他にこれといったものはない。その辺にいるポケモントレーナーと装備は変わらなかった。それよりも主人を心配するエネコの方が気になってしまい、世話をしていただけである。
「あんなに怒らなくてもいいじゃない」
いまにも殴りつけそうな勢いで食いついてきたのには、後から思い出しても嫌な気分になる。熱さにもイライラ、そのことでもイライラ。そして足元に気づかず、おもいっきり踏んだ。足裏に伝わる木の枝とは違う感覚。よく見れば何か書かれた巻物だった。地面に固定されていて、動かすものではなさそうだ。ガーネットはそこに書かれている合い言葉を覚えた。
「・・・しかしこんな目に合わされて言う言葉じゃないな・・・」
帰り道、引っこ抜いた木を目印に通っていく。そうすればやがて見えてくる白い髪。ポロックのおかげで少しかわいく賢そうに見える。少し機嫌が直ったのか、姿を見せた時、左手を振っていた。
「はやかったな」
完全に、とは行かない。声がそういっていた。黙ってガーネットはマイクの前に立つ。そして、少し黙った。今はとても言いたくない。けれどそれが合い言葉。言わなければならない。そうしないとこの地獄のジャングルから出られない。意を決してガーネットは息を吸い込んだ。
「からくり だいおう さま ステキ!」
重々しい扉が軽く開く。外から流れ込んでくる空気は今と比べたらさわやかそのもの。ガーネットは黙ってその先に進んだ。続いてザフィールも。長い畳の廊下を歩く。外がこんなに涼しいなんて思いもしなかった。けれど二人は無言のまま。

 一際明るい茶室に出る。そこには茶をすすっているのんきなおじさん。全身に汗をかいてる二人に気づくと、のんきに手を振っている。二人は今まで押し殺していた感情を一気に放出した。それはバクオングよりすごく、プリンよりよく通る声で。
「てめーか!!網かけてきたやつは!!」
「よくも熱帯気候に閉じ込めやがったな!」
二人は一斉に飛び掛かる。けれどおじさんは一瞬にして姿を消す。どこへ消えたのか解らず、あたりをみる。しかしいない。
「我が輩はからくり大王!しかしあのジャングルを抜けてくるとはなあ。徹夜で木を植えたのに!!」
ちゃぶ台の下だ。ガーネットがちゃぶ台を蹴り上げる。ザフィールが確保しようとしたとき、再び姿を消す。
「最近の若いものは血の気が多くてなあ。宣伝しても誰も来てくれなくて寂しかっただけなのに」
「寂しかっただけじゃねー!どう考えたっておっさんのやってることは犯罪だろがー!」
「縄で捕まえといて、何が寂しかったで済まされるかー!」
捕まえようとしても捕まえようとしてもおじさんはするりと抜けていく。10分もどたばたしていたら、部屋の中は荒れ放題。畳はささくれ、壁はガーネットの拳を受けて崩れている。
「我が輩は捕まらん!ではまた次回をお楽しみに!」
消えた。煙のごとく消えた。二度と来るか。そして二度と目の前を通るか。そう誓った二人だった。


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