マサラのポケモン図書館 カフェラウンジ2F(長めの作品用)
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  [No.490] 5、カナシダトンネル 投稿者:キトラ   投稿日:2011/06/04(Sat) 01:28:03   62clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 意外な趣味なんだとザフィールは思っていた。カナズミシティ郊外のふかふかの土で、木の実栽培に励んでいるガーネットを見て。
 畑の前には土掘り係のジグザグマとポニータ、水やり係のミズゴロウ、種を植えるキノココ。さらにキモリまで加わって、楽しそうに園芸しているのを見ると、普通にトレーナーとしてやっていった方がいいんじゃないかとさえ思えてくる。
 昨日植えたクラボの芽が顔を出しているし、それを食べかけるスバメと、横やりを入れるミズゴロウ。そしてそれをたしなめるガーネットはとても楽しそう。こんなに優しいなんて思いもよらず。いつも向ける表情は怒ってるか真顔かキレてる顔。その半分でもこちらに向けてくれるなら、すこしは協力してやろうってもんなのに。
 その思念の電波を受信したのか、ガーネットが振り向いた。ポケモンたちに向けてた顔とは大違い。手に持ったシャベルを投げてくるんじゃないかというくらいに。思わずザフィールは身を硬直させた。
「なにつったってんの?」
「え?俺いなくていいわけ?」
「はぁ?そんなこといってんじゃないんだけど」
手伝わせようとしているのか、いなくなれと言われてるのか。ザフィールにはそれが解りかねる。ガーネットの性格からして前者だとは思うが、トンチの達人にそんな言葉を向けるなんて。少し痛い目を見てもらってもいいだろう。
「え、そうでしょ?俺ジャマなわけじゃん?俺もう行くわ!キーチ、スバッチ行くぞ!」
背中を向けて走り出す。が、大きなものに引っかかったみたいに体が動かない。振り向けばガーネットが鞄をがっしり掴んでる。しかも片手。逃げられない。そしてその顔は般若のようだった。


 ここのところ、ずっとそんな感じだった。監視したいのか、ただの付き人なのかよくわからない。何がしたいかよくわからないガーネットにザフィールはいらだちがたまっていた。何日もずっと一緒にいたら我慢できない。
 夜にポケモンセンターに泊まりながらも、明日こそ出し抜く決意を固めていた。そのためには早寝早起き。ポケナビを充電しようとして手に取ると、着信があったことを知らせていた。マグマ団からだ。布団の中で連絡を聞く。明日の午前にカナシダトンネルに行かなければならないと。ちょうどいい。これを機に置いていこう。
「どうしたの?」
風呂から上がったガーネットが覗き込んできた。あまりに突然で思わずポケナビの画面を伏せた。ところがポケナビそのものは見られていたのである。もちろん、それを逃すはずがない。
「ねえ、それなに?」
意外な答えに驚いた。ポケモントレーナーなのに知らない、持ってないとは。
「え?ポケナビだけど、持ってないの?」
「うん。みたことない」
仕方ないから説明してやった。デボン社というホウエンに本社がある大きな会社の製品であること、ポケモンのコンディションを見たりできて、もっとすごいのは番号を教え合うと連絡が取れるということ。そこまで説明して最後のはやってしまったとしか思えなかった。そんなことを教えて、ポケナビを持って来られて、無理矢理番号を聞かれたりしたらそれこそ!墓穴を掘るということはこういうことなのかと、布団の上にうつぶせになって顔を隠す。
「すごいんだ、ねえこれ私も持ったら番号教えてくれる?」
「・・・買ったらね」
顔をあげる。なぜかすごいガーネットは嬉しそう。今日中は無いだろう。明日、会社が始まってからだろうから、その間に逃げればいい。ザフィールの頭の中に妙案が浮かぶ。
「明日買ってくればいいんじゃない?俺その間、ちょっとキーチとスバッチ鍛える為にどっかいくから」
「え?ついて来てくれないの?」
「子供じゃないんだからさあ、一人で買い物くらい行ってくれよ」
もう一言を発しようものなら、今度こそ息の根が止められていたかもしれない。その怖いオーラに気付いたからこそ、そこで言葉を切ることが出来たようなものだ。
「・・・解った、でも俺だってポケモン育てたいから、昼頃にまた待ち合わせしよう。それでいいだろ?」
「その間に何か悪いことでもしてこない保証は無いけどね」
推理小説の主人公並みのツッコミは何とかならないものだろうか。冷静を装う。怒ってるオーラに圧倒されないように。
「いやだから俺じゃないって。だいたいお前は俺を犯人犯人言うだけで、何もしてないじゃないか!」
「そんなことないよ、ちゃんとザフィールの行動、言動、動きとか観察してまとめてあるから、そこから何か少しでも不自然な行動があればすぐにメモするようにしてるし」
「お前は警察か。もうやだこんな人を疑うだけの女なんて!」
そっぽを向いていじけてみる。こんなのが通じるような相手ではないけれど、緩和くらいできるはず。けれどガーネットにはますます妖しいという印象しか与えなかったようだった。
「で、待ち合わせはどこで?」
「それでも待ち合わせるのかよ・・・まあいいや、そうだな、お昼にサン・トウカの前で待ち合わせるんだったらいいだろ?」
「解った。そのかわり逃げたら承知しないからね」
地獄の果てまでついて来そうな勢いだ。そのまま布団にもぐってくれたのが何より幸いだろうか。明日は早い。ガーネットに気付かれないうちに起きて出て行かないと、マグマ団の制服に着替えることも出来ない。


 もちろん、起きたらすでにガーネットが起きていた。というより起こされた。時計は5時半を差している。いつも7時に起きているからと思ってこの時間なのに。空は白いけど朝日はまだ山の向こうだというのに。しかも支度はばっちり。服に着替えて、いつでも出かけられるように。
「はやくね?」
寝起きで思うように言葉が出ない。布団から起きたら、とりあえずいつもの服に着替えて、それからタイミングをみて制服を着ればいい。そう思っていた。


 異変を感じた。耳を立てて辺りを警戒する。
 朝起きて水を飲もうと起きた。不穏な足音が響く。人間の足音。思わず草むらに隠れた。後ろから他のポケモンが近づいてくる音がする。
「エネコの姉貴、人間たちのようですぜ」
蝉の幼虫のようなツチニンが耳打ちした。ここらの草むらを仕切るリーダー格のエネコ。他のポケモンたちより少し体が大きく、エネコの中でも強さは群を抜いていた。直接の部下であるツチニンは情報収集に長ける素早い虫。エネコの右腕といってもいい。
「どうやら、エネコたちを売り飛ばして金をもうけようとしてるみたいです、危ない姉貴!」
後ろから現れた大男。その男はエネコに向かってモンスターボールを投げて来た。ツチニンがかばい、丸い監獄に捕らえられる。
「ちっ、ツチニンなんかいらねえんだよ!」
何を話しているか解らないけど、大雑把な感情は解る。役に立たないと吠えている。エネコは男の足に噛み付いた。振り払おうとしてもう一つの足でエネコを蹴る。引きはがされ、エネコは草むらに転がった。
 耳にはあちこちから仲間のエネコの悲鳴が聞こえる。捕まりたくない、怖い、怖い、助けて。目の前の男も捕まえようとしている。動きを読んで、ボールを避ける。これしかない。エネコは起き上がり、身構えた。大男はボールを投げる。
「エネコで金儲けなんて、えげつないよな!」
白い髪のこれまた人間の男。子供と大人の間くらいで、赤と黒の服を来ている。大男の仲間ではないようだ。空のモンスターボールをはじき飛ばし、キモリを従えている。
「お前は、マグマ団!」
「お前らの悪事を止める時だ!」
キモリが大男に飛び掛かる。その素早さで男のポケモンも男も翻弄されている。思わぬ助っ人に、エネコは草むらの影から興味深く見ていた。


「おーい、ザフィール、なんで今日は私服なんだ?」
その数分前の話。カナズミシティ郊外の道路についた。ガーネットをデボン社に送った後で。遅刻はしないけれど、着替える暇などなく、結局時間になってしまってそのまま来たのだ。もちろん、マグマ団の中にいてとても浮いてることは自覚できる。みんなが奇妙な目で見てくる。
「まあ仕方ねえ、アクア団にデボン社から大切なものを盗んだらしい。しかもカナシダトンネル方面に逃げたという証言もある。気を抜くな、アクア団から取り返せ!」
完全に一人浮いてるなあと思った。けれど上着は赤と黒だし、色合いは似てるからいいか、と気にしないことにした。
 そしてエネコを捕獲しているアクア団を見つけた。レベルの上がったキモリのスピードには並のポケモンでは追いつけない。ポチエナをあっという間に瀕死に追い込み、アクア団は逃げていく。マグマ団の仲間に連絡し、追跡を開始する。逃がすものか。誰一人逃がしてはいけないと言われている。
 この足ならすぐに追いつける。青いバンダナをめがけ、ザフィールは走る。草むらを走ってるせいか、なんか違う音もするが、そこは気にしてなかった。後ろを振り返っても誰もいない。
 アクア団を追うと、工事現場が見えて来た。未開通のカナシダトンネル。何年も前から工事していて、未だ完成しない。理由としては、トンネル付近に生息するゴニョニョというポケモンが工事の騒音に耐えられず、大きな音を出してしまう。その音で苦情がきて、重機を使った作業が出来なくなったため、人力で掘っているためだ。
 中は工事用の明かりが灯っていて、見えないわけではない。下手に音を出すとゴニョニョが騒ぎだす。その音は近くで聞いたらしばらくは他の音が聞こえないくらいに大きい。
 ザフィールは足音を立てないように歩く。死角が多い洞窟は奇襲されてしまうこともある。壊滅的な被害を出してもおかしくない。だからこそ慎重に進めていった。
「わっ!」
ザフィールの顔にぺったりと張り付くそれ。思わず左手で振り払う。するとすぐにそれは離れ、飛んで行く。目の前を見れば、自分から去って行くキャモメと、老人の姿。
「大丈夫かい?ピーコちゃんが迷惑かけたね」
はっきりと見えないけれど、老人特有の肌、ピーコちゃんというキャモメ、そしてその身なり。ザフィールは会ったことがある。
「貴方はハギさん?」
「おや、誰かと思えばオダマキ博士の息子さんじゃないか?」
「はい、そうです。なぜここに?」
「それがアクア団のやつらに船を出せと脅されて、逃げて来たんだよ」
「解りました。カナシダトンネル前のアクア団は多分もういません。大丈夫だと思います、背後のやつ除いて」
ハギの背後にいるアクア団。追い掛けていたやつだ。ザフィールはスバメをボールから出すと、アクア団の顔面を狙わせる。さっきのキャモメが張り付いたように。
「ここから逃げてください。このアクア団は俺がなんとかしますから」
「すまんな、頼りにしすぎて」
「いえ、助け合いですよ」
足音が去って行く。アクア団は何か叫んでいたが、ザフィールがそれを阻害する。
「お前の相手は俺だよ、一般人に何してんだ」
「お前のようなガキが相手とはね、なめられたもんだ」
アクア団がボールを投げた。中からゴツゴツとしたポケモン、サイホーンが現れる。気性が荒そうだ。スバメをにらみつけている。
「つつけ!」
スバメがサイホーンめがけて飛ぶ。こつんと軽い音がした。サイホーンの角に当たるが、全くダメージは無さそう。タイプの相性が全く持って悪い。しかも体格もサイホーンのが上。踏みつけられたらひとたまりもない。アクア団が命令した。角で突けと。スバメの体より大きい角は、突くというより、鋭い角を押し付けたような攻撃だった。力なくスバメが落ちる。ザフィールはスバメを戻した。


 デボン社に行くことはためらいがあった。あのセクハラじじいの件もあったけれど、昔の知り合いがデボンで働いてるといっていたから。もしかしたら会うかもしれない。けれど連絡すると約束して別れたあの人に今更会ってどうしようというのだろう。会ったところで連絡がなかったことを責めるのか。いやその前にキヌコのことも、シルクのことも。話したいことはたくさんあるのに、何から言っていいか解らない。
 もやもやとした気分の中、デボン社に行けばあのセクハラじじいと出会ってしまったわけである。今日はリゲルを抱いて持っていたら、やっぱりキノココかわいいかわいいとなでていたので、被害はなかったけれど。
「ところで、今日はどうしたの?」
「知り合いがポケナビならここっていうから・・・」
キノココを愛でる時以上に目を輝かせたセクハラじじい。思わずガーネットは一歩退く。
「キノココ愛好家仲間として、サービスだ!助けてもらったし!」
おじさんの仕事鞄から真新しい機械が出てくる。あのポケナビの最新型。まだ発売されていないのだという。良いのかと問う前に、おじさんんはキノココをなで回している。もらっておけるものはもらっておこう。ガーネットはおじさんにそれだけ言うと、デボン社を後にする。
「ま、そんな都合良く会えるわけはないと思うけどさ」
時間は約束の30分前。そろそろ花屋のサン・トウカに行かなければならない。そこで少しまた種を買って、そしたらまた植えて収穫して。そんなことくらいしか思い浮かばない。それにそこでポケナビをいじればいい。使い方は聞けばいいのだから。
 デボン社を出てからカナズミシティを歩いていると、何かくっついてきてるような感じがするのだ。振り返っても人ごみばかりだし、何も解らないけれど。もう一度歩き出そうとすると、その正体が判明する。足元にロコンがじゃれついてきているのだ。
「わー、珍しい!エンジュシティまで行かないといなかったんだよね!」
野生かな、と期待するがそうでもないみたいだ。とするとトレーナーが近くにいるはずなのだが、見当たらない。ロコンを抱き上げる背中に何かをくっつけているのに気付く。手紙のようだが、見てもいいのかと迷う。また戻せばいいかと考え、ロコンにつけられた手紙を見た。
「誰のロコンなんだろう、とりあえずありがとう」
街中であるにも関わらず、ボールからポニータを呼び出す。このところ走るトレーニングを続けているから、少しずつ体力がついてきている。体つきも少し大きくなった。
「走れシルク!」
命令するとポニータが走り出す。そのスピードは風よりも速く。石畳に蹄の音を響かせて。


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