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ドッペルゲンガーという言葉の意味を、ある程度のことは誰もが知っているだろう。
まあしかし、念のために話の流れをスムーズにするためにも、俺が簡単に説明しておくとしよう。ようは自分にそっくりな存在がこの世界のどこかにいて、それを見てしまうと死んでしまうというものだ。
そりゃあ自分にそっくりな奴なんて、この広い世の中だ。どこかに一人くらいはいてもおかしくはないだろう。いや、むしろいない方が変かもしれない。俺と同じイケてる面子を持ってる幸運な輩がいるわけだ。
とはいっても、やはり自分とそっくりな存在がどこかにいるというのは稀なことなのかもしれない。
例えばそこら辺でチョロチョロと駆け回っているコラッタ達だって、僕からすれば全くもってそっくりだ。けれども本人からすれば、どこかしらの違いがあり、やはりそっくりではないのだろう。細かな違いというのは当事者たちにしか分からないものだ。
だから、よくよく探せばどこかしらの違いがあるはずだ。毛並みだとか肌の色だとか、きっとどこかに違いがある。考えてることまで一緒ということはあるまい。双子や三つ子にだって何かしらの違いがあるように。いつかきっとわかるはずだ。おいらたちの違いというものが。ドッペルゲンガーなんてものは存在しないし、それで死ぬなんていうこともない。あるわけがないのだ。
俺は僕はおいらは、隣のドードリオの顔を、じっと見た。
・描いてもいいのよ
・書いてもいいのよ
・批評してもいいのよ
ふぅっと一息ついて、ゾロアークは空を見上げた。
突き抜けるような青い空と、そこだけミルクをこぼしたような雲のコントラストが目に眩しい。
長いこと旅に出ていた。そんなときに浮かぶのは家に残した美しい妻と可愛い子供。そろそろ帰ろう。お土産は何がいいだろう。長いこと開けてしまったから、怒ってるだろうか。子供はどのくらい大きくなったのか楽しみで仕方ない。
ふとゾロアークの鼻に綿雲がはらりと落ちる。払いのけようと鼻先の雲を掴んだ。
「羽?」
誘導されるように空を再び見上げると、青い空に目立つ白い風。数羽の鳥が飛んでる。しかも円を描いたり、宙返りしたり。その都度、羽毛が美しく鳥を飾っていた。
ゾロアークはその鳥を追いかけて走り出していた。もっと見ていたい。その思いだけで走る。鳥たちが着地するあたりに。
「誰!?」
ゾロアークの姿を見つけた鳥たちは一斉に睨んだ。ピジョンが数羽、そしてトゲキッスが一羽。
「えっと、空のダンスを見て、もっと見たいなって思って……」
ピジョンたちは顔を見合わせる。知らないゾロアークがいきなりやってきての申し出に、困惑しないはずがない。けれどトゲキッスがにこりと言った。
「ありがとう、よろこんでくれて」
その言葉はゾロアークに向けられていた。
「ピジョンたちは知り合いの結婚式だと、お祝いに集まってフェザーダンスを踊るんだ」
「つまり、誰かの結婚式……?」
ゾロアークが聞き返すと、トゲキッスが恥ずかしそうに言う。
「ボクたちだよ」
隣にいるのが新婦のピジョンのようだった。
「本当はピジョットになるまで結婚しないつもりなんだけどトゲキッスがいいって言うし」
これにはゾロアークも祝福しなければならない。荷物の中から結婚のお祝いに相応しいものを取り出す。それらを受け取ると、新郎新婦は深く頭を下げた。
「見知らぬゾロアークに祝ってもらえたし、私もちょっくら踊る!」
新婦はその翼を羽ばたかせようとしたが、仲間のピジョンたちに止められる。
「新婦が踊ったら意味ないじゃん!」
「お祝いの踊りじゃないか!」
主役二人に見せる為らしい。しかし新婦のピジョンは止められてつまらなそうだ。よほど好きなのだろう、フェザーダンス。
「一番上手いからってお祝い見せる相手が踊ってたら意味ないから!」
「トゲキッスに見せるからいいのだ!」
それだけ言うと、新婦のピジョンは空へと飛び立つ。仕方ないなという顔をして、ピジョンたちは空を飛んだ。
そして始まる、白い羽と青い空の共演。ふわりふわりと散った羽がゾロアークの頭にそっと乗った。
「ピジョンはね」
空を見上げながらトゲキッスは言った。
「ここに迷い込んだ僕を仲間として扱ってくれてね。何から何まで教えてくれたよ。僕が歌うととても嬉しそうに聞いてくれた」
ぽつりぽつりと昔のことを断片的に思い出すように語る。
「だからね、僕はピジョンがポッポだろうがピジョットだろうが関係ないんだ。型破りのお祝いフェザーダンスだろうが、僕はピジョンが一番だよ」
トゲキッスの言葉に、ゾロアークも妻と出会った頃のことを思い出す。何かが解らないけど、何か特別で一緒にいたいと思った。きっとこのトゲキッスもピジョンに対してそう思うのだろう。
「実は、故郷に妻と子供がいるんだ」
ゾロアークは舞い降りる白い羽を荷物の中に入れた。
「トゲキッスやピジョンを見てると、帰るところっていいなって思う」
年頃の女の子のようにはしゃぎながらフェザーダンスを踊るピジョン。きっと明日からずっとトゲキッスと一緒。ずっとずっと。だから最後にみんなで踊りたいのだ。妻の友達が最後にダンスをやたらと誘って来たように。
「だから、もう帰ろうと思うんだ」
ピジョンのフェザーダンスはまだまだ続く。羽ばたきがリズムを生み、周りのピジョンが風に乗ってさらに高く舞う。白い羽に包まれたピジョンが上昇気流に乗って楽しそうに鳴く。息など切れない。そのまま歌い出しそうな動きで、トゲキッスの目を楽しませる。
「ゾロアークの家はどこなの?」
「んーと、ずっと遠くだよ」
「途中まで送っていくよ。大丈夫、僕はピジョンと違って踊らないから」
「わあ、凄い嬉しい!」
羽音一つさせず、ピジョンがトゲキッスのもとへと戻る。渾身のダンスの後の顔は、とても輝いていた。
「でも、遠慮しておくよ。新妻がいるのに、邪魔するわけにもいかないから」
トゲキッスの羽に黙って嘴をうずめるピジョン。ほめて、と言わんばかりの行為に、トゲキッスはアンコールを送る。
「じゃ、元気で、縁があればまたー」
結婚式の祝福にフェザーダンスを踊るピジョンたち。こんなことも話してやろうと、ゾロアークは家路を急いだ。
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ごめん池月君のつもりで書いたのに池月って名前出すの忘れたごめん
踊るポケモンたちをテーマに短編かいていきたいなと思って、先発はフェザーダンス。
どこかで見た設定?いやいや気のせいです旦那。
【好きにしてください】
グロいです。
ユウキが久しぶりにホウエンのミシロタウンに帰ったのは、チャンピオンとなり、さまざまなところへと行った後だった。もうすでに年も14となり、成長期を迎えて体格もそれなりに男らしくなってきた。
懐かしさのあまりユウキはミシロタウンの入り口から走って家にたどり着く。久しぶりに見る両親の顔や、自宅に置いて来たポケモンたちと再会する。オーレ地方では危険だからと精鋭しか連れていけなかったし、イッシュ地方では新しいポケモンを捕獲するのが忙しかった。だからこそホウエンでチャンピオンとなった時のメンバーとはだいぶ違ってしまったが、ユウキにとっては大切なポケモンたちだ。
しばらくゆっくりするつもりで帰って来た。そういえば友達たちは元気だろうか。あれから手紙を1年に一回送るか送らないかの仲ではある。新しいポケモンはいるのかな。病気は完全に治ったのかな。
自宅にいるとは限らないけれど、ユウキはまず同じ町内に住むハルカを訪ねる。オダマキ博士への挨拶という名目だったが、やっぱり友達に会いたいというのが強かった。あの時と変わらない。呼び鈴を押す。
「あら、ユウキ君じゃない。ごめんねえ、ハルカいないのよ」
用件を言う前にいきなり追い返される。昔からちょっとつっけんどんなお母さんだなと思っていたけど、こんなに冷たい覚えはなかった。
仕方ない。オダマキ博士への挨拶だけは済まそう。ユウキはオダマキ博士の研究所へと足を運ぶ。
「おやユウキ君。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「はい。お久しぶりです。博士にいただいたポケモンもかなり強くなりました」
たわいもない世間話だ。昔話からチャンピオンになった後にどこにいったのか、そしてその間に捕まえたポケモンの話。
さらにユウキは気になったことを聞いた。
「家にいったんですけど、ハルカいなかったんですよね。やっぱりフィールドワークの手伝いを……」
「ああ、ハルカならどこかいるんじゃないか」
ユウキの言葉を遮ってオダマキ博士は答える。その雰囲気に疑問を持っても、もしかしたらいなかった数年に何かあったのかもしれないし、あまり詮索することではない。土産として持って来た向こうの珍しいモンスターボールをオダマキ博士に渡すと、ユウキは研究所を後にした。
やたらと知識だけはあったハルカのことだ。もしかしたらすれ違いで旅に出てしまっているのかもしれない。それで帰りが遅くて心配してるのかもしれないし。
ユウキは部屋でゴロゴロとしていた。オーレで買ったポケモンデジタルアシスタントを見ていると、お腹の上にプクリンが乗ってくる。気持ちよい手触りの毛並み。この毛並みを整えるためにシンオウのデパートではポフィンを探した。そのおかげでコンテストでも勝てた。けれど戦うことに関しては、毛並みが崩れるのを防ぐために自宅へ預けていた。
するとポケナビにメールが入る。久しぶりから始まるメール。ハルカだった。
「おかえり私のいない間に帰ってたんだねユウキ君血がほしいよどうしたらいい私に血がないの」
何のこったい。意味の解らないメールにユウキは返信に手がのびない。こんな気味の悪い文章を送ってくるような子ではなかったと記憶している。ズバットを育ててた時もそんなこと言わずにオレンの実をあげてたのに。
「どうした?クロバットがそんなにたくさんいるの?」
当たり障りない返事を打つ。数分もしないうちに帰ってくる。
「違う血が欲しい血があればよかったのに」
なんだかおかしいと思った。ユウキは上半身だけ起こして急いでメールをうつ。
「今から行く。どこにいる?」
ポケナビを置いた瞬間だった。再び受信のメールが来たのは。
「家」
ユウキは自分のモンスターボールから一つ選ぶ。あのお母さんに会わずにハルカに会える一つの方法はテレポートしかない。スプーンを二つ持ったフーディンがあらわれる。
いきなり部屋にテレポートするにはためらった。せめて部屋の前、二階の廊下にするべきだろう。そこまでフーディンが考えていたのかは知らないが、ユウキがテレポートした先はちょうど部屋の前だった。ノックして、返事のないドアをあける。
「なんだ、ここ」
前はエネコのぬいぐるみが飾ってあったのに、いまは殺伐とした風景だ。旅先で会った同い年くらいの女の子たちだってもっとかわいいものを身につけていた。それなのになんだここは。廃墟のような部屋にユウキは何も言えない。そして人の気配などなかった。
「まったく、あの子はどこいったのかしら。ハルカ!」
ハルカの母親の怒声が聞こえる。ここにいるのがバレたらヤバい。ユウキはクローゼットの中に隠れる。その直後、ドアが勢いよく開いた。
「抜け駆けだけは早いんだから。掃除さぼって何をしてるのかと思えば。全く。今日のご飯は無しね」
ユウキが聞いてるのも知らず、不機嫌な足音をたてて去って行く。遠くなったのを見計らい、ユウキはそっとクローゼットから出る。
「なんだなんだ、何が」
ハルカはいない。そして荒れた部屋。ハルカの母親の態度。そしてオダマキ博士の態度。それらを総合すると、ユウキはとてつもないことに関わってしまったような気がした。帰った方がいい。ユウキがフーディンのボールを出した時に気付く。
机の上にある古い日記。他人のものを見てはいけないと思いつつ、ユウキは手を伸ばした。何か解るかもしれない。
「今日はご飯なかった」「おとうさんになんで帰って来たって言われた。」「鍵をかけられた」
ユウキは読む手を止める。あの温厚そうな博士がそんなことを言うとは思いもよらない。ユウキはページをめくる。
「血が欲しい」
それだけ見開き1ページにでかでかと書かれていた。
「出て行きたい血が欲しい血があればやさしくしてもらえる」
また血だ。ユウキはさらにページをめくる。
「ミツル君は血がないのにどうして優しいの。どうして私にはない。消えてしまいたい血だって消えていくよ」
ミツルにあって、ハルカにない?ユウキはますます混乱する。最後のページを見るまで。それを見てユウキは固まる。そして。
「フーディン行くぞ」
フーディンに命令し、その場から去る。ハルカの行きそうな場所。そこは
「ハルカ」
ユウキは彼女の名前を呼ぶ。同じくらいの高さだったのが、今では頭一個分ユウキの方が高い。
「迎えにきた。帰ろう」
振り向いた彼女の顔は暗く、久しぶりに会うというのに笑顔一つみせない。
「血がないと帰れない」
「だから俺と帰ろう。ハルカの居場所はあそこじゃないよ」
「どこに帰るの」
「ホウエンは広いし、他の地方だってある。俺が行ったところはほとんどみんな優しかったよ。大丈夫、俺も一緒に行く。ハルカが博士の本当の子じゃないなら、ここに居続ける必要だってないだろ?」
血はクロバットの餌のことじゃなかった。血縁関係のことだった。最後のページには戸籍謄本が折り畳まれていた。そこに書いてあった事実はユウキにも衝撃を与える。
友達が困ってる原因がこれだ。これしかない。ならば少しでも助けたい。ユウキはそんな思いで来た。すでに旅立つ準備もして。
「それにハルカだってホウエンを一周したんだから旅慣れてるだろ。行くぞ」
ユウキはハルカの手を引っ張る。帰るところはミシロタウンではない方向に。
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Q何が書きたかったの
A解らん
オダマキ博士って主人公には色々してるけど、実子の方には多少つめたいのを大きくしてみた。
【お好きにどうぞ】
ある日、二匹のしあわせが出会いました。
僕はしあわせって言われてます。あなたはしあわせを知っていますか。
もちろん知っているわ。
しあわせはね、わたしのタマゴにつまっているのものよ。
私はしあわせって言われているの。あなたはしあわせって知っているかしら。
もちろん知っています。
しあわせは、ぼくの翼にこもっているのものですよ。
いいえ、いいえ。
僕の、私の、タマゴにこそ、翼にこそ、しあわせがあるのです。
二匹のしあわせは、言い合いをはじめてしまいました。タマゴにこそ、翼にこそしあわせがあるのだと言い張りました。
翼のしあわせは、タマゴなんて狭くて苦しいものにしあわせがあるはずがないと言いました。
タマゴのしあわせは、翼なんて軽くてふわふわしたものにしあわせがあるはずがないと言いました。
言い合いははげしくなるばかりでした。お互いにしあわせはそこにないと言い張りました。だんだん、二匹のしあわせはしあわせがなんなのかわからなくなってきました。
しあわせが分からなくなってきた頃、くさむらからこんな声が聞こえてきました。
しあわせなんてね、どこにだってあるものなのよ。たぶんね。
しあわせにね、形なんてないのよ。たぶんね。
そうやって探してるとしあわせを見失うと思うの。たぶんね。
出会えたことがしあわせなのよ。たぶんね。
出会ったばかりでいきなり殴られたって、わたしはしあわせよ。たぶんね。
二匹のしあわせは、お互いに顔を見合わせました。タマゴをみました。翼をみました。
たぶんね、しあわせはどこにだってあるんだなと笑いました。くさむらからも、そうかもね、ですよね、ほらね、やっぱりね、だろうね、たぶんねと笑い声がきこえました。
☆★☆★☆★
おかしいな、もそっとちゃんとするつもりだったんです。
タブンネさんがすべてを颯爽とかっ攫っていった気がするんです。一番最後はタブンネ隊から。
No.017です。
本日のふぁーすと3で作者・スタッフ配布分を除きまして、
「ポケモンストーリーコンテスト・ベスト」完売致しました。
ありがとうございました。
即売会中、再版問い合わせや通販問い合わせが10件くらい入ってます。
冊数は印刷代と相談ですが、サンクリ55(4月15日)再版の方向で動きます。
あるところにウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
ウソッキーは誰もが笑顔になるウソが好きでした。
ウソッキーは小さなポケモン達も好きでした。
子供たちはウソッキーのウソが大好きだったからです。
ウソッキーは色々なところを旅することも好きでした。
あちらこちらの風景に溶け込むことが好きだったからです。
ウソッキーは他のポケモンを驚かすことも好きでした。
みんなのびっくりした顔が好きだったからです。
怒りだすポケモンもいました。泣きだすポケモンもいました。
ウソッキーはその時、お詫び代わりにウソをつきます。
それは聞いていてとても楽しいウソです。
怒りだしたポケモンも、泣きだしたポケモンも、みんな笑いだしてしまいます。
ウソッキーはそんな笑顔が好きでした。
ウソッキーは気に入った場所にしばらくとどまります。
すると子供達はいつもウソッキーと遊びたがります。
みんなウソッキーのウソを聞きたくて仕方がないのです。
ウソッキーはねだられるままにウソをつきます。
小さなポケモン達は一つのウソが終ると、次のウソを、次のウソをとねだります。
笑顔が見たくて、ウソッキーも丁寧に一つ一つウソをついていきます。
あっというまにウソッキーはみんなの人気者になりました。
ある朝、ウソッキーは自分が空っぽになっているような気がしました。
どうも気持ちが良くありません。
いつものように小さなポケモン達がウソをねだりにやってきました。
ウソッキーは何かウソをつこうとするのですが、開いた口からは何にも出てきません。
まだかまだかとポケモン達は急かします。
ウソッキーは正直に、何も出て来ないと言おうとしましたが、その言葉すらも上手く出てきません。
みんなはだんだん機嫌が悪くなってきました。期待の眼差しが途端に鋭いものに変わります。
ごめんね、今日はウソはないんだよ。どうにか絞り出した言葉を聞いて、小さなポケモン達は文句をいっぱいぶつけました。
ひとつひとつがウソッキーの空っぽの心に刺さります。
お話のできないウソッキーなんていらない。ウソの付けないウソッキーはいらない。そういって小さなポケモン達は飽きたおもちゃを捨てて、ばらばらに帰って行きました。
ウソッキーはしょんぼりしながらその場所から去りました。
確かに小さなポケモン達の言う通りなのです。ウソッキーのウソを聞きたいから集まってくるのだから、ウソが付けなくなればウソッキーはただのウソッキーなのです。
ウソッキーはまた小さなポケモン達の笑顔が見たいなあと思いました。
ウソッキーは砂漠にやってきました。ここはいつも砂嵐が吹き荒れています。
普通のポケモンならとても居心地は悪い場所ですが、ウソッキーにとっては何ともありません。
しばらくここにいようかな、と空っぽのままウソッキーは思いました。
ところが、一つ問題がありました。
砂漠は何にもありません。これではウソッキーは風景に溶け込むことができません。
これは困ったなぁ、と思いながら、ウソッキーはとぼとぼ歩いていました。
ぽつんと砂漠のまんなかに何かが立っていました。
ウソッキーが近づいていくと、それが何か分かりました。砂嵐のなかで背の高いサボテンが立っているのです。
ノクタスがぼんやりとしていました。
砂漠にサボテンがいることは何にも不思議ではありません。
しかし、そのノクタスは好んで風景に溶け込もうとはしていないようでした。
ウソッキーがそばにやってきても、ノクタスは特に反応しません。
ずっと黙っています。
砂嵐の音だけが響きます。
何時しかウソッキーも隣に立ってずっと黙っていました。
夜になると砂嵐が止みました。
あたりがぐっと寒くなりました。
ふとノクタスが上を見上げました。
つられてウソッキーも空を見上げます。
そこには満天の星空がありました。
ウソッキーはその光景にただただ息をのみました。自分の持っている言葉をすべて使っても表せないであろうそれに、どうすればいいのか分かりませんでした。
ノクタスは黙っていました。
何も言いませんでした。
その沈黙に全てが表されているように思えて、ウソッキーもずっと黙っていました。
次の日、ウソッキーは自分が空っぽではないことに気がつきました。
とても清々しい気持ちです。
ノクタスを見ると昨日と同じ様にぼんやりとしていました。
ウソッキーはノクタスにお礼を言いたくてはじめて声をかけてみましたが、こちらを向くだけで特に何も言いません。
元来無口なのかもしれません。
お礼を言われる理由が分からないかもしれません。
それでも、よかったのです。
言葉を紡がない時間をくれたことにお礼が言いたかったのです。
心が満たされたウソッキーは、砂漠を後にしました。
ウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
あちらこちらをまわるのが好きなウソッキーがいました。
景色に溶け込むのが好きなウソッキーがいました。
自分のウソでみんなの笑顔を見るのが好きなウソッキーがいました。
そして自分が空っぽになった時、砂漠で何も言わないノクタスと一緒に空を見上げるウソッキーがいました。
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余談 ドーブルが絵描きならウソッキーは語り部だと思う
あらゆるものを吐き出しつくして空になったなら、言葉を紡ぐのをやめてしまえば良い。
疲れたら休みましょう。
・・・的な何か。
【好きにしてもいいのよ】
昨日の春コミ、ありがとうございます。
お陰様で印刷屋さんから届いた分は、
3分の2が作者スタッフ配布と一般参加頒布で無くなりました。
スペースに立ち寄ってくれた方、
手伝ってくれた方、 打ち上げ参加の皆様、
そしてポケスコベストメンバーのみなさん、
改めてありがとうございます。
明日はふぁーすとなので在庫にとどめを刺してきます。(予定)
通販およびサンクリ分が無くなると予想される為、再販に関しては後日検討させてください。
いよいよ明日です。 |
財閥会長の孫娘が失踪した。至急探すように。
俺たちに託された事件の内容は、簡単に言えばこんな物だった。財閥会長の孫娘・失踪。この二つの単語を組み合わせれば、いくら素人でも理由を予測することくらい可能だろう。シックス・ナインズに近い確率で、
『悪い遊びをしていて、巻き込まれた』
こういう台詞ではなくとも、自業自得に近い出来事に巻き込まれたのではないか、という答えが返ってくるだろう。警察組織に身を置いているのであまりこんな言い方はしたくないが、ふと考えてしまうくらい今の子供達は危険を知らない。たとえ補導しても未成年であれば逮捕することすら出来ない。軽く説教して返さなくてはならない。
そんな事件を扱う日が続いていた時、それは起きた。
未成年とはいえない、幼い子供が失踪する事件。
初めは誘拐の線から当たっていた。だが親、友人、教師。そしてその子供が住む家の近郊にある交番全てを当たっても不審者は全く見受けられない。そして更に遠く離れた場所で再び失踪事件が起きた。ただしその被害者は中学一年生だったので、てっきり事件にでも巻き込まれたのではないか、と皆が思った。
だが話を聞いて、再び的外れな考えだったと分かった。その子供は通っている学校ではトップクラスの成績を誇り、しかも家が遠いため毎日のように母親か父親が送り迎えをしていた。これでは、事件に巻き込まれる理由も時間の隙間もない。そして何より重要なことは、失踪したのは家で部屋は完全なる密室状態だったということだ。
『娯楽にあまり興味を示さない子でした』と、見るからに教育してますという母親はハンカチで目を押えながら言った。これでは振り出しどころか二つの事件を未解決という名の谷に落とすことになってしまう。共に取り調べをしていた上司と頭を抱えていると、そういえばと母親が立ち上がった。
『それでも、これだけは面白いと言って息抜きにやっていたようです』
現場保存せずに証拠を移動させ、しかも隠していたこと事態捜査の妨げとなるのだが、その時はそれがどれだけ重要な意味を持つか分かっていなかった。一応確認してみましょうと言い、それを受け取って署に戻った。
そしてそこで、もう一つの失踪事件との共通点を見つけることとなる。
『あの子、よく友達とこれをやっていたんです。交換したり、バトルしたり。勝った時にはよく嬉しそうに話していました。私はそういうのに詳しくないんで、ただ相槌を打つだけだったんですが……』
シルバーのボディにはめられた、メモリチップのような小さなソフト。何のプログラムが入っているか分かるようにシールが貼られている。ロゴは宝石を思わせるデザイン。サブタイトルまで宝石の名前だった。
ゲーム。DSでプレイできると誰かが言っていた。俺はゲームをしないから分からないが、認識だけはしていた。テレビで大々的に宣伝していたからだ。
今やこの国が誇る、巨大なタイトル。
『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』
失踪した子供達はこれに夢中になっていたらしい。彼らのDSに差し込んでデータを見てみると、見たことの無い名前の生き物……ポケモンが六匹動いていた。手持ちというらしい。プレイヤーはポケモンを捕まえ、育て、戦わせる。そしてシナリオには各地の『ジム』の主将『ジムリーダー』との対戦、ポケモンを使って悪事を働く謎の集団を壊滅させること、そしてポケモンバトルの最高峰、『ポケモンリーグ』にいる『四天王』『チャンピオン』を倒すことで成し遂げられる『殿堂入り』など、挙げればキリがないほどの要素が盛られていた。
「最初に登場したのが十五年かた前ですから、大分ゲーム機が進化してプログラムも綺麗になっているんですよね」
詳しい後輩がそう言って器用にゲーム機をいじる。十五年前……俺はまだ小学生だ。だがゲームを遊んだことすらなかった。せいぜい頭の体操としてチェスやモノポリー、将棋をやっていたくらいだ。
「だが今回の失踪事件とそのゲーム、何か関係あるのか」
「ただの偶然ということも考えられます。中学一年生とはいえ、世間的にはまだ子供です。とにかくこのゲームのことも頭の片隅に入れつつ、地道に聞き込みをしていくのが重要かと思われます」
「よし、頼んだぞ」
そんな会話をしてから早一ヶ月が経過していた。その間にも失踪者は増え続け、必ず被害者がハマっていた物として『ポケモン』があった。もう間違いない。彼らはそれに関する何かに巻き込まれ、失踪したのだ。
だがそれが分かったところで何も手がかりは掴めなかった。発売元の会社にも行ってみたが、開発チームの人間にそれらしき人間はいない。
そんな時、その事件は起きた。先ほど前述した事件。
『財閥会長の孫娘が失踪した』
今度こそ普通の誘拐事件かと思い、早速友人である少女の家に向かい事情聴取をした。だが彼女の話を聞くうちに、最悪の予想が当たった。その孫娘はゲーマーで、ポケモンをプレイしていたという。
そしてその友人の言葉。何か事件の手がかりになるようなことを知っているかのようだった。詳しく聞こうとしたところで、連絡が入った。捜査会議をするから戻れと言う。
意味がない、と思った。いくら会議をしても情報が無ければ警察は動くことすらできない。歯がゆい思いで会議室に向かい、会議を始めかけたところで―― 新しい失踪事件が出た。
まさか、と思い通報先に行けばそこは、
「刑事さん達が帰った後、思いつめたような顔で二階に上がっていったんです。朝ごはんまだだったから、早く来なさいよ、って叫んだんです。でも返事がなくて…… おかしいなと思って部屋に行ったら、この有様で」
彼女の部屋は散らかっていた。だが母親に聞けば昨日帰って来て見た時には綺麗に片付いていたという。一晩でここまで散らかすことは、まずない。だがまた被害者を出してしまったことは紛れもない事実だ。
あの時、捜査会議の電話が入らなければ。
「で、やっぱりこの子もポケモンをやってたんだな」
警部が厚いシルバーカラーのDSを取り上げた。電源は落ちている。入っているソフトは、パール。ふと目の隅に引っかかる物があり、ベッドの上の掛け布団をどけた。
携帯電話だった。どうやら彼女は消える直前、これを見ていたらしい。母親に許可を取り、メールボックスを開く。
一番最近のメールは、昨日の夕方だった。差出人の名前にも驚いたが、その内容にはもっと驚いた。
『ごめーん。何かあの裏技、私の勘違いだったみたい。帰ってからもう一度見たら、下手すればゲームそのもののデータが消去されちゃうって書いてあったから。
だから忘れてね』
裏技。時々テレビでやっている裏技とは全く別物だ。慌ててそれより前のデータを見たが、裏技に関することは何も書いていない。だがこれは大きな進歩だ。ゲームに関することを知ったことが進歩なのか、と言われるかもしれないが、そもそも被害者の共通点が同じゲームにハマっていたことだけなのだ。
これには必ず、何かある。俺は携帯電話を取り出すと、先ほどポケモンについて教えてくれた後輩に連絡を取った。自分達が戻るまでに出来るだけ、ネットのポケモンに関する裏技のサイトを探ってくれ。その中に興味深い内容の裏技があったら、コピーしておいてくれ。
後輩は何も言わずに『分かりました』と言ってくれた。どんな形であれ事件の捜査が進むのは嬉しいのだろう。ましてや、それに自分が関わったとしたら。
「俺にはゲームの類は分からんが……本当に関係あるのか」
戻る途中、助手席で警部が訳が分からない、という顔をして聞いてきた。ゲームなんて俺にも分かりません、ただ、と続けた。
「せっかく掴んだ被害者のメールなんです。調べないわけにはいかないでしょう」
「まあな」
「それにその裏技の内容が気になります。下手すればゲームのプログラム自体が駄目になる……それほどのリスクを持つような裏技って、何なんでしょうね」
覆面パトカーは、ビルに囲まれた道路を静かに走っていく。
「事件が表沙汰になっているせいもあり、すぐに見つかりました。彼らの情報網には驚かされます」
そう言って後輩が見せてくれたのは、ある掲示板のログを印刷した物だった。記号を使った顔文字など一般人には分からない世界が広がっている。よく考えれば、ゲームもそうなのかもしれない。誰にも邪魔されず、時には気の合う仲間と共にいられる正に理想の空間。
「ここ、見ていただけませんか」
赤ペンで印を付けられた場所に、こんなことが書いてあった。
『251:何かポケモンが事件の中心らしいぜ
252:まじか
253:裏技で、ポケモンの世界に行けるーなんてヤツがあるらしい ほんとかどうかは知らんどな
で、そいつらは試していなくなった、という噂
254:そして だれも いなくなった!
255:ウソだろww 誰が信じるんだよそんなんww
256:中二乙
257:でも実際にサイトあるらしい 俺みたことある
258:うp希望 』
読みにくい。ひたすら読みにくいが、大体の内容は分かった。そして、と後輩が続ける。
「ひらすらログを追っていったら、一度だけこのサイトのURLが出てたんです。これが裏技の内容です」
背景は黒。そして文字は白。別の意味で読みにくい。そこにはこうあった。
『タイトル画面で特定のボタンを押し、マイクに向かって『全てのプレイヤーのリセットをわが身に委ねます』と言う』
「リセット?」
「本当はどうか怪しいですけどね。一応これが妥当かなと思って印刷したんです」
「リセット……」
黙ってしまった私に、後輩が慌てて付け加えた。
「結構普通なんですよ。特に初心者は一匹だけメインに育てちゃって、その一番強いやつがやられたら後は袋叩き状態ですから。それでレベル上げする気力もなくて、もう一度初めからやり直しとか。あとは能力値が高いポケモンを欲しがるとか、弱くてもいいから色違いが欲しいとか」
「ほー。そのポケモンとやらには能力の違いもあるのか」
「ええ。高ければ高いほど、育てていくうちに差がはっきり分かれてきます。そういえばエメラルドのファクトリーは辛かったなあ。自分のポケモン使えないんだから」
自分の後ろで通な話をしている二人に、私は叫んだ。
「彼女のソフトがどうなっているか、リセットしたとしたらどうやってそのようにしたのか調べることは出来るか」
「え……それは難しい、というか無理です。前作のデータはリセットしていたら完全に消去されてますから」
そう言われながらも私はDSの電源を入れ、パールを起動させた。手持ちはなし。後輩があれ、と疑問の声を上げた。
「おかしいな。発売されてから既に半年以上経ってるはずなのにほとんど序盤の話だ。まだ最初のポケモンすら貰ってない」
「この後ろに差さっているのは何だ?これもソフトか」
「お、懐かしいな。サファイアだ。そうか。パルパークで連れてこようとしてたんだな。もしくは連れてきた後、リセットしたか」
「おいおいどういうことだ。ちゃんと分かるように説明してくれよ」
「分かりました。えっと……」
後輩の言葉をまとめると、こういうことだった。
・ダイヤモンド、パールの前にもポケモンはソフトをだしていて、それはルビー、サファイア、エメラルドの三種類だということ。
・ダイヤモンド、パールはある特定の条件を満たすと、その三つのソフトからポケモンを連れて来ることが出来るということ。
・ただし連れてくるには少なくとも殿堂入りしなくてはならないため、おそらく今のデータは殿堂入りした後何らかの理由で消去した後の物だろう、ということ。
「そうそうリセットすることなんて無いんですけどね。何か変な裏技でも使っ……あ、もしかしたら」
「裏技!?この掲示板に書いてある以外にもあるのか」
「ええ。あんまり言うとマネする馬鹿がいると思うので詳しくは言いませんけど、『壁の中から出られなくなる』っていうのがあるんです。黒いドットの無い世界で何をしても動けなくなるんですよ。普通ならセンターに連絡して直してもらうのが一番ですけど、時間もかかるし。この子はやらないままリセットしたのかも」
「……」
理解出来ない。手塩にかけて育てた仲間を、何の思いもなしに消去するなんて。それがゲームだとしても、あまりにも軽すぎる気がした。
変な胸の取っ掛かりを覚えた時、彼女の携帯履歴を調べていた方から連絡が来た。一つだけ非通知があったという。しかもそれは彼女が消える直前に掛けていた内容らしいのだ。慌ててパソコンの前に行くと、スピーカーから声が流れ始めた。クリアにしているため聞き取れることは出来るが、それにしても酷く聞き辛い。
「フィルターかけてるな。何処からかは分からないのか」
「それが……コンピュータからなんです」
「コンピュータ!?プログラミングされてるってことか!?」
会話の内容は十秒ほどだった。俺はその中にある言葉の一つが気になった。
『二つの世界は繋がった』
二つの世界。ここまで調べたら、分かる。分からなくてはならない。不要な物を排除していき、最後に残った物。それがどんなに信じられない事でも、それが真実――
「警部」
「何だ」
「彼女達の居場所が、分かった気がします」
警部は驚かなかった。俺より低い位置にある頭をこちらに向けて、いつもの通りの口調で喋る。
「言ってみろ。お前なりの意見を。もしかしたら俺と同じ意見かもしれないし、違うかもしれない。だがどちらにしろ、これは俺たち警察組織の手に負えるような事件じゃなくなってる。俺たちは技術者じゃないからな」
俺は一気にまくし立てた。
「彼女達は、プログラムの……『ポケットモンスター』というゲームの一部にされています」
「つまり、その『リンネ』っていうキャラこそが、失踪したお嬢ちゃんそのものなわけだ」
一度捜査本部を出た俺と警部は、喫煙室の中と外に分かれて話をしていた。警部は愛煙家だが、俺は煙草を吸わない。何とも奇妙な光景だが、両方が満足することが出来るのはこれだけなのだ。
「フィクションとかSFを苦手だって言ってたお前がそんな突拍子もない発想が出来るとは、成長したな」
「俺をからかっている暇なんてありませんよ。早く何とかしてプログラム化された子供達を助けなくては」
「馬鹿言うなよ。ここはリアルの世界なんだ。ゲームでもアニメでも、ましてや映画でもない。リアルに生まれた俺達は、リアルが『限界だ』っていう場所までしか捜査は出来ないんだ。第一、憶測だけで上が動くと思うか?」
「ですが……」
「俺はな、ヒメヤ。『どうやって』プログラム化したのかっていう理由より、『どうして』そんな事件を起こしたのか……それが一番引っかかってるんだ」
久々に苗字を呼ばれた。いつも『お前』としか呼ばれないからだ。『どうやって』より『どうして』忘れがちだが、取調べの際には大切なことだと聞いた。『何故』も後者に入る。『何故こんなことをしたのか』『何故誰も止めることが出来なかったのか』『何故助けてやれなかったのか』『何故……』
この仕事を始めてから、数え切れないほどの『何故』『どうして』を繰り返してきた。時勢が時勢なのか、繰り返しても繰り返しても足りないくらい、同じような事件が起きていた。それと同時に、リアルな『リセット』も数え切れないほどあった。
「人生リセットか。ゲームに慣れすぎてるんだろうな。失敗作が生まれても、ボタンを押せばリセットできる。……分からないが、プログラム化された子供達はどれくらいゲームをリセットしてきたんだろうな」
「少なくとも彼女は、一度はリセットしています。今までの思い出が積み重なった、前のデータも一緒に」
「だよなあ。――俺はあの子らの気持ちが分からないのさ」
微妙な空気が、二人の間を流れていく。だが、と警部が付け加えた。
「もしかしたら、プログラム化された子供達もはっきり真実に辿りついてはいないかもしれない」
「は?」
「何故自分達が取り込まれたのか。自分達ではないといけなかったのか。無自覚は恐ろしいな」
カランと缶コーヒーの空き缶がゴミ箱に落ちていった。
「マスコミには何も言うなよ。まあ言ってもあちらさんも何も出来ないだろうが…… プログラムにされて連れて行かれたなんて夢物語みたいな話、報道できると思うか?
警察共々、世間の笑いものになるだけだ」
子供達のソフトは今も保存されている。DSの電源を入れた、プレイできる状態で。ゲームの中に取り込まれた『彼ら』は、自ら動くことは出来ない。プレイヤーが動かしてやらないと、何もできない。バトルも、買い物も……動くことすらできない。
「何とかできませんかね」
「あくまで希望的観測ですが」
後輩が言った。
「このゲームのシナリオは、主に二つに分かれます。チャンピオンを倒して殿堂入りする前に、悪の組織を壊滅させるのです。
だから、もし僕達がそれを倒す手助けをしてやれば……戻って来られるかもしれない」
………………………………………
気が付けば、真っ暗な世界にいた。右も左も上も下も分からないくらい、真っ暗闇。自分の姿は見えるから、光が皆無というわけではなさそうだ。
だけど、私の格好は普通ではなかった。普通とは言えなかった。頭に白いニット帽。トップスは黒いタンクトップ。スカートは今にも下着が見えそうな超ミニのピンク。そして同じ色のブーツに、マフラーと黄色いボストンバッグ。
それはどう見ても、昨日までやっていたポケモン『パール』の女主人公と同じ服装だった。それと同時にここがどこか理解した。記憶が蘇ってくる。ノイズだらけの電話と、白い光。
ここは、ゲームの中だ。
『ようやく気付いたか』
何処からか声がした。いつの間にか、横に私と同じ服を着た少女が立っている。……いや、多分彼女が本当の主人公なんだろう。だけど声と話し方に違和感があった。なんというか、私だけじゃない、全てを恨んでいるような声。
「貴方は」
『自分が今何処にいるか分かれば、分かるんじゃない?』
歳相当の声になった。何処からコピーしてきたのか、女の子の声。真っ暗闇の空間。何処が何処かすら分からない、不気味な空間。ずっといたら発狂してしまいそうな――
『私達、ずっと一緒だったじゃない』
その子が言った。
『どうして、リセットしたの』
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