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  [No.1392] 四つ子と、双子かける四 夜 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/11/13(Fri) 21:53:00   56clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



四つ子と、双子かける四 夜



 カロス最北の町クノエシティ。
 日が暮れ、街は蒼い闇に閉ざされる。
 ピンポーン、とインターホンのチャイムが家中に響き渡った。
 居間で大学の語学の課題を黙々とこなしていた淡い金髪のユディは、椅子から立ち上がり、モニター付きのインターホン親機で応答した。
「おー」
 ユディはにやりと笑う。
 モニターの画面の正面には、フシギダネを頭に乗せた緑色の被衣のキョウキが、門灯に顔を照らされ微笑んで立っていた。そしてキョウキと画面の枠の間の隙間を、ピカチュウを肩に乗せたセッカがぴょんぴょんと跳ねまわっている。
『ユディ、ただいまー』
『ユディ! 開けて! 入れて! 早く! ユディ! 開けて!』
 キョウキとセッカが、街中の散歩から帰ってきたのだ。散歩と言いつつ、クノエシティのフェアリータイプを専門とするジムで、ジムトレーナー達や挑戦者たちとバトルの一戦や二戦もしてきたのかもしれない。そうでもなければセッカのテンションの高さが説明できない。
 何にせよ、ユディ宅に居候中の幼馴染たちの機嫌のよさそうなのに、ユディは心の平和を感じていた。インターホン上では適当に応えておいて、ユディは玄関の開錠へと向かう。
 錠を回し、扉をガチャリと押し開けた。
 果たして玄関前に立っていたのは、キョウキとセッカだけではなかった。
 ユディは目を瞬いた。
「……………………」
「よう」
「どうも」
「ただいまー」
「わっしょい!」
 キョウキはいつもより笑顔が眩しく、セッカはドヤ顔で胸を反らしている。
 その二人の間に挟まれて、ヒトカゲを抱えた赤いピアスのレイアがにやにやと笑い、ゼニガメを抱いた青い領巾のサクヤが無表情でユディを見つめていた。
 ユディは数瞬黙っていた後、玄関のドアをばたりと閉めた。

 そしてさらに数瞬の後、四人分の手により、激しく玄関のドアが叩かれた。
「おいユディてめぇゴラ開けろや! なに勝手に閉めてんだふざけんなァ!」
「ねえねえユディ、開けてよー」
「ユディ! 開けて! お願い! 入れて! ユディー!」
「おい、開けろ。ふざけるな」
 どんどんドガンドガンどごんバンバンバンバンバンバンがんがんがんがん。
 ユディはドアを、再び思い切り開いた。すると、ドアに取りついていた四つ子がまとめて吹っ飛んだ。
「ぐっ」
「きゃー」
「ぴいっ」
「うわ」
 相棒たちと共に尻餅をついた黒髪と灰色の瞳と袴ブーツの四つ子を、ユディは剣呑な目つきで見下ろす。
「…………いつの間に分裂した…………」
「そりゃお前」
「母さんの」
「おなかの中に!」
「いたときだ」
 四つ子は見事なチームプレーで、ぬけぬけとそう答えた。


 そのようにしてユディは幼馴染の四つ子を全員、家に上げることになった。
 仕方なく食事室の椅子に四つ子を座らせ、ユディはぼやく。
「……さっさとウズと仲直りして、帰れよ……」
「やだもん!」
 頬を膨らませて反駁したのは、ピカチュウを連れたセッカだ。ヒトカゲを連れたレイアと、ゼニガメを連れたサクヤが同時に首を傾げた。
「あ? 何、こいつらウズと喧嘩してんの?」
「また何かやったのか」
 それにはフシギダネを連れたキョウキが笑って答える。
「何もやってないのに、何かやったと思われたから、喧嘩になってるんだよ」
「あっそ。ま、自業自得だわな」
 レイアが鼻で笑う。セッカが叫ぶ。
「レイアもサクヤも同罪だけどな!」
「まあ、違いないな。いいだろう。……仕方ない、家出に付き合ってやる」
「待て待て待て、レイアとサクヤまで家出したら俺の家の居候が増えるんだが!」
 偉そうに鼻を鳴らすサクヤに、すかさずユディが突っ込んだ。
 二人くらいの食客ならば問題はないだろう。しかしユディは両親と三人家族、そこにユディの手持ちを含めた五匹ほどのポケモンたちという所帯である。そこに四人もの育ち盛りに加えその手持ちたち計十六体が増えるとなると、食費的にも空間的にも不便を被ることこの上ない。
「四人でここに居候するなら、家賃を払え! それができなけりゃ、ポケセンに泊まれ! あるいはウズと仲直りしてウズの家に帰れ!」
「あそこはウズの家じゃない」
 低い声で答えたのは、キョウキだった。ユディは面倒くさそうな気配に、反射的に顔を顰めた。
 レイアとセッカとサクヤは、興味深そうに緑の被衣の片割れを眺めている。
 キョウキはいつもの柔らかい愛想笑いを潜め、毒々しげに吐き捨てた。
「……何がウズの家だ。調子に乗るなよユディ。何も知らない癖に、好き勝手言いやがって……」
「……いや、それと俺んちに居候することは関係ないからな? なに逆切れしてるんだ、キョウキ」
 ユディは穏やかにキョウキを諌める。
 キョウキは鼻を鳴らした。
「ウズの話はするな。お前には関係ない。これ以上うるさく言うなら、こっちから出ていく」
「おー、出てけ出てけ」
 売り言葉に買い言葉だが、四つ子がユディの家から出ていくこと自体にユディには何のデメリットもない。そして四つ子が心を開ける友達というのもほとんどユディしかいないのだから、四つ子がどれほど背伸びしたところで四つ子はユディから離れられない。
 ユディは気楽に突き放した。
「いいさキョウキ、気に入らん奴からは逃げればいい。ま、それだから、いつまで経ってもお前らには友達も恋人もできないし、父親とも仲直りできないんだがな?」
「……ねえ。いちいち苛つかせるのやめてくれる、ユディ」
「幼馴染の特権ってやつだ。俺以上にお前ら四つ子のこと理解してやれる人間なんて、いない。俺は間違ったことは言ってない。だろ? いつまでも子供みたいに怒ってるなよ、キョウキ」
 今やキョウキはすさまじい形相でユディを睨んでいた。キョウキの頭上のフシギダネの穏やかな表情とかなり対照的である。
 ピカチュウを肩に乗せたセッカは、キョウキとユディの間の険悪な雰囲気にあたふたとし出している。
 いつの間にか食卓の椅子に勝手に座っていた赤いピアスのレイアと青い領巾のサクヤが、はあと溜息をついた。
「キョウキ、いい加減にしろ」
「家賃を支払おう」
 旅で疲れた様子のレイアとサクヤがそのように言うと、ユディはこだわりもなく頷いた。
「わかった。そうしよう」


 そのままユディと四つ子は、パンと野菜たっぷりのトマトスープと白身魚のムニエルという、質素ながら美味しい夕食を黙々と食べた。四人のそれぞれが四体ずつの手持ちを庭やテラスに解放し、これらにも食事をとらせる。
 四つ子は、雛鳥のような見事な食べっぷりを見せた。
 早々に食事を終えたフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ、ピカチュウは先ほどから食事室や居間を駆け回り、遊びまわっている。そこにユディの手持ちである小柄なルカリオが嬉々として加わった。
 小柄なポケモンたちが食卓や椅子の足にぶつかるたびに、食卓上の皿が揺れる。しかし四つ子は気にもとめず、黙々と料理を口に運んでいる。
 ユディは小さいポケモンたちを諌めた。
「……お前ら、庭で遊べ!」
「ぴぃか!」
「ぜにぜにー!」
「かげぇ」
「だぁねぇー?」
「がるっ」
 遊び盛りのポケモンたちが騒々しく食事室から去ると、ユディは溜息をついた。
「躾がなってないぞ、お前ら」
 しかし返答はなかった。四つ子は必死に食べ物を胃に詰め込んでいた。
 他に庭にいるのは、ユディのジヘッド、レイアのヘルガーとガメノデスとマグマッグ、キョウキのプテラとヌメイルとゴクリン、セッカのガブリアスとフラージェスとマッギョ、サクヤのボスゴドラとニャオニクスとチルタリス。それぞれポケモンフーズを食べたり、食後のうたた寝をしたり、久々に会った相手と挨拶を交わしたりと、思い思いに過ごしている。
 そうこうしているうちに、四つ子は大鍋に作ったスープを完食した。ユディの両親の分はすでに皿に注ぎ分けてあったため、ユディも四つ子の暴食を許したのである。
「よく食ったな」
「あー……生き返った……ここんとこずっと一日一食だったから……」
 赤いピアスのレイアが食卓にぐったりと倒れ込んでいる。
 ユディは苦笑した。
「それは摂取カロリー的にも少なすぎるだろ、レイア。……金欠か?」
「そうでもねぇけど。ここんとこ食欲無くてさ、メシ抜きがちだったんだよな……」
「大丈夫か? 病気か何かか?」
「いや。気色悪い奴に会っちまって。それで食欲なくした。そんだけ」
 ぐでぐでとしているレイアは、なるほど以前会った時よりもやつれている。サクヤが軽く眉を顰め、セッカがいきり立った。
「……気色悪い奴、だと?」
「何それ! レイア、ストーカーに遭ってたのか? なんだそいつ、許さねぇ!」
「いや、そうでもねぇけど。別にもう大丈夫だし。お前らいれば、まあ落ち着いて寝れるだろ……」
 寝不足も加わっていたらしく、レイアは既にうつらうつらとし出している。セッカとサクヤは顔を見合わせた。
「……レイア、大丈夫かな。……サクヤは大丈夫だったか?」
「ああ。問題ない。お前とキョウキは、何かあったのか」
「うん! ユディとおっさんと一緒にボール工場見学に行って、逃げてきたよ!」
「わからん」
「でさでさ、ところでさ、なんでサクヤは帰ってきたんだ?」
「お前らと話し合いたいことがあったんだが。まあ、レイアもこんな様子なら、明日に延ばすか……」
 すると、それまで黙って空の皿を見つめていたキョウキが、首を傾げた。
「…………サクヤ、話し合いたいことって何かな?」
「今のお前に話すことなどない」
「……あ、そう。分かった、お家絡みの話ってわけだ」
 キョウキは冷ややかに笑い、再び俯いて黙り込んだ。
 サクヤも黙ったまま、セッカに視線を向ける。セッカは何も言われなくても、サクヤの求める説明をした。
「えっとね、俺らこないだ、ウズにひどいこと言われたんだよ。えっとねぇ、偉い人間にならないと父さんも俺らを認めてくれないし、ウズも母さんの家を俺らに返してくれないんだってさ」
「……ふん、なるほどな。大方読めた」
 サクヤは呟き、目を閉じる。ひどく眠そうであった。
 レイアは食卓に突っ伏して、静かに寝息を立てていた。
 キョウキは不機嫌そうに俯いている。
 セッカだけは、ぴょこんと椅子から立ち上がった。幼馴染のユディに笑いかける。
「ユディ、お皿洗い、お手伝いするー!」
「……なんか今めっちゃセッカが眩しいわ」
 ユディは苦笑しつつ、セッカと共に空になった食器類を片付け始めた。



 ユディは自宅の和室を四つ子に貸した。客用布団が二組しかないため、一組の布団に二人ずつ押し込める。ポケモンたちは夜の庭でそれぞれ気の合う者同士でくっつき合って眠り、そしてフシギダネとヒトカゲとゼニガメとピカチュウは相棒たちと同じ和室で丸くなった。
 しかし、翌朝のことである。
 和室から、フシギダネとヒトカゲとゼニガメとピカチュウの困惑した鳴き声が聞こえてきた。
 ユディが不審に思って和室に入ると、四体の小さいポケモンは次々にユディに戸惑いを訴えた。
「ぴぃか、ぴかぴか? ぴかちゅ? ぴかぁっ?」
「ぜーに! ぜにが? ぜにが? ぜにぜにー!」
「かげぇぇぇ……? かげぇぇぇ? かげぇ……?」
「だぁーねぇー?」
 小さなポケモンたちが、布団でいぎたなく眠る四つ子をつついて回っている。
 ピカチュウは取り乱して四人の足の間をせわしなく走り回り、ゼニガメは四人の黒髪を次々に引っ張り、ヒトカゲはほとんど半泣きで四人を揺り起そうとし、そしてフシギダネだけは泰然とユディを見上げている。
 日が昇ってもぐっすりと眠っている四つ子は、赤いピアスも緑の被衣も青い領巾も着けていない。髪型もぼさぼさに乱れ、寝顔は互いによく似ていた。四人でくっつき合って、仲良く眠っている。
 それ自体はいい。
 しかし問題はそこではない。
 レイアとキョウキとセッカとサクヤの区別が、つかない。
「……久々に見せつけられたな、四つ子クオリティ」
 ユディは真顔で呟いた。


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