こんにちは
わたくしは、ふしやまと申します。
頭から被った緑の被衣がチャーミングな、キョウキという方の相棒をしております。
キョウキの頭の上がわたくしの定位置です。ひじょうに見晴らしがよい。
わたくしの主について、もう二言三言申し上げておきます。キョウキは素直で純粋な、優しい子です。わたくしはキョウキを研究所で一目見た時から、それを見抜いておりましたよ。
では続いて、わたくしと共にキョウキを支える仲間をご紹介しましょう。
プテラのこけもすは真面目で、化石から蘇った方ですけれど古代の記憶などはなく――秘密の琥珀に残されたDNAから彼のプテラという種の肉体を復元しているのみで、化石の本体そのものを復活させることはできないそうです――うまく現代にも馴染めているようです。
ヌメイルのぬめこはやんちゃな方で、たびたびキョウキの荷物をぬめぬめにしますが、とても愛嬌のある素敵な女性です。
ゴクリンのごきゅりんはうっかりやさんで、キョウキが苦労して集めたきのみをうっかり大量消費してしまう困りものですが、こちらもまたたいへん愛嬌溢れる方です。
シャワーズの瑠璃は、生意気なお嬢さんです。わたくしとしてはいささか嗜虐心をそそられるのですが、まだまだ瑠璃が若いということもあって自重させていただいております。
サンダースの琥珀は、意地っ張りなお坊ちゃまです。双子の姉の瑠璃と共謀して他の仲間たちに喧嘩を吹っ掛けることしばしば、まったくもって困ったものです。
わたくしはキョウキと共に、レイアさんのローテーションバトルを高みの見物と洒落こんでいました。
あいにくサラマンドラはバトルの場に出ませんでしたが、レイアさんのパーティーのリーダーである彼と、エースであるヘルガーの彼なしでバトルシャトレーヌに勝利するとは、あっぱれです。とはいえ、バトルシャトレーヌもまだまだ本気ではなかったようです。
キョウキもレイアさんと同じく、バトルハウスに挑戦しています。セッカさんもサクヤさんも、それぞれ別のルールで挑戦を行っています。
レイアさんはローテーションバトル。
わたくしの相棒キョウキはトリプルバトル。
セッカさんはダブルバトル。
サクヤさんはシングルバトル。
ご主人たちは打ち合わせをすることなく、別々のルールのバトルに挑戦されました。さすがは四つ子、息がぴったりとお褒め申し上げるべきでしょう。
そのようなわけで、わたくしたちキョウキチームはトリプルバトルに挑戦していました。
トリプルバトルは、一度に三体ずつポケモンが戦うルールです。
六対六のいわばフルバトルであり、一試合の時間も長いのですが、その分挑戦者は多くありません。そして手持ちの六体をすべてしっかり戦える程度まで鍛え上げるのは、並のトレーナーにはできません。だからキョウキは素晴らしいトレーナーなのです。
わたくしを頭に乗せたキョウキが、レイアさんの勝利を見届けると、回廊へ出てゆきます。トリプルバトルの会場へ戻るのでしょう。
そのトリプルバトルのための広間は、超満員と化していました。キョウキが戻るのを待っていたのです。
キョウキは19連勝しておいて、次がいよいよバトルシャトレーヌの登場だというところで挑戦を中断してしまう、お茶目な人です。先ほど終わったばかりのローテーションバトルの会場からも続々と人が流れ込んできています。とはいえそういった人は、トリプルバトルを担当するバトルシャトレーヌ専門のファンというわけではありませんので、ファンの間の静かなる抗争では弱い立場にあります。
キョウキが大階段を下りていきます。
わたくしを手に取り、そっと頭の上から下ろしました。わたくしはキョウキを見つめます。
キョウキは微笑んでいます。疲れたような笑顔でした。
どうしましたか。
おそらくキョウキは、バトルに飽いているのでしょう。キョウキがポケモンバトルにほとほと嫌気がさしていること、わたくしには分かっております。
ですからキョウキが不意の気まぐれでわたくしたちに指示を下すのをやめたとしても、わたくしが貴方の代わりとなり、仲間たちに指示を飛ばしましょう。
ですからどうか、バトルの場に立ってください。
キョウキ。貴方には力が必要なのでしょう?
階上から赤いドレスの女性が駆け降りてこられます。踵のある靴でご苦労様です。
一も二もなくバトルが始まりました。わたくしはキョウキの足元でそれを見ていました。
お相手の最初の三体は、イノムー、ドラミドロ、エルフーンです。
キョウキが最初に出したのは、シャワーズ、サンダース、ヌメイル。雨パです。
まずはお相手のエルフーンが、こちらのヌメイルに素早く宿り木の種を植え付けてきました。一方ではこちらのシャワーズが雨乞いで、バトルハウス内に大雨を降らせます。
こちらのサンダースが、雷を、敵のエルフーンに。直撃です。運よく相手を痺れさせました。
敵のドラミドロが影分身。
こちらのヌメイルが、ドラミドロに竜の波動を飛ばすも、これは躱されてしまいます。
敵のイノムーが、地震を撃ってきました。敵のドラミドロとエルフーン、そしてこちらのシャワーズとヌメイルは地震を耐えきりましたが、こちらのサンダースは倒れてしまいました。
双方の一手目は終わり、残り五対六。
キョウキがサンダースの代わりに中央に繰り出したのは、エースのプテラ。
敵のエルフーンが追い風を起こします。せっかくサンダースが痺れさせたのに、これではエルフーンの悪戯心をくすぐらない技も先制されてしまいます。
続いて敵のドラミドロが、シャワーズにポイズンテール。またまた運よく、毒は浴びませんでした。
向かい風に押し戻されつつ、こちらのプテラが岩雪崩を起こします。相手のイノムーを怯ませたところに、シャワーズが熱湯を浴びせます。イノムーは火傷を負いますが倒れません。
こちらのヌメイルが敵のドラミドロに、再び竜の波動を撃ちますけれど、やはり外れてしまいます。
キョウキが苛立ってきています。
それでもプテラ、ヌメイル、シャワーズに淡々と指示を下しています。
敵のエルフーンが、こちらのシャワーズにエナジーボールを撃ちます。シャワーズまで倒れてしまいました。これで残りは四対六、形勢不利です。
敵のドラミドロは、プテラに滝登りを仕掛けてきました。それを掬い上げるようにプテラはフリーフォールでドラミドロを空中に連れ去ります。
敵のイノムーがこちらのヌメイルを吹雪で狙いますが、これは大雨にあおられて外れました。
ヌメイルが濁流を起こします。プテラに上空に連れ去られたドラミドロには当たりませんが、エルフーンとイノムーに泥水が叩き付けられます。火傷のダメージもあって、ようやくイノムーが倒れました。
これで四対五。
キョウキはゴクリンを、お相手はレアコイルを新たに繰り出しました。
敵はドラミドロ、エルフーン、レアコイル。
こちらはプテラ、ヌメイル、ゴクリン。
敵の起こした追い風はまだ続いています。
敵のエルフーンのムーンフォースが、こちらのヌメイルを襲います。麻痺しているくせによく動きます。しかしここはヌメイルが上手く身を守りました。
こちらのプテラが、行動不能だったドラミドロを地に叩き付けますが、ポイズンテールをお見舞いされ、毒を浴びてしまいました。
さらに敵のレアコイルが10万ボルトでプテラを襲います。毒のダメージも加わります。エースのプテラが、耐えきれずに倒れてしまいました。
けれどゴクリンのヘドロ爆弾が敵のエルフーンを襲い、仕留めます。
三対四です。
さあ、とうとうわたくしので番まで回ってきてしまいました。
敵が繰り出したのはマグカルゴです。ドラミドロ、レアコイル、マグカルゴ。
対してこちらはわたくしフシギダネ、ヌメイル、ゴクリンです。
敵のドラミドロのポイズンテールがヌメイルを襲います。ヌメイルは身を守ろうとしますが、続けての事なのでうまくいきません。弾き飛ばされ、さらには毒を浴びてしまいます。
敵のレアコイルがわたくしに向かって金属音を響かせます。とてもうるさいです。
そして敵のマグカルゴの大地の力が、ゴクリンを襲いました。ゴクリンが倒れてしまいます。
雨が上がりかけたところでヌメイルが火炎放射をぶつけ、敵のレアコイルを倒します。けれどヌメイルは毒のダメージが辛そうです。
わたくしも追い風に押し戻されそうになりながら、身代わりを張ってその陰で風を凌いでいました。
残るは、二対三。
相手の最後の一体は、キリンリキでした。やれやれ、よりによってわたくしの苦手なエスパータイプです。
相手はドラミドロ、マグカルゴ、キリンリキ。
こちらはヌメイルとわたくし。
しかしその時、追い風がやみました。
わたくしは身代わりの陰から素早く、キリンリキに眠り粉を仕掛けます。そしてヌメイルがすかさず竜の波動を、ようやくドラミドロにしっかと当てることができました。ドラミドロをようやっと沈めることができました。
敵のキリンリキは眠って動けません。
敵のマグカルゴが、のしかかりでヌメイルを倒してしまいました。
キョウキが溜息をついています。
これであとはわたくしだけ。敵は、いつ目覚めるかわからないわたくしの苦手なエスパータイプのキリンリキと、そしておめめぱっちりのわたくしの苦手な炎タイプのマグカルゴの二体です。
私は再び身代わりの陰から、素早くマグカルゴに眠り粉を仕掛けました。
そして先に目覚めるであろうと思われるキリンリキに、ソーラービームを当てます。けれど倒れません。
二発目を溜めているところに、キリンリキが目覚めてしまいました。
しまった。早起きの特性です。
キリンリキのサイコキネシスで、わたくしのかわいい身代わりが壊れてしまいます。しかしそのための身代わり人形なので仕方がありません。キリンリキをソーラービームで倒しました。
まだ目を覚まさないマグカルゴに宿り木の種を仕掛け、そして三発目のソーラービームのため光を吸収しました。
マグカルゴが目覚めます。
オーバーヒートを放ってきます。レアコイルの金属音を受けていたせいで心がくじけそうです。わたくしは光の吸収を中断し、二度目の身代わりを張りました。高熱を凌ぎます。
しかし敵のマグカルゴは、持っていた白いハーブで能力値を元に戻してしまいました。
再びオーバーヒートが飛んできます。わたくしも三度目の身代わりを慌てて張ります。だいぶ体力が辛くなってきました。相手から体力を吸収できる宿り木だけが頼みの綱です。
けれど、今度こそ相手の技の威力も下がっていきます。
わたくしは身代わりを張り、オーバーヒートを凌ぎ、宿り木で体力を回復し、そして壊れた身代わりを張り直します。
敵も宿り木で体力が削れているはずです。そしてオーバーヒートの威力も収まってきました。
とうとう敵は特殊攻撃に見切りをつけ、のしかかりを仕掛けるべく飛びかかってきました。
わたくしは身代わりの陰でにやりといたしました。
キョウキも緑の被衣の陰でにやりといたしました。
光を吸収します。
敵のマグカルゴが、身代わりをのしかかりで潰します。
わたくしはソーラービームで、マグカルゴを撃ち抜きました。
どうにか勝利できました。
わたくしは審判が判定を下すのをきっちりと見届けてから、後ろを振り返り、相棒を見上げました。
お疲れさまです、キョウキ。最後までよく諦めず、わたくしに指示をくださいました。
貴方は結局、わたくしたちを裏切れないのですね。
どれだけ面倒だろうと、バトルが嫌いだろうと、貴方はわたくしたちに頼るほかない。かわいいひとです。
キョウキの手が伸びてきて、わたくしを抱き上げます。そして頬ずりしてきました。
瀕死になったわたくしの仲間たちも、すぐに回復してもらえました。
そしてキョウキはわたくしを緑の被衣を被った頭の上に乗せ、回廊を歩いてゆきます。途中でサラマンドラを脇に抱えた赤いピアスのレイアさんにお会いしました。お二人は並んで歩きます。
サラマンドラが話しかけてきました。
「見てたよ。すごいバトルだったね、ふしやま」
「まったく、大変でしたよ。君は良いですね、シャトレーヌ戦も何もせず傍観でしょう?」
「いや、負けたら容赦しないって釘さしておいたからさ」
「怖い子ですね、君は」
わたくしはついつい笑ってしまいました。サラマンドラは臆病なくせに、レイアさんやバトルのこととなるとポケモンが変わったように冷酷非道になるのです。
レイアさんとキョウキは、次の広間に出ました。
ダブルバトルの会場です。こちらも超満員でした。
ピカさんを肩に乗せたセッカさんが、大階段の踊り場の手すりにもたれかかり、干された布団のようにだらりと伸びています。……大丈夫、でしょうか。