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  [No.1471] 四つ子とメガシンカ 昼 投稿者:浮線綾   投稿日:2015/12/20(Sun) 19:04:52   44clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



四つ子とメガシンカ 昼



 風が吹き荒れる。ピカチュウを肩に乗せたセッカは縁まで走り寄り、遥か下方の海を見下ろした。
「うっわー! たっけー! 海ひれー!」
「空を見てると心がふわっとして……ポケモンもあたしも何でもできそうで……好きなんだ、ここ!」
 コルニはセッカとは逆に、水平線のほか遮るものの無い蒼穹を見上げて、大きく息を吸い込む。
 ヒトカゲを脇に抱えた赤いピアスのレイア、フシギダネを頭に乗せた緑の被衣のキョウキ、ゼニガメを両手で抱えた青い領巾のサクヤが続いてマスタータワーの頂上に足を踏み出した。三人もまた海上の風に包まれる。
 コルニは四つ子を見回して朗らかに笑った。
「高みを目指す気持ちを忘れないように……ってことで、キーストーンはここで渡す決まりなの!」
 まあ渡すのはあたしじゃないけどね、とコルニは小さく舌を出した。
 セッカがぴょこぴょこと跳ねるように片割れたちの方に戻ってくる。
「コルニはジムリーダーなのに、まだメガシンカできねぇの?」
「あたしだって頑張ってるんだけどなぁ……おじいちゃんがなかなか認めてくれなくってさ。ほんとはただ、まだルカリオナイトが必要な分だけ見つかってないからじゃないかって思ってるんだけどね」
 コルニは二体のルカリオを所持しているという。その二体ともをメガシンカさせるには、ルカリオナイトが二つ必要になるのだ。
 セッカは首を傾げた。
「一個をシェア、じゃ駄目なのか?」
「駄目じゃあないけどさ……。やっぱ、メガストーンってのはポケモンにとってさ、トレーナーとの絆なんだよ。それを他の子とシェアとか、やっぱルカリオ達自身も不満に思うんじゃないかなー、と思うよ」
 するとキョウキが笑った。
「不満を覚えるというのなら、メガシンカできない他のポケモンたちもそうだと思いますよ。メガストーンだけがトレーナーとの絆を示すものではないと思うんです」
「んー……ま、それもそうだけどねー。はあ……それにしても四つ子ちゃんが羨ましいなぁ、あたしも早く、自慢のルカリオコンビをメガシンカさせたいよー」
 コルニはマスタータワーの頂上の外べりにもたれかかり、青空を眺めて溜息をついている。
 四つ子は顔を見合わせた。

 コルニはメガシンカに並々ならぬ憧れを抱いているようだった。それにはコルニの一族が代々マスタータワーとメガシンカの秘密を守り継いできたという背景もあるだろう。コルニは一族の伝統に誇りを持っているのだ。だからメガシンカに執着する。
 けれど四つ子は、メガシンカをただの強くなるための手段としか見なしていない。それでもコンコンブルはそのような四つ子にキーストーンを授けることを決定したのだから、そのような四つ子の考え方も誤りではないのだろう。
 四つ子は、現在どうしてもメガシンカを必要としているわけではなかった。ただ使えれば便利だからと、ただそれだけの理由でシャラのマスタータワーを訪れた。つまりは、動機そのものはその程度で構わないのだ。
 どうやら、ポケモンとの絆よりも、メガシンカには必要とされるものがある。
 それは例えば、メガシンカによって何を達成するかということ。あるいは何を成さないかということ。メガシンカは目的ではなく、手段である。それも、悪しき目的の手段ではなく、正しい目的の手段とすることが、メガシンカの使い手には望まれているのだ。
 メガシンカの、正しい目的。
 コンコンブルは先のバトルで、四つ子が正しい目的を持っていることを見定めたのだろうか。
 四つ子を狙う、犯罪結社のフレア団や、権力をかさに着たポケモン協会といった敵を退ける。一方では、二度とトキサのような不幸な者をつくらないようにする。メガシンカを使えない他のポケモンのことも大切にしていく。
 それらが四つ子の覚悟だった。
 コンコンブルは、それでいいと認めた。


 空は青く、風が吹き荒れる。
 マスタータワー。
 その頂上。
 四つ子はそわそわと横一列に並んで立っていた。
 待ちわびたその人物が巨塔の中から現れた。
 メガシンカおやじ――もといコンコンブルが、盆に乗せたそれを四つ子に差し出す。
 盆の上に乗っていたのは、四本の簪。
 差し込み部分は真鍮、そして飾りの部分に使われているのは、蜻蛉玉ではない。キーストーンだ。
 メガストーンと一対になって、ポケモンのメガシンカを促すもの。
 コンコンブルは得意げに言い放った。
「どうじゃ、これがおぬしらの究極の――メガカンザシ!!」
「うわぁ……」
「うわぁ……」
「俺らいま髪短いのに」
「どう挿せと」
 四つ子はぼやきながらも、それぞれ一本ずつ、キーストーンのあしらわれた簪を手に取った。


 コルニは拍手する。
「すごい! おめでとう! これでメガシンカできるよ! ねえねえ試してみ――」
「静かにせい、コルニ。わしの話はまだ終わっておらん」
 コンコンブルに窘められ、コルニは慌てて口を手で塞いだ。しかしながらコルニは悪戯っぽく四つ子にウインクしてきている。四つ子以上に興奮した様子である。
 四つ子は簪を手にしたまま、背筋を伸ばしてコンコンブルに向き直った。
「コンコンブルさん」
「確かにキーストーン」
「受け取ったっす!」
「ありがとうございます」
 四人で揃って頭を下げた。コンコンブルは満足げに頷く。
「うむ、それで良い。やはりおぬしらには、メガカンザシで正解であったな」
「いや、でもこの簪……」
「メガカンザシじゃ!」
 コンコンブルに一喝され、四つ子は小さく首を縮める。
「……この、メガカンザシ、頭につけなきゃ駄目ですか?」
「髪に挿すなり懐にしまうなり、好きにするがいい。いずれにしてもそれはポケモンとの絆、大切にせよ。……もっとも、メガシンカしない他のポケモンとの絆も大切に、などとはおぬしらも既に分かっていようがな」
 四つ子はこくりと頷いた。メガシンカばかりを重宝するつもりはない。切り札のつもりで隠し持つことに決めている。コンコンブルに言われるまでもない。四つ子はこれまでにも自身の強さを過信したせいで何度か痛い目に遭ってきたのだ。
 いい顔で微笑むコンコンブルの様子を伺いつつ、コルニが再び口を開いた。
「……えっと、おじいちゃん、話終わった? でさでさ、四つ子ちゃん、ちょっとメガシンカやってみせてよ!」
「いや、やらねぇよ」
 すげなく拒否したのはレイアだった。コルニが頬を膨らませる。
「――なんで? いざって時にどうするのか分かんなかったら困るじゃん!」
「かといって、今は必要な時じゃねぇだろ。戦う気も無いのにメガシンカさせる気はねぇよ」
「じゃあさ、あたしと勝負しよ!」
「やらねぇっつってんだろうが。それどころじゃねぇんだよ」
 レイアは冷たく突っぱねる。
 コルニは顔を上気させてなおも言いつのろうとしたが、コンコンブルに諌められた。
「こらコルニ。これがこの四人の決めた道。強いて邪魔立てするでない」
「でも……ヘルガーとプテラとガブリアスとボスゴドラのメガシンカ、見たいよー!」
「コルニさん、僕らのポケモンは見世物じゃありません。僕らの仲間です」
 フシギダネを頭に乗せたキョウキが笑顔で囁く。
「メガシンカしたポケモンの強さは尋常ではないとお聞きします。そんなメガシンカしたポケモンが何体もこのマスタータワーの頂上で暴れれば、危険です。……僕らはよほどの事でもないと、メガシンカを使わないでしょう」
「そんなの、宝の持ち腐れじゃんかー!」
「ちげぇぜコルニ。力ってのは、どう使うかきちんと考えないと、他人を不幸にするもんだ」
 ピカチュウを肩に乗せたセッカが綺麗に微笑んでコルニを諭す。するとコルニは悔しげに唸った。
「……ううーっ……ひどいよ、自分たちだけメガシンカ使えるようになったからって偉そうにしちゃってさ。ちょっとぐらい見せてくれたっていいじゃん、ケチ」
「もうそのくらいにせい。お前はまだまだ未熟だな、コルニよ」
 コンコンブルが溜息をついてコルニを黙らせた。そして四つ子を見やった。
「……おぬしらのここまでの道、感じさせてもらった。痛みや苦しみ多々あろうが、顔を背けず、道に違わず、おぬしら自身とポケモンたち、そして互いを信じ、これまで通り勇気をもって進むが良い」
 四つ子はキーストーンを飾られた簪を握りしめ、風の中で頷いた。



 正午にも近づくと引き潮に伴って海割れの道は現れており、四つ子はマスタータワーを後にしてシャラシティに戻った。そしてその浜辺で立ち止まり、顔を見合わせた。
 ヒトカゲを抱えたレイアが呟く。
「……キーストーンも手に入ったし、とりあえずシャラでの用事は完了だな」
 フシギダネを頭に乗せたキョウキが微笑む。
「そうだね。これからどうしようか」
 ピカチュウを肩に乗せたセッカが腕を組んで考え込んだ。
「しょーじき、よくわかんない」
 ゼニガメを両手で抱えたサクヤが囁く。
「……僕らはフレア団に狙われているのだったな。ポケモン協会にも警戒されているかもしれない、のか」
 四つ子は顔を見合わせた。
 そして昼の砂浜でこそこそと相談を開始した。
「やっぱ四人でしばらく行動すべきなのか?」
「レイア。昨日ユディに、それは目立つって指摘されたばかりじゃない」
「じゃさじゃさ、二人で行く? その方が安心安全?」
「なぜ二人でいる必要がある? 一人でも構わないだろう……メガシンカも手に入ったのだから」
「いや、一人じゃさすがに不安じゃね? 俺ら互いの連絡手段ねぇのよ?」
「でも、フレア団やポケモン協会の目をくらますという意味では、一人の方が便利っちゃ便利かもね」
「四人より二人、二人より一人の方が目立たねーしな!」
「僕は一人で十分だ。しばらく一人で考えたいこともある」
「サクヤが考えてぇことって、モチヅキか? モチヅキの事なのか?」
「ほんと、この子はモチヅキさん大好きだよねぇー」
「こりゃ、れーやもきょっきょも、しゃくやをからかってるバヤイじゃないでしょ。真面目に考えなしゃい!」
「セッカお前は滑舌が本当に残念だな」
 セッカはなぜかうふうふと嬉しそうに笑っていた。
 レイアは砂を蹴った。
「……お前らが一人でいてぇってんなら、俺も別に一人でいーよ。ただしお前らがやばくなっても助けにゃいかねぇけどな」
「ここで考えたいのは、僕らにどんな手段があるってこと。一つ、野山に隠遁する。二つ、ウズかユディかモチヅキさんに匿ってもらう。三つ、フレア団やポケモン協会に補足されない程度に街を転々とし続ける。……このくらいかな?」
「二つめは無くね? 絶対ロフェッカのおっさんかルシェドウが、うぜってぇぐらい探り入れに来るもん」
「野山に隠遁にも無理がある。いくら僕らでも、まさかポケモンセンターに世話にならないサバイバル生活まではしたことがないだろう。どうせ長続きしない」
 そこで四人は顔を見合わせた。答えは早くも一つに絞られた。
 レイアが渋い顔で唸る。赤いピアスが揺れる。
「…………一人で、街を素早く転々とし続けろ……か」
 緑の被衣のキョウキが笑顔で頷く。
「ユディは『ポケセン使わない方が不自然だ』とか言ってたけど、やっぱポケセンの宿帳に氏名が残されるのも恐いよね。……ポケセンでポケモンを休ませたり買い物したりはいいけど、泊まるときは偽名使うなり、諦めて野宿するなりした方がいいかもね」
 セッカが首を傾げる。
「気を付けるのはそんくらい? 普通にバトルして賞金稼いでもいい? ジムとか行っていいの?」
 青い領巾を指先で弄りながらサクヤが嘆息した。
「お前はさっさとジム行ってバッジ集めろよ。……バトルは仕方ないだろう、金が無いと生きていけない」
 それから四つ子は真昼の砂浜で、細々とした相談をした。
 フレア団との接触は避ける。
 ポケモン協会との接触も避ける。
 問題を起こさない。
 当面は、ウズやユディやモチヅキにも連絡しない。
 ほとぼりが冷めるまでおとなしくする。

「……ほとぼりか。そもそもなんで、ほとぼりがあんだろな……」
「全部榴火のせいだよ。あーあ、榴火が逮捕の死刑とはいかないまでも無期懲役にでもなってくれればなー」
「ほんとさ、あんな危険なやつ、なんで野放しにされてんだろな」
「フレア団とポケモン協会と与党政府が癒着しているからだ」
 サクヤの一言ですべてが片づけられた。
 そう、この国はおかしい。おかしいことをおかしいと言えない時点でおかしい。
「……あー、この国ってほんと絶望的だよな」
「そうだね。モチヅキさんやロフェッカやルシェドウさんといった実務家は、そのおかしな制度に従わざるをえない。僕たち制度の恩恵を享受しているトレーナーは、なおさらだ。……おかしいことを糾弾するのは、一般市民や学者さん、ユディたち学生の役目だよ」
「だがその一般市民や学者どもも、現体制に追随しているのだろうが」
 ぶつぶつとぼやくレイアとキョウキとサクヤに、セッカが無表情で口を挟んだ。
「お前ら黙れ。そういうこと言うから狙われる」


 そのようにして、シャラシティの白い砂浜で、四つ子はバラバラに別れた。
 別れの言葉を口にすることもなかった。喧嘩をしたわけではない。気まずい空気で別れたわけでもない。ただこの国は息苦しい。こんなにも息苦しかっただろうか。
 帯にメガカンザシを挿した四人は別々の道を行きながらも、遠い昔を思い出す。
 十歳になって、ポケモントレーナーとなり旅に出なければならなかった。思えば四つ子の抱く違和感、疑問、疑念はその時その瞬間に根差している。一つの道しか選べない、その息苦しさ。
 けれど旅に出てみれば、行き先も食べ物も眠る時間も自由だった。ポケモンセンターには無料で泊まれる、格安で食事ができる。トレーナーという身分は恵まれている。ポケモンを育て、バトルで勝てばいい。それが生活のすべてになった。
 その中で忘れたのだろうか。
 いや、忘れたことなどないはずだ。バトルに追われる日々。トレーナー以外の将来を夢見ることすら許されず。ポケモンセンターだけを目当てに、各地をさまよい歩く。そんな日々に投げやりになり、無責任になって引き起こしたのが、ミアレでの事件だ。
 自由など、最初から無かったのだ。そのことに気付くきっかけとなった。
 それ以来、以前に増して格段に、旅は窮屈になった。
 こんなにもカロスは息苦しかったのか。


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